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2018年11月

2018年11月28日 (水)

外国人単純労働者を入れるより、最低賃金を引き上げよ(No.325)

人手不足解消のため外国人単純労働者を入れるより良い方法がたくさんある。ここでいくつか提案する。

【提案1】最低賃金を引き上げよ

平成29年度の法人企業統計によると企業が蓄えたもうけを示す内部留保が前年比9.9%増の446兆円になった。また企業が稼ぎを人件費に回す割合を示す労働分配率は66.2%にまで下がり、43年ぶりの低さとなった。これらのことは企業にとって賃金を上げる余地が十分あることを示している。

日本の最低賃金は、G7の中で最低賃金のないイタリアを除けば低い方から2番目である。一方安倍首相は毎年最低賃金を3%上げると言っており、平均賃金が上がらないまま最低賃金はじわじわ上がっている。
                      出所:厚生労働省
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2018年9月時点の有効求人倍率は1.64倍で、1974年1月以来の高水準になった。また同月の完全失業率は2.3%だった。これは安倍首相がアベノミクスの成功をアピールするための宣伝材料になっているのだが、不都合な事実もある。実質賃金は下がり続けており、1997年を100とすると2017年は86.8まで下がっている。

                    出所:厚生労働省
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来年は消費増税もあり、実質賃金は更に下がる。一方でベトナム、ネパール、中国、フィリッピン等近隣のアジア諸国の賃金は急激に増加しており、日本だけが没落しつつあるのは明かだ。次のグラフは11月22日の東京新聞より引用する。

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韓国では文在寅大統領が. 2年間で29%も最低賃金を上げると決めたがこれだと日本の最低賃金を上回ってしまう。韓国の体感失業率は11.8%と言われ、急激な最低賃金の上昇は雇用を更に悪化させてしまうから経済には悪影響がある。

日本は逆に失業率は極めて低い。賃金が低すぎるために本来退場すべき企業ですら、低賃金でも人が集まるなら利益が出せるということで求人をするから有効求人倍率は高まる一方である。そのため人手不足を補うため低賃金で働く外国人を大量に入れようとしている。筆者は最低賃金を思い切って上げることを提案する。低賃金で募集していた会社は給料を上げ、自社製品の値上げをするかもしれない。この場合はデフレ脱却にはプラス材料だ。あるいは募集をあきらめるかもしれないが、この場合、人手不足は緩和され低賃金の外国人を入れる必要がなくなる。下がり続ける実質賃金も上昇を始め可処分所得の増加で内需拡大となる。企業には積み上がった内部留保があり賃上げの余力はあるし、労働分配率も回復してくるであろう。政府は景気失速を防ぐため最低賃金を上げると同時に強力な経済対策を行うと良い。特に人手不足に対応するための自動化への強力な資金援助は最大限行うべきであり、AI技術の開発に関しては大規模国家プロジェクトとして行ってもらいたい。もちろん、消費増税はストップすべきだ。

筆者は2005年に『労働はロボットに、人間は貴族に』という本を書いた。AI/ロボットが雇用を奪ったら、人間は貴族のような生活ができるというもの。しかしその大前提は、やらなくてもよい仕事は辞め、もっと大切な仕事に労働者を移動することである。やらなくてもよい仕事とは、低賃金でなければ利益が出ない仕事だ。重要な仕事は給料を上げでも利益が出る。製造業であれば商品の値上げをしても売れる、サービス業でも人気があればサービスの価格を上げても需要がある。

デフレ経済では賃金を上げなくても人は集まる。その惰性で企業は賃上げをしない。この状況をいつまでも続けてはいけない。ここは最低賃金を上げ、大規模経済対策をすれば、それが引き金となり賃金が上がり始め、失われた20年が終わる。

低賃金できつい仕事を長時間しなければならない生活から決別するためにやらなければならない政府の仕事は山ほどある。以下でいくつか提案を書いてみる。民間でできることは民間でやるべきだと主張する人もいるが、巨額の投資を行ってAI/ロボットを開発し、インターネット・クラウドを使った大規模なシステムを開発しサービスを提供するといったビジネスであれば、小さな企業では無理であり人手の無駄遣いになる。人手不足解消のためには規模の拡大が必要であり、国がまとめて行った方がはるかに効率的にできる。もし国がAI/ロボットに大規模投資を行い、質の高いサービスを行うことができたら、少ない労働者で巨額の利益を生みだすことができたら、人手不足解消だけでなく、生み出された利益を財源に大規模な減税も可能となる。

【提案2】大規模農業が可能になるよう農地を国が買い上げよ。
どの農家も納得できる価格であれば、買い上げは進む。生産性において、日本農業は米国の20分の1以下。国有化した農地を国有企業がAI/ロボットを駆使した大規模農業を行えば、多くの農民を他産業へ移すことができる。この国有企業の公務員の数は極めて少なくてよいので大きな利益を生み、それを財源に減税が可能となる。

大規模化はジワジワ進んでいる。耕地面積10ヘクタール以上の大規模農家は5%にも満たないが、全耕地面積の半分近くを占めている。

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次の表は農家1戸あたりの農地面積の国際比較をしたものである。農業の大規模化、AI/ロボット化を進めなければならないのは明かだ。

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【提案3】薬の調剤を自動化せよ。

薬の調剤を自動化すれば、多くの人手を他産業に回せる。薬局の数は増えており、その数はコンビニより多い。
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薬は医者の処方箋から自動的に準備できる仕組みにしたらどうか。抗癌剤など副作用の強い薬は特別に薬剤師から説明を受ける。薬剤師の代わりに説明できるAIを開発する。

【提案4】不動産業など情報提供が仕事である場合、インターネットとAI/ロボットで代替する。
例えば不動産業は賃貸と売買だが、借りたい人と貸したい人をつなぐ仕事、売りたい人と買いたい人をつなぐ仕事は、インターネットとクラウドとAIがあれば、ほとんど人手を借りることなくできる。例えば国がそのような取引のサイトを立ち上げ、その使い方をAIが丁寧に教えるようにしたとする。そして契約書もAIが分かりやすく説明し誰でも簡単に作成できたとすれば、人手はほとんど使わなくてもすむから大量の労働者を他の産業に回す事が可能になる。

例えば、部屋を借りようとする。ネットで検索すると、たくさんの不動産業者が関与していることが分かる。そしていくつものサイトを探し回らなければならない。部屋にはそれぞれ担当の不動産屋がある。各不動産屋はそれぞれ小さな事務所を持ち、滅多に来ない客をじっと待っている。これは時間の無駄であり、人手を無駄に使っている。不動産の賃貸、売買を一手に引き受ける所が一箇所あれば十分でありその方がはるかに効率的だ。

その他旅行斡旋業,人材紹介業、結婚相談所なども同様である。官僚に商売をやらせるとろくなことはないのだが、各業界には破竹の勢いで伸びていく企業がある。そういった企業に国が物言わぬ株主として資本参加しAI/ロボットの導入を財政支援し、ある程度業界の独占を許し、将来的にはその企業の国有化も視野に入れる。そのような企業は従業員は少ないから利益が極めて大きいからそれを減税等の財源にする。しかも人手不足対策にもなる。

【提案5】国を挙げて日本語が理解できるAIを開発せよ。
予算10兆円で完成したら、人手不足の問題は永久に解消される。
①各社のコールセンターはAIが代行
②各社の受付係、商品説明、苦情対応、社員教育
③官庁も大幅人員削減が可能
このAIは莫大な利益を生み出し、国の大きな財源となる。「労働はロボットに、人間は貴族に」という世界に大きく近づく。

【提案6】中古住宅をもっと積極的に活用せよ。
7軒に1軒は空き家だと言われている。また野村総研によると2033年には空き家率は30.2%になるそうである。
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いっぱい家が余っているのに、そして人口は減っているのに、どんどん新しい家を建て続けなければならないのか。日本では新築住宅は僅か20年で価値がゼロになると言われている。国は中古住宅の売買では消費税が入らなくなるから新築を建てさせたいのか。建築業者も新築住宅をどんどん建ててもらわないと儲からないということか。住宅の平均耐用年数はイギリスで141年、アメリカは103年、ドイツは79年、日本は30年と言われている。日本でも諸外国並に中古住宅の積極的活用で建築業界の人手不足は緩和される。

結論としては、人的資源の無駄遣いを防ぎ、AI/ロボットを活用し、最低賃金を上げれば、貧しい外国人労働者を大量に入れなくてもやっていける。

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2018年11月18日 (日)

外国人労働者を大量に入れると将来世代へのツケを残す(No. 324)

外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案の審議が行われている。政府は移民ではないと言うが、実質移民受け入れ拡大である。日本は犯罪の少ない平和な国であることは広く知られている。外国人が入ってくれば犯罪が増える。治安悪化を望む人は誰もいない。しかし政府は反論するだろう。外国人が増えても犯罪の件数は増えていないと。しかしこの説明で騙されてはいけない。警視庁によると日本人の犯罪率を100%とした時、2000年の統計では来日中国人243%、来日ブラジル人250%、来日米国人4%となっている。国籍によって犯罪率が60倍も違うとなると、犯罪とは無縁な国の人が多く入ってきて、犯罪を多くする外国人の犯罪が薄められ平均では外国人が増えても犯罪は増えてないように見える。しかも日本で爆買いをする裕福な中国人は殺人とか窃盗とかの犯罪に手を貸すことは希である。しかし、政府が目指す低賃金で単純労働を行う労働者となると、貧しい人が多く、過去の統計では出てこなかったような高い犯罪率を想定しなければならない。劣悪な労働条件で失踪が相次ぐ技能実習生は危険極まりない。

そもそも民族間の争いは世界各地で行われており、紛争が絶えない。それを日本に持ち込むことは止めて欲しい。今回の徴用工問題も70年以上前の朝鮮人を働かせたために大変な国家間の問題になっている。韓国の反日感情もやはり民族対立の一つであり、生活に困窮した外国人を大量に入れて低賃金で働かせるということは新たな徴用工を発生させ深刻な民族対立問題を発生させかねない。

人手不足が深刻で産業界から外国人労働者を入れるよう強い要望があるという。しかし、低賃金の労働者に働いて貰わなければ成り立たないような業種は撤退してもらい、業界再編を促すのが政府の仕事のはずだ。値上げしても売れる商品は残る。これは消費者の選択だ。低賃金を維持し、非正規社員を多数抱えなければ維持できないような会社を政府が支援するということはデフレ脱却を遅らせる経済を弱体化させるということだ。外国人労働者を入れなければ、企業としてはAI/ロボットなどを入れ自動化を進めるか賃金を上げて人を確保するかのどちらかを選ぶしか無い。賃金が上げれば需要も増えるからデフレ脱却へと向かう。賃上げをすれば赤字になるのであれば製品を値上げするし、値上げで売上げが落ちて赤字になる会社は淘汰される。業界再編で日本企業が国際競争力を増す。これはかつて日本が成長していた頃の姿である。政府は転職を強いられた弱者に対しては手厚い保護をする必要がある。単純労働を行う外国人労働者を入れて弱い企業を助けるより、業界再編を促し企業の国際競争力を高めた方が日本の将来を明るくする。日本企業の新陳代謝が必要である。

外国人労働者でもAIの専門家や大学研究者など日本経済を牽引してくれる人たちを高給で招聘するのは大歓迎でありこちらは大いに力を入れてほしい。

外国人労働者を入れないとして、評判の余り良くないレストランやホテルが廃業したとしても我慢できるのではないか。低賃金の外国人を雇ってかろうじて存続させる必要があるのだろうか。介護の人手不足は深刻だとのこと。給料が安すぎて人が集まらない。外国人を安く雇わなくても介護職員の給料を上げれば人は集まる。その場合、介護保険料の値上げを直ぐにしようと言い出す人がいる。しかし給料上昇分は財政でバックアップすればよい。介護従事者100万人の年収を20万円上げるには2000億円必要になる。その程度財政赤字を増やす余裕はある。デフレ脱却には財政赤字の拡大が特効薬である。その他AI/ロボット等を使った労働環境の改善も行うべきだ。

人手不足と言うが、随分無駄なところにエネルギー(人手)を使っている。毎日郵便ポストに入ってくる関係無いチラシ、無駄なメールも山ほど入ってくる。テレビドラマもあんなに沢山作る必要があるのだろうか。デパートに行くと無数の商品が並んでいるが本当に全部必要か、商品の種類が2~3割減っても困る人はほとんどいないだろう。7軒に1軒は空き家だと言われているのにどんどん新しい家を建て続けるしかないのか。また、新築住宅は僅か20年で価値がゼロになると主張し、国も建築業者も中古住宅の取引がわざと成り立たないようにして不必要に建て替えをさせようとするからますます人手不足になる。中古住宅が売買されると消費税も入らないから国はいやがる。建設業者も中古住宅を壊して新築住宅をどんどん建てて欲しいのだ。住宅の平均耐用年数はイギリスで141年、アメリカは103年、ドイツは79年と週刊誌に書かれたことがあった。日本も実際は、それほど頻繁に新築住宅を建設する必要が無いし中古住宅活用で建築現場の人手不足も解消する。要するに人的資源の無駄遣いが横行している。無駄遣いを止めれば外国人労働者の大量受け入れなど不要である。

農家も低賃金の外国人労働者が入って来なければ農業を辞める人も多いだろうし、その場合他の農家が農地を引き取り大規模化が進み生産性が向上する。大規模化すればドローンやAIを使った農耕機械が導入でき米国の数十分の1と言われる農業の生産性を上げるのに役立つ。

国はもっと国民の幸福を考えて欲しい。日本の生活困窮者にもっと支援をすべきだし、日本の経済を牽引し世界をリードする企業を育ててほしい。特にGAFAと呼ばれる超巨大IT企業に対抗できる企業を育ててほしい。生活苦の外国人労働者を大量に入れて治安を悪化させる前に一度立ち止まって考える時だと思う。彼らは日本で稼ぎ本国に送金する。富を日本から吸い上げて外国へ流してしまうから国内の需要拡大にはマイナスだ。企業は低賃金で働かせて暴利をむさぼり、稼いだカネは内部留保として積み上がる。もし外国人労働者を入れないなら、人手不足の企業は給料を上げてでも人を集めるしかなく、そのときはカネは日本人労働者の手に渡り、確実に消費に回る。企業が内部留保を取り崩したカネが結果として内需拡大を導きそれが経済を拡大させるから企業にとってもプラスになる。当然AI/ロボットなどの投資も進みそれも経済の活性化にはプラスだ。

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2018年11月12日 (月)

上院でトランプは勝ったとは言えない(No.323)

中間選挙で下院で大敗し、共和党が過半数を失ったにも拘わらずトランプ氏は大勝利を宣言した。11月11日現在で分かっていることは
上院  民主党  46   共和党 51   残 3
下院  民主党 231   共和党 204
である。上院は共和党、下院は民主党が過半数を握った。選挙前には両院とも共和党が過半数を持っていた。これでトランプは勝ったと言えるのか。下院は全議席が改選されたのだが、上院は改選されたのは100議席のうち35議席のみだった。今回勝ったか負けたかの判断には、改選された議員だけで比べるべきだろう。上院の改選議員だけに限ると
民主党 23
共和党  9
残    3
となり、民主党の大勝、共和党の大敗ということになる。共和党は大敗したが、非改選の議員が多数いたために、なんとか過半数を維持できたということだ。上院の議会選挙は2年ごとに3分の1ずつ改選される。民主党は6年前大勝したが、今回そのときほど議席は取れなかったが、それでも圧勝したということだ。

中間選挙での上院の改選議席数は
2018年  民主党 26, 共和党  9
2020年  民主党 12、 共和党 21
2022年  民主党 12、 共和党 22
つまり2018年は民主党が勝ちすぎた後の選挙だから議席を減らしてあたりまえ、逆に2020年と2022年は負けすぎた後だから、議席を増やしやすい。ということは2020年、2022年の選挙では民主党が挽回する可能性があり、共和党議員にはプレッシャーが強まるに違いない。

トランプ氏は今後難しい政権運営に苦しむこととなる。下院で与党が過半数を失ったから、予算案が思い通りに通らない。公約にしていたメキシコ国境に壁を造る構想もオバマケア撤廃も無理だし、環境を破壊する規制緩和もストップが掛かる。その代わりに下院で多数派となった民主党は議会の調査権を駆使し、ロシア疑惑の追及を加速する可能性もある。親から相続した460億円で相続税の脱税疑惑の追及も受け、しかも納税申告書の開示も求められる。頭を民主党に押さえられた独裁者トランプの姿は哀れに見え支持率は落ちるのか。それとも決められない政治は民主党のせいだとして民主党を非難して逆に支持率を高めるのか。

ワシントン・ポスト紙などが8月末に発表した世論調査によると、72%が民主党が下院の多数派を制すればトランプ氏の弾劾に進むとみる。下院で過半数の賛成で訴追できるが、上院出席議員の2/3以上の賛成がなければ弾劾は決定できない。ロシア疑惑が深まりトランプの支持率が更に下がるようなことがあれば、次回の議会選挙で危機感を感じた上院議員がトランプを見捨てる可能性があるから弾劾の可能性は否定できない。

トランプが支持率アップのためにできるとすれば北朝鮮問題だろう。北朝鮮は核放棄するのかどうか、世界はまだ疑心暗鬼だ。11月2日北朝鮮が核開発の再開を示唆した。今こそトランプ氏は北朝鮮を「核を放棄しなければ武力攻撃をしかける」と脅すべきである。韓国と北朝鮮は9月19日、平壌で開かれた南北首脳会談で採択した「板門店宣言の履行に向けた軍事分野合意書」で、「いかなる場合でも」武力を使用しないことで合意した。つまり北朝鮮は「ソウルを火の海にする」と脅せなくなっており米国からの武力攻撃に反撃する手段を放棄している。つまりトランプに脅されれば核を放棄するしかない。

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2018年11月 4日 (日)

ベーシックインカムと不都合な事実(No.322)

(1)今すぐベーシックインカムを始めるとどうなるか

ベーシックインカムは多くの人により研究されており、条件付きだが筆者も反対はしていない。しかし、そこには不都合な事実もあることを忘れてはいけない。例えば毎月一人当たり10万円を配ろうとしたら年間140兆円の財源が必要となり、そういう提案に今の財務省や政治家が耳を貸すとは到底思えない。そもそも税率というもの高くすればいくらでも税収は増えるというわけでもなく、ある限度を超えると逆に税収は減少し始める。これはラッファーカーブという名前で知られている。

例えば凄まじい大増税をして毎月10万円を全ての国民に配ることができたとしてみる。最も得をするのは田舎でほぼ自給自足をしている小規模農家だ。小さな畑を持ち自分で食べるものは自分で育てれば良い。近くに親戚等が住んでいれば、分業で様々な農作物を育て分け合えばよい。あるいはこっそり露店で売っても税務署にはほとんど補足されないだろう。通常の流通ルートを使えば重税が課せられほとんど利益にならないが、露店で売れば自分の収入が大幅に増えるのだからそうする人が増えるに違いない。露店で買った方がスーパーで買うより安くて品質もよいなら誰もが露店で買う。ガレージセールも盛んになるかもしれない。もちろん正確に税務申告するなら合法だが、ごまかせば違法になる。だが税務署がすべての取引を補足するのは無理だ。サラリーマンが脱サラして大量に農村に住むようになるだろう。地方の活性化に役立つかもしれないが、貴重な都会の労働力が失われる。制度として適材適所でその国の労働力が使えないのは致命的な欠陥となる。

農家に限らない。例えば家庭教師を個人的に行っている人は税務署に報告しない可能性がある。自分は政府からの給付金で暮らしていけますから働いていませんと言えば良いだけだ。税務署が補足するには探偵事務所にお願いするしか無いが、そんなことはとてもやっていられない。お店であろうと工場であろうと小規模であるほど節税の工夫はやりやすくなる。例えば事業所を帳簿上だけは複数に分割する。それぞれ税務署の管轄が異なるようにしておけば、税務署が調べようにも部分的にしか調べられず、利益を移動させることにより合法的に利益が見えなくできる。

今は税率が低いからそんな手間を掛け税理士を雇っても得にはならないのだが、大増税をするなら、それが採算に合うこととなる。しかもその方法が一般に広く使われるようになれば、税収が落ち込むわけだから、税収確保のためには取れるところからもっと取るしか無く、税率は更に上がることとなる。もしかしたら、大企業も悲鳴を上げ、従業員をすべて外注に切り替えるかもしれない。例えばAさんを営業マンとして雇う代わりにAさんに外注専門の個人事業者として形の上で独立してもらうわけだ。実質的には社員と変わらないが、帳簿上は独立して事業所に営業を委託した形になる。Aさんは頑張って様々な領収書を集め、営業経費として計上し節税をする。税率が低い現在では得にはならないが、税率がはね上がると節税効果が大きくなる。重要なのは、税務署が全従業員の確定申告を詳しく調査する暇がないことだ。ほとんどが黙認され節税は成功する。今でも商売は利益を出すのは大変厳しいのだが、大増税後にまともに税金を払って採算が取れる会社などほとんど無くなる。

政府が節税・脱税の抜け穴を封じたとすれば、大企業は重い税負担を補うため従業員の給料を低く抑えるしかない。そうなると大企業で働くより田舎で小規模な農家をやっていたほうが収入が増えるということになり、大企業が衰退していき、国際競争力も失われていく。

確定申告の数は毎年6000万件になるだろうし、税務署が税務調査をできるのはそのうち10万件にすぎない。つまり税務調査を受ける確率は600年に1回ということになるから、ほぼ一生の間税務調査は受けないと思って良い。ということなら脱税し放題になる可能性がある。心配なら僅かな保険金を払って「税務調査保険」に加入すればよい。万一税務調査を受けた場合でも、その年の税金を重加算税まで含め全額払ってくれるものである。

本来課税対象とされるべき所得の内、税務署がどの程度の割合を把握しているかを示す数値を捕捉率と呼ぶ。この捕捉率は業種によって異なり、給与所得者は約9割、自営業者は約6割、農業、林業、水産業従事者は約4割であると言われこのことを指して「クロヨン」と言われている。税率が低い現在はクロヨンで収まっているのだが、税率がはね上がると人は更に巧妙な節税・脱税方法を発見するに違いない。悪くすると「正直者は馬鹿を見る」ということでモラルハザードに陥った世界が実現する可能性がある。そのとき日本はデフレスパイラルに陥りGDPは減少し、大企業は没落し、平均所得も下がり、税収も減ってきて毎月行う給付金も下げざるを得なくなる。つまり日本全体が貧乏になってくる。

ベーシックインカムを払えば年金を払わなくて済むから財源の一部になると考えることができるだろうか。しかし、定年まで多額の年金積立金を払ってきた人と全く払ってこなかった人が同額のベーシックインカムを受け取り、年金をゼロにすることはできない。年金を払った人には約束通り一生の間年金を払うしか無い。ベーシックインカムがあるのだからもう年金は要らないだろうという論理は通らない。

結論から言えば「増税の前にやることがある」である。今すぐにベーシックインカムを導入するのは時期尚早ということだ。今は人手不足が深刻な時期であり、ベーシックインカムを導入して大量の労働力を失う余裕はない。AIが大量の雇用を奪い、失業率が激増するような時代が来させるまで、やらなければならないことがあるのだが、そこには不都合な事実が待っている。

(2)ベーシックインカムの前にやるべき事

10月23日、パーソル総合研究所と中央大学の調査「労働市場の未来推計2030」が発表された。それによると日本の人手不足が2030年には644万人に達するとしている。これは国が調査した就業者数や完全失業率、経済成長率などのデータを基に試算を行った結果である。これに同調するかのように海老原嗣生氏が『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』という本で、AIが導入されても15年でなくなる雇用はせいぜい9%だという調査結果を示している。

他方では、AIが雇用を奪い失業者だらけになるという正反対の予測もある。両者の考えは一定の仮定の基で正しいのだが、両者の決定的な違いは未来社会がAIを受け入れられる社会なのかどうかということだ。そこで不都合な真実が浮かんでくる。AIを受け入れられる社会に移行するには、日本人が大嫌いな改革を大胆に行う必要があることだ。

第一の改革は規模の拡大だ。AI導入にはお金が掛かり、小規模事業者では導入は無理だ。例えば農業だとAIに小さな農地の農作業をさせるのは非効率だが、大規模農業であれば、AIを使った無人の農業機械が活躍できるし、農家の収入も拡大できる。外国から農産物が入ってきても対抗できる。漁業でも同様で、小型漁船にAIを導入するのは非効率だが、大規模漁船で漁業資源の管理もしながらAIを導入すれば漁民の収入も増え漁業の発展も見込める。小売りも同様で、小規模小売店が乱立し、各店舗に対しメーカーの営業マンが商品の売り込みに行くやり方は非効率であり、アマゾンのような大規模ネット販売が浸食してくるのではないか。自動運転車やドローンによる無人の配達が可能になれば、圧倒的な競争力を持つようになると考えられる。弱者切り捨てという批判が出るだろうが、大規模な補助金を使い、切り捨てられる人が出ないように労働者のスムーズに移動をさせることが出来るかどうかで日本の運命が決まる。

第二の改革は許認可の問題だ。例えば自動運転技術の開発のためには公道を自動運転車が走ることを許可してもらわなければならない。また自動運転車が完成しても、それを公道で走らせるための許可が必要となる。過去の事例から推測すれば、日本は諸外国より遅れるのではないかと危惧する。それが人手不足に拍車を掛けるのではないか。医療もAIが入りやすい分野だ。国が有効性を認め保険が適用される禁煙アプリが第一弾として2019年にも登場する見込みである。いちいち病院に行かなくても、スマホのアプリとの対話によって治療ができる。有効性の確認が必要となるが、徐々にAIがカバーする病気の範囲が拡大してくるに違いない。現代医学の粋を集めれば相当の範囲の治療が病院に行かなくても出来るようになるのではないか。一定の範囲で薬の処方箋を出すこともできるようになるだろうし、医師不足の解消や無医村地区でも医療に貢献する。教師不足への対応も可能だ。授業の内容にもよるが、多くの授業はビデオで置き換え可能でビデオの質を高めれば先生の授業以上の成果は出る。生徒のレベルに応じたビデオを見せることも可能だ。生徒との質疑応答も本気で開発すれば人間よりAIのほうが、質を高められる。重要な事はAIなら全生徒に個別対応できることだ。人間が教えるよりAIのほうが教育効果が高いことが高められるのであれば導入してもよいという国の許可が必要だ。

以上述べてきたように、AIを導入するための改革を行えるかどうかで、天と地の差が出る。これは不都合な真実だ。改革をしなければ、人は貧しいまま、苦しい労働を続けなければならないし、そんな低賃金では人は集まらないから人手不足は深刻化する。改革すればバラ色の未来が開けるが、そこにたどり着くには各分野からの猛烈な反対を押し切る必要が出る。世界は間違いなくAI導入を積極的に行うが日本もそれができるのか決断の時が迫っている。

第一と第二の改革ができたとして、残るは研究開発への大規模投資だ。世界を見渡せば、時価総額ランキングで上位はすべてIT大手である。日本トップのトヨタは42位であり、韓国のサムスンの16位よりはるか下である。これは日本経済の没落を象徴するようなものであり、一刻も早く周回遅れとなったAI開発を挽回する必要がある。これには政府による大規模投資が必要となるが、この分野であればどんなに投資しても投資し過ぎることはない。ここで必要になるのはベーシックインカムで必要とされる100兆円規模の財源ではない。僅か数兆円であってもAI開発にとっては途方も無い巨額の投資だ。人材不足でAIに強い人集めに苦労するに違いない。ここは国の内外から優秀な人材を異例の高給で引き抜くとよい。日本は産業用ロボットを得意とするのだから、AIで強化した産業用ロボットの開発を強化する事は極めて大きな意義を持つ。国債発行で数兆円程度を確保するのであれば、不況の続く日本経済にとって益あっても害はない。

(3)今すぐ生活困窮者を救う方法
筆者の拙書
『労働はロボットに、人間は貴族に ロボット ウィズ アス』(2005)
で、労働をAI/ロボットが行うようになったときの社会・経済を詳しく説明し増税ではうまくいかないことも説明した。その段階に到る前、生活困窮者に対して何ができるだろうか。一部のベーシックインカムを主張する人たちは、ベーシックインカム自体が生活困窮者を救う道だと考えているようだが、(1)で述べたように、行き過ぎた増税が経済システムを壊してしまい、決して望むような結果を生まない。大部分の労働をAI/ロボットが行うようになった事が確認できるまで労働の量と質に応じて収入が決まるという現在のシステムを崩すべきではない。

現在の生活困窮者を救う日本の制度はうまく機能していない。生活に困っている人であっても貯金があったり家や車を持っていたりローンがあったり家族や親族から援助が見込めたり働けるのに働いてなかったりしたら生活保護は受けられない。受給ができるのは生活困窮者の中のごく一部だと言われている。そこで少ない予算で多くの生活困窮者を救う方法として次のような提案を行った。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/no280-cfbf.html
これを筆者はミニマムサプライと名付けた。

物余りの時代、日本に関して言えば、本来食べられたはずの、いわゆる「食品ロス」は500万~800万トンである。これは、わが国のコメの年間収穫量(平成25年約860万トン)に近い。食べられるのに捨てている食糧を提供してもらったり、企業から寄付を受けたり、大量につくった極めて低価格の食料品や日用品(品数は限定する)を買い取ったりして、それを国営商店で無料で配布する。この商店には使えるけど使わなくなった衣服とか本とか日用品とか家具とか何でも持ってきてもらい、無料で配る。現代ではたくさんの無駄がある。まだ十分食べられるのに見栄えが悪くなり売り物にならないとして捨ててしまう食品、使えるのに傷物として処分する製品、引っ越しでいらなくなった物等も国が集めて国営商店で無料で配布する。ただしこの無料の商店に入れるのは事前登録した生活困窮者に限る。顔認証を行い、限られた人のみ限られた量の商品を無料で入手可能とする。生活保護に比べ、効率的に支援できるので広い範囲の生活困窮者を救うことが出来る。更に詳しくは上記のサイトを見て頂きたい。

(4)AI/ロボットに雇用を奪われたら

次第にAI/ロボットが本格的に雇用を奪う時代が来る。それが2040年なのか更に後なのか分からないが確実にその時代はやってくる。AI/ロボットを使って財・サービスを提供するのは超巨大IT企業である。お金を使うとお金は国民からこの企業に流れるが、そういった企業はAI/ロボットに働かせるわけだから、労働者はほとんどおらず、企業から国民へのお金の流れは少ない。労働者がほとんどいないということは所得税収は極めて少ないということだ。何らかの方法で企業から国民へというお金の流れをつくらないと国民はお金を使えないので経済は破綻する。これを大増税という形でお金の流れをつくろうとすると(1)で述べたように失敗する。

筆者の提案は、労働者を雇わなくなった超巨大IT企業の株を政府が買い占めて国有化することである。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/no178-f971.html
国は物言わぬ株主として通常経営に口出しはしないが、多額の利益が上がったときは、多額の配当を促すことにより国の財源とする。この頃の企業は労働者に賃金を払わなくても良いので、利潤が極めて大きく配当も巨額になる。最終的には経営もAIに任せた方がよくなるので、完全国営化する。今でも日銀はETFという形で企業の株を買っている。これを更に買い進めるということである。国営化された独占企業だと競争が無くなり進歩が止まると考えるかもしれない。しかし、この時代での進歩とは労働生産性の向上である。人手を借りずに生産できるということは労働者一人当たりの生産高で計算される労働生産性はすでに無限大である。無限大からいくら増大しても無限大に変わりは無いが国営企業内にいる研究員と極度に発達したAIが競い合って更なる改良・改革を行っていく。

このような方法で政府が十分な財源を確保したらベーシックインカムが可能となる。ただしベーシックインカムでお金をもらっただけでは国民は何をすれば良いのか路頭に迷うし、何かやろうにも受け皿が整備されていない。人にはそれぞれ夢がある。サッカーや野球の選手、医師、プログラマー、学者、エンジニア、看護師、歌手、画家、カウンセラー、デザイナーなど様々な夢があるだろう。政府に十分な財源があるならできるだけ多くの人の夢を叶えてやるように支援をするとよい。筆者はこのような支援をJOD(Job on Demand)と呼んだ。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/job-on-demand-2.html

例えば野球選手になりたい人がたくさんいたとする。今は1チームあたり1軍でプレイできる選手の人数は最大28名、各チームの支配下登録選手は70名までである。高給を稼げるのはごく僅かな人だけだが、JODでは1チーム当たりの人数を増やす。活躍できる人ほど給料が高くなるのは今と変わらないが最悪の成績でも生活ができるだけの収入は保障する。チーム数も増やし球場の数も練習場も増やす。多くの人に野球を楽しんでもらうよう、国が援助して入場料を安くする。

歌手などの音楽家の活動も国が援助する。コンサートホールもたくさん建設し、音楽会も支援し安く頻繁に開く。音楽家も今は音楽家として生活費が稼げる人はごく僅かだし音楽会も結構チケットが高いから頻繁には行けないが、この時代には多くの音楽家が生活できるよう支援をする。また多くの国民に音楽を親しんでもらうために、音楽会の入場料をごく安くしてもやっていけるよう国が支援をする。

医者になりたいという希望者が多いかもしれない。この時代医者が金持ちとは限らない。人間の医者よりAI/ロボットの方が正確な診断が可能になっている可能性があるからだ。医学の研究で膨大な論文が発表されており、人間は最新の研究論文まで含めて全部読んで理解するのは無理だ。しかも個人カルテが電子化されその人の病歴、検査結果、治療履歴、個々の薬の効き具合、アレルギー反応等膨大な情報が記録されており、それらをすべて考慮に入れて治療方針を決定するとなると、人間の医者よりAI/ロボットの方が誤診が少なくずっと優れているということになっているだろう。そうであればAIの補助としての医者は、それほどの高給が稼げる職業ではなくなっている可能性がある。人の命を預かる責任の重い仕事だし、高度なAIよりもミスが多いし、病状が急変したら深夜でも起こされるのだが、給料が安くても希望者が多いのかどうか分からない。

JODでは、希望者全員を公務員として雇い生活できる最低限の給料は払うのだからベーシックインカムの拡張版と思って頂いてよい。更に詳しくは上記サイトか上記拙書を参照して頂きたい。

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