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2019年2月 3日 (日)

内閣府計量分析室(オオカミ少年)の2019年中長期試算(No.335)

2019年1月30日に内閣府より『中長期の経済財政に関する試算』が発表された。筆者はその詳細について内閣府に電話して聞き頭脳明晰な担当者が詳しく説明してくださった。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2019/02/no334-9184.html

このような試算を出すとは、内閣府はオオカミ少年だと我々は繰り返し主張しているのにも拘わらず、彼らは一歩も譲らない。彼らが繰り返し述べているように、そもそも日本経済が将来どうなるかを正しく予測しようという気持ちは全くない。彼らの言い分は、自分たちは政府に雇われている。政府は実質2%、名目3%成長を目指している。現在の財政政策ではそれは実現不可能であっても、もしそれが実現したらどうなるかという架空の経済をこの試算で示している。つまりこれは予測ではないので外れるのは当然だ。

残念ながら、マスコミも政治家もこれが現実の将来の日本経済だと誤解している。この試算に関する新聞記事を見てみよう。
朝日新聞
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東京新聞
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日本経済新聞
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読売新聞
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産経新聞
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毎日新聞

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このように新聞はすべて基礎的財政収支(PB)の黒字化の事ばかり書いている。こんなことでは日本の未来は悲惨と言うしかないのだが、その説明の前にこの試算がウソで固めたものであり、この試算を行った内閣府計量分析室がオオカミ少年である事を示そう。次の名目GDPのグラフを見ていただきたい。

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彼らは毎年名目GDPの予測を出している。様々な経済データを寄せ集めて予測値を出したように思うかもしれないが、そうではなくて、政府から3%成長の予測を出せと命令されているから、そのような予測を出すしかないのだ。ガリレオは裁判で処刑されながらも「それでも地球は回っている」と言った。内閣府計量分析室の方々が口を揃えて言うことは、彼らが出す予測は間違っていると知りながら3%成長すると言うしかないのだ。つまり彼らは間違えた予測を強制的に発表させられている。この図で実際の名目GDPは実績(新)と実績(旧)とある500兆円前後で横ばいの2本のグラフだ。途中で定義が変わったので新旧の2本の線となっている。2001年から2018年の平均成長率はせいぜい0.3%程度でとても3%には届かない。それでも政府は職員に3%成長すると言えと命令する。正義感の強い人なら、こんな所で働きたくないと言って出ていくだろうが、なかなか内閣府の職は捨て難いから心の葛藤は続く。例えば2005年の試算では2012年の名目GDPは645.2兆円と予測した。そのまま3%成長すれば今頃は800兆円を超していただろうが実際は550兆円にも届かない。

今回発表された予測は点線で示しているが、予想通り1年前に出したものを大幅に下方修正し、オオカミ少年の名に恥じないものだ。2018年度の名目成長率は1年前2.5%としていたが、今回は0.9%に下がった。なんと3分の1近くに下がってしまった。

基礎的財政収支の予測ももちろん間違えている。間違えているからその予測は発表のたびに大きく変わっている。つまり毎回、前回までの結果は間違いでしたと認めているのだ。それを知らずマスコミも政治家もこの予測を基に財政がどうあるべきかを検討するのだから恐ろしい。そもそも基礎的財政収支を黒字化しなければならないというのは間違いだ。次のグラフは内閣府のモデルで基礎的財政収支と国の債務のGDP比の関係を示したものである。

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これで分かるように2026年度まで基礎的財政収支は赤字が続いているが国の借金のGDP比は2019年度以降下がり続けている。このことから基礎的財政収支など赤字でもよい。国の借金のGDP比は下がり続けるのだから、むしろ財政を拡大しGDPを増やしていけば将来世代へのツケは実質減るのだ。そもそも基礎的財政収支を問題にするのはEUとIMFだ。どちらも貧乏な国が外国から多額の借金をして返済ができなくなったとき、利子は大目にみてやるが、せめて元本だけは返せと言って基礎的財政収支の黒字化を迫る。これを日本と混同してしまうようなお粗末な経済の知識しかない連中が日本にまで基礎的財政収支の黒字化などと主張する。しかし日本は外国からの借金返済で困っているわけでない。次のグラフは国債の保有者別内訳である。このうち銀行の中に郵貯が、生保の中にかんぽ生命も含まれ公的年金はもちろん国の一部だから、借金を貸している多くは国である。父が母から借金してたとしても、それはその家の借金とは言わないから、国の借金とは名ばかりと言うべきだ。しかも海外からの借金は僅か5.9%で、日銀がお金を刷って返済しようと思えばいつでも可能だ。

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ということで基礎的財政収支の黒字化は日本には必要ないしむしろ害になる。なぜなら基礎的財政収支黒字化は歳出削減・増税だと思っている人が多いからだ。デフレ脱却が長期間できていない日本にはこれほど害になる政策はない。昨年12月に内閣府は乗数を発表した。
https://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/ef2rrrrr-summary.pdf
これによれば、歳出を削減することは国民を貧乏にし苦しめるだけでなくGDPが減少し、国の借金のGDP比が増えて将来世代へのツケを増やしてしまうという最悪のシナリオだ。それだけではない。かつて日本は世界で最も裕福な国の一つであり、世界に誇る製造業を持っていた。デフレが続く中で、世界の激変に立ち遅れ、GAFAと呼ばれる巨大IT企業やそれに対抗する中国企業の台頭についてゆけず、取り返しのつかない失敗をしていることに気づいていない。心地よいゆでガエル状態になっているのだという危機感が必要だ。

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コメント

 こんにちは。higashiyamato1979です。つくづく、真実をありのままに語れないというのは悲しいですね。それでも挫けず真実を語り続けなくてはなりません。
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2019年2月 6日 (水) 13時02分

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