レント(不労所得)収入に依存し過ぎる国は衰退する(No.343)
レンティア国家という言葉が広く知られている。レント収入(石油などの天然資源)に依存する国家のことであり、財政が潤っているように見えるが、実はネガティブな面もあるとされ、「資源の呪い」と言われている。その内容は
①豊富な外貨を使って安い輸入品が大量に入ってきて国内産業を育てにくくなる。
②資源価格の変動が経済に悪影響を及ぼす。
③レント収入の奪い合いが発生しがちであり、紛争に巻き込まれることが多い。
④為政者が莫大な富を得て、非民主的な政府を維持しやすくなる。
などである。
ところで未来社会ではAI/ロボットに働かせて得た所得も不労所得(レント)に近いから、呪いはあるのだろうか。この場合、富を得るのは資本家だが、もし巨万の富を得た資本家が小さな政府に影響力を及ぼすようになれば民主主義が脅かされる。これは石油王が金満国家を統治している湾岸産油国に似たところがある。そこでは所得税はなく、教育費も無料であり、恩恵を受けている国民を支配しやすい。一度国民が非民主主義国家を受け入れたら、民主主義に戻すことは簡単ではない。前回取り上げたナウル共和国の場合も資源の呪いの被害を受けた国の例である。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2019/03/no341-2c19.html
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2019/03/post-a2f9.html
1965年から1998年のOPEC諸国の一人あたりGNP成長率は年平均で1.3%ほど減少している。一方その他の世界の国々は毎年平均で2.2%の成長を遂げている。石油生産地域を武力で掌握しようとして紛争が起きる。石油産油国は為政者が莫大な富を得て、その富で非民主的政府を維持しやすくなる。また女性の社会進出が難しくなる。
2007年の一人当たりのGDPを比べると、カタール 76373ドル、UAE 40147ドル、アメリカ 45778ドル、日本 34318ドルとなっている。UAEは石油収入を人口1割に満たない自国民に分配し、自国民は主に政府部門に就職し外国人の約3倍の給料を稼ぐ。カタールの場合は自国民の公的部門就職割合は94%、外国人の割合は12% 外国人は建設、製造業、レストラン、ホテル等の職場で働く。一般公務員の平均給与は41.4万円、民間企業の平均給与は16.7万円。結局、産油国は事実上不労所得として稼いだカネを自国民に配り、そのカネで外国人を奴隷のごとく使って、自分たちがやりたくない仕事を低賃金でやらせている。レンティア国家では出稼ぎ少女への暴行や性的虐待もあると言われている。
ベネズエラもレンティア国家である。石油など世界有数の埋蔵量を誇る鉱物資源に恵まれた国だ。石油収入をうまく使えば豊かな近代国家へと発展できただろう。しかし「石油の呪い」とはここにもあった。独裁政権は社会主義政策で失敗した。ニコラス・マドゥロが新大統領に就任。酪農やコーヒー、肥料、靴などの生産、スーパーマーケットの事業などを相次ぎ国営化した。だが、多くはその後、「縮小または完全に停止」している。赤字でも国が助成して安い商品を国民に提供しようとしたのだろう。実際に起こったことは、人々は価格統制された非常に安価で売られているものを買い、それらをため込み始める。また、繰り返し何時間も行列に並んでモノを買い、ずっと高い値段でそれらを闇市で売る。その結果、商店から商品が消え、闇市で非常に高い値段で買うしかなくなる。しかも財政は大赤字で石油収入では賄いきれなくなる。民主主義国であれば、国民が選挙で新しい指導者を選ぶことができただろうが、「石油の呪い」で非民主的政府が誕生しており、政府にNOと言えない。
ソ連も世界最大の産油国として莫大な外貨を獲得したが、西側諸国からの機械、穀物や奢侈品の輸入に浪費されて新規事業の開拓や技術開発がほとんど進まず、西側と製品の質の点で大きく水を開けられた。また自国の発展を宣伝するために、見境なく歳出を膨張させた。ここでも「石油の呪い」があった。
レンティア国家においては一定の額のカネを国民にばら撒くのだからベーシックインカムの部分的実現と言ってよいが、「呪い」が掛かっていて余りよい結果が生まれているとは言えないのではないか。
未来社会ではAI/ロボットに働かせて得た所得は不労所得(レンテ)に近く、レンティア国家に近い状況になる可能性がある。そこでは資本家だけが莫大な富を独占し、それ以外の国民が奴隷扱いされる。つまりレント(不労所得)の呪いだ。それを避けるために我々が提案しているのが解放主義社会である。
(1)生活のための労働からの解放
AI/ロボットが人間の代わりに労働を行ってくれる。
(2)通貨発行権を行使して資本家による富の搾取からかの解放
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/no178-f971.html
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2019/03/post-a2f9.html
AI/ロボットが発達してくると資本家に富の集中が起きる。赤字財政が続く政府は弱い立場に立たされ、資本家は圧倒的な資金力で政府に圧力を加えるようになる。法人税を下げ、消費税を上げるのはその圧力のためだ。この傾向が続くと、「資本家は貴族に、それ以外は奴隷に」ということになる。そういった悲劇から脱するには、政府が通貨発行権を行使して資本家から富を買い取ってしまうことだ。
(3)JODにより失業からの解放
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/job-on-demand-2.html
AI/ロボットが雇用を奪ってしまうと、国民は全員が失業者になる。しかし、政府が豊富な資金力を駆使して国民がやりたいことがやれるように「仕事」を用意しておけば失業しなくてすむ。
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コメント
今日は。higashiyamato1979です。自分のやりたい事をする事で生計を稼ぐ。これこそ人類の理想です。
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2019年3月29日 (金) 12時48分