古い経済理論では説明できない現代の経済、代わりに新経済理論MMTが登場(No.344)
米国で「現代貨幣理論(MMT)」が大論争になっている。「財政は赤字が正常で黒字のほうが異常。むしろ、財政は拡大すべきだ。」とMMT論者は主張する。この理論にアメリカ民主党29歳の新星で、将来の女性初大統領とも言われているオカシオコルテス下院議員が支持を表明したことで、世論を喚起する大きな話題となっている。日本経済復活の会は2002年に発足して以来、一貫して財政拡大を主張してきたのでMMTの考えは大賛成だ。ただしどんな時でも無制限に財政は拡大すべきだとは言わない。例えば1936年の二・二六事件で当時インフレを懸念し財政拡大を拒んでいた大蔵大臣高橋是清が殺害され、軍事費調達のための無理な財政拡大が行われ国民生活に深刻な悪影響をもたらされた。あの時代であれば我々はもちろん財政拡大に反対しただろう。
戦後の経済復興の過程で物不足もあり、財政拡大でかなりインフレ率が高い時期も経験した。戦争の前後で物不足時代に財政を拡大し需要が供給を大きく上回りインフレになったことを反省として、政府の財政赤字が供給不足を更に悪化させインフレを加速するから財政赤字は増やすべきでない、政府債務は増やすべきではないという考え(経済理論)が広まったのは理解できる。ちなみに激しいインフレが起きていた戦後の日本で1949年ドッジ・ラインと呼ばれる財政引き締め政策が行われ、インフレは止まるどころか逆にデフレに陥った。このように、インフレは常に制御可能であり簡単に止めることが出来る。
しかしその後経済状況は一変した。生産設備の改良や拡充のお陰で大量生産が可能となり供給が飛躍的に伸びたのにも拘わらず、政府はそれにバランスが取れるような需要拡大策を怠ったために、需要が供給に追いつかなくなり、デフレに陥ってしまった。それでもまだ供給不足の時代の古い経済理論から抜けきれない人が沢山いる。「財政赤字=悪、国の借金が増えれば将来世代へのツケになる。」という供給不足の時代の考え方を捨て、新しい時代に対応すべきだという経済理論がMMTである。通貨発行による財政拡大だから将来世代へのツケにはならない。世界を見ても先進国のインフレ率は近年大幅に下がっており、大量生産による供給過剰の時代が来ているのは明かであり、財政拡大を悪という考えを捨て、デフレを脱却するまで財政を拡大すべきだ。
世界の中で日本が特に需要不足が深刻になっているのには4つ理由がある。
①日本には倹約が美徳という文化がある。
②バブル崩壊の後、株や土地の下落で失敗した経験を持つ人が多く、再び不況になるのではという警戒感から、ローンを組んでの支出に躊躇する。
③日本人は借金が嫌いで、できるだけ早く返済したいと考える傾向が強く、「国の借金」が増えるのを極端に嫌っている。しかし実際は国の借金と家計の借金ではまるで違う。
④少子高齢化で老後に備え貯金をする必要性を感じている。
このような悪条件が重なり、日本はデフレ下でも緊縮財政が続いており、成長する世界経済の中、日本経済は大きく没落しつつある。この状況を止めるにはMMT理論に従い、財政赤字を拡大すべきだ。その方法は
①消費増税を止め、逆に消費減税をする。
②歳出拡大をする。最も資金を投入すべきなのは、将来日本経済の牽引役になってくれる分野、特にAIの分野への投資だ。AIに特化した研究学園都市をつくり、巨大な研究所に超高給で世界中から専門家を引き抜く。国内からも、AIに関し特に優秀な生徒・学生を特別待遇で育てるとよい。
政府が財政赤字を拡大するとクラウディングアウトで民間投資を圧迫するという意見があるが、現在日銀当座預金が約400兆円あり、少々の景気対策で民間の資金調達を圧迫することはあり得ない。二・二六事件が起きた後は、民需を圧迫してでも軍備に資金を使いたかったから実際民需は圧迫され、国民生活は不自由したが、国民も「戦争に勝つためなら」とそれを受け入れた。今は財政赤字拡大でも資金的に民需を圧迫はしないが、人的資源の確保という面では失業率が低いので民間を圧迫する可能性はある。しかし、特にAIの分野の強化は日本の将来にとって極めて重要であり、先行する米中を追うには国が本腰を入れるしかないのだから、政府主導を優先すべき時だ。
国の借金を増やすとあるいは財政を拡大するとハイパーインフレになると、古い経済学から抜けきれない人は言う。その法則は需要が供給を大幅に上回り、生活物資が極端に不足している場合しか成り立たない。日本で言えば終戦直後だろう。そういう人には時代が変わったのだと教えてやらなければならない。少ない人数で大量生産ができるようになったし、国際分業も進んでいる。国が財政支出を増やしたために、可処分所得が増え、消費が拡大したとして、具体的にどの商品が品不足になるだろうか。米、パン、鉛筆、車、書籍、新聞、家具・・・など考えて見て、各業界の事情を調べれば、どの商品も深刻な品不足に陥って、価格が10倍、100倍に跳ね上がるとは考えられないと分かる。深刻な食糧不足で、闇市でいくら値段が高くても買わなければ餓死するような状況ではないと誰もが知っている。
100年余り前、物理学においても古典物理学(ニュートン力学)が成り立たなくなる世界があることが分かった。そこでミクロの世界には量子論、光速に近づいた世界では相対論という新しい物理学が生まれた。今まさに経済学においても古い経済学が適用できなくなり、MMTのような新経済学でなければ役に立たない時代が来た。
今、国の借金を増やすと将来世代が返さなければならないと勘違いしている人がいる。しかし、政府が国債(国の借金)を発行し銀行が買った後、日銀がお金を刷ってそれを買い取っている。実質的に日銀がお金を刷ってそれを国が国民のために使っている。同じ事は将来世代もできるわけで、将来世代へのツケにはならない。需要不足の時代には通貨を発行し国民に渡し、消費を伸ばすことによって経済を拡大する必要があるのだから、発行された通貨は成長通貨と呼ばれ健全な経済発展には欠くべからざるものである。IMFによると、世界190カ国中、財政黒字の国は36カ国のみ、僅か19%でしかない。やはり「財政は赤字が普通」と言ってもよさそうである。
ところでMMTとセットで語られるのがJGP(Job Guarantee Program)である。これは政府が賃金支払基金を作り、その地域のニーズを鑑みて必要な業務をリストアップして、失業者を雇用してその業務を担わせるというものである。筆者はこれとは別に労働が完全にAI/ロボットに代替された未来社会においては政府が希望する国民全員を、自分がやりたい仕事がやれるように職を用意し公務員として雇うというJOD(Job on Demand)を提案している。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/job-on-demand-2.html
ただしこれは未来の世界の話であり今すぐ行うべき対策として筆者はミニマムサプライを提案した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/no280-cfbf.html
JGPは現在すぐにでも実行可能な政策と言うことだが課題はある。失業率もかつては5%を超えていたが、2019年2月現在は2.3%にまで下がっている。この2.3%の失業者を働かせようとしても簡単ではないかもしれない。真剣に職を探しているのに見つからないという人にはJGPは助かるかもしれない。しかし、そうでない人もいる。
①議員、特定の分野の研究者、音楽家、弁護士など、競争が激しいとか試験が難しいとかで仕事獲得の準備に長い時間がかかるが生活費は稼がなくてもなんとかなっているという人であれば、JGPで職の提示があっても興味を示さないかもしれない。いわゆる雇用のミスマッチだ。
②財産があり、生活のために稼ぐ必要がないけど、失業保険をもらうためだけに求職の登録をしている人はJDPには興味がないだろう。
③健康上の理由で働けなくなった人はJGPで助けるのか。働けなくなった人に職を紹介できない。
最低賃金を低くすればするほど自然失業率は下がる。様々な個人の事情があり、景気がどんなによくなっても自然失業率はある程度のレベルに留まりゼロにはならない。どうしても勉強したくない子どもに勉強をさせることはできないように、どうしても働きたくない人に働かせるのは難しいのではないか。筆者はJGPよりミニマムサプライのほうが現実的だと考える。
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コメント
今日は。higashiyamato1979です。何としてもMMT、この現代の地動説を「常識」にしなくてはなりません。
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2019年4月 4日 (木) 12時31分