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2019年5月

2019年5月20日 (月)

MMT理論の正しさは、マクロ計量モデルで証明できる(No.350)

米中貿易戦争で米国も中国も経済的に大きなダメージを受けている。それによりGDPはアメリカで0.3%、中国で1.2%押し下げられる。アメリカは2017年12月に169兆円もの大型減税を実施し、中国は2019年1月15日と25日に預金準備率を0.5%ポイントずつ引き下げ、約2兆元(32兆円)の減税をした。イタリアは金融緩和、フランスは家計に対する減税政策を発表している。

日本の経済成長率は世界最低レベルであり政府の景気判断は6年ぶりに「悪化」に転じた。このような時に政府は10月に消費増税を実施しようとしている。本当に消費増税が予定通り実施されたら世界の笑いものになるのではないか。それに対し最近MMT(現代金融理論)が話題になっている。これは通貨発行権を持つ政府は財政赤字を増やしても財政破綻はあり得ない。だから不況時に増税も不要であり、財政を拡大して景気を回復させるべきだというものである。

日本経済復活の会の主張は捕捉した2002年以来、MMTを更に強化したものであり、マクロ計量モデルを使い経済への影響を確認しながら経済運営をせよというもの。我々は日経の日本経済モデルを使用し財政を拡大した場合の経済への影響を詳しく調べ、その結果は
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-8c6d.html
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/no115-e161.html
に公表している。結果は名目GDP,実質GDP、雇用者報酬は上昇し、物価も穏やかに上昇するのでデフレから脱却できる。金利は暴騰することはない。国の借金は増えるが、名目GDPはもっと増えるので、結果として国の借金のGDP比は減っていくので問題ない。この試算は完璧にMMT理論の正当性を証明するものである。金利やインフレ率の暴騰を予測し、MMTを否定する人がいる。しかしそんな話は1982年の鈴木善幸内閣の時代から繰り返し出てきている。何と37年間もの間ずっとウソを言い続けているのである。これだけ予言が当たらなければその論理はウソだったことぐらい馬鹿でもわかる。オオカミ少年ですら3回目のウソには誰も信用しなくなっている。

確かに物不足の時代には国の借金残高が増えれば金利もインフレ率も上がった。しかし、今は物余りの時代だ。政府が財政支出を増やしたからと言って急に深刻な物不足になる可能性はゼロである。そもそも世界は複雑なサプライチェーンでつながっており、日本が物不足になれば、これがチャンスとばかり、外国から商品がどっと入ってくる。それにロボットによる大量生産が可能な時代、生産はいくらでも拡大でき、大量に注文が来ればむしろ値段を下げることも可能だ。

我々は日経のモデルだけに頼るわけではない。「今増税などせずに減税・財政拡大をすべき」ということは日本の運命を決する大切な結論なのだから日本中のシンクタンクが持つマクロモデルを総動員して財政を拡大したら日本経済はどのような影響を受けるのかを検討すべきである。もし財政拡大でハイパーインフレになったり金利暴騰したりするという結論が導けたりしたら、過去の景気対策でなぜそうならなかったかも説明しなければならない。一度超インフレになると止められなくなるという珍説もあるが、第1次世界大戦後のドイツやオーストリアのハイパーインフレや終戦直後の日本のインフレも為政者の決断でピタリと止まっていることを忘れるなと言いたい。

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2019年5月13日 (月)

富の集中は如何にして防ぐことができるか(No.349)

AI/ロボットが人間の仕事を奪うにつれ労働者の立場は弱くなり資本家に富が集中するのは避けられない。IT大手企業ではGAFAなどの米国勢やBATなどの中国勢などが時価総額ランキングの上位を占めるのだが従業員数は比較的少ない。米アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスら米長者番付上位3位の資産総額は約38兆円でアメリカの下位50%の人々の資産総額約28兆円を上回る。このまま放置すれば、最悪の場合ほんの数人の資本家に大部分の富が集中し、その他の国民は奴隷のような扱いをされる可能性がある。莫大な富を持つと彼らは政府との蜜月関係に陥る可能性があり、非常に危険である。

そうならないように、真剣に打開策を考えるべきだ。第一の方法は税金で彼らの富の一部を奪って他の国民に分配することだ。しかしカネは国際間を動き回り税金の高い国から低い国へとカネは流れる。巨大企業は税金の安い国へ本店を移す。しかも増税は企業活動を難しくし、その国の経済にダメージを与える。第二の方法は通貨発行権を利用する。現在日銀は、日本株に投資する上場投資信託(ETF)を年間約6兆円購入している。日銀の保有残高(時価ベース)は3月末時点で28兆円強となった。東証1部の時価総額の4.7%に相当する。同じペースで買い続けると20年11月末には約40兆円になり、最大の株主である年金積立金(GPIF)を上回り日本株最大の株主になる。GPIFも国に属するのだから、国は日本株を合計12%以上保有することとなる。

日銀が株を買いすぎると株が下落したとき円の信認が失われると主張する人がいるが、日銀やGPIFが株を大量に買い続けると絶対に下がらないし、逆にどんどん上昇し続ける。日銀が日本株を大量に買い続けることのメリットは大きい。平成元年の世界時価総額ランキングで日本企業が上位を独占していた。日本企業は上位10位内に7社、上位50社以内に32社も入っていた。平成31年では50位以内に入っているのはトヨタだけでそれもやっと45位である。現在の日経平均は最高値の56%にまで下がっているし、この間米国のダウ平均は約10倍に上昇している。つまり現在日本株は異常に低い水準にあり、日銀が日本株を買えば正常な水準に近づけることができる。株が上がれば企業も投資しやすくなるし、投資信託を持つ国民も利益が出れば消費を拡大する。GPIFも含み益が増えればより年金財政が安定する。

それ以上に重要なことは富の一部が資本家から国に移ることだ。労働の大部分がAI/ロボットに代替された未来世界では、企業は労働者を雇わない。収入はごっそり資本家の懐に入り、資本家はそのカネをどう使えばよいのか分からなくなり、大多数の国民は失業し飢えに苦しむ。しかしAI/ロボットだけがいて労働者がいないような企業は民間経営である必要はなく、国有企業にしてもよい。国が徐々に株を買い進めていたら国有化は自然に進む。必要なら日銀が保有する株は政府が永久国債を発行して買い取っても良い。国有化が進めば企業の規模を大きくしAI/ロボット化が進めやすくなる。国有化すれば人は働かなくなるという意見もあるだろう。ある意味人はやりたいことを自由にやれて、あくせく生活のために働かなくてもよくするのが究極的な未来社会である。富が国に移れば国はそれを国民に分配することができる。

銀行の国有化が進めば通貨発行権を行使しやすくなるし、国債の暴落の危険も去り、金融恐慌など起こりえない。AI/ロボット化を進めるには大規模投資が必要であり、そのためには企業の大規模化が不可欠である。国有化して企業統合していけばそれが可能となる。農業の大規模化、AI/ロボット化を進めるためには、農業の国有化も考えるべきだ。

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2019年5月 6日 (月)

日本国の借金は完済された、今は貯めたカネを使うとき(No.348)

国の借金が1000兆円を超えたと言われることがあるのだが、これは本当の意味の国の借金ではない。これは日銀が刷ったカネで買い取れば簡単に返済可能であり、実際すでにその多くは日銀が買い取って返済している。外国から借りたカネはそう簡単ではない。なぜなら日本はドルなどの外国のカネを刷ることはできないから。

日清・日露戦争の頃は日本は外貨不足に苦しんでいた。日清戦争での勝利で賠償金3億円を得たが、それに続く日露戦争では多額の外貨を必要とし外国から借りるしかなかった。そのため1904年から1907年にかけて、借換債調達まで含め約13億円弱の外債公債を発行した。1903年の一般会計歳入が2.6億円であったのを考えると、この借金がいかに巨額であったか分かる。日本は勝利に次ぐ勝利でロシアを土壇場まで追い詰めたものの、19か月の戦争期間中に巨額の出費があり国力の消耗が激しかったので、賠償金なしの講和の提案を受け入れるしかなかった。このため巨額の借金が残り、多額の金利を含む借金返済に追われることになった。更に重工業製品鵜入を通じた大幅な貿易収支赤字もあり、デフォルトの危機に瀕していた。

しかし、その後第一次世界大戦が勃発し欧州諸国の企業がアジア市場での活動が難しくなり、その代わりに日本の商品輸出が急増し、空前の好景気となり、巨大な貿易黒字で外国からの借金返済がでたばかりでなく27.7億円以上の対外債権を有する債権国となった。しかしこの景気が永遠に続くと信じた政府はインフレになったにも拘わらず金融緩和と積極財政を続けたため、景気は過熱し投機が過熱し貿易収支は悪化した。それに欧米諸国は戦争終結で喪失したアジア市場を日本から取り戻し日本の輸出は停滞した。経済成長が輸入超過を生み、外貨は一気に失われた。

その後、日中戦争で最大100万もの兵力を中国大陸に送り、さらにアメリカ・イギリスとの全面戦争に突入し、8年間で7558億円もの戦費がかかった。この戦費は「戦争を以って戦争を養う」という考えで占領した朝鮮、台湾、満州などで現地で発券銀行をつくり通貨を発行することで、戦費を賄った。発行された通貨の信認を高めるために日本円を担保にした。ある意味で日本は借金をしたことになる。

1945年、第2次世界大戦で敗れアメリカの占領政策は懲罰的であり日本の生産設備の一部をフィリッピンに移そうとした。しかし1948年に始まった「冷戦」と1949年の中国における共産党政権の誕生を受けて、日本を共産主義の砦と位置づけた。その結果アメリカはガリオアエロア資金で日本を援助し、また発行された通貨で復興に必要な産業の育成が進み焼け野原だった日本が徐々に復活し始めた。1949年2月1日にアメリカからドッジ氏が来日した。彼は「日本経済は2本の竹馬に乗っている。1つはアメリカの援助、もう一つは補助金。竹馬の足は徐々に縮めるべきだ」と主張した。その結果財政赤字を大幅に縮小させた。日本はデフレ経済に陥り中小企業の倒産、労働者の解雇、賃金ストップなどが相次ぎ失業者は1948年19万人、1950年46万人にのぼった。

アメリカからの援助資金(ガリオアエロア)や世界銀行からの借り入れで借金まみれになった日本だが、1952~56の朝鮮戦争による特需景気になった。その後の日本経済は奇跡の経済復興と言われるほどの高成長が持続した。1960年代後半から貿易収支が黒字基調になり長い間、外国からの借金に苦しんでいた日本だが、逆に日本の対外純資産は2017年末で328兆円で世界一になった。現在日本円はハードカレンシー(国際決済通貨)と認められている。つまり額面価額通りの価値を広く認められ国際市場で、他国の通貨と容易に交換が可能な通貨とされており日本円以外は米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフランである。日本のように多額のカネを諸外国に貸している国の義務は、もっとカネを使って世界経済の発展に貢献する義務がある。そのためには減税と財政を拡大し経済を活性化することだ。

世界に十分な貨幣を供給しなかったために引き起こされたのが1929年から始まる世界大恐慌であった。1929年10月24日 ニューヨーク株式が大暴落し、1週間で株式時価総額で300億ドルを失なった。これは当時の米国連邦年間予算の10倍に相当し、アメリカが第一次世界大戦に費やした総戦費をも遥かに上回った。1933年までに9000の銀行が倒産し失業者は1300万人、全労働者の25%に達した。名目GDPは1929年から45%減少、元の水準に戻るのに12年かかった。株価は80%以上下落し、こちらは元の水準に戻るのに25年かかった。

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1930年 スムート・ホーリー法を定め、保護貿易政策を採り関税を大幅に引き上げたがただちにヨーロッパ諸国からの報復措置があり世界貿易は縮小していった。当時は金本位制を採っていたために、中央銀行は保有する金の量に見合った通貨発行しかできなかった。金は、アメリカに集まっていたのに、アメリカはインフレを恐れ通貨発行をしなかった。つまりアメリカが基軸通貨の役割を果たしていなかった。

現在のトランプ大統領は保護貿易の色彩が濃く、やり過ぎると世界大恐慌が再び訪れる。彼に保護貿易を止めさせるべきであるのはもちろんだが、その他の国も積極財政で世界経済が成長するための通貨を供給すべきである。しかし経常赤字が続いている国とか、巨額の債務を抱えている国はそれができない。その意味で日本は最も積極財政が出来る国である。減税と財政拡大をやれば、デフレから脱却し経済は成長し、世界経済の牽引役になれる。しかも経済が拡大すれば、将来の社会保障の安定財源も確保できるのである。

そもそも世界的な不況に対しては世界が協力して克服する努力をするべきだ。リーマショックの際には中国だけで57兆円もの景気対策を行い世界を救った。今回の不況でも中国は40兆円超の減税・インフラ投資を行う。アメリカのトランプ大統領は2017年12月、169兆円もの大型減税を実施した。それにより国民は年85万円を得た。それに加え大型法人税減税も行っている。今度は日本が大規模景気対策をする時だ。

 

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