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2019年6月

2019年6月17日 (月)

AIとポスト資本主義:未来社会はどこまでも発展を続ける社会(No.353)

『人間と環境』7(2016)に吉野敏行氏が『AI(人工知能)とポスト資本主義』という論文を発表している。ところで筆者はAIが発達すると解放主義社会に移行すると主張した」。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-36a9.html

少なくとも、吉野氏と筆者はAIが発展した後の未来社会を予測しようとしていることは共通であり、吉野氏の論文は大変興味深い。ただし吉野氏の考える未来社会は私のものとは大きく異なっている。

吉野氏は水野和夫氏の主張『資本主義の死期が近づいている』を引用し、先進国では「ゼロ金利・ゼロ成長・ゼロインフレ」が定着していることを「資本主義の死」と表現している。そして社会の実現すべき方向性は「定常型社会=持続可能な社会」でありこれが資本主義を終焉させることのようである。これはローマ・クラブの『成長の限界』に影響を強く受けている。つまり経済成長は国の累積債務や貧富格差の拡大、環境悪化という惨事をもたらすとの主張である。このような主張に対して反論する。

【反論1】
ゼロ金利・ゼロ成長・ゼロインフレになる理由はインターネットの登場に見られるような大きな技術進歩があり実質的な供給力が増加したのにも拘わらず、需要拡大策をせず緊縮財政政策を続けているからである。積極財政・減税を大胆に行えば、需要が伸び、経済が成長し、インフレ率が上がってくる。それに伴って当然金利も上昇する。これが正常な経済の姿である。積極財政で国の累積債務は増大するが、GDPはそれ以上に増大するので、債務のGDP比は逆に減少する。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-4257.html

【反論2】
経済成長が必ずしも貧富格差の拡大をもたらすとは限らない。筆者の主張する解放主義社会では、ロボットしかいない会社は国有化し、その利益を国民に還元するから格差は縮小に向かう。

【反論3】
社会の実現すべき方向性は「定常型社会=持続可能な社会」ではない。人間はどの時代でも常に「もっと幸せで、もっと快適な生活」を求め続けるから、定常型社会にはならない。例えば「もっと長生きしたい、いつまでも健康でいたい」という願望を叶えるために、医学の研究はどこまでも進み、事故の防止・公害の防止の取り組みは未来永劫続いていく。新しい生活空間、もっと優雅な住居を得るための努力も続き、地球外にまで出て行こうとするだろう。果てしない探究心で科学はどこまでも進歩する。決して定常型社会に収束することはあり得ない。

【反論4】
経済の拡大・発展は環境悪化を意味せず、むしろ環境を改善する。かつては「東京の空は灰色だった」が今は青空だ。現在はインドなどの空気の汚染が深刻だが経済が発展すると改善する。イタイイタイ病など公害で悩まされていたのは過去の話で、技術の進歩、経済の発展で公害対策が進んでいる。AI/ロボットが労働を代替できる時代には、環境対策は優先して行われなければならない。技術革新で太陽光発電・風力発電による電力価格が大きく低下し蓄電の技術の進歩に伴って最終的には化石燃料も原発も不要となる。結果として日本はエネルギー自給率を高める。

 

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2019年6月10日 (月)

AIの発達で資本主義が崩壊し解放主義社会へと移行する: (No.352)

このタイトルで筆者は吉野守氏と共に6月7日に人工知能学会(新潟)で発表させて頂いた(4Rin1-07)。解放主義社会に関して詳細は以下を参照して下さい。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2018/12/post-36a9.html
AI/ロボットが雇用を奪ったとき、人は失業する。それに対応するためにベーシックインカムとして国民全員に同額の給料を配るという案には2つの問題点がある。第一の問題点は、どんな人にも同一給料を払うのであれば、頑張る人は頑張らない人と同じ給料では、頑張る人は満足せず、労働意欲が失われるということ。第二の問題点は余りにも巨額の財源が必要となるということである。

そこで我々は解放主義社会を提案する。ロボットしかいない企業は国有化する。従業員がいない会社は巨額の収入が約束されるから、国は巨額の利益を得る。その収益で希望する国民全員を公務員として雇い、それぞれの国民がやりたい仕事がやれるよう職を用意してやるということである。国民全員がやりたいことがやれるような世界が理想社会と考える。

学会では大変多くの方が質問をして下さった。一番多くの方が心配しておられたのは、企業の国有化である。
質問1 企業が国有化をいやがったらどうするか。
回答  大部分の大企業は株式を公開しており、今でも日銀は刷ったお金で株を年間6兆
    円も買っている。このまま買い進めばいつの間にか国有化される。本当に必要にな
    るまで国は「物言わぬ株主」として株を買い続ける。
質問2 株式公開をしない会社はどうするか。
回答  100%の企業を国有化する必要はないし、私企業の立ち上げも許す。ただし、そ
のような未上場の会社が国を支配するだけの富を蓄えたら、規制することも検討
する。
質問3 国有化したら人は働かなくなり競争も無くなり経済が発展しなくなるのではない
か。
回答  中国を見れば沢山の国有企業が活躍して経済が発展している。ロボットしかいな
い会社が国有化されたからと言ってロボットが働かなくなることはない。公務
員は働かないというわけでもない。国立大学の研究者は世界の中で厳しい競争を
しているわけであり、研究・開発は公務員であっても進む。国としてはそれを助け
るための十分な環境を整えてやり成果が上がれば十分な報酬を払うのが重要であ
る。
質問4 ベーシックインカムではうまくいかないのか。
回答  もし会社で社長も平社員もパートもバイトも全員が同じ給料だったとしたら、頑
張る社員は不満でやる気を無くす。巨額の財源を調達しにくいという問題もある。
質問5 給料に差をつけるとして、どうやって給料を決めるか。
回答  ビッグデータを集め、AIが「国民がどうすれば最も幸せになるか」を判断して決
める。どうすれば幸せになるのかは進化生物学に基づいて検討すればよい。
質問6 ベーシックインカムの実験結果はどうなっているか。
回答  ほとんどの例では限られた人に限られた期間行われており、これでは本当の意味
のベーシックインカムの実験とは言えない。唯一ナウル共和国ではリン鉱石の輸
出で莫大な収入があり、国民は永遠に高額の収入が約束されると信じた。結果とし
て国民は労働を忘れ国民の90%が失業し、肥満や糖尿病に悩まされることとな
った。しかも国の巨額の収入は一部の人達に私物化されることが多かった。

ご清聴有り難うございました。

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2019年6月 3日 (月)

それでも10月の消費増税は止めた方がよい(No.351)

消費増税で景気が落ち込むのを阻止するための様々な対策はすでに終わっているから今更消費増税の中止・延期はできないと政府は主張するが、国の経済の事を真剣に考えていたら、この時期に消費増税などできないはずである。米中貿易戦争はもちろんの事、国内の景気悪化も著しい。消費者態度指数も8か月連続で下がったし、昨年から下落傾向が止まらない。1~3月の実質GDPの速報値もプラスであったものの、個人消費も設備投資も輸入も輸出も減少したのだ。内需が弱く輸入が得に大きく減少したため、実質GDPはプラスにはなったが、全体で見れば縮小経済そのものだ。米中貿易戦争で景気が落ち込んだら、金利を下げたり、財政出動をしたりで世界各国は対策を行うだろうが、日本は消費増税で景気が大きく落ち込んだら、果たして何ができるだろうか。金利は下げられないし、財政を拡大しようものなら、消費増税が失敗だった事を認めることになるから嫌うだろう。そうなれば日本経済は恐ろしい底なし沼へと沈没してしまう。

そんな日本への助け船はMMT理論(現代貨幣理論)だ。自国通貨を持つ国は、債務返済に充てる貨幣を無限に発行できるため、物価の急上昇がない限り、財政赤字が大きくなっても問題ないという趣旨である。多くのマスコミ・政治家・エコノミストがこれまで言ってきたこととは正反対の主張だから反論したい傾向にあるように思える。5月31日の日経新聞はキャサリン・マンとウィレム・ブイターの反論を載せたが翌日には宮尾龍蔵東大教授のコメントがありこちらはそれほど一方的な批判ではない。

MMTを解説する際にいつも出てくるのがノーベル経済学賞受賞者のクルーグマンによるMMT批判だ。しかし本当にクルーグマンはMMTに批判的なのだろうか。2008年の朝日新聞の記事で、債務の増大を恐れず財政を拡大せよと主張している。

【金融政策が影響力を失い、財政政策しか残っていないというのは、「不思議の国のアリス」の世界だ。この世界では、貯蓄を高めることが悪いことで、健全な財政も悪いこと。逆に完全に無駄な政府支出が善いこと。「あべこべの世界」だ。ここには長くいたくない。「奇妙な経済学」を永遠に続けたくない。】

次は2019年2月25日の発言の要旨である。
【MMTに関して言えば、基本的には賛成するし、財政赤字でガタガタ言う人達ほど破壊的な悪影響を与えるものではない。しかし彼らが私のような通常のケインジアンに対して標準的なマクロ経済学がすべて間違えていると主張するのであれば、反論しなければならない。】

長期のデフレ経済は国を貧乏にするのでどこの国も絶対に避けようとするのだが、日本の愚かな政治家は日本をデフレ地獄中に沈めてしまっている。表向きはデフレ脱却を目指しているのだが、実際はインフレ対策=デフレ悪化政策を続けている。デフレはクルーグマンのいうように「あべこべの世界」である。通常のインフレ経済なら当然の政策が悪い政策になる。デフレの際の悪い政策を次に並べてみる。

小さい政府、国の借金を減らす試み、財政規律を守ること、増税

企業の生産性を上げれば生産力が増大し供給過剰となりデフレは悪化する。だから生産性を下げればよいかと言うとそれは違う。一刻も早く大規模財政拡大をしてデフレから脱却してから生産性を上げていけばよい。その意味でもこの時期での増税は絶対に行うべきでない。

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