AIとポスト資本主義:未来社会はどこまでも発展を続ける社会(No.353)
『人間と環境』7(2016)に吉野敏行氏が『AI(人工知能)とポスト資本主義』という論文を発表している。ところで筆者はAIが発達すると解放主義社会に移行すると主張した」。
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少なくとも、吉野氏と筆者はAIが発展した後の未来社会を予測しようとしていることは共通であり、吉野氏の論文は大変興味深い。ただし吉野氏の考える未来社会は私のものとは大きく異なっている。
吉野氏は水野和夫氏の主張『資本主義の死期が近づいている』を引用し、先進国では「ゼロ金利・ゼロ成長・ゼロインフレ」が定着していることを「資本主義の死」と表現している。そして社会の実現すべき方向性は「定常型社会=持続可能な社会」でありこれが資本主義を終焉させることのようである。これはローマ・クラブの『成長の限界』に影響を強く受けている。つまり経済成長は国の累積債務や貧富格差の拡大、環境悪化という惨事をもたらすとの主張である。このような主張に対して反論する。
【反論1】
ゼロ金利・ゼロ成長・ゼロインフレになる理由はインターネットの登場に見られるような大きな技術進歩があり実質的な供給力が増加したのにも拘わらず、需要拡大策をせず緊縮財政政策を続けているからである。積極財政・減税を大胆に行えば、需要が伸び、経済が成長し、インフレ率が上がってくる。それに伴って当然金利も上昇する。これが正常な経済の姿である。積極財政で国の累積債務は増大するが、GDPはそれ以上に増大するので、債務のGDP比は逆に減少する。
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【反論2】
経済成長が必ずしも貧富格差の拡大をもたらすとは限らない。筆者の主張する解放主義社会では、ロボットしかいない会社は国有化し、その利益を国民に還元するから格差は縮小に向かう。
【反論3】
社会の実現すべき方向性は「定常型社会=持続可能な社会」ではない。人間はどの時代でも常に「もっと幸せで、もっと快適な生活」を求め続けるから、定常型社会にはならない。例えば「もっと長生きしたい、いつまでも健康でいたい」という願望を叶えるために、医学の研究はどこまでも進み、事故の防止・公害の防止の取り組みは未来永劫続いていく。新しい生活空間、もっと優雅な住居を得るための努力も続き、地球外にまで出て行こうとするだろう。果てしない探究心で科学はどこまでも進歩する。決して定常型社会に収束することはあり得ない。
【反論4】
経済の拡大・発展は環境悪化を意味せず、むしろ環境を改善する。かつては「東京の空は灰色だった」が今は青空だ。現在はインドなどの空気の汚染が深刻だが経済が発展すると改善する。イタイイタイ病など公害で悩まされていたのは過去の話で、技術の進歩、経済の発展で公害対策が進んでいる。AI/ロボットが労働を代替できる時代には、環境対策は優先して行われなければならない。技術革新で太陽光発電・風力発電による電力価格が大きく低下し蓄電の技術の進歩に伴って最終的には化石燃料も原発も不要となる。結果として日本はエネルギー自給率を高める。