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2019年8月

2019年8月26日 (月)

南北で協力して日本に勝ちたい韓国とどう戦うか(No.362)

日韓の経済戦争が続いている。韓国はGSOMIAを破棄した。これで困るのは韓国であり米国も怒らせた。しかしこれも『南北で協力して日本に勝ちたい』という文大統領の悲願に向けての第一歩と考えるべきかもしれない。彼の夢は南北が統一し、核保有国としての経済大国を建設するということか。しかしそれは簡単ではない。かつて西ドイツが東ドイツを吸収する形で統一したのとかなり事情が違う。

金正恩体制に韓国が組み入れられるということか。金正恩は人を虫けらのように容赦なく処刑し続けている。核ミサイルの開発のために国民生活が犠牲になっており電力の供給も乏しく食糧不足で国民は飢えに苦しまなくてはならない。また政府を批判する者、国外に逃亡を試みた者などは強制収容所に送られる。このような北朝鮮の体制をそのまま韓国に導入することに賛成する韓国人はほとんどいないだろう。核を保有したまま北朝鮮に韓国が吸収されることになれば、国連の制裁は韓国にも適用されることとなるから、韓国経済は壊滅だろう。そもそも米国軍が駐留するのに韓国が北朝鮮に吸収されるなどあり得ない。

では韓国に北朝鮮が吸収される場合はどうだろう。核を放棄しないと国連の制裁が続くのだから核は放棄せざるを得ない。核保有国のまま経済大国になるという野望は達成不可能だ。北朝鮮を民主国家にして金正恩体制を崩壊させ韓国に編入させたとしよう。金正恩は多数の国民を処刑した罪で裁判にかけられ有罪(死刑?)になる。この選択肢は金正恩にとって絶対に受け入れられない。米国軍の基地が北朝鮮につくられるようなこの案は中国やロシアにとっても絶対に受け入れられないだろう。

ということは南北力を合わせて日本に勝つという文大統領の夢も絵に描いた餅にすぎない。金正恩にとっては唯一求めたいのは体制保障であり、それが唯一の生きる道だからである。文大統領の「南北協力で日本に勝つ」という発言や、GSOMIA破棄も文氏の最側近のチェ・グク氏のスキャンダル隠しという見方があり文氏は追い込まれている。日本にとってはこの最悪の反日政権は一刻も早く崩壊してもらいたい。そのために、ここで韓国へ(文政権へ)一気に攻勢を強めてはどうだろう。その手段を列挙してみる。

①輸出規制を更に強化
②短期滞在で来日する韓国人に認められているビザの免除措置の凍結・廃止
③反日教育を即時中止せよと要求
④竹島からの即時撤退を要求
⑤韓国における文化面での日本大衆文化流入制限を撤廃せよと要求。撤廃しないなら、韓国ドラマの日本流入禁止。
⑥韓国からの投資の引き上げ。貸しはがしを強行。
⑦日本の銀行による韓国企業に対する信用状の発行を停止する。韓国の通貨は信用がないから、ドルの入手が困難になり輸出ができなくなる。

これらは一気にやるとよい。韓国は大混乱に陥り、文政権を崩壊させることができるのではないか。文政権崩壊後は元に戻せば良い。日本に対してはどんなに悪いことを行っても許されると思っている韓国だが、これにより目を覚まし、普通の協力し合う隣国になってくれるに違いない。そのような経済戦争に勝つには、財政支出の拡大が欠かせない。韓国も歳出拡大をやるようだから、日本だって負けていられないはずだ。

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2019年8月20日 (火)

内閣府の『経済財政に関する試算』の正しい理解のために(No.361)

内閣府は7月31日、『中長期の経済財政に関する試算』を発表した。マスコミは基礎的財政収支の黒字化は27年度に後退したと報じた。これはこの試算に対する正しいコメントではない。内閣府は次の2つのシナリオで試算をしている。
①成長実現ケース
②ベースラインケース
マスコミは①だけに注目し、基礎的財政収支の黒字化の時期が遅れるということを見出しに持ってきている。しかしマスコミがこのような報道をするのは間違いである。内閣府が認めているように①の成長実現ケースとは、安倍首相の夢(実現不可能な幻想)が実現した場合どうなるかを記述したものであり、内閣府はこれが実現するとは言っていない。現在の政策が維持されたら②ベースラインケースで予測された経済になると予測しているのであり、これこそが現状維持の場合の経済予測である。この場合は基礎的財政収支はいつまでたっても黒字化しない。

①の場合は歳出拡大をせず消費増税があり緊縮財政が続くのにも拘わらず急成長するという非現実的なシナリオだ。こういったシナリオを示せと政府から命令を受けているから仕方なく数字を出したわけで、あり得ないシナリオを鉛筆なめなめで書き上げるためにでっち上げた屁理屈は全要素生産性の上昇率の急上昇である。これは屁理屈であり、実際こんなことがあると考えているわけではないことは内閣府も認めている。TFP上昇率の推移を示してみよう。
2014年   1.0%
2015年   0.8%
2016年   0.8%
2017年   0.7%
2018年   0.7%
2019年1月 0.4%
2019年7月 0.3%
実際は急上昇どころか急低下している。これからみても、この仮定が間違いであることが分かる。上述の安倍首相の夢(=実現不可能な幻想)をモデル上で実現するには、このような間違えた仮定を使わなければならないことが分かる。つまり①のシナリオは間違えており正しいシナリオは②である。公正中立なマスコミはシナリオ②だけに注目すべきであり「基礎的財政収支は今後黒字化する見通しは全く無い」と報道すべきなのだ。

厚生労働省や経済産業省など将来見通しの試算をするとき、必ず①が使われているのだが、これは間違いであり、正しくは②を使うべきなのだ。ただし、今後日本経済は成長の見込みは全く無いというわけではない。①と②では①のほうがはるかに高い成長をしているのだが、その違いは①は②よりずっと速く歳出を拡大していることにある。内閣府は根拠もなくTFPをフラフラ変えるようなことを止め、歳出を拡大して成長率を高めるという偽りのない試算を堂々と国民に提示し、納得させ、政府に実行させることである。歳出を拡大すればGDPが増加するので政府債務のGDP比も下がってきて実質的に国の借金も減ってきて将来世代へのツケも減る。だから国民の同意は得られるはずである。平成の30年間は日本経済は世界の中で著しく没落した。今からでも遅くない。正しい試算を国民に提示すれば必ず国民は納得するし、それが実行されれば、再び奇跡の経済成長が実現するのは間違いない。財政政策を180度反転させても国民は理解してくれる。

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2019年8月 7日 (水)

内閣府に電話して『中長期の経済財政に関する試算』について質問した(No.360)

2019年7月31日に内閣府から『中長期の経済財政に関する試算』が発表されたので、内閣府に電話して詳細を質問し丁寧に答えて頂いた。このような電話は毎回行っているので、すでに筆者の名前まで覚えておられて「小野先生からは毎回コメントを頂いております。貴重なご意見を承りまして今後試算の改良に努めさせて頂きます。今後ともよろしくお願いします。」と言って頂いた。

Q 先週発表されました試算にいてお聞きしたい。新聞各紙で基礎的財政収支が悪化し、黒字化が先延ばしになったとありますが、悪化した原因はなんでしょう。
A 足元の経済成長率が悪化したので悪化したものとみております。
Q 成長率は前回のものから悪化しているし前々回からはもっと悪化している。悪化は年中行事のようなもので、例えば2018年度の実質成長率は0.7%だが、その前は0.9%、その前は1.5%、その前は1.8%でした。発表されるたびに悪化してて、その度に基礎的財政収支も悪化している。毎回そうなってますね。元々出したデータはサバを読んでる、上振れしているのではないかという印象を受ける。
A実績値に関しては国民経済計算に基づく結果を用いているのでありサバを読んでいません。
Q 例えば日経センターの出してるESPフォーキャストだと民間の40人(機関)の平均値を出している。それと比較すると値が内閣府のものより実績値に近い値を予測している。ESPのほうが実質GDPでも名目GDPでも当たっている。内閣府はもっと精度のよい予測は出せないのか。国の税金を使って民間の予測よりずっと悪い精度の予測を出すのかということです。
A 試算の目的は大きく分けて2つあります。経済の動きを試算するのとPBや借金がちゃんと返せるかというのを試算することです。その2つの目的でやっているので民間予測とずれてしまうこともある。
Q ずれるというより精度が悪いということです。もっと精度を上げる努力をしないのか、気象庁などはだんだん予測の精度は上がっていますね。内閣府も年ごとに精度を上げて欲しいと思います。
A 例えばイタリアやフランスなど海外でも試算を行っている。そういう試算を我々も勉強してモデルを改善しようという努力はしている。予測精度が常に上がるとは限らない。
Q それよりESPフォーキャスターの結果を勉強して頂いてどうやって正確な予測をだしているのかを見て欲しい。むしろ国としてその値を引用するとか、そういったことを検討したほうがよいのではないか。国の政策を遂行しようとしたとき、正確な予測ができていないと間違えた判断をしてしまう。
A ご意見としてはESPフォーキャストに計量分析室も学べということですね。
Q 民間はどうやって予測したのか、どうして民間のほうが精度がよい予測ができたのかを学べばもっと良い予測ができるのではないか。それがあればもっと正しい政策が行えるのではないかということです。今回の消費増税などもタイミング的に非常に悪い。もし正しい試算ができていたらこのような決定にならなかったのではないか。
A 取りあえずESPフォーキャストに代表される民間予測に学べという小野さんのご意見を共有させて頂きます。
Q プライアリーバランスの黒字化に随分力を入れておられるし、新聞各紙が言っているのはそればかりです。成長率がどうなったかということ以上にプライマリーバランスを気にしている。本当にプライマリーバランスを黒字化しなければならないのか疑問に思っている。もしプライマリーバランスを黒字化しないままむしろ経済成長に重点を置いた政策をとったらどうなりますか。プライマリーバランス黒字化の目標をはずし経済成長を第一にしようとしたらどうでしょう。諸外国もそういう方針のように見えますが。
A それを決めるのは政府の方針です。PB黒字化とか経済成長とかの目標を決めるのは政府で我々は政府の決めた目標に従って試算を出して目標が達成できるかどうかを確かめていく。
Q もちろん、そうだと思いますよ。ただこの計量分析室の存在意義はPB黒字化を目標からはずしてしまった場合、つまりPBはいくら赤字でもよいと割り切った場合、国は滅茶苦茶になるのか、ハイパーインフレになるのか、何か悪いことが起きるのか、そういった材料を提供することが計量分析室の役割ではないか。PBが赤字のまま、つまり27年度以前ですが、債務のGDP比は下がるという結果を出してますね。基礎的財政収支は2026年度までは赤字ですね。
A 正確には2026年度にはおおむね収支は均衡します。
Q 2025年度まではPBは赤字だが、公債等残高のGDP比はどんどん下がっている。2019年度は191%ですが2015年度は171%まで下がっている。つまりPB赤字でも下がるし下がればよいのでしょう。借金はどうするかということですが、GDP比で下がれば返したことになる。だったらPB赤字を気にすることはないのではないか。
A 債務のGDP比が下がっても時間と共に長期金利が上がってくることが懸念される。
Q 長期金利が上がればダメなのですか。
A 長期金利が上がることが想定されるので現時点ではPB黒字化の目標を取り下げるとか、例えば内閣府の試算では成長ケースとベースラインケースとがあってベースラインケースでは28年度までPB黒字化は達成できません。それは足下のTFP水準のままで潜在成長率で経済が進む場合を示しています。
Q 金利は上がってはいけないないのですか。2022年度まで0%、2025年度でも1.3%で、これで上がりすぎですか。むしろ低すぎるという気がするのですが。これで金利が暴騰したことになるのか。
A 暴騰したことにはならない。
Q 全然大丈夫じゃないですか。金利は低ければ低いほどよいのか。低いということは資金需要がないということを意味しているのではないか。日本が経済成長してた頃は資金需要があってこれよりずっと高かったですね。経済成長を目指すのであれば。金利は下にへばりついているだけではダメだ。金利が高い国、中国とかアメリカなど経済成長をしている国を見ますとそこそこの金利がついてます。
A はい。
Q ある程度金利は高い方が良いと思うのですが、ゼロ金利でなければいけないのですか。
A それに関しては日銀が物価水準の目標値CPIが2%になるまでは中長期試算では0%の水準に据え置くという方針です。
Q 日銀の政策はそれでいいです。そもそもゼロ金利ということは昔日本が経済成長してた頃は考えられなかったですね。
A はい。
Q ゼロ金利にしなければいけないのか。ゼロ金利では銀行業務が成り立たない。よいことは何も無いと言う気がします。資金需要がないから投資に資金が回らない。金利が低すぎるということは結局はデフレだし、デフレで良いことは何も無いような気がしますが。
A 今の経済の想定のままで現実的と考えられる金利を2028年までお出ししておりまして経済がよくなるための最適な金利とかを決めてるわけでは無い。
Q 政府としてはデフレ脱却を目指していますね。デフレ脱却でも金利はゼロから離れてはいけないのですか。それとも金利はそこそこ上がってもいいのですか。2%のインフレ率を目標としているわけでしょ。
A でも小野様も以前おっしゃったようにESPフォーキャストのような民間予測がありますね。金利の民間が考える最適水準があるので政府としては経済一般の中で今までの経済の動きと将来の政策を織り込んだ金利を出しておりますので政府の側が,内閣府が最適な金利とか金利の値を現実の経済と離れて出すことはできない。
Q それはいいと思いますが、金利が上がってはいけないと言われますと
A 上がってはいけないとはいいません。
Q 上がってもいいということですか。
A 例えば2021年に長期金利をお出ししておりますし日銀の想定に合わせて日銀が2%の物価目標を出しているのでそれに達成するまでは金利は抑えられているという設定しておりますがそれが正しいとか間違っているとか言っているわけではありません。
Q 元に戻りますがPBが赤字のままでも債務のGDP比が下がっていくのだからPB黒字化という目標を下ろしてもよいのではないか
A それは小野様の貴重なご意見として伺っておきます。班内で取りあえず共有いたしますがそれから先はどうなるか分かりません。
Q そもそもPBの黒字化をそれだけ国家目標にしてずっとそれに集中しているというような国は日本以外にあるのですか。独自通貨を持っている国がPBの黒字化を目標にしなければならないのかということです。MMTも最近話題になっていますが。
A そうですね。
Q PBより成長率を重視したほうがよいのではないですか。
A それは小野様のお考えです。
Q 私の考えですし、そういう考えの人はたくさんいますよ。この前のケルトン教授もそうでしょう。
A 財務省の意見とかクルーグマンとかのようにMMTに反論してる経済学者もいます。
Q それはそれとしてPBは黒字化しなければならないのかということを少しは考えて欲しいと思います。ずっとPBは黒字化を主張していました。小泉内閣の時でした。あのときは2011年にPB黒字化すると言って一生懸命歳出削減をやってましたが、結局2011年PB黒字化はできず大赤字だった。次は2020年度と言いだし、その後どんどん後ズレし今は2027年度と言ってる。私が思うに、これは毎年後ズレしその繰り返しになると思います。
A はい。
Q だからPB黒字化は意味がない。その目標は取り下げたらいいというのが私の意見です。今の経済理論によれば日本のように巨額の財政赤字が続けば激しいインフレになったり、金利が急騰したりするはずですがそのようにならないですね。なぜならないのですか。
A それは内閣府計量分析室からは正確なことは言えない。インフレ率は人々の期待に影響しますし、経済のフォンドメンタルにも影響します。例えば仮説として考えられるのは人々の期待とか予測が抑えられているとかマイルドなインフレになって欲しいと考えているのですが、まだまだ人々の消費マインドとかが影響していてお金を使おうという気にならない。例えば人々の予想も影響するのでみんながインフレになると考えると経済は自己実現的にインフレになることがあるのだけど何らかの理由があって人々に期待とか抑えられているとハイパーインフレになりにくかったりすることはあるかもしれない。
Q そうですね。
A でもそこまで分析しているかというと、ハイパーインフレにならないような状態というのは常に考えていると思うのですがハイパーインフレにならない本当の理由は何かというと学者さんが考えること。
Q ですから期待やフォンドメンタルがどうかということは経済データに織り込まれているわけでありましてそれを元に計算してるわけですから、結局そんなに簡単に物価は上がらないというのはデータとして入っていると思う。だからよくハイパーインフレになるとか国債が暴落するとか軽々しく言う人がいるのだけど、これだけの物余りの時代にそういうことが起きるかということ。例えば米不足になる、食べられなくなる、飢え死にし始めるといった状況なら確かに物価の急騰もあり得るのですが、今の日本で物不足になるかというと世界的なサプライチェーンがありますから何か無くなったらすぐに日本に入ってくるということで、そんなに簡単に米の値段が急騰するとか、日用品の値段が急騰するとかいうようなことは考えられない。そういうことは内閣府のモデルのデータの中に入っていると思います。
A はい。
Q だからそういう意味で財政が赤字だったとしても、債務のGDP比がこれだけ大きくなったとしてもそれはハイパーインフレの予兆ではないと思います。今財政を拡大してもいいのではないか。増税で国民を苦しめなくてもいい。
A 消費税を上げるというのは国民の皆様を苦しめるためにやっているのではなくて将来の社会保障費の増加とか医療費の増加に合わせてやっているのです。
Q それは分かります。将来のために今のうち節約しましょう。国を挙げてみんなお金を使わないようにしましょうということ、それでいいのかということです。消費が低迷している中で将来に備えてみんなお金を使わないようにしましょうというと企業は困ってしまいますね。生産設備があるのにみんながお金を使ってくれない。売れない、そうすると儲からないから将来への設備投資ができない。そうすると日本経済は衰退するだけです。他の国はどんどん成長しているのに日本だけが成長しない。成長しない中、他の国は金利を下げたり減税をやったり景気刺激のための政策をやっている。日本だけは将来に備えてみんなでお金を使わないようにしようという。そうすると消費が落ち込んでGDPも落ち込むので将来への備えにはならないです。要するに経済を破壊する政策です。お金を貯めてそれを将来のために使えるか、消費を抑え生産設備が無駄になり将来への投資ができない。そうすると日本経済は沈没です。
A でも今回の増税に関しては幼児教育無償化とか特別の措置を行っています。ですからただ単に増税を行うのでなく例えば消費者へのポイント還元とかも行いできるだけ消費への影響を抑えつつ消費税を上げることで将来への社会保障に備えています。
Q もちろん理解しております。前回の2014年度の消費増税の際にも同じような事を言われた。5兆円の景気対策をやれば消費増税による落ち込みをはるかに上回る押し上げ効果があるから落ち込みはありませんと宣言されていました。しかし実際は大変な落ち込みがあった。理論的にはおかしいと言えるのかもしれない。要するに消費増税の影響は消費者にそんなに大きな負担になっていないはずなのだけどあんなに落ち込んでしまった。ということは日本中が消費増税で大騒ぎをしていたから節約するしか無いと消費者が思ってしまった。だから過剰反応しダメージが予想以上に大きくなった。今回の増税でみんな節約すると言っている。アンケート調査では消費増税で消費を抑えると言った人が6割いた。だから消費増税で間違いなく景気が悪化すると思います。米中貿易戦争があるし日韓経済戦争があり、ブレグジットもある。今は悪い材料があり、今景気は盛り上がっておらず本当は駆け込み需要が無ければならない時期なのにそれがない。このまま消費増税で消費が落ち込めばひどいことになるのではないかと心配です。
A 小野さんに申し上げるのもなんなんですが、経済理論に基づいて考えると、小野さんのおっしゃるように経済成長が先かプライマリーバランスが先かということですが、小野さんの主張は経済成長が先ということですね。
Q そうです。
A 仮にプライマリーバランスの黒字化とか財政の動きとかというのを考えると必ずしも消費税を景気がいいときだけ上げて経済が安定化するかというとそうはならないんですね。つまり財政の黒字化とかを第一目標に考えて計算をすると景気がよいときだけ増税するという考え方ですといつまで経っても財政赤字はなくならない。
Q だから財政赤字は無くならなくたっていいよという考え、例えばMMTですね。
A でもMMTを支持する学者はアメリカでも限られますよね。
Q そうですが、話題にはなっています。今度の大統領選で結構話題になるかもしれない。日本でも結構話題になっている。ケルトン教授も来ました。
A ケルトン教授の論文も拝見したんですが、モデルというか数理的なモデルに落とすとなるとMMTというのは背景にするモデルが無い。これは個人的な意見ですが。経済財政の試算を行う時MMTというのはコアになるモデルが無いので何でも言えちゃうんです。反論するのもモデルが無いから難しくなってしまいます。
Q モデルは内閣府でちゃんと持っておられる。今ここで示しておられるのはモデルを使って計算をしておられるのでしょう。
A そういう意味で言うとモデルが分かりづらい。論文でモデルをケルトン教授とかまだ発表されてないと思うので数学的に厳密なモデルがないと正しいということも間違っていると言うこともできない.厳密に再現できるものではない。
Q 正しいか、間違えているかというのは、理論物理学などでははっきりしますが、何が正しいか、何が間違えているかということですが、私に言わせればGDPが増えたらそれが正しいのだということ、単にそれだけでよいのではないかと。実質GDPが増えるような政策が正しい政策であってプライマリーバランスを黒字化すればよいということではない。国民を豊かにしたいといったときにGDPが最良の指標かどうかは分かりませんが、一つの指標としてGDPを拡大するというのを目標にする。実質GDPが増えればそれでよしとする。どうすればGDPが増えるのかというのを、モデルを使って計算すればよいだけ。成長実現ケースとベースラインケースの2種類を内閣府で出している。様々な点においてこの2つは違うのでしょうが、素朴に見て一番違うところは歳出をどれだけ拡大したかという点です。成長ケースでは2028年に歳出は124兆円になっているがベースラインだと113兆円にしかなっていない。このことは歳出を増やせばGDPは増えるということを示しています。それ以外の要素もあると言われるとは思います。そこで単に歳出だけを増やし、そうでない場合との比較をしていただくと非常に分かりやすい。政治家にも分かりやすい。歳出を増やせば日本経済はどうなるのか。歳出を増やすか増やさないかという点だけの比較をして頂くと政治家にも分かりやすいのではないかと思います。歳出を増やしたとき、日本経済は一体どうなるのか。日本経済は世界最低レベルの経済成長率なので、このまま続けて欲しくない。一人当たり名目GDPでももうそろそろ韓国に抜かれてしまう。アジアの中でも貧乏な国になってしまうのは非常に残念です。せめて韓国には抜かれて欲しくない。その意味で歳出を増やして欲しい。成長実現ケースを見ても歳出を増やしている。前回の発表では2028年に130兆円に増やすと言っていたのに、今回は124兆円になった。2014年の発表では2023年に144兆円に増やすという試算を出していた。このように歳出を増やすとGDPが大きく伸びてくる。実際は政府は歳出を増やさないように努力している。歳出は10年位前から100兆円のレベルに留まっている。内閣府試算にあるようにどんどん歳出を増やしていけばGDPは伸びる。普通の先進国並の成長率になる。それがこの試算の意味するところかなと思う。政府は歳出をほとんど増やさないですね。
A 歳出の統計というのは成長実現ケースとベースラインケースで違っているとか成長実現ケースとベースラインケースをお出ししておりますけど、それまでの下案というか公開される前の案の段階では政府の統計とか出しているとかするんですが成長実現ケースとベースラインケースの2つだけを公開している。
Q この2つのケースで歳出の額だけを変えるのだったらよいのですが、色んな所を変えている。全要素生産性も変えているし何か変わってこういう結果になったのかよく分からない。歳出だけ変える。歳出が一番重要。もちろん昨年内閣府から出された乗数を見れば歳出を増やせばGDPは増えることは分かるしそれによりハイパーインフレになるというようなことは全くないし、インフレ率も少し上がる。2%のインフレ率にするにはどれだけ歳出を増やしたらよいのかということも計算して欲しい。そういった試算があれば政府も歳出拡大を行いやすくなる。
A 取りあえず小野様の意見として想定を色々変えてみてそういう試算も内部で検討しますが、今のままだと発表されるのは成長実現ケースとベースラインケースです。ご意見としては真面目に考えますけど見かけ上の発表は今までと同じかも知れません。
Q 本当は安倍首相にこれ発表してもいいですかと聞いてみれば、意外といいと言うかもしれないですね。
A 成長実現ケースというのはアベノミクスで掲げている政策効果が最大限発揮されたときの試算で、ベースラインケースというのは足下の潜在成長率並で将来にわたって推移するもので、成長実現ケースというのは安倍首相の目標を達した場合で努力目標みたいなものなのです。
Q 努力目標ですが、歳出は徐々に増やしていくということ。成長実現ケースとベースラインケースの両方共です。歳出を増やしてはいけないという空気がありますがそれはおかしいと思いますよ。全要素生産性の乗数が書いてあって足元では0.3%とありますが、前回の発表では0.4%、前々回は0.6%、更にその前は0.7%と高かったのですね。どんどん下がった。
A それは計量分析室が計算したのでなく、内閣府の経済分析を担当するチームが求めた。それを元にして計算します。
Q これはどういう部門で計算しているのですか。
A それはコブ・ダグラス型の生産関数がありまして、それだけでなく例えば季節によるデータの変動をフィルターにかけて季節変動を滑らかにしたもので試算して生産関数を求めて逆算したものになります。
Q これが下がっていったということは景気が悪化したということですか。
A 全要素生産性TFPが下がるということはGDPの潜在成長率から資本と労働の変化率を引いたものになる。だからTFPが下がったとしてもダイレクトに景気が悪くなったということではない。景気の因果関係の元でTFPが動いている。残渣として。労働と資本を除いた生産性が下がったということです。仮にTFPが下がったとしても労働と資本で説明できない部分が下がったわけで、ダイレクトに生産性が下がったと言えるかどうか分からない。
Q 今後これが上がっていくと見込んで計算されてますね。
A はい。
Q 乗数を見ますとTFPが上がると失業率が上がりインフレ率が下がりデフレ気味になる。しかし成長実現ケースにはそのような効果は出ていない。
A 乗数効果の分析は他の条件を一定として計算してあります。
Q だから他の条件が変わったのですね、それを打ち消すための何かが加わったのですね。他の要素は何かと言えば多分歳出を増やしたことだと思うのですが。
A それはコメントできない。
Q 全要素生産性が上がるということはよいことでしょう。今は人手不足ですからその解消になるかもしれない。例えば減税とか同時にやった場合にインフレ率を押し上げることができるし失業率を下げる効果はある。だから全要素生産性が上がるのなら減税・歳出拡大をやっても大丈夫というように思うのですが。
A 全要素生産性が上がるというのはモデル上の想定なので、絶対に上がるかどうか分からない。だからTFPが上がる想定になっているからと言って無理な政策をするということはできないと思います。
Q 歳出の額ですが2021年は2020年に比べて下がっているのですね。これは2020年に景気対策をやるということですか。その後は順調に上げていく。
A 歳出を恒常的に上げるというのは子孫への負担を増やすことになってしまう。
Q 本当にそうですか。私は逆に考えています。歳出はどこの国でも毎年増やしています。ケルトン教授流に言うとみんなお金を持っていないときに税収とたくさん得ようとしても無理だから税収を上げようと思ったらみんなにお金を配っておかねばダメ。
A 財政学的に考えると人々にタダでお金を配る・・・
Q ヘリコプターマネーで配るわけです。そうすると税収が増えてくる。消費が拡大し投資が促進し税収が増える。そうしたらまたたくさんお金を配る。そうするとよい循環になる。
A 経済学的には考えにくくて何かを得るためには何かをしてなければならない。
Q それは財政均衡ですね。
A 財政均衡まではいかなくても市民にお金をタダで配ったらその後ツケが回って増税とかになりますね。
Q それはちょっと考えが違うと思います。例えば江戸時代どうだったかと言えばみんながお金を持っていなかったときに、金鉱で金を掘ってきて金を配る。金が足りなくなってきたら他の金属を混ぜ改鋳をやって毎年配った。財政赤字というのでなく、お金をつくって通貨発行益を歳入の中に入れている。これは借金ではない。財政赤字でもない。それで年貢=税金を軽減した。歳入の20~30%はそれで補っていた。それが経済の発展を助けていた。ハイパーインフレにもなっていない。それが今でも通用すると思っています。ですから通貨発行益でお金を配れば国民は豊かになるし税収も増えてくる。経済も拡大する。これはどの国でもやっていることで日本だけは歳出を増やさない、そうすると歳入も増えない。赤字だけがどんどん積み上がっていく。GDPが増えないから債務のGDP比が増え、悪い循環になっている。
A 小野様がMMT理論をご紹介されるのは分かりましたけど一応計量分析室としてはESPフォーキャスト調査をもっと真面目に分析しようとかPB黒字化だけじゃなくて経済成長を重視したほうがよいのではないかとか、歳出の様々な状況を考えたシミュレーションを行えということは計量分析室内で共有しますけど、MMTが正しいのか、間違っているのかというようなことは少なくとも生産的ではないと思います。
Q 間違いか間違いでないかということは、理論物理の自然法則とは違います。私はGDPが増えた方が正しい理論でありそれだけで良いのではないか。
A マクロ経済学は一人あたりの消費が増えるのをまず第一に考える。そのためにGDPを成長させようとする。それもGDPは平均的に増えれば良いというのでなく分散とも関係している。
Q だから歳出を拡大すればGDPが増える。そのへんの相関関係は非常に高い。
A 将来の歳出を現在増やして現在のGDPを高くしても将来のGDPが上がるとは限らない。
Q 将来も通貨発行で歳出を果てしなく拡大していく。
A 果てしなく拡大したら無限の将来までの予算制約を考えなければならない。収支は現在だけでなく将来まで考えなくてはいけない。どこかで発散しないように注意しながら計算したのが中長期試算です。
Q 発散というのがあるのか。発散というのはインフレ率が無限大になるということでしょうか。あるいは債務が無限大にあるということか。経済の分野でどうやっても発散はあり得ない。例えばベネズエラのように極端な物不足になればそういうこともあるが、日本の過去130年間を見ると国の債務は500万倍になっている。対数グラフで画くとほとんど直線的に債務が増大している。指数関数的に増えているといったらよいかもしれない。だから500万倍になってもビクともしない。今後また100倍、1万倍、100万倍になっても何の問題にもならない。むしろ物不足にしない、人に十分物を供給できればそれでよいではないか。
A そのためにMMT理論を必ずしも使う必要はなくて政府としてはバクチはしないので正しいか間違っているか分からないような政策を採用することもないと思われます。国民の皆様にリスクを押しつけるわけではないからPBの黒字化をしようとしているわけです。
Q 10年後、100年後の経済をモデルで計算してもほとんど意味がなくて、むしろ1年後、2年後がどうなるかということを計算してよくなる方策を考える。モデルでその位だったら計算できるから、それでGDPが増えるシナリオを探る。他の国と比べると日本は世界に希な低成長の国なわけです。最近20年を考えれば世界最低でしょう。普通の先進国がどうやって成長しているのか、どうして日本だけが成長しないのか、比較してみれば一番顕著なのはやはり歳出を増やしていないということ。それが決定的な違いでしょう。もちろん儲かる産業への投資ができていないということがある。これからはAIの時代かもしれないが、これから本当に利益が出るような産業に投資してしない。もう落ちこぼれてしまった。そうだとしてもこれから挽回できるところもあるだろうということでそのためにもお金を使わなければならない。PB黒字化を考えるよりむしろお金を使って、この分野だけは日本が取るようにしたい。中国と米国がAIで覇権争いをしております。GAFAやBATでいいとこ取りをしようとしてます。巨大企業が生まれ他を寄せ付けない勢いであるが,何かの分野で日本が取っていかねば国が貧しくなります。そのためには投資でしょう。投資すればデフレ脱却に役に立つ。
A 小野先生とは1時間位お話をしておるのですが中長期試算において毎回コメントを頂いておりますので、今回はESPフォーキャスト調査のほうが当たっていると思われるのでそれを調べるということと、PB黒字化よりも経済成長を重視しろということと、歳出の仮定を色々変えた上でシミュレーションをせよということはご意見として伺っておきます。
Q 政府は実質2%、名目3%成長を目指している。しかし今の政策を続けていたら実現できそうもない。これを実現するためにはどの位財政を拡大すればよいのか内閣府計量分析室で示して欲しい。それが公表できなくても安倍首相だけでも教えておいて欲しいということです。
A 分かりました。貴重なご意見を承りまして今後試算の改良に努めさせて頂きます。今後ともよろしくお願いします。
Q よろしくお願いします。

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2019年8月 4日 (日)

内閣府が『中長期の経済財政に関する試算』を発表した(No.359)

内閣府は7月31日、『中長期の経済財政に関する試算』を発表した。これは内閣府が年2回発表している試算で、今まではこれが発表されるとマスコミは一斉に財政が悪化したと騒いでいた。今回、マスコミの扱いは以前に比べれば小さく、基礎的財政収支(PB)の黒字化は27年度に後退したと報じた。我々は一貫して内閣府の試算には疑問があることを指摘してきたのでそれが少しは理解されつつあるのかも知れない。PBの黒字化は元々小泉政権の時代2011年度に黒字化するのだという目標を定め緊縮財政を行ったのだけど、結局2011年度のPBは大幅な赤字となり、その後は黒字化目標を次々と後退させていった。この間、政府は目標を達成しようと緊縮財政を続けたために、日本経済は大きく没落することとなった。新聞各紙の記事は下記に載せておくので参照して頂きたい。

ESPフォーキャスターという調査があり、民間約40のフォーキャスター(機関)が出した予測の平均であり、内閣府の予測よりもはるかに正確な予測が出されている。国の税金を使ってこのような精度の悪い予測を出す意義はあるのだろうか。
例えば2018年実質GDP成長率の予測を比較してみよう。
     内閣府   ESP
実際の値 0.7    
半年前  0.9   0.69
1年前  1.5   1.08
1年半前 1.8   1.26
2018年名目GDP成長率の予測を比較してみると
実際   0.5   
半年間  0.9   0.72
1年前  1.7   1.05
1年半前 2.5   1.26
となっている。いずれも民間のほうが内閣府よりはるかに正確に予測している事が分かる。ちなみに今後の実質GDP成長率の予測は
        2019  2020
内閣府     0.9   1.2
ESP      0.53  0.48
となっており、民間のほうが内閣府より信頼できることを考えれば、この時期に消費増税の実施は大失敗だと断言できる。

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上図で示したように例えば2005年の試算では511兆円であった名目GDPは7年後の2012年には645兆円になる、この調子なら今頃は800兆円を超えている。実際は名目GDPは現在までほとんど増えていない。我々はこれを「オオカミ少年」だとか「狂った羅針盤」だとかと言ってきた。しかしよく見ると政府が歳出を大きく増加させた場合の試算を行っていることが分かる。
年度  歳出(兆円) 増加率(%)
2005    82.2 
2006    84.5        2.7981
2007    89.6        6.0355
2008    93.3        4.1295
2009    98.3        5.3591

実際政府は歳出を拡大したのだが、2018年はリーマン・ショックの時だ。中国では57兆円の巨大な景気対策で景気の落ち込みを防いだ。しかし日本政府はそれに相当するような景気対策を行っていない。内閣府試算の意味するところは、上記のような財政拡大を行いしかもリーマン・ショックのようなショックがなければ、今頃はGDP800兆円に達していただろうということだ。逆に財政を拡大しない限り、GDP拡大はないということも示しているのだと思う。

内閣府の試算でGDPが急上昇しているのは、財政を拡大した場合の試算であることは以下の図で分かる。政府はこの試算通りに財政を拡大していたらGDPは急上昇していたのだろうが、実際は下図のように歳出規模をほとんど拡大していない。これではGDPは増えるわけがない。
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もしもこのように財政が拡大されていれば景気が回復し長期金利も上がっていただろう。しかし現実には財政支出は拡大されておらず、金利は低いままに留まっている。その差は驚くほど大きいことを以下で示す。
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なぜ歳出を拡大しないのかといえば、基礎的財政収支を少しでも早く黒字化したいという無謀な試みを行っているからである。それも公債残高のGDP比を減らすのが目的である。しかし下図で分かるように基礎的財政収支は赤字でも黒字でも公債残高のGDP比は減少する。だから基礎的財政収支は黒字化する意味はないことが結論される。このことを踏まえて新聞各紙が不適切な報道をしていることを以下で確認して頂きたい。


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