内閣府の『経済財政に関する試算』の正しい理解のために(No.361)
内閣府は7月31日、『中長期の経済財政に関する試算』を発表した。マスコミは基礎的財政収支の黒字化は27年度に後退したと報じた。これはこの試算に対する正しいコメントではない。内閣府は次の2つのシナリオで試算をしている。
①成長実現ケース
②ベースラインケース
マスコミは①だけに注目し、基礎的財政収支の黒字化の時期が遅れるということを見出しに持ってきている。しかしマスコミがこのような報道をするのは間違いである。内閣府が認めているように①の成長実現ケースとは、安倍首相の夢(実現不可能な幻想)が実現した場合どうなるかを記述したものであり、内閣府はこれが実現するとは言っていない。現在の政策が維持されたら②ベースラインケースで予測された経済になると予測しているのであり、これこそが現状維持の場合の経済予測である。この場合は基礎的財政収支はいつまでたっても黒字化しない。
①の場合は歳出拡大をせず消費増税があり緊縮財政が続くのにも拘わらず急成長するという非現実的なシナリオだ。こういったシナリオを示せと政府から命令を受けているから仕方なく数字を出したわけで、あり得ないシナリオを鉛筆なめなめで書き上げるためにでっち上げた屁理屈は全要素生産性の上昇率の急上昇である。これは屁理屈であり、実際こんなことがあると考えているわけではないことは内閣府も認めている。TFP上昇率の推移を示してみよう。
2014年 1.0%
2015年 0.8%
2016年 0.8%
2017年 0.7%
2018年 0.7%
2019年1月 0.4%
2019年7月 0.3%
実際は急上昇どころか急低下している。これからみても、この仮定が間違いであることが分かる。上述の安倍首相の夢(=実現不可能な幻想)をモデル上で実現するには、このような間違えた仮定を使わなければならないことが分かる。つまり①のシナリオは間違えており正しいシナリオは②である。公正中立なマスコミはシナリオ②だけに注目すべきであり「基礎的財政収支は今後黒字化する見通しは全く無い」と報道すべきなのだ。
厚生労働省や経済産業省など将来見通しの試算をするとき、必ず①が使われているのだが、これは間違いであり、正しくは②を使うべきなのだ。ただし、今後日本経済は成長の見込みは全く無いというわけではない。①と②では①のほうがはるかに高い成長をしているのだが、その違いは①は②よりずっと速く歳出を拡大していることにある。内閣府は根拠もなくTFPをフラフラ変えるようなことを止め、歳出を拡大して成長率を高めるという偽りのない試算を堂々と国民に提示し、納得させ、政府に実行させることである。歳出を拡大すればGDPが増加するので政府債務のGDP比も下がってきて実質的に国の借金も減ってきて将来世代へのツケも減る。だから国民の同意は得られるはずである。平成の30年間は日本経済は世界の中で著しく没落した。今からでも遅くない。正しい試算を国民に提示すれば必ず国民は納得するし、それが実行されれば、再び奇跡の経済成長が実現するのは間違いない。財政政策を180度反転させても国民は理解してくれる。
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コメント
今日は。higashiyamato1979です。積極財政こそ全ての解!
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2019年8月20日 (火) 16時37分