五十嵐敬喜「借金とインフレを巡る誤解」はどこが間違いか(No.369)
2019年9月17日の日経新聞「十字路」は「借金とインフレを巡る誤解」という記事だった。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO49872010X10C19A9ENI000/
その内容は中学の公民の教科書に出てくる需要と供給の関係を否定するもので、質問主意書に対する政府の答弁書の内容と似ている。もしかしたらどこかで繋がっているのかもしれない。
五十嵐氏は政府が財政支出を拡大すれば物価上昇はありうるとしながら、それは景気悪化につながるからハイパーインフレにはならないのだそうだ。財政支出拡大でどうやれば景気が悪化するのかの説明はないし景気悪化の定義もされていない。物余りの日本ではハイパーインフレにはならないというのであれば、それは正しいし政府の答弁書にも書いてあった。一方で五十嵐氏は「財政の健全化を巡って、日本はその意思と能力が全くないと市場が見切りをつけ、円を売り浴びせるようになれば、1ドル=100円の相場が200円、300円になり、すべての輸入品の価格が2倍、3倍になりハイパーインフレになる」という。政府の答弁書にも似た表現がある。例えば平成29年2月3日内閣衆質193第30号では「財政運営及び通貨に対する信認が著しく損なわれる結果、金利の急騰や激しいインフレが生じる」としている。また「ハイパーインフレーションは、戦争等を背景とした極端な物不足だけでなく、財政運営及び通貨に対する信認が完全に失われるなど、極めて特殊な状況下において発生するものである。激しいインフレが起きるときでも消費が激増するとは考えていない」とも述べている。つまり通貨の信認が失われれば需要が増えなくてもハイパーインフレになるというのだ。ここまで質問したとき、政府はそれ以上質問をしてはならぬと厳しく圧力を議員にかけてきて議員は震え上がって二度と質問をしようとしなかった。政府はよほどこの質問されることが嫌だったに違いない。
どうやら五十嵐と政府は同じ見解のようだ。需要は増えなくてもハイパーインフレになる??だから緊縮財政を続けなければならない??本当に財政健全化を政府が怠ったら1ドル=300円になるのだろうか。もしそうなったとしたら、海外から見れば、日本の株、土地、人件費が一挙に3分の1に下がってしまうのである。少し為替が円安に動いただけで日本株は大きく上昇している。かつてバブルの際には世界中の資金が日本に集まって株・土地が暴騰したが、1ドル=300円となれば、それよりはるかに急激に資金が日本に集まってくる。そうなれば円安が元に戻るのではないか。この為替レートでは日本の賃金が近隣諸国よりはるかに安くなるので、海外に出て行った企業も日本に帰ってくるし、日本人も高い給料の職を求め韓国、台湾、中国などに出稼ぎに行くようになる。政府が財政健全化を怠っただけで、一気にそんな時代になるのだろうか。
1ドル=300円になれば本当にハイパーインフレになるのか。確かに輸入品の価格は3倍になるが、家電や車など国内に代替品があれば、輸入品を買わなくなるだけだ。原油価格は値上がりするが、原油をできるだけ使わない経済へと変わっていく。激安となった日本製品は爆発的に売れるようになり、近隣諸国の経済を窮乏化させる。日本経済が急成長し過熱したら物価は上昇するが、もちろん賃金も上がり国民は豊かになる。財政健全化の努力を怠ると悲惨な結果になると五十嵐氏も政府も主張するのだろうが、現実はその真逆である。実際アベノミクスでかなり円安が進んだが、物価はそれほど上がっていない。五十嵐氏は三菱UFJに属しているからマクロモデルを持っており政府も内閣府のモデルがあるのだから、それぞれ円安が進んだとき日本経済がどうなるか計算できるはずである。財政健全化を怠ると大変なことになると国民を脅すのでなく、しっかりモデルで計算をして結果を国民に示すべきだ。円安は大惨事と主張する人は円高も大惨事だと主張する。日本経済にとって何がよいのかしっかりマクロモデルで計算してから主張すべきだ。
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コメント
今晩は。higashiyamato1979です。前回の記事と同じく異議なし! 前回の記事で同じコメントを手違いで2つ書き込んでしまいました。申し訳ありません。
投稿: higashiyamato1979 | 2019年10月10日 (木) 16時55分