資本主義社会から解放主義社会へ(N0.376)
(1)未来社会では労働はAI/ロボットが代替する
文部科学省の科学技術・学術政策研究所が専門家5300人への調査をした。過去予測は7割が実現しており、信頼性は高い。それによると
2029年 人間を代替する農業ロボット
2031年 無人で自律航行する商船
2033年 空飛ぶ車
2034年 完全な自動運転車(レベル5)
などとなっている。労働が次第にAI/ロボットで代替されてくる。将来、財・サービスの提供に人間が不要になったらどのような社会が人間にとって最も快適なのだろうか。それを考えるには「人は何のために生きるのか」「幸福とは何か」を考えることから始めなければならない。
(2)人は何のために生きるのか
時々人生がいやになることがある。世界最低水準の経済成長率で失われた20年と言われる日本経済。なんとか復活させようと努力している最中に、その努力をぶち壊すのが消費増税だ。このように、自分の思うように行かないとき「人は何のために生きるのか」と考え始める。不幸があったとき、毎日やりたくないことをやっているとき、将来のことを考えたときにもそれを考える。人の生きる目的が分からなければ、これからどのような社会システムを構築していけば良いのか分からない。
かつて筆者が大学生だった頃、心理学の講義で、フロイトによる無意識の世界の話を聞いた。本人が意識していなくても、意味不明の行動をとることがある。実は人間には心の奥底に無意識の世界があって、それによって行動が支配されている。詳しく分析するとその無意識の世界は性欲に関係していたというもの。フロイト学派は何でも性欲に結びつけようとした。それはおかしい。人間に限らず、どの生物であっても性欲ばかりに行動が支配されていたらその種は生き延びられなかったはずだ。現存している生物の行動は、どれも種の保存と整合的でなくてはならないはずだ。それが進化論の結論だ。ただし進化は遺伝子によって引き起こされるのだから遺伝子という言葉で説明しようとすると厳密には「種の保存」ではなく若干の修正を受けるのだが、それでも種の保存に整合的でない行動をする生物は生き延びられるわけがない。自分の遺伝子をできるだけ多く残そうとする努力が進化を引き起こすのだが、結果として生き残った生物は種の保存の能力に優れた種だったと言うことができる。
そのことから人の生きる目的は他の生物と同様に種の保存であるという仮説を立ててみよう。今から54年前、筆者のこの説に対し心理学者の宮城音弥は次々と厳しい質問をしてきた。詳細は拙書
『人間の行動を進化論』(1999)ナビ出版
を参照していただきたいのだが、その中の一部を紹介する。
【質問】なぜ人は自殺するのか
【回答】人は重い病気を患ったときとか、事業に失敗したときとか、自分はもはや種の保存に役立たないと感じたとき自殺する。死ぬことで種の保存に貢献する。
【質問】なぜ戦争をするのか。
【回答】人は太古の昔、数十人単位のグループで暮らしていた。時々干ばつなどで食糧が足りなくなったとき、隣の部落から略奪するしか生き延びる方法がないときがあった。このようなとき、生き延びたのは、知能が高く戦いの技術に優れ、仲間と協力して戦える個体が揃っていたグループだったから、そのような形質が進化で獲得された。
【質問】芸術とは何か
【回答】例えばミロのヴィーナスを見て美しいと感じる。それは裸の女性の像であり、生殖に関係するから種の保存に関係している。ただし、対象物は石であり本当は関係ない。だから次のように仮定する。人間は行動を制御するものを持っていて、それをディスクリミネーターと名付ける。種の保存にプラスになる行動ではディスクリミネーターはプラスになり、種の保存にマイナスの行動にはディスクリミネーターはマイナスになる。人間はディスクリミネーターをプラスにし、マイナスにならないように行動する。ミロのヴィーナスの場合は、ディスクリミネーターは間違えてプラスになってしまった。人為的にプラスにしたとも言える。このようなディスクリミネーターの作動状態を空作動(からさどう)と呼ぶ。
(3)ディスクリミネーターが人間を支配
人間の思考はディスクリミネーターに強く支配されている。次の例を考えて見よう。
「 動物を人間の食料にする」 ・・・ これは当たり前のこと。
「人間を動物の食料にする」 ・・・ どんな悪人でも絶対に考えない
ライオンであれば、人肉は食べても良いが、ライオンの肉は食べてはいけないと考える。
どの動物も種の保存に反する考えを持つことができない。絶世の美女がいたとしても、それは人間にとって美しいだけであり、空腹時のライオンにとっては単に獲物としか見えない。
ディスクリミネーターの作動状態
①正常作動:種の保存にプラスのときにプラス、マイナスのときにマイナス
⇒ 結婚、出産、子どもの成長
②異常作動:種の保存にプラスのときにマイナス、マイナスのときにプラス
⇒ 注射は痛いから子どもは嫌がる、麻薬
③空作動(からさどう): 種の保存には益にも害にもならないが、人為的な方法でディス
クリミネーターをプラスにする。
⇒ 芸術、映画、スポーツ、風俗産業
④作動抑止: 異常作動を止める。
⇒ 麻酔、心理療法
(4)幸福とは何か
幸福とはディスクリミネーターをプラスにすることであり正常作動と空作動のどちらでプラスにしても同じように幸福を感じることができる。人は何のために生きるかと言えば、種の保存のためであり、ディスクリミネーターをプラスにするためであると結論できる。このことから人類の未来社会がどのようなものかが見えてくる。詳しくは以下の拙書を参照。
「資本主義社会から解放主義社会へ」小野盛司、創英社/三省堂書店
未来のある日、AI/ロボットが労働を代替し、やることがなくなったとしたら、どのような社会システムが人間にとって最良かを考えなければならない。そのためには「人は何のために生きるのか」を知る必要がある。筆者の説によれば人間は他の生物と同様「種の保存」のために生きている。そして人間を「種の保存」と整合的に行動させるためにディスクリミネーターが行動を制御している。これが幸福とか快感を引き起こし、人の行動・思考を制御している。
ところでAI/ロボットが完全に労働を代替したとき、どうすれば人間は幸せになるのだろうか。それはディスクリミネーターをプラスにすることであり、そのためには種の保存にプラスになることをすることだ。太古の昔、狩猟時代の事を考えよう。種の保存がプラスになる行動とは、獲物や木の実を見つけたりして食糧を確保すること、綺麗なわき水を見つけ住み家まで水を運ぶこと、子育てをすること、外敵から家族を守ることなどである。しかしこれらのことの多くは、未来社会ではAI/ロボットがやってくれる。そうであれば人間はもはや幸せになれないのであろうか。そんなことはない。我々はディスクリミネーターを人為的にプラスにする方法を知っている。これをディスクリミネーターの解放、そしてそのような社会を解放主義社会と呼ぶ。
例えば野球が好きな人がいたとしよう。なぜ人は野球が好きかと言えば、狩猟時代には、石とぶつけたり、こん棒で殴ったりして獲物を捕らえていただろう。その時代に人間のディスクリミネーターはつくられたのである。今では肉はスーパーに行けば簡単に手に入るからその代わりに、野球でボールを投げたりバットを振り回したりしてディスクリミネーターの空作動を引き起こす。現代であれば野球で生計を立てることができる人は極めて少ない。長期間一軍で活躍できる人だけだ。しかしAI/ロボットが人間の替わりに働いてくれるような時代になり、社会システムがうまく構築されればずっと多くの人を野球選手として雇うことができるようになる。もしかしたら、希望者全員をプロ野球選手として雇うことができるかもしれない。その場合国が野球場を多数用意してたくさんの試合をさせてやり、生活するには十分な最低限の給料を支給する。もし野球選手として上達してきたら給料は上がっていく。野球をやっているうちに、自分は別の職業のほうが向いていると感じてきたら、そちらに転職可能であり、その場合であっても生活できる最低限の給料は確保される。こういったシステムを構築することで国民を十分幸せにすることができる。
これが理想社会である解放主義社会である。これはベーシックインカムの進化形と言える。ベーシックインカムでは全国民に一律に同一賃金を渡すのだが、お金をもらうだけで人は幸せになるとは限らない。できるだけ多くの人のディスクリミネーターをプラスにするにはどうすればよいのか本格的に研究すべきである。本来は獲物をこん棒で殴り殺し食糧として家族に運んだとき「幸せ」という信号をディスクリミネーターは発した。これこそが真の幸福かもしれない。しかし野球の試合でも人は十分喜べる。ホームランを打てばスカッとする。しかし種の保存とは無縁だからディスクリミネーターを騙して「幸せ・快感」という信号を人為的に発せさせ空作動を起こさせた。前者が真の幸福であり、後者は見せかけの幸福なのかというと、そうではない。ディスクリミネーターが幸福という信号を発すときが幸福であり、それが種の保存に関係しようとしまいと関係ないからである。
前回と前々回で人間の行動を制御するのはディスクリミネーターであり、それは人間の行動が「種の保存」と整合的であるように制御していると述べた。ある意味で人間は種の保存のために生きるという表現もできる。そうであれば生きること、あるいは子孫を残すことがその目的であるとも言える。もちろん、人間が種の保存のために努力したからその形質が進化で獲得されたのではなく、遺伝子の変化の結果生き残った生物は種の保存の性質を持つものであったということだけだ。
(5)解放主義社会への道
AI/ロボットの発展で、資本家は人を雇わなくても財・サービスを提供できるようになる。国民はその資本家の所有する会社にお金を払うのだから富はすべて資本家に集中するようになる。悪くするとその資本家が政治家と癒着し権力を握る。そうすれば独裁政権が誕生してしまい国民にとってみれば悲劇になる。
1000人の村があったとする。1人が資本家、それ以外が999人である。会社の利益はすべて資本家のものになるとする。ディスクリミネーターをDとしてその村のDの合計を計算してみよう。
資本家から税金を取り、それ以外の人に分配したとすると
資本家のD=-1
それ以外の人のDの合計=+1×999
全体では +999-1=+998
この村全体のディスクリミネーターの合計はプラスだから、この政策はこの村を幸福にする正しい政策であると分かる。
ベーシックインカムはこの村を最も幸福にするのだろうか。果たしてお金をもらうだけで人は幸せになれるのだろうか。村の各人はそれぞれ生き甲斐を感じることができるような職業がある。例えば作家、タレント、小説家、俳優、評論家、記者、料理人、デザイナー、科学者、哲学者、研究者、発明家、音楽家、カメラマン、芸術家、陶芸家、園芸家、棋士、落語家、プロスポーツ、教師、等である。十分な財源があれば、国がそれぞれの職を準備できる。
ディスクリミネーター(D)は状況により変化する。例えばある人が歌手になりたいと思ったとする。
給料だけをもらった場合 ・・・ D=+1
給料ももらい更に歌手活動を助けてもらった場合 ・・・ D=+2
歌手活動も助けてもらい更に歌手としての才能も評価してもらった場合 ・・・ D=+3
この人が抜群の歌唱力を持ち、多くの人がその歌に魅了されたくさんのファンができたような場合は国としてはそれに応じた給料を払えば良いしそのときの給料は天井知らずで、Dもそれに応じた高い数値となる。
全国民のDを最大にするような社会システムが解放主義社会であり労働、貧困、失業から人を解放する。各国民が自分の希望する職業に就職できるように国が職を用意することを JoD (Job-on-Demand)と呼ぶことにする。死ぬまで公務員として給料をもらえるから解放主義社会では年金は不要である。解放主義社会では専業主婦、母子家庭の母親も正規の職業と見なされ公務員として雇われる。
資本主義社会では企業は利益を出すことが大前提であり、どんなに生き甲斐を感じられる仕事でも赤字が続けば倒産する。解放主義社会では、利益より国民にどれだけ喜びを与えることができるかを考えることが最も重要になってくる。
未来社会において、もし資本家が誰一人雇わず会社を経営しているのなら、会社は国有化し、その利益を財源とし希望する国民全員を公務員として雇い、生活ができる収入を保障すべきである。現在の日本でも日銀がETFという形で間接的に会社の株を買っている。2019年8月20日現在で保有残高は28兆8868億円で東証1部の時価総額に占める割合は4.7%になっている。
年金積立金管理運用独立行政法人GPIFが保有する国内株式の総額は38兆4122億円である。国は通貨発行権を持っており財源は無限にあるから、じわじわ買い進めれば国有化も可能である。ETF購入では間接的に株を買っているだけだが直接株を買ってもよい。日銀でなく政府が直接株を購入する案も考えられる。ただし国は「物言わぬ株主」になるべきである。企業経営者はその会社の経営を熟知しているが、国は各企業の経営を理解できるわけがないからである。
次に多くの人が持つ疑問に答えてみる。
【質問】株式を公開しない会社はどうするか。
【回答】株式を公開しないままの経営も許される。ただしその会社が国の富の多くを占有するようになり、国を支配するほどの規模になれば、課税などの手段で富の一部を国に移す。
【質問】折角会社を育ててきても国に取られてしまうのか。
【回答】国が会社を奪うのでなく、物言わぬ株主として資金を提供するだけである。
【質問】国有化したら人は働かなくなり競争も無くなり経済が発展しなくなるのではないか。
【回答】中国を見れば沢山の国有企業が活躍して経済が発展している。ロボットしかいない会社が国有化されたからと言って、ロボットが働かなくなることはない。公務員は働かないというわけでもない。国立大学の研究者は世界の中で厳しい競争をしているわけであり、研究・開発は公務員であっても進む。国としてはそれを助けるための十分な環境を整えてやり成果が上がれば十分な報酬を払うのが重要である。
【質問】寝たきり老人も公務員として雇うか。
【回答】ベーシックインカムの考えであり、働けなくても給料は払う。寝たきりでも、テレビを観ることができる人であれば、例えば各番組に対する感想を話してもらったりして各種ビッグデータ収集に協力してもらうことができる。
(6)ベーシックインカム
解放主義社会が理想だが、今すぐ実現するわけではない。しかしベーシックインカムであればすぐにでも実現可能性はある。2009年管義偉、安倍晋三、木原誠二、山本ともひろなど20名超の有志議員が「政府紙幣及び無利子国債の発行を検討する議員連盟」(会長・田村耕太郎参院議員)を発足させた。管義偉(すがよしひで)氏が2009年2月1日フジテレビの報道2001で政府紙幣を発行し国民一人当たり20万円を配る案を示した。「菅さんが言えばぐっと現実味を帯びてくる」と出演者は言い、テレビ出演者は、20万円をもらえば使うと思うと局内で話していると発言した。国民全員に20万円を配るというアイディアはベーシックインカムと言えるだろう。
ベーシックインカムを行った場合の日本経済への影響を日経のNEEDS日本経済モデルを使って計算してみた。
このグラフは名目GDPの推移であり、0兆円とは何もしなかった場合の予測であり、その予測精度は内閣府の予測の10倍くらい高い。当時デフレ基調だったが、それが続くと予測したが、内閣府はすぐに高成長が始まると予測した。結果は日経モデルの予測がピタリと当たった。30兆円とあるのは、毎年30兆円を5年間国民に配った場合、名目GDPはどうなるかを計算したもの。何もしなかった場合よりはるかによいのだが、完全に成長軌道に乗せるにはまだ力不足と言える。この計算では金利固定ではないので金利が上がり成長に若干ブレーキが掛かっている。もし金利固定で計算したらもっとGDP押し上げ効果は大きくなる。
こちらは実質GDPであり、物価の値上がり分だけ修正されている。
これは消費者物価指数である。当時はデフレが進んでいたが今は僅かだが物価は上昇しているので、その物価を押し上げることになる。多くの識者は2%のインフレ目標は日本では無理だと言う。それはウソであることはこのグラフから明らかだ。適切な規模の財政出動でインフレ目標は容易に達成される。別の識者ハイパーインフレになるというがそれもウソだと分かる。
これは一人当たりの雇用者報酬である。ベーシックインカムで消費が拡大し、景気が回復するので給料も上がり始めるということだ。給料は上がるし、国から一定のお金が配られるし、国民としては笑いが止まらないということになる。日本企業にとっても消費が拡大するから復活の足がかりになるに違いない。
なぜこのような素晴らしい構想が消えてしまったのだろうか。その事を調べていくと日本経済の復活を阻止しようとしている闇の世界があるのかもしれないと思わせるものに出くわす。高橋洋一氏は経済危機が深刻化するのを見て「政府紙幣を発行して景気対策に使えばいい」という政策を唱えていた。09年1月末に安倍晋三元首相と菅義偉自民党選対副委員長に会って直接提案した。高橋案を聞いた安倍・菅両氏は前向きに応じた。菅義偉氏は2009年2月1日にテレビ番組で国民全員に20万円を配る構想をぶちあげ、議員連盟を結成し2月10日に初会合をもった。この構想を阻止するために立ち上がったのが財務省だ。菅氏や高橋洋一氏のもとに財務省幹部が反対意見を述べるために訪れている。当時の財務大臣は中川昭一氏であり積極財政派であった。この議員連盟が中川大臣を説得すればこの構想は実現する可能性が大きかった。そこで起きたのが中川大臣の酩酊会見事件だ。
この事件は不可思議だ。酔って会見に応じたということで海外から非難が殺到し、中川大臣は失脚せざると得なくなり財政緊縮派の与謝野氏に交替させられた。しかし中川氏は酒を飲んでいなかったと証言した。何者かに毒物を盛られたかもしれないのだが、そのとき中川氏に付き添っていたのは財務省の職員だけだ。その後10月に中川氏は原因不明の急死している。もう一方の当事者である高橋洋一氏は3月24日に不可解な事件で逮捕され大学教授の職を失っている。この事件について聞いても彼は決して答えようとしない。
これら一連の動きを見れば、日本経済を復活させるような気配が見えれば財務省が動き出し、ストップを掛けてしまう仕組みができあがってしまっているのではないかと疑ってしまう。もう一度政府紙幣及び無利子国債の発行を検討する議員連盟を動かして構想を実現したらどうだろう。
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コメント
今日は。higashiyamato1979です。ここに書かれている事が実現出来れば日本は名実共に地上の楽園になれます!
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2019年11月14日 (木) 15時44分