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2019年12月20日 (金)

ベーシックインカムが日本経済を復活させる(No.380)

  上記のタイトルで、12月15日に立命館大学で開かれた日本ベーシックインカム学会でお話をさせて頂いた。これは大変好評で衝撃的だというコメントもあった。通常ベーシックインカムというときは、どこからか財源を確保し、その範囲内で国民全員に同額のお金を配る。国民全員に同額支給ということだから莫大な費用が掛かる。それを税金で賄おうとすると大増税をやるしかない。それでもうまくやればメリットはあるのではないかと多くの学者が研究を進めていた。

筆者のアプローチは全く違っていて、財源は国債発行で行った場合日本経済はどうなるのかを調べた。これはほとんどの研究者にとっていわば「禁じ手」でありこれが行われるとハイパーインフレになると考えられている。それが本当かどうかを調べるために筆者は日経新聞社のNEEDS日本経済モデルを使って計算してみた。次の図は2000年からベーシックインカム(BI)として毎年一定額を国民に配り続けた場合、名目GDPがどのように影響を受けるかを示したものである。0兆円とあるのは、何もしなかった場合、30兆円とあるのは毎年30兆円を国民に配った場合であり、配る額は30兆円から80兆円まで変えて計算してある。配らない場合はデフレで名目GDPは減少していくし、配ると上昇に転じることが分かる。これは配ったお金で消費が伸びて経済が拡大したことによる結果である。
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次の図は実質GDPであり、物価の影響を除いたものである。

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次のグラフは消費者物価指数の推移である。お金を大規模に配ればハイパーインフレになるという主張は正しくないことが証明された。
  3803

次は一人当たりの雇用者報酬の推移である。配られたお金で消費が拡大し、企業も利益を増やし、賃上げをするという経済の好循環が生まれる。国民にとってみれば景気拡大で賃金が上がるだけでなく、国からBIとして受け取るお金が加わるわけで、二重の喜びとなる。

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日本国民は失われた20年、あるいは失われた30年を経験しどん底の状態だ、以下のグラフは長期的に実質賃金が下がり続けていることを示している。

                     出所:厚生労働省
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次のグラフは年収の推移の国際比較である。
                     出所:OECD
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日本とイタリア以外は年収が大きく伸びている。イタリアの場合はドイツなどと比べれば企業の競争力は劣るのだから、本来は通貨の切り下げを行って競争力を回復すべきなのだが、ユーロを使っていて独自通貨を持たないから切り下げができず、緊縮財政を強いられているため年収が伸びないのは当然である。それに対して日本は独自通貨をもっているのだから、国債発行(=通貨発行)を行って可処分所得を増加させ経済を拡大すべきだ。だからこそ国債発行で財源を確保しベーシックインカムを行うのが日本経済復活のための特効薬になる。

日本人は社会保障制度に極度の不安を持っている。その不安解消のためを考えるなら、ベーシックインカムで配る額を1.5倍に増やし、0.5倍の部分を除いた部分だけを国民に配り、0.5倍の部分は社会保険料として預かっておき、将来年金を支給するとき加算するようにすればよい。それにより国民は将来不安から解放される。またベーシックインカムを実行することによってインフレ率が高すぎるようになったら、社会保険料を上げてインフレを抑えれば良く、それを将来年金を支給するときに加算されるようにすればよい。

筆者の提案に対し、国債発行残高が増えすぎるのをどうするかと心配する人がいるかもしれない。これは日銀に買い取ってもらえばよいだけだ。国債の増発で行きすぎたインフレになったとすれば、社会保険料を値上げすればインフレは止まるし、それを将来の年金に加算するようにすればよい。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

 今日は。higashiyamato1979です。手段の清濁などに拘る事などせず庶民の懐を温かく出来るなら躊躇わず何でもするべきなのです。
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2019年12月22日 (日) 15時05分

気になったのですが、為替の反応はどうなるのでしょうか?
以前、量的緩和したときに大きく円安に振れましたが、インフレ率はさほど上昇したわけではない。
しかしドルでみれば大きく日本通貨価値が下落しているわけで、今後、日本は政府の赤字の拡大を放置するとマーケットが認識した場合は果たしてどうなるのでしょう?

投稿: にゃにゃ | 2020年1月18日 (土) 16時35分

確かに為替は問題です。常識的に考えれば円安・株高でしょう。日本が為替操作をしているとアメリカからお叱りを受けるかもしれません。ただ、内需は拡大しアメリカからも輸入は拡大するでしょうから、対米黒字の削減にも貢献しますから、アメリカの怒りも軽減されるのではないでしょうか。日本の経済が立ち直って、日米で拡大する中国経済に対抗するのをアメリカは望んでいるのではないでしょうか。

投稿: 小野盛司 | 2020年1月18日 (土) 21時01分

初めまして。
小野先生の試算で、よく分からない点がありました。

説明の中に、「(BIを)配らない場合はデフレで名目GDPは減少していくし、配ると上昇に転じることが分かる。」と、あるのですが、現状ではいまだかつて一度もBIは実施されたことはないのですが、それでもGDPは減少せず、上昇しているのではないでしょうか?
また消費者物価も、BIを実施していない現状でも、(一時的には下がることはあっても)長期的には上昇しているのではないでしょうか?

投稿: kyunkyun | 2020年3月14日 (土) 13時29分

名目GDPは減少していました。
1997年は513兆円だったものが、2002年には498兆円に2011年には470兆円にまで減少しました。その後は僅かにプラスになっていますが、諸外国に比べれば際だって低成長が続いています。、

投稿: 小野盛司 | 2020年3月14日 (土) 14時26分

ありがとうございます。
下記の図表を見ると、通貨発行によるベーシックインカムを行っていない場合でも、ある期間GDPが減少していても、長いスパンではGDPは上昇しているように見えました。
https://ecodb.net/country/JP/imf_gdp.html

それで、次のようなことは言えないでしょうか?

・(インフレ問題を起こさないように、生産面のキャパシティをよく考慮した上での) 通貨発行による適切な現金給付を行っていれば、現状のGDPがより大きくなっている可能性がある。

投稿: kyunkyun | 2020年3月14日 (土) 15時57分

こんにちは。
小野先生は、日経新聞社のNEEDS日本経済モデルを使って計算されたとのことですが、その計算要素には、日本の「潜在GDP」(最大限の生産力)の項目はあったのでしょうか?
もしあった場合、その潜在GDPは現状でどれ位の数値と推定されていたのでしょうか?

投稿: kyunkyun | 2020年3月17日 (火) 14時06分

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