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2020年3月27日 (金)

景気対策とGDP、雇用者報酬(No.394)

3種類の景気刺激策とGDP成長率・雇用者報酬の関係をNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使って調べてみる。
(1)現金給付をした場合
全国民に同額の現金を給付するとする。その額は年間10万円、20万円、40万円、80万円の4種類で、何も配らなかった場合と比較した。ただし、その金額を年4回、4分の1づつ給付するとする。80万円を給付するときは、2021Q2にはGDPは600兆円を超える。ハイパーインフレになるのではないかと心配する人がいるかもしれない。計算してみると物価は0.3ポイント押し上げられるにすぎない。政府目標のインフレ率2%にすらまだ届かない。一人当たり80万円給付せよと主張すると政治家に検討してもらえるとは思えない。だから我々はそれよりずっと控えめな一人当たり20万円給付せよという提言を行っている。それをやってみればまだまだやれると理解するだろう。その後で追加で配布すればよい。

名目GDP

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次は実質GDPである。物価の値上がり分だけ成長率は低くなる。しかし物価お値上がりが穏やかだから名目も実質も大差は無い。

3953

下の表は一人当たりの雇用者報酬(万円/四半期)である。給付額が増えると消費が拡大し企業の利益が増し雇用者報酬は増える。ただし雇用者報酬の増加率は企業の利益の増加率の20分の1にすぎない。企業は賃金を増やすくらいならITを導入し自動化を進め人件費を削減しようとする。だから労働分配率は下がる一方である。しかし現金給付の場合は国民は給付額に賃金の上昇があるので二重のメリットになる。

年間80万円という巨額の現金給付は過去に経験のない政策であり、ある意味このモデルの適用範囲外であるかもしれない。現在の日本はデフレマインドが強く、国民も企業も節約して将来に備えようとする傾向が強いが、そのような巨額の現金配布が続くと政府はそんなに財政的余裕があると国民が思うようになり、デフレマインドが一掃され消費性向が上昇しこのモデルで予測する以上に消費が伸びる可能性がある。

一人当たりの雇用者報酬(万円/四半期)

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(2)消費税を変えたとき
例えば消費税率を0%にすると物価は10%近く下がり、その分名目GDPは下がる。おまけに税収も下がるので政治家は嫌がる政策だ。国民にとっては同じ値段でもっと多くの物を買うことができるようになるので消費は伸び、GDPは拡大を始め間もなく失ったGDPを取り戻す。しかし名目GDPが600兆円を超えるにはかなり時間が掛かる。


名目GDP

3956

下図は実質GDPである。こちらは消費が伸びた分だけ成長率は高くなり、0%の税率の場合は最も高い伸びを示す。

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実質GDP


消費税減税で消費が拡大し企業の利益は大きく拡大し税率0%なら2年後には企業の利益は約50%押し上げられる。しかし賃金の伸びは小さく企業の利益の伸びの20分の1にしかならない。

一人当たりの雇用者報酬(万円/四半期)

3942

状況は現金給付の場合とよく似ていて、企業は営業利益が激増しても賃金を上げない。内部留保が増えるだけ。現金給付の場合との違いは、現金給付の場合は雇用者報酬の上昇は僅かでも、給付してもらった現金が国民を豊かにするのだが、消費減税の場合はそれがない。もちろん消費税減税による実質可処分所得の増加で助かるとも言える。


(3)公共投資を増額したとき
公共投資は、国にとって少ない出費で比較的大きな経済効果が見込まれる。しかし問題は山積する。規模にもよるが、職人は十分いるのか、引き受ける業者がいるのか、建設した後にメインテナンスの経費を払えるのか、本当に住民はその公共事業を歓迎するのかなど検討しなければならない課題も多い。しかし経済効果は大きく、少ない投資で名目GDPはみるみる600兆円に迫り超えていく。

名目GDP

39510

公共投資を増やすとインフレ率は押し上げられる。例えば30兆円公共投資を増大させた場合、1年後には消費者物価指数は0.44ポイント押し上げられる。物価の上昇分を除いた実質GDPは、若干拡大が抑えられたものとなっている。


実質GDP
39511
雇用者報酬に関しても、前述の(1)(2)の場合と同様に伸びは鈍く、企業の利益の伸びの20分の1程度である。現金給付の場合は給付された現金があるし、消費減税の場合は物価が押し下げられていて、実質的に可処分所得が伸びているので、国民にはそれなりのメリットはある。しかし公共投資の場合、メリットと言えばインフラが整備されることによる利益だけである。自分に関係あるインフラであればメリットはあるが、そうでない場合は利益は雇用者報酬の僅かな伸び、あるいは雇用機会の拡大ということとなる。

一人当たりの雇用者報酬(万円/四半期)

3943

この試算で分かったことは、労働分配率の低下である。企業は利益が増えても賃金を上げない。利益は会社の内部留保に回ったり海外投資に向かったりする。次のグラフに分かるように労働分配率の低下は世界的な傾向であり、将来的にはAI/ロボットが労働を次第に代替していき、富は一握りの資本家に集中し国民は貧しい生活を強いられる。しかし国が通貨発行権を利用して国民にカネを渡すのであれば、その流れを食い止めることができる。そのことに関し筆者は詳しく論じた。
『「資本主義社会」から「解放主義社会」へ AIの発展で進化するベーシックインカム論』創文社/三省堂書店(2019)

 
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この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。
本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。

 

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コメント

 今日は。higashiyamato1979です。消費税廃止・現金給付実現の機運が高まっています。流れを180度転換させる千載一遇の好機の到来です。あと一息!

投稿: higashiyamato1979 | 2020年3月29日 (日) 15時40分

1990年以後これまでの国際銀行団の金融緩和のみ 日本いじめに対抗するには
現金配布以外に対抗方法が無いでしょう
このままでは日本文明は滅びに入るのでしょうか
宇宙に残る地球文明の持続にはコロナ以後世界に
これを示すことが出来ればと思います。

投稿: 思路河辺 | 2020年3月29日 (日) 17時12分

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