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2020年4月18日 (土)

景気対策で労働分配率は下がる ・・・ NEEDSの結論(No.404)

未来社会は労働がAI/ロボットによって代替されると言われている。その時富はごく少数の資本家に集中し、一般国民との格差が広がる一方になる。次のグラフは主要国の労働分配率である。いずれも下がっている。これはAI/ロボットが徐々に導入され、労働者は弱い立場に追い込まれている事を示しているのだと思われる。資本家は労働者への支払いを減らしつつある。これにより資本家と労働者の格差は拡大する。

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政府が財政を拡大し景気刺激を行えば、財政支出はやがて労働者を豊かにすると思うかもしれない。そこで労働分配率をNEEDS日本経済モデルを使い計算してみた。労働分配率とは企業が稼いだカネのうちどれだけの割合で労働者に支払われたかを表すものである。これを計算するために我々は労働分配率を次の式で定義することにする。

労働分配率=雇用者報酬÷(雇用者報酬+法人税収+法人企業経常利益)

これを公共投資を増額して景気対策を行う場合に適用してみる。公共投資の増加額は0兆円、10兆円、20兆円、30兆円の3種類とする。

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これにより財政支出の額が増えるほど労働分配率は減っていくことが分かる。次に消費税率を下げて景気対策をする場合を考える。消費税率は10%、8%、5%、0%の4種類を計算してみた。
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この場合直接の財政支出はない。しかし消費税減税で減収になった税収は国債を発行することによって補うと考えて計算を行った。この国債発行の部分は財政の拡大と見なして考えると、ここでも財政を拡大すればするほど、労働分配率は下がることが分かり、公共投資の場合と同じ結果が得られた。

最後に現金給付の場合を考える。給付額は国民一人当たり0万円、20万円、40万円、80万円の4通りを考える。

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この場合も給付額が増えるにつれ労働分配率は減少していく。これら3種類の景気刺激策に共通に言えることは企業の経常利益が大きく増えても企業はそれほど雇用者報酬を増やさないことだ。余裕資金は国の内外への投資や内部留保などに使われていると思われる。これでは労働者と資本家の格差が拡大する一方だという懸念がある。しかしながら現金給付は国民一般に対する給付であるから、労働者vs資本家ということで考えれば給付金の大部分は資本家以外に行く。従って次の式で国民分配率を定義しよう。

国民分配率=(給付金+雇用者報酬)÷(雇用者報酬+法人税収+法人企業経常利益)

これは労働分配率より高い数字になるから資本家以外の人達にお金を渡す貴重な機会となる。究極的には資本主義が崩壊し解放主義へと移行するというのが筆者の考えである。詳しくは拙書を参考にして頂きたい。

『「資本主義社会」から「解放主義社会」へ』 小野盛司、三省堂書店(2019)

国民分配率の値は上の表で示した。給付金額を上げれば確実に分配率は上昇する。資本家vs資本家以外と考えた時、資本家以外にお金が渡らなければ消費は伸びず経済の発展は望めない。その意味で現金給付という方法は経済の正常な発展にとって極めて貴重である。2020年4月に政府は全国民に10万円を給付すると決定した。幸運だったのは、これが2020年度補正予算案の国会提出前夜だったから時間的に余裕がなかったことだ。もし時間的余裕があったなら、予算を組み直し、他の予算を大胆に削って10万円給付のための財源を確保しただろうが、今回そのための時間がなかったから、しかたなく赤字国債発行を増やす事で決着した。

この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。
本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。

 

 

 

 

 

 

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コメント

 今日は。higashiyamato1979です。この試算は現金給付こそがこれからの国家社会の発展させる上で極めて重要である事を物語っています。それに現金を直接渡す方式ならインフラ整備や減税にありがちな様々な愚論の数々も封じる事が出来るでしょう。現金こそが最大の贈り物なのです。

投稿: higashiyamato1979 | 2020年4月22日 (水) 15時31分

 今日は。higashiyamato1979です。この試算は現金給付こそがこれからの国家社会の発展させる上で極めて重要である事を物語っています。それに現金を直接渡す方式ならインフラ整備や減税にありがちな様々な愚論の数々も封じる事が出来るでしょう。現金こそが最大の贈り物なのです。

投稿: higashiyamato1979 | 2020年4月22日 (水) 15時31分

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