毎月10万円を全国民に配れば日本経済は復活する(No.417)
4月30日に令和2年度の第1次補正予算が成立し、1人一律10万円の特別定額給付金の支給が決定した。この決定には多くの国民は賛成している。国は国民に使用目的を限定せずにお金を配る。お金が国民に届くのが遅いという不満もあるし、10万円では足りないという意見もあるが、配るべきでは無かったという意見はほとんど聞こえない。では毎月10万円を全国民に配ったらどうなるのだろうか。財源はもちろん国債発行であり、一旦民間の金融機関が買い、その後日銀が買う。これは日銀によって新しく発行された通貨なので、枯渇することはない。
よく言われるのが、財政破綻するとか、激しいインフレになるということだ。財政破綻とは政府が国債を発行しても金融機関が買ってくれず売れ残ることだ。しかしゼロ金利が続いていて金融機関の経営は厳しく、何か安定した収入源を求めている。政府の国債を買えば、その後で日銀がそれ以上の値段で買ってくれるのでこれほど確実な収入源はないので喜んで買う。インフレ率だが、日経のNEEDS日本経済モデルで計算してみるとコロナ禍で2020Q1に102.0であった消費者物価指数が2020Q4には100.4まで下がっている。激しいインフレどころかデフレだ。その後ジワジワ物価指数は回復するが、2022Q1ですらまだ102.2だからやっと2年前の水準まで回復しただけだ。コロナ禍で収入が減った企業、店、人が多くいて今後臨時収入があっても、直ぐ使わず、将来に備えて貯金しておこうと考える人が多く、放置すると消費が伸びずGDPが下がり収入が減るというデフレスパイラルが果てしなく続くこととなる。
名目GDPで言えば何もしないと2020Q1では547兆円だったものが2020Q2には510兆円まで下がり、2022Q1になってもまだ532兆円にまでしか回復していないこととなる。つまりコロナ禍で日本は一気に貧乏になり、2年後になっても全く元の水準には戻らない。一方で毎月10万円を配ると消費が伸び、2022Q1には629兆円にまで拡大する。安倍首相もGDPを600兆円にまで拡大すると言っていたが、それが2021年の後半に実現する。日本経済が発展しなくなっている原因の一つは「倹約の美徳」という日本人独特の考え方だ。倹約はよいことだから、お金は使わない。そうなると何を作っても、何を提案しても買ってくれないから企業は困ってしまうし給料も上がらず経済は発展しない。こういった日本の事情を考えると、国民に定期的に現金を配るのは素晴らしい考えであり、どんどん給付が進むとさすがの日本人でも購入意欲が沸いてくる。
例えば5人世帯だと一人120万円もらうと2年で1200万円の追加の収入があることとなる。それなら増築しようとか、家を建て替えようとか、新築の家を購入する頭金にしようとか考え始める。実際住宅投資は2020Q1を100とすると、現金給付が無い場合は2021Q1で86,2022Q1で96となり低迷するが、毎月10万円を配ると2021Q1で113,2022Q1で208となる。このような爆発的な需要増加に対応するのは至難の業に違いない。現在建築業界では今でも深刻な人手不足である。低賃金で長時間労働で肉体的な負担も大きく危険を伴うこともあるため若い人が入ってこない。そこで外国人を入れて補充しようとしている。しかしコロナ禍のためスムーズにそれが進むかどうか分からない。建材の需要も激増するだろうし、住宅建設には多くの熟練工が必要となり、短期間で養成は無理だから注文してもそれなりに待たされることになるだろう。需要が激増すれば賃金を上げなければ人は確保できないから建設コストは上昇するに違いない。
ただし全ての業種でこのような事態になるとは思えず、全体としては物価上昇はゆるやかであり、むしろ低すぎるくらいだ。日本の失われた20年、あるいは30年は経済にとって最悪の需要不足・デフレを放置したから発生した。こんな危険な実験を一刻も早く中止し、インフレ率が2%程度になるまで現金の給付を続けるべきだ。このように現金給付をすることは、ベーシックインカムの貴重な実験となる。現金10万円の給付が約束されている世界では新しい生き方が出来る可能性もある。いやいやながら無理に低賃金の仕事をやめて、自分のやりたい仕事をやれるようになる可能性もある。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-0ebe02.html
結論から言えば国民全員に毎月10万円を給付するという考えは素晴らしい。デフレから脱却できるし、失われた20年からの脱却も可能だ。
なおここでは書き切れなかった計算結果を表にしてみた。年間40万円と80万円と120万円配布の3種類の計算を行っている・
国民に現金を給付する政策で更に詳しい計算は以下のサイトを参照して頂きたい。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-9b9dee.html
この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。
本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。
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コメント
こんにちは。
この試算の項目にもある、「GDPギャップ」 の定義は、一般には 「潜在GDPと実際のGDPとの差」、または 「潜在GDPと実際の需要との差」 とされていると思います。
これは言い換えれば、「生産力の余力はどれくらいあるのか?」 ということだと思います。
前の記事の試算 https://bit.ly/31pVgLj では、年120万円給付の場合で、2年後のGDPギャップはプラスで約12%位になっていました。つまり年120万円支給開始からまる2年後の時点で、デフレギャップとは反対のインフレギャップが約12%ある状態 (生産力の限界を12%超えている状態) になっていることになります。
そこで、ぜひお聞きしたいのですが、日経NEEDSの試算では、GDPギャップを算出するために重要となる 「潜在GDP」 の値は、どれ位を入力して計算されたのでしょうか?
投稿: kyunkyun | 2020年6月29日 (月) 12時19分
潜在GDPですが
2020Q1 2020Q2 2020Q3 2020Q4 2021Q1 2021Q2 2021Q3 2021Q4 2022Q1
542,059 541,444 540,745 539,661 538,244 538,538 538,905 539,547 540,344.00
となります。単位は10億円で季節調整済みの値です。つまり潜在GDPはあまり変化がなく
需要が大きく減少したためにGDPギャップが大きくマイナスになっています。
2年後に需要は大きく伸びていますが、潜在GDPはそれほど変化しないという仮定ですね。
もっと伸びてもいいかなと思いますが、モデルとしてはこんな現金給付は考えてもいなかった
ということでしょうか。どのようにお考えでしょうか。
投稿: 小野盛司 | 2020年6月29日 (月) 13時35分