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2020年6月 8日 (月)

消費減税の効果を日経NEEDS日本経済モデルを使って調べた(No.414)

2019年10月から消費税が10%に上がり、消費が落ち込み景気悪化が著しかった。世界の中でも日本の成長率は際だって低いのだから、消費税を上げるのではなく下げるべきだった。2019年10~12月の実質GDPの改定値は前期比1.8%減、年率換算では7.1%減であった。その後新型コロナウイルスの世界的な流行のため世界経済に深刻な悪影響が出始めた。日本経済を救うためには大規模な経済対策が求められる。我々は政府に対し国民一人当たり20万円を配るよう提案した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/03/post-ea124f.html
安倍首相も「20万円を配ればインパクトはある」と認めながら、実行されたのは国民全員に10万円の配布であった。我々としてはこれでは少なすぎると考え、追加で消費減税が行われたらどうなるかを考える。

ここでは消費税減税が経済に及ぼす影響を日経新聞社のNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使って計算してみた。ただしコロナ禍に対応して緊急事態宣言が出された前後で日経の用意した経済データがガラリと変わったので、変わる前(2月)と後(4月)、(5月)でそれぞれ計算した。

図1  2020年2月のデータで消費減税の試算

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消費税は物の値段に税率分だけ上乗せして徴収されるから、上乗せ分だけ売上げがかさ上げされ、名目GDPもかさ上げされる。例えば消費税率を0%にするとそのかさ上げ分が無くなるので名目GDPは下がってしまう。しかし消費減税によって消費は拡大し企業の利益も増え約1年後には消費税を減税しなかった場合の名目GDPを追い越してしまう。

図2  2020年2月のデータで消費減税の試算

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図2は実質GDPである。実質GDPではインフレの効果を除いたものであり、消費税によるかさ上げ分も除かれるので純粋にどれだけ経済成長したかが分かる。結果は一目瞭然であり、消費税率が低いほど消費が拡大し成長率は高くなる。

図3、4はコロナ禍が吹き荒れ始めた4月の経済である。2020年Q2(4月~6月)には得に大きく落ち込むと予想していることが分かる。落ち込みは25兆円程度である。これを取り戻すには消費税率を0%にして2年程度待つ必要がある。もし緊急事態宣言の解除が2か月以内でできないなら経済の落ち込みは更に深刻になる。

図3  2020年4月のデータで消費減税の試算

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実質GDPで判断しても緊急事態宣言が与える経済への影響は極めて深刻であるのは明かだ。その悪影響を少しでも軽減するには、コロナ禍で売上げを落とした企業、バイト収入を晴らした人など損をした人、企業を徹底的に調べ上げ、その損失を補填するべきだ。政府の雇用調整助成金などのシステムは複雑で利用しにくい。複雑で意味不明の膨大な書類をどうやって作れば良いのか専門の社労士でさえ作成が困難であり、しかも社労士にお願いすると助成金のうちの多くを相談料として社労士に払わなければならなくなる。書類をケタ違いに簡単化するか、あるいは社労士を国の費用で雇い、書類作成の補助を無料で行うべきだ。緊急事態宣言で国民に莫大な損害を与えるのだから、その損失を補填するなら、日本経済の落ち込みは若干少なくなるが、今の政府のやり方は、最大限国の助成金を減らしていこうという方針なので、経済の落ち込みは極めて深刻なものとなる。


図4 2020年4月のデータで消費減税の試算

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以下は消費税率を変えたとき、様々な経済データがどのように変わっていくかを表に表したものである。ただしコロナの影響が出る前の2020年2月のデータで計算したものとコロナ禍が起きた後の2020年4月のデータで計算したものを比べた。

ところで日経NEEDSによる5月の予測値は4月のものから大幅に下方修正された。コロナ禍は100年に一回しか起こらない経済における大惨事であり、誰も事前に予測することなど不可能であった。むしろこれは歴史に残る大惨事の大きさを知るのに役立つ。我々はNEEDSを使い計算をやり直し、それをここで紹介する。

図5 2020年5月のデータで消費減税の試算

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図3と比べれば分かるように、コロナ禍によるショックはあまりにも大きくて消費税率を0%にしても2年後になっても名目GDPは元のレベルに戻っていない。つまり消費税率を0%にするだけではまた十分ではないということだ。

図6 2020年5月のデータで消費減税の試算

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実質GDPで見れば税率を5%にしたとき、2年後にやっと元のレベルに戻る。このように日本経済を考えるときは、消費減税だけでは物足りない。


表1 2020年2月のデータで試算

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これは2020年の1月から消費税率を変えた場合の試算である。消費税率0%の場合と5%の場合を計算し、10%の場合と比べた。2020年(年度ではなく暦年である)を考えて見ると名目GDPは消費税率が10%のままだと556兆円、5%に下げた場合は552兆円、0%に下げると547兆円にまで下がる。消費減税をすると消費が伸びて経済が活性化しGDPが伸びると普通の人は考える。しかし消費税というもの、例えば10%の税率だと物の値段が10%上乗せされ見かけの取引額は増える。だから見かけのGDPは増える。安倍首相は経済発展させることに失敗したから、こういう手を使ってGDPをかさ上げして国民を騙そうとしたのではないか。だから本当の経済規模を見るには実質GDPに注目しなければならずそれを見ればGDPはちゃんと拡大しているかどうか確認できる。消費税率0%にしたとき実質GDPの押し上げ効果は初年度で2.84%、2年目は2年間の累積の押し上げ効果は5.16%となる。

税率を0%にしてしまうと、元に戻すときに10%もの税率アップになるので大変だという意見がある。しかし消費税率0%はずっと続けて良い。このまま続けたらハイパーインフレになるという人がるかもしれない。とんでもない誤解である。0%にした後2年後でもまだ物価水準は5.57%PT押し下げられたままである。つまり消費税を廃止したら消費は拡大するが、物価にはほとんど影響がない。国債利回りは2年後にやっと0.2%にまで上昇しマイナス金利からの脱却に成功する。ただし金融機関の経営を立て直す目的にはまだまだ金利は低すぎる。

2年後民間企業経常利益は55%も増加するが一人当たりの雇用者報酬は2.7%増加するだけだ。つまり利益が出ても企業は賃金を上昇させず、内部留保にしておくのである。このため国民を豊かにするためには国が直接国民に現金を配るのが良い。

消費税減税を行うと代替財源は何かと質問される。国債を発行すれば十分だ。後で日銀がお金を刷って買い上げればよいだけであり、刷ったお金を使えば将来世代へのツケにはならない。そんな上手い話があるもんかと疑う人もいる。しかし経済を拡大させるためには通貨を増やす必要があり、それを成長通貨という。今まで政府は成長通貨の供給を怠ったため日本経済が発展しなくなった。今後は適切なレベルの通貨発行を継続的に行うべきである。


表2 2020年4月のデータで試算

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2020年4月に日経の予測では2020年のGDP(暦年)の落ち込みは4%程度となっている。これは消費税率を0%に下げて景気を下支えしてもまだ足りないほどの大きな落ち込みである。更に5月以降も緊急事態宣言は続くのであり、落ち込みは更に深刻になる可能性があるから余程思い切った景気刺激策でないと乗り切れない。特に観光がどの程度復活するのかで状況は変わってくる。輸出入は大きく落ち込んでおり、消費税減税をしても取り戻せない。コロナ禍により法人企業経常利益は30%以上下落する。例えば消費税率を0%に下げたらこの落ち込みは1年余りで取り返すことができる。

1年目で考えると消費税率10%のときは消費税収は24.8兆円で、消費税率を0%にすると税収合計では23.0兆円の減収となる。2年目には10%のとき消費税収は26.6兆円だが、消費税率0%にしたら税収合計は19.7兆円の減収になるだけだ。つまり消費税率を下げると法人税や消費税等が伸びるのである程度挽回できることを示している。

コロナ禍対策で巨額の財政出動が行われるが、それによりハイパーインフレもないし、国債暴落もないし、円の暴落もない。日本よりケタ違いに巨額の財政出動を行っている米国も同様だ。ハーパーインフレや国債暴落があると主張して人々を恐怖に陥れてきた人々は今こそ自らの間違いを認め謝罪をすべきである。

この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。
本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。

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