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2020年10月

2020年10月10日 (土)

公共投資の経済効果を日経のモデルで調べた(No.430)

景気対策の定番は公共事業なので、公共事業費を増額したときにどのような影響がでるかを日経NEEDS日本経済モデル MACRO80を使い、2020年9月に日経が発表したデータを使って計算した。公共投資と言っても何をするかによって技術者や業者が対応できるかどうか分からないのだが、ここはそれが対応できたと仮定し、2020Q4(10月~12月)から予算を通常の予算より一定額増加させて計算した。その増加額は0兆円、10兆円、20兆円、30兆円の4種類とした。

まず名目GDPを図1で示す。

図1
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2020年のQ2(4月~6月)にはコロナ禍で名目GDPが約40兆円押し下げられている。図1と前々論文(No.428))の図2を比較すると、国民全員に約20万円を給付するのと公共投資を10兆円増額するのとで、ほぼGDP押し上げ効果は同じということとなる。つまり効率だけ考えると公共投資のほうが約2倍効率がよい。しかし公共投資増額による雇用者報酬の増加率は僅かであり、国民の収入増を考えれば現金給付のほうがはるかによい。次に実質GDPを考える。

図2
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前論文(No.429)と前々論文(No.428)の実質GDPを比べるとそれぞれの押し上げ効果を比較できる。2023Q1で実質GDPが540~550兆円にあるのは、
①一人当たり20万円を国民全員に給付
②消費税率を5%にする
③公共投資を10兆円増額
となる。政府の年間の負担額は①が25兆円、②が11兆円、③が10兆円であるから、一見すると公共投資が最も効率的にGDPを押し上げることができるように見える。それでは一人当たりの雇用者報酬を比べてみる。2021Q1~2021Q4の合計を比べる。
①471万円
②472万円
③473万円
やはり公共投資が最も給料を押し上げることが分かる。しかし例えば父親だけ働いている親子4人家族を考えれば、現金給付金を80万円もらっているわけで、①は551万円となるから断トツでトップとなる。日本は長期にわたって実質賃金は下がり続けている一方で企業収益は伸びている。つまり企業にお金は溜まるが国民にはお金は行かない。AI/ロボットが労働を代替するようになれば、ますますその傾向が強まり、何らかの対策が必要となる。その意味では現金給付は重要さを増す。このことに関しては小野盛司(2019)を参照して頂きたい。次に民間最終消費のグラフを示す。


図3
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公共投資を増やしても消費はあまり伸びない。賃金の上昇が僅かだからだ。前論文(No429)で示したように消費減税でジワジワ消費は伸びるがそれも限定的だ。何しろコロナ禍による消費減少が余りにも大きかったために、元の水準に戻るのは時間がかかる。それに比べ論文No.428で示したように現金給付は消費を力強く押し上げる。ただし、これはコロナが収束して人々が自由に娯楽を楽しめる状態になることが大前提だ。いくら現金給付をしても、家に閉じこもっているだけではやれることは限られているから。


図4

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図4で分かるように,公共投資を増やしてもそれほど物価を押し上げない。それは雇用者報酬の増加が限定的だからである。

図5
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財政支出が拡大すれば、それは国民へと流れる。お金を国民が持てば住宅にも投資する。バブルの後、高騰する地価を下げるため1990年頃からバブル潰しが始まった。「年収の5倍でマイホームが買えるように」という目標で、1990年には公定歩合を6%に上げ土地を買いにくくした。カネが無ければマイホームは買えないから地価は下がりマイホームの値段も下がった。しかし新築住宅着工件数も下がっていった。地価を下げればマイホームが買いやすくなるだろうという政治家の思惑は外れた。むしろ国民の可処分所得を増やした方が、多くの国民がマイホームを買えただろう。

図6
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この図よりデフレギャップをプラスにしようと思えば10兆円では足りずそれ以上公共投資を増やすことが必要になることが分かる。ここまで3種類の景気刺激策を検討してきたが、明かになったのはデフレ脱却には、すさまじい景気刺激策が必要なことだ。このことはすでに小野盛司(2003)で詳しく説明されていたし、ここでの試算と整合的である。


図7

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これだけ大規模な景気刺激策をするのにも係わらず、長期金利はほとんど上がりそうもない。1990年には長期金利は8%台に達していたが、需要不足とカネあまりの時代の今、金利は上がりそうもない。景気の下支えのため日銀は無制限に国債を買うと言っており、また長期金利は制御可能とも言っているので、金利は簡単には上がらない。つまり国債の暴落はあり得ない。


図8
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このグラフと前論文(No.429)と前々論文(No.428)を比べると
①一人当たり40万円を国民全員に給付
②消費税率を0%にする
③公共投資を20兆円増額
が似た押し上げ効果を持つことが分かる。

図9
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このグラフと前論文(No.429)と前々論文(No.428)を比べると消費減税の場合、税率を変えても設備投資はあまり変わらないが、公共投資の場合は投資額を変えるとかなり設備投資額は変わってくることが分かる。ただしこの3つの場合に共通して言えることは、強烈な景気刺激策を行っても、20201Qのレベルに戻るのは2年近く掛かるということ。


図10
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例えば前論文(No.429)と前々論文(No.428)を単純に比べると、雇用者報酬の増加率は公共投資20兆円増加に相当するのは消費税率0%である。しかしながら消費税率0%だと、物価は消費税分だけ下がっているのだから、消費者はその分は利益を得ている。国民にとっての利益は消費税が無くなった分に賃金の上昇を合わせたものである。一方で公共投資増額はインフラ整備という意味で国民は利益を得る。現金給付であるが、これは受け取った現金に加え賃金も上昇するのだから国民にとっての利益は大きい。企業経営者とそれ以外の国民で、富の分配を考えたとき、現金給付の場合が最もそれ以外の国民が多くの分配を受けるようになる。

図11
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公共投資の増額は比較的容易に株価を押し上げるように見えるが、消費税減税の場合は例えば税率0%の場合消費税分がすべての物の値段から引かれる。株価も同様であり、本来は「実質」で比べなければならないとうことで、その分プラスして考えなければならない。コロナ禍、米国大統領選、東京オリンピックなどの結果次第で大きく予測から外れる可能性がある。

文献
小野盛司(2019)『資本主義から解放主義へ』三省堂書店
小野盛司(2003)『これでいける日本経済復活論 シミュレーションで明らかになった驚きの事実』 ナビ出版

この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。
本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。

 

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2020年10月 7日 (水)

消費減税の効果を日経NEEDS日本経済モデルを使って調べた(No.429)

以前に同様のタイトルで掲載した。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-350bb1.html

今回はデータを新しくし、大幅に内容を充実させた。

 

ここでは消費税減税が経済に及ぼす影響を日経新聞社のNEEDS日本経済モデルMACROQ80を使って2020年9月に発表されたデータを使って計算してみた。ただし税率変更は2020Q4からとする。

 

図1

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消費減税をすると消費税でかさ上げされていた分がなくなり、その分が名目GDPを落ち込ませる。更にコロナ禍による経済の落ち込みが加わるので図のような急激な名目GDPの落ち込みがある。しかし消費減税は可処分所得を増やし消費を増大させ名目GDPを押し上げる。

図2

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これで分かるように実質GDPは税率が10%のままだと2年後になっても2年前の水準に戻らない。税率を8%にまで下げるとやっと2年前の水準を超え、税率0%にすると2年後の実質GDPはやっと560兆円に届くだけである。図2と前の論文(No.428)の図1を比べれば、消費税率を0%にすることは、全国民に40万円を毎年給付することに相当することが分かる。コロナショックから立ち直るには最低限この程度の刺激策は必須となる。

消費の伸びが景気を回復させる。図3に実質民間最終消費を示した。これを前の論文(No.428)の図3と比べると、消費税率を0%にすることは、全国民に40万円を毎年給付することに相当することが確かめられる。

図3

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図4

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図4で分かるように消費税率を下げると、景気は押し上げられるが必ず物価は下がり、デフレとなる。安倍政権では消費増税に随分熱心だったが、消費税によって名目GDPをかさ上げし、これは経済を犠牲にしてでもデフレから脱却しようとしていたということか。図4より消費税率を3年間0%にしてもまだ完全にデフレ脱却ができたとは言えない。このことは消費減税でデフレ脱却は無理だということだ。図5で示したように消費減税で住宅投資は伸びる。

図5

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図5と前の論文(No.428)の図5を比較すれば、やはり消費税率を0%にすることは全国民に毎年40万円の給付をすることに相当することが分かる。

図6

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図7

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図7で示されたように、消費減税で景気刺激をすれば金利は僅かに上昇するが、心配しなければならないほど上昇することはない。

図8

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図8で示されたように、例えば消費税率を0%にすると企業に大きな利益をもたらす。

図9

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図9で示されたように実質民間設備投資はコロナショックで大きく落ち込む。消費減税はあまり大きな押し上げ効果は持たない。図34で雇用者報酬がどれだけ消費減税で押し上げられるかを示した。押し上げ率は小さいし、献金給付の図17と比べても更に小さい。もちろん、国民にとっては少ない賃金上昇率であっても、消費減税による物価の下落というメリットはある。失われた20年で続いた悪夢のデフレが更に続くという面では、消費マインドに悪い影響があるかもしれない。

図10

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雇用者報酬の増加率は大きくない。ここでは税率が10%のままだった場合に比べどれだけ増加するかを示した。

図11

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図11で示したように株価は上昇し、株を保有する人にはメリットはある。しかし現金配布(前論文No.428)の図11に比べれば株価上昇は限定的である。

図12

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税率が10%のままだと2021年のQ2には失業率は3.88%まで増加する。2023Q1になっても3.4%までしか改善しない。税率を0%にすれば、2023年Q1の失業率は2.69%まで下がる。

表1 2020年2月のデータで試算

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 これは2020年の1月から消費税率を変えた場合の試算である。この時期の日経データにはコロナ禍対策の自粛・休業要請で発生する消費の落ち込みは考慮に入っていない。消費税率0%の場合と5%の場合を計算し、10%の場合と比べた。2020年(年度ではなく暦年である)を考えて見ると名目GDPは消費税率が10%のままだと556兆円、5%に下げた場合は552兆円、0%に下げると547兆円にまで下がる。消費減税をすると消費が伸びて経済が活性化しGDPが伸びると普通の人は考える。しかし消費税というもの、例えば10%の税率だと物の値段が10%上乗せされ見かけの取引額は増える。だから見かけのGDPは増える。安倍前首相は経済発展させることに失敗した。本当の経済規模を見るには実質GDPに注目しなければならずそれを見ればGDPはちゃんと拡大しているかどうか確認できる。消費税率0%にしたとき実質GDPの押し上げ効果は初年度で2.84%、2年目は2年間の累積の押し上げ効果は5.16%となる。

 税率を0%にしてしまうと、元に戻すときに10%もの税率アップになるので大変だという意見がある。しかし消費税率0%はずっと続けて良い。このまま続けたらハイパーインフレになるという人がるかもしれない。とんでもない誤解である。0%にした後2年後でもまだ物価水準は5.57%PT押し下げられたままである。つまり消費税を廃止したら消費は拡大するが、物価にはほとんど影響がない。国債利回りは2年後にやっと0.2%にまで上昇しマイナス金利からの脱却に成功する。ただし金融機関の経営を立て直す目的にはまだまだ金利は低すぎる。

 2年後民間企業経常利益は55%も増加するが一人当たりの雇用者報酬は2.7%増加するだけだ。つまり利益が出ても企業は賃金を上昇させず、内部留保にしておくのである。このため国民を豊かにするためには国が直接国民に現金を配るのが良い。

 消費税減税を行うと代替財源は何かと質問される。国債を発行すれば十分だ。後で日銀がお金を刷って買い上げればよいだけであり、刷ったお金を使えば将来世代へのツケにはならない。そんな上手い話があるものかと疑う人もいる。しかし経済を拡大させるためには通貨を増やす必要があり、それを成長通貨という。今まで政府は成長通貨の供給を怠ったため日本経済が発展しなくなった。今後は適切なレベルの通貨発行を継続的に行うべきである。

 表2 2020年4月のデータで試算

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 表3 2020年6月のデータで試算

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 ただし、表3では税率変更は2020Q2から行って計算している。名目GDP(暦年)は2020年2月の日経の予測に比べて4月は3.8%.6月には6.8%落ち込んでいる。これは消費税率を0%に下げて景気を下支えしてもまだ足りないほどの大きな落ち込みであり余程思い切った景気刺激策でないと乗り切れない。特に観光がどの程度復活するのかで状況は変わってくるが観光が盛んになると感染を広げることとなる。輸出入は大きく落ち込んでおり、消費税減税をしても取り戻せない。コロナ禍により法人企業経常利益は30%以上下落する。例えば消費税率を0%に下げたらこの落ち込みは1年余りで取り返すことができる。

 4月発表のデータでは1年目で考えると消費税率10%のときは消費税収は24.8兆円で、消費税率を0%にすると税収合計では23.0兆円の減収となる。2年目には10%のとき消費税収は26.6兆円だが、消費税率0%にしたら税収合計は19.7兆円の減収になるだけだ。つまり消費税率を下げると法人税や消費税等が伸びるのである程度挽回できることを示している。

 コロナ禍対策で巨額の財政出動が行われているが、それによりハイパーインフレも、国債暴落も、円の暴落も起こらないし、そのようなことを心配する人もいない。ハイパーインフレや国債暴落、円暴落などの言葉を使って、積極財政に猛反対していた人達は完全に沈黙した。彼らはオオカミ少年であったことが証明されたのだから今こそ自らの間違いを認め謝罪をすべきである。日本よりケタ違いに巨額の財政出動を行っている米国も同様だ。

  

この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。

本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。

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2020年10月 4日 (日)

【改訂版】政府がお金を刷って国民に配った時の経済を日経のモデルで調べた(No.428)

以前に同様の内容で書いた。これは日経新聞社が作成したNEEDS日本経済モデルMACRO79で計算したものであった。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-9b9dee.html
この内容に関して日経新聞社と様々な議論を行った。その議論を参考にして改良されたと思われるMACRO80が日経が出されたので、それを使い最新の経済データを使って計算し直した。

コロナ禍による日本経済の深刻な落ち込みに対する政府の対策が極めて重要になる。4月30日に令和2年度の第1次補正予算が成立し、1人一律10万円の特別定額給付金の支給が決定した。この決定には多くの国民は賛成している。国は国民に使用目的を限定せずにお金を配る。少数ではあるがこの政策に不満・不安を持つ人はいる。その理由を列挙してみよう。
①コロナ禍で収入が減った人を中心にもっと額を増やして欲しかった。
②このお金は国債発行が財源になっており、国の借金だから将来国に返さなければならない。
③激しいインフレになるのではないか。
④国債が暴落し、金利が急騰するのではないか。
⑤円が信認を失い暴落するのではないか。
⑥どうせ給付金は貯金に回るだけで意味がない。

この政策はベーシックインカムが将来本格的に実行されるときのための貴重なデータを提供する。『文春オンライン』では、緊急アンケートとして「新型コロナ緊急対策『1人10万円給付』に賛成? 反対?」を実施。5日間で総数905票、20代~80代から回答が得られた。結果は賛成が731票(80.8%)、反対が174票(19.2%)と圧倒的に賛成が多かった。つまり②~⑤についてはあまり議論になっていない。それなら、もっと支給金額を増やしたらどうなるのか気になる。そんなことをしたら大変なことになるのではないかと心配する人がいて、その理由は②~⑤だ。しかしよく考えて欲しい。本当にこれらの事が起きるのか、起きるとしたらどのタイミングか。あたかも「禁断の実」であるかのように捉え、食べたら死んでしまうと思っているのかもしれない。しかしこれは誰も確かめたことはない。もっと多くの現金を支給したとき、日本国民にとって大変な富をもたらし、コロナ禍で大打撃を受けた経済をV字回復させることができるという可能性はないのだろうか。

国の債務残高が増えると金利が急騰し国債が暴落するとの主張は1982年にも見られた。当時国債残高は今の10分の1しかなかったのだが、財政非常事態宣言が出された。しかし国債残高は増加し続けたが金利は逆に下がり続けた。このことから国の債務残高が増えれば金利が急騰するという説は現在の日本には当てはまらない。また激しいインフレになるという説も、これだけ債務残高が増えても激しいインフレになっておらずやはり当てはまらない。

一般に言われている説が本当に正しいのかを検証するために我々は日経NEEDS日本経済モデルを使って計算してみた。政府がもっと大規模に現金を給付する場合を考える。給付金額を年間40万円、80万円、120万円とし、全く給付しない場合と比べる。ただし、全く給付しないと言ってもすでに給付が始まっている10万円は給付が完了したものとする。給付は2020Q3から始まるとし給付金額は年4回に分け、Q1(1月~3月)、Q2(4月~6月)、Q3(7月~9月)、Q4(10月~12月)の4回配り、その合計額が上記の金額(40万円、80万円、120万円)になるようにし2023Q1まで支給は続けるものとして計算した。まず実質GDPと名目GDPを示す。計算の基礎となっているのが、日経新聞社が2020年9月に出したデータであり、これには第1次と第2次の補正予算の効果はすでに反映されている。

図1

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図2

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120万円の場合、2022Q4と2023Q1のデータは示していないが、これはこのモデルでは計算不能ということである。ここですぐ気付くのは2020Q2で落ち込んでいることだ。これはコロナ禍で自粛させられたために経済活動が停滞したことが原因となっている。ただし、この見積もりは9月に日経が発表したデータを使った。0円の場合はコロナ禍による落ち込みからなかなか脱却できないでいる。支給金額を増やしていくとV字回復が鮮明になってくる。支給額が増えれば増えるほどGDPは拡大していく。120万円を配る案では、1年半後にはGDPは600兆円を超し、夢の世界の実現である。国民に現金を支給するとなぜGDPが増大するのかと言えば、それは消費が伸びるからでありどの程度伸びるかを次に示す。

図3

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

このように、国民は支給されたお金を使うので消費が伸びることが分かる。ここで気になるのはインフレが起きるのではないかということだ。もしそうならお金をもらっても何にもならない。以下に消費者物価指数をグラフで示す。
 

図4

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

このグラフで分かることは物価の値上がりは最初の2年間は少ないということだ。120万円のケースでさえ物価指数はやっと2年後にやっと2ポイント上昇するだけであり年平均1%のインフレ率となる。まとまったお金を受け取れる国民にとっては嬉しい。消費は伸びるが物価は上がらないということは、需要の伸びに対し供給は対応できるということだ。ただし供給を大幅に増やす事は容易ではないと思われる分野もある。例えば住宅投資だ。例えば5人世帯の場合支給されるので年間600万円であり、2年間で1200万円だ。それだけ収入が増えれば改築、増築、新築の需要は一気に増えることが考えられる。住宅投資のグラフは以下に示す。

図5
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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。


120万円の場合、2022Q3では投資額は急増している。このような爆発的な需要増加に対応するのは至難の業であり注文してから長時間待つことになるに違いない。現在建築業界では深刻な人手不足である。低賃金で長時間労働で肉体的な負担も大きく危険を伴うこともあるため若い人が入ってこない。そこで外国人を入れて補充しようとしている。しかしコロナ禍のためスムーズにそれが進むかどうか分からない。建材の需要も急増するだろうし、住宅建設には多くの熟練工が必要となり、短期間で養成は無理だから注文してもそれなりに待たされることになるだろう。AI/ロボットを導入して省力化することも試みるだろう。需要が急増すれば賃金を上げなければ人は確保できないから建設コストは上昇するに違いない。

ただし全ての業種でこのような事態になるとは思えない。日本は慢性的な需要不足が続いている。次にGDPギャップを示す。このグラフが示しているのは、もし支給金額がゼロならGDPギャップがずっとマイナスであり需要不足が続くということだ。かなりの額を支給し続けてもインフレにならないということは、供給に余裕があるとうことだし、需要が増えれば製造ラインを増やしたり輸入を増やしたりして対応できるということだ。

図6

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

 


次に長期金利(10年物国債利回り)を示す。金利は非常に低いレベルに留まっていることが分かる。2018年度の内部留保は463兆円にも達しておりコロナ禍であっても資金不足にはならないかもしれない。日銀は市場に大量に資金を提供しており、ここで計算した範囲内では国債の暴落(金利の暴騰)はあり得ない事が分かった。

図7

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

消費や投資が拡大することから経済は活性化し企業の利益は大きく拡大する。

図8
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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

 


これで分かるように現金給付は個人に大きな利益があるだけでなく企業にも大きな利益をもたらす。例えば2022Q3で120万円の場合を見ると経常利益は0円の場合の約2.6倍にもなる。そのような巨額の利益が発生するのなら設備投資も巨額になると考えるのが自然である。

図9
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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

 

しかしこのグラフで分かるように設備投資は2022Q3で120万円の場合0円の場合に比べて約18%増えただけだ。国内需要が大きく伸びているのだからもっと設備投資が伸びてもよいかと思うのだがそうなっていないようだ。企業業績が好調なのだから当然株価は上昇する。

企業の利益が拡大すると雇用者報酬も上昇するはずだから、グラフにしてみよう。グラフからわかるように雇用者報酬の上昇率は経常利益の上昇率よりはるかに小さい。

図10

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

2022Q3においては企業の経常利益は0円に比べて120万円の場合26兆円多くなっている。設備投資においてはその差は4兆円であり、雇用者報酬ではその差は4兆円である。つまり企業に大きな利益が出ても雇用者の手に渡るのは僅かだと分かる。この傾向は例えば公共投資や減税で景気刺激を行っても労働者の所得の増加額は僅かであることはすでに示した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-ebaa09.html

しかし、例えば120万円を国民全体に給付する場合、給付自体ですでに年間150兆円の現金が国民に渡っているのであり、それに加え4兆円が雇用者報酬の増加という形で国民に渡る。その意味で国民を豊かにするという観点からは、現金給付という方法が最良の方法である。

図11

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。


企業の業績が向上すると株価は大きく上昇する。しかし1989年につけた最高値38,915円には届かない。それでも2022Q3頃には120万円給付の場合株式時価総額は1000兆円に近づく。株価上昇で家計も企業も資産残高を大きく増やす。

ここで見たようにコロナ禍による経済の落ち込みは極めて深刻であり、戦後経験したことがないほどの規模である。これに対する対策は想像を絶するほどの大規模なものでなければならないことをここで示した。毎月全国民に10万円を2年間給付するのが適切な規模であることをこの試算は示唆している。もちろん特に困っている人々に重点的に給付するということも重要だが、大規模で行わなければならないことを忘れないで頂きたい。

最後に失業率を示す。2020年8月の完全失業率は3.0%まで上昇したとの発表があった。日経の予想だと2021Q1の失業率は3.88%まで上昇し2023Q1になっても3.4%までしか下がらない。しかし毎年80万円給付する場合だと2023Q1には失業率は2.52%まで下がる。

図12
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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。


ところで120万円給付の場合、このモデルでは2022Q4以降計算不能になる。そこで何が起きるかを断定的に言うことはできない。取りあえず120万円給付を1年間続ければこのモデルがどの程度正確に予測できるのかが判定でき、その後の経済データを更に正確に予測できるようになると思われる。2022Q3で大変な事になりそうだから、給付はすべきではないということにはならない。給付から1~2年は素晴らしい結果が予想され、他の先進国並の経済成長が期待できるのだからこの給付は検討すべきである。

 

図13

 

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