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2020年10月 7日 (水)

消費減税の効果を日経NEEDS日本経済モデルを使って調べた(No.429)

以前に同様のタイトルで掲載した。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-350bb1.html

今回はデータを新しくし、大幅に内容を充実させた。

 

ここでは消費税減税が経済に及ぼす影響を日経新聞社のNEEDS日本経済モデルMACROQ80を使って2020年9月に発表されたデータを使って計算してみた。ただし税率変更は2020Q4からとする。

 

図1

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消費減税をすると消費税でかさ上げされていた分がなくなり、その分が名目GDPを落ち込ませる。更にコロナ禍による経済の落ち込みが加わるので図のような急激な名目GDPの落ち込みがある。しかし消費減税は可処分所得を増やし消費を増大させ名目GDPを押し上げる。

図2

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これで分かるように実質GDPは税率が10%のままだと2年後になっても2年前の水準に戻らない。税率を8%にまで下げるとやっと2年前の水準を超え、税率0%にすると2年後の実質GDPはやっと560兆円に届くだけである。図2と前の論文(No.428)の図1を比べれば、消費税率を0%にすることは、全国民に40万円を毎年給付することに相当することが分かる。コロナショックから立ち直るには最低限この程度の刺激策は必須となる。

消費の伸びが景気を回復させる。図3に実質民間最終消費を示した。これを前の論文(No.428)の図3と比べると、消費税率を0%にすることは、全国民に40万円を毎年給付することに相当することが確かめられる。

図3

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図4

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図4で分かるように消費税率を下げると、景気は押し上げられるが必ず物価は下がり、デフレとなる。安倍政権では消費増税に随分熱心だったが、消費税によって名目GDPをかさ上げし、これは経済を犠牲にしてでもデフレから脱却しようとしていたということか。図4より消費税率を3年間0%にしてもまだ完全にデフレ脱却ができたとは言えない。このことは消費減税でデフレ脱却は無理だということだ。図5で示したように消費減税で住宅投資は伸びる。

図5

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図5と前の論文(No.428)の図5を比較すれば、やはり消費税率を0%にすることは全国民に毎年40万円の給付をすることに相当することが分かる。

図6

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図7

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図7で示されたように、消費減税で景気刺激をすれば金利は僅かに上昇するが、心配しなければならないほど上昇することはない。

図8

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図8で示されたように、例えば消費税率を0%にすると企業に大きな利益をもたらす。

図9

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図9で示されたように実質民間設備投資はコロナショックで大きく落ち込む。消費減税はあまり大きな押し上げ効果は持たない。図34で雇用者報酬がどれだけ消費減税で押し上げられるかを示した。押し上げ率は小さいし、献金給付の図17と比べても更に小さい。もちろん、国民にとっては少ない賃金上昇率であっても、消費減税による物価の下落というメリットはある。失われた20年で続いた悪夢のデフレが更に続くという面では、消費マインドに悪い影響があるかもしれない。

図10

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雇用者報酬の増加率は大きくない。ここでは税率が10%のままだった場合に比べどれだけ増加するかを示した。

図11

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図11で示したように株価は上昇し、株を保有する人にはメリットはある。しかし現金配布(前論文No.428)の図11に比べれば株価上昇は限定的である。

図12

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税率が10%のままだと2021年のQ2には失業率は3.88%まで増加する。2023Q1になっても3.4%までしか改善しない。税率を0%にすれば、2023年Q1の失業率は2.69%まで下がる。

表1 2020年2月のデータで試算

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 これは2020年の1月から消費税率を変えた場合の試算である。この時期の日経データにはコロナ禍対策の自粛・休業要請で発生する消費の落ち込みは考慮に入っていない。消費税率0%の場合と5%の場合を計算し、10%の場合と比べた。2020年(年度ではなく暦年である)を考えて見ると名目GDPは消費税率が10%のままだと556兆円、5%に下げた場合は552兆円、0%に下げると547兆円にまで下がる。消費減税をすると消費が伸びて経済が活性化しGDPが伸びると普通の人は考える。しかし消費税というもの、例えば10%の税率だと物の値段が10%上乗せされ見かけの取引額は増える。だから見かけのGDPは増える。安倍前首相は経済発展させることに失敗した。本当の経済規模を見るには実質GDPに注目しなければならずそれを見ればGDPはちゃんと拡大しているかどうか確認できる。消費税率0%にしたとき実質GDPの押し上げ効果は初年度で2.84%、2年目は2年間の累積の押し上げ効果は5.16%となる。

 税率を0%にしてしまうと、元に戻すときに10%もの税率アップになるので大変だという意見がある。しかし消費税率0%はずっと続けて良い。このまま続けたらハイパーインフレになるという人がるかもしれない。とんでもない誤解である。0%にした後2年後でもまだ物価水準は5.57%PT押し下げられたままである。つまり消費税を廃止したら消費は拡大するが、物価にはほとんど影響がない。国債利回りは2年後にやっと0.2%にまで上昇しマイナス金利からの脱却に成功する。ただし金融機関の経営を立て直す目的にはまだまだ金利は低すぎる。

 2年後民間企業経常利益は55%も増加するが一人当たりの雇用者報酬は2.7%増加するだけだ。つまり利益が出ても企業は賃金を上昇させず、内部留保にしておくのである。このため国民を豊かにするためには国が直接国民に現金を配るのが良い。

 消費税減税を行うと代替財源は何かと質問される。国債を発行すれば十分だ。後で日銀がお金を刷って買い上げればよいだけであり、刷ったお金を使えば将来世代へのツケにはならない。そんな上手い話があるものかと疑う人もいる。しかし経済を拡大させるためには通貨を増やす必要があり、それを成長通貨という。今まで政府は成長通貨の供給を怠ったため日本経済が発展しなくなった。今後は適切なレベルの通貨発行を継続的に行うべきである。

 表2 2020年4月のデータで試算

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 表3 2020年6月のデータで試算

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 ただし、表3では税率変更は2020Q2から行って計算している。名目GDP(暦年)は2020年2月の日経の予測に比べて4月は3.8%.6月には6.8%落ち込んでいる。これは消費税率を0%に下げて景気を下支えしてもまだ足りないほどの大きな落ち込みであり余程思い切った景気刺激策でないと乗り切れない。特に観光がどの程度復活するのかで状況は変わってくるが観光が盛んになると感染を広げることとなる。輸出入は大きく落ち込んでおり、消費税減税をしても取り戻せない。コロナ禍により法人企業経常利益は30%以上下落する。例えば消費税率を0%に下げたらこの落ち込みは1年余りで取り返すことができる。

 4月発表のデータでは1年目で考えると消費税率10%のときは消費税収は24.8兆円で、消費税率を0%にすると税収合計では23.0兆円の減収となる。2年目には10%のとき消費税収は26.6兆円だが、消費税率0%にしたら税収合計は19.7兆円の減収になるだけだ。つまり消費税率を下げると法人税や消費税等が伸びるのである程度挽回できることを示している。

 コロナ禍対策で巨額の財政出動が行われているが、それによりハイパーインフレも、国債暴落も、円の暴落も起こらないし、そのようなことを心配する人もいない。ハイパーインフレや国債暴落、円暴落などの言葉を使って、積極財政に猛反対していた人達は完全に沈黙した。彼らはオオカミ少年であったことが証明されたのだから今こそ自らの間違いを認め謝罪をすべきである。日本よりケタ違いに巨額の財政出動を行っている米国も同様だ。

  

この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。

本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。

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