内閣府計量分析室(オオカミ少年)の経済予測をどう理解するか(No.435)
内閣府は2021年1月21日に『中長期の経済財政に関する試算』を発表した。ここで予想された通りに日本経済が発展すると思ってはならない。次のグラフは過去の内閣府のGDP予測を実績値と比べたものである。内閣府は毎年3%成長をするのだとして右上がりのグラスを示すが、実際は横ばいだ。今回も赤線で示したように、3%成長するとして右上がりの銭を引いた。
1995年に日本のGDPは5.449兆ドルで韓国のGDPは0.566兆ドルだったので日本のGDPは韓国の9.6倍だった。2019年の日本のGDPは5.079兆ドルに下がったが、韓国は1.646兆ドルであり、ほぼ3倍に増加した。1人当たり名目GDPで間もなく韓国は日本を抜き去る。このように経済成長に大きな差が生じたのは、この間韓国は歳出を7倍に拡大しているのに対し日本の歳出は僅か1.3倍の伸びに留まっていることが原因になっている。国がより多くの通貨を発行し市中に流せば、当然経済は拡大する。このことは例えば日経のNEEDS日本経済モデルによって確かめられており次の本に詳しく説明されている。
『120万円を配れば日本が幸せになる。井上智洋・小野盛司(2021)扶桑社』
内閣府の発表する経済予測は明かに間違いだ。しかしこの責任が内閣府計量分析室にあるのではない。彼らは真実を発表することを許されていない。政府から3%成長をするという予測を発表せよと無理な命令を受けており、真実を発言できない仕組みになっている。筆者は繰り返し内閣府計量分析室に電話し真実を発表せよと説得したが、どの担当者も政府から圧力を受けており、真実は発表できないと述べた。しかし発表された内容を注意深く調べると意外な真実が隠されていることが分かる。
内閣府試算では「成長実現ケース」と「ベースラインケース」の2つのシナリオが示されている。両者の最も重要な違いは歳出である。
成長実現ケースでは歳出を拡大し続けるのだが、ベースラインケースではそれほど拡大しない。それ故成長実現ケースは積極財政、ベースラインケースは緊縮財政と見なすことが出来る。積極財政なら経済は発展し、緊縮財政なら経済は停滞する。このことは前述の日本と韓国の比較でも確かめられた。内閣府試算で名目GDPを比較してみる。
このグラフより積極財政のほうが緊縮財政より経済が発展することが分かる。そこで次のような疑問が生じる。2020年度には非常に大きな財政支出があったのだが、名目GDPは逆に下がっているのはなぜか。これは2020年度はコロナ禍で消費が大きく抑えられたのが原因である。GDPに占める消費の割合は50%以上であり、コロナ禍で消費が抑えられたためGDPは逆に下がった。もし歳出の急拡大がなかったら、GDPの落ち込みは遥かに大きく大不況に落ち込んだだろう。名目成長率は次のようになっており、積極財政のほうが成長率は大きい。
積極財政だとハイパーインフレになるという説がある。インフレ率を見てみよう。
積極財政ではハイパーインフレにはならず、見事に2%のインフレ率に達している。政府はこれを参考にして財政を拡大すべきだ。ただし日経のNEEDS日本経済モデルではこのような大きなインフレ率押し上げ効果は出ていない。積極財政では金利が暴騰し国債が暴落するという説を唱える人がいる。次に予測された金利を示す。
このグラフで分かるように金利の暴騰はなくて緩やかな金利上昇となっている。ゼロ金利が続くよりこのように緩やかに金利が上がる。これは銀行を救う。国債の暴落はない。
これで分かるように政府目標である2025年黒字化はほぼ不可能になった。かつて小泉内閣時代は2011年度基礎的財政収支黒字化を目標にしていた。それがどんどん先延ばしになり、2029年度黒字化ということになった。じりじり目標年度を先延ばしにするくらいなら、いっそ目標を撤廃したほうがよい。むしろ財政赤字を容認し経済成長率を目標にすべきだ。緊縮財政で衰退した経済を次世代に渡すより、積極財政で発展した経済を次世代に渡した方がよい。積極財政で財政赤字が拡大したら国の借金はどうなるかを次に示す。
このように積極財政で債務は増えるのだが、GDPはもっと増えるので、債務の対GDP比は減っていく。
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