為替変動が経済に与える影響(No.437)
2020Q4から対ドル円相場が10円上昇したときの影響を日経新聞社のNEEDS日本経済モデルを使って調べた。積極財政に反対する人達は、積極財政政策なら通貨の信認が失われ、円が暴落しパーインフレになると主張する。ここでは円が下がったとき、つまり円安になったとき何が起きるかを計算で確かめる。下図に示したのは名目GDPである。明かに円安にしたほうが名目GDPは大きくなる。理論的には日銀か財務省が円を売ってドルを買った場合、対ドル円相場を10円上昇させ円安にすることは可能である。これは近隣窮乏化政策と呼ばれ、円安誘導で輸出を伸ばし、貿易相手国に失業などの負担を押しつけることによって自国の経済回復と安定を図ろうとするものであり、自国さえよければ他国の経済はどうなっても構わないという利己的な考えである。確かに政府・日銀が円売りドル買い介入をすれば諸外国から非難されるのだが、例えば現金給付、減税、公共投資などの積極財政政策を行えば内需が拡大し輸入が増え円安に向かうことはすでに示した。この場合は諸外国は日本への輸出が増えるので大歓迎で、日本も日本の貿易相手国も利益を得る。
10円だけ円安なら名目GDPは10兆円程度増加する。しかし円の価値は9.5%だけ減少しており、名目GDPは2%しか増えていない。つまり円安にするだけなら、海外から日本を見たらドルに換算したGDPは減少している。これがアベノミクスの失敗の原因であり、ドルに換算したGDPは下がって行った。増税などせず財政拡大をしていたら、円ベースのGDPもドルベースのGDPも増加していきデフレは完全に脱却できていただろう。
図1
円安になれば、輸出産業にはメリットが大きく、利益が大きく伸びる。このグラフのように利益は約1兆円拡大している。
図2
輸出産業の利益拡大は民間最終消費を0.6兆円程度押し上げる。
図3
消費が伸びると物価が上がる。2年余りで0.7%ポイント押し上げる。
図4
円安で企業の利益が拡大すれば、設備投資が増えてくる。
図5
円安なら日本製品が安くなるのだから、沢山売れるようになる。海外から日本を見れば日本人の賃金が約10%安くなったように見える。つまり低賃金で労働者が働けば製品が安く作れ、沢山売れる。多くの製造業が賃金の安い新興国へと移動したのだが、単に円安で日本経済の復活を目指すなら日本は先進国の仲間から新興国の仲間に移ることを意味する。アベノミクスは金融政策だけで、消費増税を2回も行い、国は貧乏になった。
円安ならインバウンド需要が拡大し財貨・サービス輸入も拡大する。ただし、これはコロナ禍が収束したとしての試算だと考えられる。
図7
円安になれば輸出のほうが輸入より多く拡大する。だから経常収支の黒字は拡大する。
図8
円安で景気が良くなれば税収も僅かだが増えてくる。
図9