現金給付,消費減税、公共投資の効果をNEEDS日本経済モデルで徹底分析(No.441)
第1章GDP
図1-1 名目国内総生産
図1-2 実質国内総生産
図1-3 名目国内総所得
図1-4 実質国内総所得
図1-5 実質国内総所得(季調値)
図1-6 名目国民総所得(兆円)
図1-7 名目国民総所得(季調値)
図1-8 潜在GDP,季調値
図1-9 GDPギャップ
図1-10 要素表示の国民所得
図1-11 国民可処分所得
図1-12 家計の可処分所得
第2章 消費
図2-1 名目家計最終消費支出
図2-2 名目民間最終消費支出
図2-3 実質家計最終消費支出
図2-4 家計の住宅投資
図2-5 商業販売額指数
図2-6 所得からみた借り入れ可能額
図2-7 名目一般政府固定資本形成
第3章 物価、デフレーター
図3-1 消費者物価指数
図3-2 国内企業物価指数
図3-3 輸出物価指数
図3-4 輸入物価指数
図3-5 期待インフレ率
図3-6 6大都市市街地地価指数
図3-7 市街地地価指数・6大都市
図3-8 不動産価格指数(住宅)全国・住宅総合
図3-9 マネーストック
図3-10 マネーストック増加率
図3-11 マンション1戸当たり平均価格
図3-12 デフレーター(民間最終消費))
図3-13 デフレーター(民間企業純資本ストック)
図3-14 デフレーター(民間住宅ストック)
図3-15 デフレーター(財・サービス輸出)
図3-16 デフレーター(財・サービス輸入)
第4章 景気
図4-1 日銀短観DI 大企業 製造業
図4-2 日銀短観DI 大企業 非製造業
図4-3 有効求人倍率
図4-4 第3次産業活動指数
図4-5 名目民間企業在庫変動
図4-6 総労働時間 季調値(年間)
図4-7 所定外労働時間
図4-8 雇用者報酬
図4-9 一人当たりの雇用者報酬
図4-10 就業者数(現状)
図4-11 就業者数(予測)
図4-12 雇用者数
図4-13 失業率
図4-14 失業者数
図4-14 失業者数
図4-15 日経景気インデックス
図4-16 日経産業天気インデックス 製造業 ポイント
図4-17 日経公社債インデックス・長期債
図4-18 稼働率
図4-19 日経平均株価
第5章 資産と所得
図5-1 家計の資金過不足
図5-2 家計の預金残高
図5-3 一人当たりの個人貯蓄残高
図5-4 家計の資産残高・土地
図5-5 家計の資産残高・株式
図5-6 実質民間住宅ストック
図5-7 民間非金融法人企業の資金過不足
図5-8 名目民間法人企業資産
図5-9 民間法人企業所得
図5-10 法人企業経常利益(金融・保険を除く)
図5-11 企業資産残高・預金
図5-12 企業資産残高・土地
図5-13 企業資産残高・株式
図5-14 実質公的資本ストック
図5-15 企業のキャッシュフロー
図5-16 鉱工業在庫指数
図5-17 対外純資産
図5-18 対外純資産の推移
図5-19 企業の債務残高
図5-20 資本コスト
図5-21 資本減耗率
図5-22 家計の資本減耗
図5-23 対家計民間非営利団体の資本減耗
図5-24 名目民間法人企業資本減耗
図5-25 名目民間企業資本減耗
図5-26 名目公的資本減耗
図5-27 名目民間住宅資本減耗
図5-28 名目公的企業資本減耗
図5-29 名目一般政府資本減耗
図5-30 固定資本減耗
図5-31 1単位投資に対する減価償却現在価値
第6章 債務、金利
図6-1 一般政府債務(SNAベース)
図6-2 国債及び借入金現在高(IMFベース)
図6-3 10年物国債利回り
図6-4 国内銀行貸出約定平均金利
図6-5 金利スワップレート
図6-6 TIBOR3ヶ月物金利
図6-7 国債及び借入金現在高
図6-8 国民負担率
図6-9 公的部門バランス
図6-10 一般政府のバランス
図6-11 国・地方のバランス
図6-12 一般政府プライマリーバランス
図6-13 国・地方のプライマリーバランス
図6-14 企業の負債比率
第7章 貿易
図7-1 経常収支
図7-2 貿易収支
図7-3 金融収支
図7-4 貿易収支・輸入
図7-5 貿易収支・輸出
図7-6 サービス収支
図7-7 貿易・サービス収支
図7-8 サービス収支・支払い
図7-9 サービス収支・受け取り
図7-10 名目財貨・サービス輸入
図7-11 実質財貨・サービス輸入
図7-12 実質財貨・サービス輸入・季調値
図7-13 名目財貨・サービス輸入・季調値
図7-14 名目財貨・サービス輸出
図7-15 実質通関輸出・総額
図7-16 実質通関輸入・総額
図7-17 実質通関輸入(食料品・原燃料)
図7-18 名目通関輸入・総額
図7-19 通関輸出価格指数
図7-20 対ドル円相場
図7-21 日経通貨インデックス・日本円
図7-22 名目海外からの所得の純受け取り
図7-23 交易利得
第8章 税
図8-1 生産・輸入品税
図8-2 法人事業税
図8-3 家計の純社会負担(支払)
図8-4 一般政府の純社会負担(支払)
図8-5 家計に対する所得・富税
図8-6 民間法人企業に対する所得・富税
図8-7 土地保有に関する税
図8-8 消費税収
図8-9 税収合計
1995年に日本のGDPは5.449兆ドルで韓国のGDPは0.566兆ドルだったので日本のGDPは韓国の9.6倍だった。2019年の日本のGDPは5.079兆ドルに下がったが、韓国は1.646兆ドルであり、ほぼ3倍に増加した。1人当たり名目GDPで間もなく韓国は日本を抜き去る。このように経済成長に大きな差が生じたのは、この間韓国は歳出を7倍に拡大しているのに対し日本の歳出は僅か1.3倍の伸びに留まっていることが原因になっている。国がより多くの通貨を発行し市中に流せば、当然経済は拡大する。このことは例えば日経のNEEDS日本経済モデルによって確かめられており次の本に詳しく説明されている。
『120万円を配れば日本が幸せになる。井上智洋・小野盛司(2021)扶桑社』
この本で示された毎月10万円を全国民に給付するという考えは非常に魅力的だと考えるが、ここでは別の景気刺激策を考え比較する。
次の3種類の経済対策を2020年のQ4(9月~12月)から実施し、その影響を計算し、その結果を比較することにする。
①現金給付:
年間80万円、つまり3か月ごとに20万円を国民全員に給付する。
②消費減税
消費税率を0%に下げる。
③公共投資
公共投資を年間20兆円だけ増額する。
3種類の景気対策はすべて国債を発行し金融機関がそれを購入し、後日それを日銀が通貨を発行して買う。事実上は日銀による国債引受と変わらない。日銀が国債を大量に購入している限り、金利には大きな影響はないが、一応政府債務の増大になる。増大幅は現金給付が最も大きい。給付された多くは貯蓄に回るのでこのような結果となる。貯金に回ったお金が永遠に動かないわけではなく、徐々に消費を拡大し、経済を健全な形で拡大させる。
第1章 GDP
最初に名目GDPを示す。2020年のQ2で大きく落ち込んでいるのはコロナ禍で自粛したために消費が大きく落ち込んだのが原因である。現状維持の場合は落ち込む前の水準に回復するのは2021年Q3となる。最も経済の回復が早いのは公共投資である。しかしGDP拡大の速さはだんだん頭打ちになる。それに比べ現金給付は立ち上がりは遅いがGDPはだんだん拡大のペースを速め、2022年Q1で公共投資を追い抜いている。消費減税では、最初GDPは下落する。これはすべての商品に消費税が上乗せされていたものが、無くなるので商品の値段は下落し、それに合わせてGDPも下落するのである。その後は消費拡大でGDPは上昇する。
図1-1
各経済対策の効果を比べるには物価の影響を除いた実質GDPを比較するのがよい。実質で考えた場合は公共投資が即効性があり、素早くGDPを拡大させるが、その後は頭打ちになる。消費減税は消費を刺激し着実にGDPを拡大させる。現金給付の場合は立ち上がりは遅いがその後GDPの拡大が加速する。
図1-2
国民総所得(GDI)とは国内総生産(GDP)を所得面(分配面)からとらえたもので、国内で1年間に支払われた賃金と利潤、配当等の総額を示す指標。英語表記「Gross Domestic Income」の略で「GDI」という。当然だが、ボーナスシーズンにはGDIは増える傾向がある。GDIに日本企業(日本国民)が海外投資で得た配当等の所得収支を加味したものが国民総所得(GNI)である。
図1-3
国民総所得とは国内総生産(GDP)を所得面(分配面)からとらえたもので、国内で1年間に支払われた賃金と利潤、配当等の総額を示す指標である。英語表記「Gross Domestic Income」の略で「GDI」ともいう。GDIに日本企業(日本国民)が海外投資で得た配当等の所得収支を加味したものが国民総所得(GNI)である。下記のグラフは1年を4期に分けた1つ分の値で、4期分を加えると年間の値になる。
図1-4
次のグラフは季節調整済みの実質国内総所得である。ボーナス時には所得が増えるのだが、その季節変動分を取り除いたものが季節調整済みの値である。この図は図1-2とよく似ている。
図1-5
国民総所得とは国内で1年間に生み出されたモノやサービスの金額の合計である国内総生産(GDP)に、日本企業などの海外でのもうけや、外国株式・債券への投資による配当・金利収入などを加えた指標。英語表記「Gross National Income」の略で「GNI」ともいう。企業の国際展開が急速に進む中、国内だけでなく海外を含む経済活動の大きさが分かるとして活用されるケースが増えている。
図1-6
次の図は国民総所得(GNI)の季節調整値である。図1-1に日本企業などの海外でのもうけや、外国株式・債券への投資による配当・金利収入などを加えたものとなっている。
図1-7
潜在GDP:
一国の経済全体の供給力を表す推計値。現存の経済構造のもとで資本や労働などの生産要素が最大限に投入された場合、または過去の平均的な水準まで投入された場合に実現可能な総産出量をいう。潜在GDPは経済全体の総需要と潜在的な供給力の差を示す需給ギャップや潜在成長率の推計に利用される。図1-8のように潜在GDPは景気対策をすれば増加することが分かる。
図1-8
GDPギャップ(需給ギャップ)とは、一国の経済全体の総需要と供給力の差のことで、GDPギャップとも呼ばれる。総需要は国内総生産(GDP)と同じで、供給力は国内の労働力や製造設備などから推計される。需給ギャップがマイナスになるのは、需要よりも供給力が多いときで、企業の設備や人員が過剰で、物余りの状態になる。これをデフレギャップという。逆に、供給力より需要のほうが多いとプラスになり、物価が上がる原因になる。これをインフレギャップという。需給ギャップは市場メカニズムがうまくいっていないときに大きくなり、それを解消するためには、政府が景気刺激策などで需要を調整する必要がある。下図のように景気対策をすれば需給ギャップをマイナスからプラスに押し上げることができる。
図1-9
要素費用表示の国民所得:
国民総所得は、国民によって生み出された粗付加価値の合計を(所得)分配面からとらえたものである。しかし、そこに含まれる固定資本減耗分は純粋に新たに生み出された付加価値とはいえないので、国民総所得から固定資本減耗を除いた指標が考えられる。これを「市場価格表示の国民所得」あるいは国民純生産NNPという。さらに、税金や補助金は生産活動に対する報酬とはいえないので、「市場価格表示の国民所得」から(税金-補助金)を除いた指標がある。これを「要素費用表示の国民所得」という。通常、国民所得とは「要素費用表示の国民所得」を指す。
図1-10
国民可処分所得は市場価格表示の国民所得に海外からの経常移転の純受取を加えたものに等しい。 すなわち、生産活動によって生み出された要素所得に海外からの移転分を加えたものであり、国民全体の処分可能な所得を表している。 これを支払の面からみると、民間及び政府の最終消費支出と貯蓄に処分される。国民可処分所得も景気対策を行えば増えることが分かる。
図1-11
可処分所得とはすべての所得から、支払いが義務付けられている税金や社会保険料を除いた残りの所得で、自由に使える手取り収入のことである。景気対策を行えば可処分所得が増えて消費が伸びる。特に現金給付の場合は可処分所得の増加が著しい。ただし消費減税の場合、消費税分だけ物価が下がっているので実質的にはここで示されたものより可処分所得は増えている。
図1-12
個人消費という場合、個人、この場合、政府や企業などではなく、自然人としての個人という主体が行う消費を指す。GDP統計(国民経済計算)では「家計最終消費支出」という表現を使う。
これに、営利企業の活動ではなく会費や寄付などで活動が賄われる「対家計民間非営利団体」の消費支出も合計して「民間最終消費支出」をおおよそ個人消費とみなす場合もある。他部門の消費や投資も含めた国内総支出に占める家計最終消費支出の割合は、おおよそ6 割になる。当然景気対策を行えば消費支出は増大し、現金給付の場合特に大きい。消費減税の場合は消費税分だけ物価が下がっていて、実質的な支出は大きい。これは図2-3と比べれば分かる。
図2-1
すでに述べたように民間最終消費支出(図2-2)は家計最終消費支出(図2-1)に営利企業の活動ではなく会費や寄付などで活動が賄われる「対家計民間非営利団体」の消費支出を加えたものである。
図2-2
物価の影響を取り除いたものが実質家計最終消費支出である。消費税減税の場合が押し上げられていることが分かる。
図2-3
消費支出の伸びは現金給付が最も大きく、消費減税がそれに続く。公共投資は消費支出をそれほど拡大させない。現金給付の場合家計の住宅投資を大きく伸ばす。一人当たり80万円が支給されると、5人家族では400万円になり、これだけの収入増が毎年続くとなると、住宅資金にする家族が増える。しかしそれにしても2022年後半からは増え方は異常であり、プログラムの暴走の可能性もあるのではないか。消費減税や公共投資でも増えるが、増加幅はそれほどでもない。
図2-4
現金給付の場合、住宅投資が増えるのは、住宅ローンを組みやすくなるからである。これが一時金ではなく、現金給付は永遠に続くと仮定して計算してある。
商業動態統計調査は、経済産業省が全国の商業を営む事業所及び企業の販売額等を毎月調査することにより、商業(卸売業、小売業)の動向を把握し、景気判断、消費動向等の基礎資料を得ることを目的としている。
商業動態統計調査では、業種別商品販売額等のほか、業態別(百貨店・スーパー、コンビニエンスストア、家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンター)の商品販売額等を全国、経済産業局別、都道府県別に集計し、提供していて商業販売額指数を求めている。下図より景気対策をすれば販売額は伸びるのだが、その様子は名目国民総所得(図1-7)によく似ていることが分かる。
図2-5
所得からみた借り入れ可能額は所得が増えれば増える。公共投資や消費減税では名目の賃金報酬は大きな変化はないが、現金給付は報酬は大きく増えるので借り入れ可能額も大きく増える。ただし現金給付が永遠には続かず、そのうち打ち切られると分かっていれば、借り入れ可能額はこれより少なくなる。そうなると住宅投資も抑えられることになる。
図2-6
次に示すのは公共投資の額である。当然のことながら公共投資を増やすと政府が決めた場合のみ、額が増える。ただし、20兆円増額と仮定したのは年間の額であり、四半期で均等に増額した場合は1期あたり5兆円であり、それが下図に示されている。
図2-7
第3章 物価・デフレーター
消費が拡大すると一般的には物価が上がるはずである。次に示すのは消費者物価指数である。どの経済対策でも物価の押し上げ効果は小さく、2%のインフレ目標のためには力不足である。特に消費減税の場合は消費税分が消滅するために物価は一時的に大きく下落する。
図3-1
国内企業物価指数は企業間で取引される商品の価格を生産者段階ないしは卸売段階で調査し作成する。原則として、基準年における国内市場向け国内生産品の生産者出荷額の1万分の1(246億円)を超える出荷額の商品を採用する。このようにして採用された品目の数は910品目となっている。それぞれの品目の取引量を参考にしてウエイトを掛けて国内企業物価指数が求められる。消費者物価指数と同様に消費減税が行われると消費税分だけ物価指数は下落する。
図3-2
輸出・輸入物価指数は企業物価指数の基本分類指数を構成する指数の一つであり輸出品および輸入品を対象とした物価指数である。日本銀行が算出し、毎月公表している。原則として、輸出品は通関段階における船積み時点のFOB(本船渡し価格建て)価格を調査して求める。輸出取引にあたる場合は、消費税が免除される。これは消費税は国内で消費されるものに対して課税するが、外国で消費されるものには課税しないという考えに基づいている。 これを輸出免税という。
図3-3
輸入物価指数は日本銀行が算出し、毎月公表している。
輸入物価とは輸入品は通関段階における荷降ろし時点のCIF(到着価格建て)価格を調査し求める。2020Q2で原油価格が急落しているから輸入物価指数を押し下げている。
図3-4
期待インフレ率は予想インフレ率、またはインフレ予想とも呼ばれ、家計や企業が予想する将来の物価の変動率を指す。期待インフレ率は将来の実際の物価や景気に影響を与えると考えられるため、それらの先行きを予測するうえで重要な指標と言える。世界の中央銀行の多くは金融政策の方向性を決定する際、期待インフレ率の動向に注目している。期待インフレ率の測定方法としては、①家計や企業に対する中央銀行のアンケート調査から算出する、②ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI、固定利付債と物価連動国債の利回り格差)を利用する、③過去のインフレ率の実績から算出する、等が挙げられるが、厳密に計測することは困難である。
図3-5
バブル期初期には大都市を結ぶ新幹線などが次々開通し、国際都市の性格を強めていた。例えば東京都区内では1983年3月から1985年3月までの2年間で約5割の上昇し、1985年3月から1986年3月までの1年間で5割を超える上昇した。なおバブル崩壊では地価と株価が下落し、千数百億円が失われて不良債権が発生し経済が成長しなくなった。株価はじりじり回復しつつあるが地価はまだ回復途中である。次の図は市街地の地価の推移を示してある。地価の下落が経済の回復を難しくした。
図3-6
経済対策を行えば地価はどの程度回復するのだろうか。1980年代の後半に生じた土地バブルが再び起きるのか。次の図は地価の推移である。結論から言うとかつてのような地価バブルは起きそうもない。それでも景気対策を行うとゆっくりと地価は上昇を始める。このような緩やかな地価上昇はデフレ脱却ができない日本経済に好ましい影響を与える。
図3-7
不動産価格指数は、IMF等による国際指針に基づき、不動産市場価格の動向を表すものとして、国土交通省が作成したもの。全国・地域別、住宅・商業用別の市場分析を通じて、投資環境の整備などが進むことを目的としている。住宅用と商業用とで別々に価格指数が発表されている。下図は住宅用であり、景気対策により緩やかに上昇することが分かる。
図3-8
次に示すのは、マネーストックである。これは一般法人、個人、地方自治体などが保有する通貨量の残高の合計である。当然のことながら景気対策でマネーストックは増えるが今回の対策では現金給付が最も大きく増加する。
図3-9
このグラフを見て、通貨がここまで増えるとインフレ率が高くなりすぎるのではないかと考える人がいるかもしれない。次の図は1980年から2020年までのマネーストックの増加率である。これで分かるようにバブル崩壊(1990年後頃)の前はマネーストック(当時はマネーサプライ)は毎年10%程度増加していたし、3~5%程度の経済成長していた。その後増加率は0~4%程度に落ち込むのだが、そうするとほとんど経済は成長しなくなった。つまり諸外国並の経済成長を目指すなら年率10%程度のマネーストックの増加が必要であり、今回我々が提案している程度の規模の経済対策が必要だということだ。
図3-10
次はマンション1戸当たりの平均価格の推移である。コロナ禍で一旦下がるが、景気対策があれば上昇してくる。消費減税があれば消費税分が無くなるから大きく下がる。
現在、不動産の全国平均価格は年々上がっている。特に、マンションは2013年から右肩上がりで、首都圏の新築マンションはバブル期並の価格になっている。ただし新型コロナウイルスの感染拡大は不動産価格に悪影響を与えている。
図3-11
名目価額から実質価額を算出するために用いられる価格指数をデフレーターといい物価指数とよく似ている。
デフレーターとは、「気球のように膨らんだものから空気を抜く」「しぼませる」という意味を語源とする言葉である。物価が上昇した分だけ膨らんでしまった名目GDPを、GDPデフレーターを用いてしぼませることにより実質GDPを算出する。消費減税なら民間消費に関係する物価が下がるのでデフレーターも下がる。
図3-12
資本ストックとは、ある時点で企業が抱えている設備の量である。工作機械、自動車や船などの輸送機械など多様な物を含むため、台数などでは数えることができないため、金額換算される。設備投資が毎年の一定期間ごとに設備に投入される量で、そこから減価償却などを除いてなお残った分がストック(在庫)として資本ストックに加えられる。景気対策をすると企業は設備投資を増やすので資本ストックも増える。
図3-13
戦後の住宅不足は数の上では1968年に解消されているが、その後も50年にわたって新築住宅の供給を重視した施策が継続されている。その間、住宅は世帯数の増加を上回るペースで増え続け、「空き家問題」は既に社会的な規模にまで拡大しており、2014年7月に総務省が公表した「住宅・土地統計調査」(2013年 10月1日 時点)の速報集計によれば、空き家率は13.5%にまで達している。このようなストック重視から住宅ストック活用社会への転換が求められている。
図3-14
輸出取引にあたる場合は、消費税が免除される。これは消費税は国内で消費されるものに対して課税するが、外国で消費されるものには課税しないという考えに基づくもの。これを輸出免税という。だからデフレーターは消費税減税をしても影響を受けない。ただし景気対策で物価は上昇気味になるのでデフレーターも緩やかに上昇する。
図3-15
輸入デフレーターとしては、日本銀行調査統計局作成の輸入物価指数を使用する。
輸入物価指数は、輸入品が日本に入着する段階の価格を調査した物価指数である。 基準年(2000 年)における財務省「日本貿易月表」の輸出額に基づき、通関輸出額の 1 万分の 5(188 億円)以上の取引シェアを持つ商品を対象として、275 品目(1 品目あたり調 査価格数=5.5)を調査している。それ故に消費税を掛ける前の価格で調べている。
図3-16
日銀短観は、正式名称を「全国企業短期経済観測調査」という。統計法に基づいて日本銀行が行う統計調査であり、全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的としている。全国の約1万社の企業を対象に、四半期ごとに実施している。DIは業況判断としてよいと答えた企業の割合から悪いと答えた企業の割合を引いた数。 DIは内閣府から毎月発表されている(DI=diffusion index)。景気対策を行えば業況判断は良くなるのは明かである。
図4-1
図4-2
有効求人倍率とは、 公共職業安定所(ハローワーク)に申し込んだ求人数を
求職者で割った値 を表したものである。景気がよくなると倍率は高くなる。
図4-3
第3次産業活動指数は、第3次産業に属する業種の生産活動を総合的に捉えることを目的としている。個別業種のサービスの生産活動を表す指数系列を、基準年の産業連関表による付加価値額をウェイトにして加重平均により算出する。第3次産業の各活動を統一的尺度でみることができ、サービス部門の活動動向をみることができる。図4-4のように景気対策でサービス部門の活動が活発化するし、現金給付の場合特に活発になる。
図4-4
企業在庫は、出荷の伸び悩みで在庫が増えたのか、出荷増を予想して在庫を積み増したため在庫が増えたのかが判断しにくく、出荷や生産動向など他の経済指標と合わせた判断が必要である。2020年はコロナ禍で先行き不安で企業は在庫を減らしたが、2021年に入るとワクチンの期待から企業は景気回復を予想し在庫を増やす。特に政府が景気対策を大規模に行うなら大幅な在庫増加が考えられる。しかしある時期を過ぎると適正在庫の水準が分かってくるので、在庫は減ってくる。
図4-5
景気対策が行われると、就業者数が増えるだけでなく労働時間も増えてくる。長期的には企業が設備投資を行い自動化・AI化が進んでくると労働時間は減少するはずである。しかしそれが直ぐに実現するわけがなく、当面は景気対策で人手不足になった分、残業に頼って労働力不足を補う。だから景気対策をすると総労働時間は増える。
図4-6
所定外労働時間をグラフにすると、より明確に景気対策で所定外労働時間が増えているのが分かる。
図4-7
次に雇用者報酬を示す。これで分かるのは、景気対策で企業が利益を拡大しても、雇用者報酬はほとんど増えないことだ。これもデフレマインドの現れだ。今回のコロナ禍で苦しんだ経営者や、知人の経営者が苦しんでいるのを見た経営者は更にデフレマインドが強くなり、強力な景気対策を行わなければ景気回復は困難になる。
図4-8
次は一人当たりの雇用者報酬だがこれでも傾向は変わらない。結局政府が景気対策としてお金を使っても企業の利益は増すが、必ずしもそれが国民の手に渡るとは限らないということだ。ただし、消費減税であれば物価の下落という形で国民は利益を得るし、現金給付であれば直接現金が国民の手元に渡る。国の繁栄させる最大の目的は国民を幸福にすることであり、その意味では現金給付が最も優れた政策と言える。
図4-9
雇用者は会社、団体、官公庁または、自営業者や個人家庭に雇われて給料、賃金を得ている人、および役員を指す。一方、就業者は従業者と休業者を合わせたもので雇用者、自営業者、家族従業者の合計がこれに当たる。
図4-10で示したように2011~2020年の間は就業者数は徐々に増加する傾向にあった。しかし2019年12月には6765万人だった就業者数がコロナ禍で2020年4月には6625万人に、つまり140万人も減ってしまった。
図4-10
図4-11は就業者数の予測である。景気対策が無ければ就業者数は低迷したままだが、景気対策があれば就業者数は増加する。しかしそれでも2019年12月の就業者数6765万人の水準には届かない。
図4-11
すでに説明したように雇用者は会社、団体、官公庁または、自営業者や個人家庭に雇われて給料、賃金を得ている人、および役員を指す。
図4-12
完全失業率とは、労働力人口(15歳以上の働く意欲のある人)のうち、完全失業者(職がなく、求職活動をしている人)が占める割合で、雇用情勢を示す重要指標のひとつである。総務省が「労働力調査」で毎月発表しています。完全失業者数を労働力人口で割って算出し、数値が高いほど仕事を探している人が多いことを示す。景気対策で有効求人倍率が上がれば失業率は下がる。失業者の定義が国によって異なるので、失業率の国際比較には注意が必要である。
図4-13
2020年平均の完全失業者数は191万人と前年に比べて29万人増加。こちらも11年ぶりに増加した。
図4-14
日経景気インデックスとは景気動向を幅広く反映するように設計された指数。生産、需要、労働という経済の3つの側面を代表する指標の変化率を合成することにより、景気の方向性だけでなく水準を示すことができるのが特徴である。「鉱工業生産」、「商業販売額」、「有効求人倍率」の3指標をもとに算出する。現金給付が最も景気をよくする。
図4-15
日経産業天気インデックス(日経DI)は四半期ごとに日本経済新聞社の記者が担当業界(30業種)の景況を、天候(晴れや曇り、雨など)の天気のかたちで予測、判断する「産業景気予測特集の業界天気図」を数値化したもの。日経産業天気インデックス(日経DI)は日銀短観の業況判断と似た動きをするといわれている。
図4-16
日経公社債インデックスは、公社債市場全体の動きを表す指標(複利の平均利回り)である。1979年1月から算出しており、残存期間別に長期債(残存期間7年以上)、中期債(同3年以上7年未満)、短期債(同3年未満)の3つのインデックスで構成している。
図4-17
稼働率(英語︓Operating ratio)とは、設備の生産能力に対してどのくらい生産できたかを示す指標のこと。例えば、 1日100個作れる設備で80個作った場合は、稼働率は80%となる。逆に110個作った場合は稼働率は110%となる。下図のように景気対策を行うと稼働率も上がってくる。今まで遊ばせていた設備も有効利用されるようになる。ある程度稼働率が上がってくると、増産に対応しきれなくなり、生産応力を増強するために設備投資が活発化する。景気対策が行われないと稼働率も上がらず、余剰設備が無駄になる。
図4-18
景気対策をすると株価は上がる。現金給付の場合が最も上昇する。ただし2021年2月25日現在30186円となっており、これはNEEDS日本経済モデルの予想を大きく超えている。つまり株価の予想など非常に難しく、どのような方法でも正確に株価を予想するのは不可能ということを示している。
図4-19
第5章 資産と所得
次の図は日銀が発表した家計の資金過不足である。これで分かるのが2020年の2Qと3Qで現金・預金が急に増えていることである。これはコロナ禍で行われた政府の景気対策が関係しているのではないかと思われる。
図5-1
どのような景気対策でも、お金は国民に渡り家計の預金残高を増やす。当然の事だが最も預金残高を増やすのは現金給付である。これは長期間消費を押し上げるので、効果は持続する。下図は国民全体の貯蓄残高である。現金を給付しても、預金にある程度入るのだからインフレが抑えられるとも言える。
図5-2
ほとんど同じ内容だが、一人当たりの個人貯蓄残高は以下のようになる。
図5-3
家計にとって嬉しいのは預金の増加だけでなく「資産残高・土地」が増えることもある。バブル崩壊以後土地の価格も下がり、多くの国民は所有している土地の資産価値が減り、これが不況から簡単には抜け出せない原因の一つになっている。その点でも地価の値上がりは歓迎すべきではないか。
図5-4
景気対策で株価が上昇する。株を保有している家計であればその価値が増加する。株を保有している家庭、あるいは投資信託として間接的に株を保有している家庭であればその価値の値上がりで資産は増える。その増加額はやはり現金給付の場合が最も大きい。ただし株も投資信託も持っていない家庭も多いので偏りがある。
図5-5
住宅の価値は放置しておくと下がっていく。景気対策を行うと、新築、リホームなどの件数が増えていき全体として住宅ストックは増加する。家計としては地価も上がり、マイホームの価値も全体としては上昇する。特に現金給付の場合は上昇幅が大きい。
図5-6
次の図は日銀が発表した「民間非金融法人企業の資金過不足である。2020年のQ2とQ3では現金・預金と銀行借り入れが急増している。これはコロナ禍に対応した政府の景気対策に関係していると思われる。
図5-7
次は名目民間法人企業資産である。2020年のQ2とQ3ではコロナ禍での景気対策で大きく増えているがその後何もしなかったら、再び減少する。しかし景気対策をすれば企業も資産を増やす。特に現金給付が最も増加幅が大きい。
図5-8
企業所得とは 企業者が経営活動によって得る利益。総収入から生産費や他人資本の利子などを控除した残り。
次の図で民間法人企業所得を示す。季節的な変動が大きいが景気対策により企業は所得を伸ばすことが分かる。現金給付が最も大きく所得を押し上げる。
図5-9
経常利益は、企業が毎年どれくらい稼げるかを示す指標のひとつである。そのため、普段は発生しないような利益や損失は経常利益には含まれていない。普段は発生しない損益とは、例えば、地震などの災害で被った損失や、会社の持っている土地を売って得た儲けなどである。
法人企業経常利益もやはり現金給付により最も押し上げられる。
図5-10
次の図は景気対策で企業の預金がどれだけ増加するかを示したものである。日銀のデータ(図5-7)で示されたように政府の景気対策のお陰で2020年Q2とQ3で大きく上昇した後、減少に転じている。景気対策があれば再び増加に転じることを示している。やはりこの場合も現金給付が最も企業の預金を増やす。
図5-11
企業も土地を保有しているが、景気対策によりその価値が上がる。新たに土地を買う場合もある。3種類の景気対策で同程度に資産が増えている。
図5-12
次の図は企業の保有している株式の価値がどのように変化するかを示している。価値の増加が最も大きいのは現金給付であった。日経平均株価は2021年2月15日に30年半ぶりに3万円台を回復したのだが、これはNEEDS日本経済モデルが予想したよりはるかに高い値だった。この点は、今後修正されるはずである。
図5-13
公的資本ストック推計は公的機関(一般政府及び公的企業)により整備される社会資本のうち、主要18部門(道路、港湾、航空、鉄道、公共賃貸住宅、下水道、廃棄物処理、水道、都市公園、文教施設、治水、治山、海岸、農林漁業、郵便、国有林、工業用水道、庁舎)を推計の対象とし、粗資本ストック、純資本ストック、生産的資本ストックを推計している。
企業の債務残高はコロナ禍で一気に増加したが、景気対策で景気が回復し債務残高も減少している。次に実質公的資本ストックを示す。当然のことだが、これが増えるのは公共投資を行ったときである。
図5-14
キャッシュ・フロー(cash flow、現金流量)とは現金の流れを意味し、主に企業活動や財務活動によって実際に得られた収入から、外部への支出を差し引いて手元に残る資金の流れのことをいう。現在は需要不足の時代であり、キャッシュフローは低水準だが、景気対策が行われると増加する。現金給付なら大きく増加する。
図5-15
鉱工業在庫指数は国内の鉱業と製造業がどれくらいのモノを生産・出荷し、どれくらいのモノを在庫として抱えているのかを指数で表したもの。 鉱工業指数は経済産業省から毎月発表されている。
景気が悪いと在庫が積み上がり減産をすることになり、逆に景気が良いと需要拡大を見越して増産する。
図5-16
対外純資産とは日本の政府や企業、個人が外国に保有する資産から負債を差し引いたもの。資産としては、外貨準備、銀行の対外貸付残高、資産運用目的の株式、外国企業への出資などがあげられる。負債には、海外から日本企業への出資、借入金などが含まれる。5月末に財務省から公表された「本邦対外資産負債残高の状況(2019年末時点)」によれば、日本の対外純資産残高は前年比23兆円増の364兆5250億円と2年連続で増加し、29年連続で世界最大の対外債権国の座を維持する結果となった。これは経済政策の失敗で国内市場は縮小を続け投資先を海外に求めた結果である。現在の政策を続ければ図5-17のように対外純資産は増え続ける。つまり日本から出て行く資金によって諸外国を繁栄させるが、日本は貧乏になり続けるということだ。逆に適切な景気対策を行えば、資金は日本国民を豊かにし、国内産業を活性化させ、対外純資産は減少を始める。
図5-17
政府が適切な景気刺激策を行い対外純資産を減らすことができれば、やがてドイツに首位の座を奪われるかもしれないが、それは日本が長年続けてきた世界最低の経済成長率の政策から脱却することであり歓迎すべきである。
図5-18
日本の政府債務の対GDP比は238%に比べ中国は47%で低いが中国の政府・民間・金融部門を併せた債務は 2018 年 3Q 時点で、GDP 比約 300%に上っており、なおかつ資金の大半が国有企業に集中するため、債務膨張に歯止めが掛からない。BIS統計によると、中国の債務は政府と金融部門を除く“狭義の民間債務”でも、対GDP比率”で 200%に近づきつつあり、日本の約 130%、米国の約 150%を大きく上回る世界トップクラスの規模となっている。重要なことは、中国や米国は債務に関して日本のように異常に危機感を煽らないことだ。必要なら通貨発行で債務は解消できるのだからむしろ重要なのは経済成長だ。日本の企業の債務残高は次の図のように、政府が景気対策を行わないなら高い水準が続くが、景気対策があれば下がって行く。
図5-19
資本コストとは、会社の資金調達に伴うコスト(費用)のことである。会社が銀行借入、社債発行、株式発行などによって資金調達する際には、銀行への利子、社債権者への利回り、株主への配当などのコストが必要になる。このように、会社が債権者や投資家に支払うべきコストが資本コストである。景気対策で経済活動が活発化すれば、社債を発行したり、株式を追加発行し資金を確保し設備投資を増やすので資本コストも増大する。
図5-20
資本減耗率とは資本減耗を資本ストックで割ったものである。資本減耗率が大きければ、企業の使用者費用は大きくなる。
図5-21
景気対策があれば家計の資本が増加し、資本減耗も増加する。ただし消費減税の場合は消費税で上乗せされていた価値が消滅するので、その分下がってくる。
図5-22
次の図は図5-22の規模を小さくしただけである。
図5-23
図5-24
図5-25
図5-26
図5-27
図5-28
図5-29
図5-30
図5-31
3種類の景気対策はすべて国債を発行し金融機関がそれを購入し、後日それを日銀が通貨を発行して買う。事実上は日銀による国債引受と変わらない。日銀が国債を大量に購入している限り、金利には大きな影響はないが、一応政府債務の増大になる。増大幅は現金給付が最も大きい。給付された多くは貯蓄に回るのでこのような結果となる。貯金に回ったお金が永遠に動かないわけではなく、徐々に消費を拡大し、経済の健全な拡大に貢献する。
SNAとは、System of National Accountsの略称であり、「国民経済計算」または、「国民経済計算体系」と訳されている。これまで、日本をはじめ世界の多くの国がSNAという基準に従って、所得水準や経済成長率などの国際的な比較を行い、各国の経済の実態を明らかにしてきた。
図6-1
次は国債及び借入金現在高の推移である。
図6-2
一般的には政府債務が増加すると国債市場での国債売却額が増大し、国債価格が下がり金利が上がることになる。しかし日銀が通貨を発行し国債を買い支えれば金利は上がらない。
図6-3
銀行貸出約定平均金利とは銀行や信用金庫が個人や企業に資金を貸し出す際の金利を平均したもの。これが低すぎると銀行は利ざやが稼げないので経営が難しくなる。景気対策で若干上昇するが、この程度では経営状態を回復するのには力不足である。金利暴騰とかにはほど遠い。
図6-4
金利スワップレートとは、円金利同士を交換するもの。「円円スワップ」ともいう。英語では「Yen Swap」と表記される。固定金利と変動金利を交換するのが一般的で、金融機関などが金利変動リスクを回避するため日常的に利用している。「対6カ月LIBOR」や「対6カ月TIBOR」のスワップレートは代表的指標とされている。現状維持ではマイナス金利が続き、景気対策が行われるとプラスの金利になるが低金利のままである。
図6-5
TIBOR(タイボー)とは「Tokyo Interbank Offered Rate」の略で、「東京銀行間取引金利」のことである。東京における主要銀行間の取引金利で、企業向け貸出金利の指標とされている。
図6-6
国民負担率とは、租税負担及び社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の国民所得に対する比率である。消費減税の場合は消費税という負担がなくなるので国民負担率は大きく下がる。
図6-8
公的部門は一般政府と公的企業からなる。一般政府は中央政府、地方政府、社会保障基金からなり、公的企業は公的金融機関と公的非金融法人企業からなる。
図6-9
一般政府とは国民経済計算などの統計で、政府あるいは政府の代行的性格が強い機関の総体をいう。 中央政府(国)、地方政府(地方公共団体)、および社会保障基金がこれにあたる。
図6-10
図6-11
プライマリーバランスとは、社会保障や公共投資をはじめ様々な行政サービスを提供するための経費(政策的経費)を税収だけで賄えているかどうかを示す指標。これが赤字ということは、通貨が発行されたということである。通貨は現在も将来もいくらでも発行可能であり、持続可能である。現金給付の場合が最もプライマリーバランスを悪化させるが、国民にとっては最もメリットが大きい。つまりプライマリーバランスの黒字化は国民の敵だと言って良い。
図6-12
次は国・地方のプライマリーバランスである。
図6-13
負債比率とは返済の必要がある他人資本(負債)を返済の必要のない自己資本で割ったもの。この比率が小さくなれば経営が安定する。景気対策を行えば、企業に利益が拡大し負債比率が下がる。特に現金給付の場合が下落幅が大きい。
図6-14
第7章 貿易
経常収支とは、国の国際収支を表す基準のひとつ。貿易、サービス収支、海外からの利子、配当金などの第一次所得収支、政府開発援助(ODA)のうち医薬品などの現物援助などの第二次所得収支から構成される。景気対策をすると国内の需要が拡大し経常収支の黒字幅が減少する。日本は需要不足で慢性的な経常収支の黒字が続いている。ゼロサムゲームだから、黒字の国があれば、赤字で苦しむ国もある。特定の国が黒字を続け外貨を溜めすぎると世界的にはお金の流れを止めてしまう。100人からなる国があったとする。経済を発展させようと中央銀行がお金を刷って全員に配った。国の中に勤勉でお金を稼ぐのに自分ではお金を使わない人がいたとしよう。その人の金庫にはいっぱいお金が入っているが、お金はその人の所に吸い上げられ他の人はだんだんお金を使えなくなり国は貧乏になっていった。お金を貯めるばかりの人もお金を使わないから金持ちらしくない。つまり国全体が貧乏になっていく。国全体の事を考えるならお金を貯めるばかりの人を説得して、貯めるだけでなくお金を使うよう説得すればよい。彼がお金を使えば、他の人にもお金が渡り経済が再び回り出す。これと同様であり、日本は緊縮財政で経常黒字を続けることは世界経済の均衡とれた発展を阻害する。景気対策で経常黒字を減らすべきだ。
図7-1
貿易収支は経常収支を構成する一部である。貿易収支とは、財貨(物)の輸出入の収支のことをいう。輸出額が輸入額を上回る状況を貿易黒字、輸入額が輸出額を上回れば貿易赤字という。
一般的には、貿易黒字が増えると、その分相手の国から受け取る外貨が増え、それを日本円に交換するために外貨を売って円を買うことになるので、円高圧力が高まる。一方、貿易黒字が増えるとGDPが押し上げられ、貿易赤字が増えると逆に押し下げられる。
図7-2
金融収支とは国際収支における金融資産の収支状況をいう。直接投資や証券投資、金融派生商品、その他の投資、外貨準備を合計したものである。
図7-3
景気対策をすると内需が拡大し、輸入が増える。米国や中国などの巨額の内需拡大策に日本はそれなりの恩恵を受けている。そのお返しを日本も行うべきだ。下図の通り景気対策をすれば輸入は増える。特に現金給付の場合は大きく増加する。
図7-4
輸出の場合は景気対策をしても大きな影響を受けない。それ故景気対策は経常黒字の削減に役立つ。
図7-5
サービス収支は旅行や知的財産、運輸、保険などサービス貿易の状況を示す。コロナ禍で海外から旅行者が来ないし、海外旅行も非常に難しいのだが、ここでは2021年度以降はワクチンの接種などで感染は沈静化するとして計算してある。サービス収支は赤字が続いていたが2019年度は訪日客の増大で黒字化していた。現金給付などを行うと日本人が多く海外旅行に行くようになることもあり、サービス収支の赤字幅は拡大する。
図7-6
現金給付などが行われると海外旅行なども盛んになり支払いが増える事になる。日本企業が海外に支払う研究開発費やコンサルティング費も支払いに含まれる。
図7-8
外国人旅行客が使うお金はサービス収支・受け取りに含まれる。ワクチン接種が進みだんだん外国との交流が復活してくると、サービス収支の受け取り部分も増えてくる。
図7-9
景気対策をすれば輸入が増えるということ。これは日本経済にも世界経済にもまた日本国民にとっても好ましい。
図7-10
景気対策は輸出にはそれほど大きな影響を与えない。
図7-14
実質輸出入は、財務省「貿易統計」で公表されている財の名目輸出入金額を、日本銀行が作成・公表している「輸出入物価指数」で割ることにより算出したものである。名目額を物価指数で割り、物価変動の影響を除去することで作成される実質輸出入は、実質的な価値ベースの輸出入の動きを表すこととなる。
図7-15
図7-16
景気対策を行うと内需が拡大し、経常収支は悪化し円安に向かう。その効果が最も大きいのは現金給付である。円安になれば輸出産業に追い風となる。輸入品は値上がりし、その輸入品と競合関係にある国産品にとっては有利になる。一方日本で給料をもらって外国旅行をするときは負担が増す。
図7-20
各国通貨の総合的な価値を示すインデックスで、各国の貿易額に応じて為替レートを加重平均した実効レート指標。例えば円が米ドルに対して高くなっても、ユーロに対して高いとは限らない。日経通貨インデックスの円指数は、円の他通貨に対する総合的な価値を示す。日本銀行が発表する実効為替レートに近い指標。一定期間ごとに基準年次を見直しており、現在は25通貨を2015年=100として、日々算出している。日本円、米ドル、ユーロの3通貨については、日々の値を日本経済新聞朝刊(マーケット総合1面、外為市場/日経インデックス)に掲載している。
図7-21
景気対策が行われなくて海外で稼ぐしか無い時は海外からの所得が増える。景気対策が行われると、海外で稼がなくても自国で稼げる。海外からの所得としては
直接投資収益:親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払
証券投資収益:株式配当金及び債券利子の受取・支払
その他投資収益:貸付・借入、預金等に係る利子の受取・支払
などがある。これらの収入のお陰で経常収支が黒字化する。
図7-22
交易利得・損失とは、ある基準年から交易条件が変化することによって生じる、国内居住者の実質購買力(実質所得)の海外からの流入、あるいは海外への流出のことである。交易条件とは、輸出価格指数を輸入価格指数で除した比率であり、輸入価格に比して輸出価格が上昇(下落)する場合には、交易条件は改善(悪化)し、自国にとって貿易を行うことが有利(不利)となる。
図7-23
第8章 税
生産活動の過程で生み出された付加価値(産出額-中間投入額(企業の原材料に相当))は固定資本減耗と純間接税(93SNA上の正式な用語は、「生産・輸入品に課される税(控除)補助金」。以下同じ。)を除いたあと、各生産要素の間で報酬として配分される。
図8-1
法人事業税は、法人が事業を行うにあたって利用している道路や港湾、消防、警察などのさまざまな公共サービスや公共施設について、その経費の一部を負担する目的で課税されるもの。法人の事業所得に対して地方自治体(都道府県)が課すため、納付先は各地方自治体になる。
図8-2
「広義の社会保険」はまず、会社員が加入する「被用者保険」と自営業者などが加入する「一般国民保険」に分けることができる。「被用者保険」はさらに、狭い意味の社会保険である「(狭義の)社会保険」と「労働保険」に別れる。「狭義の社会保険」は、「健康保険」、「介護保険」、「厚生年金保険」の3つをまとめた総称であり、「労働保険」は、「雇用保険」と「労災保険」の2つを合わせたもの。
図8-3
図8-4は図8-3から一般政府以外の純社会負担(受取)を引いたものになる。
図8-4
家計に対する所得・富税とは所得税である。景気対策によって大きな違いはないように見えるが2023Q1での税収が次のようになる。
現状維持 6.63兆円
消費減税 6.92兆円
公共投資 6.95兆円
現金給付 7.03兆円
図8-5
民間法人企業に対する所得・富税(兆円)とは法人税のことである。法人税は税金を納める人と負担する人が同じなので直接税である。
法人税は単純に会社が儲けた会計上の利益(収益-費用)に課税されるものではなく法人税法上は会社の所得金額(益金-損金)に課税される。
図8-6
土地保有に関する税としては固定資産税や都市計画税などがある。固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)現在の土地、家屋及び償却資産(これらを「固定資産」といいます。)の所有者に対し、その固定資産の価格をもとに算定される税額をその固定資産の所在する市町村が課税する税金である。ただし、東京都23区内においては、特例で都が課税をすることになっている。都市計画税は、都市計画事業又は土地区画整理事業に要する費用に充てるために、目的税として課税されるもの。
図8-7
当然だが消費税率を0%にすれば消費税収はゼロである。景気対策をしなければ消費税収はほぼ横ばいであり、公共投資をすれば、消費税収は徐々に伸びる。現金給付の場合、最初は余り消費も消費税収も余り伸びないのだが、やがて伸びが加速し公共投資を追い越す。
図8-8
税収合計の予測が図8-9である。景気対策をしないなら、ゆっくり増加するとの予測。消費減税の場合は景気が良くなるので所得税や法人税などが増えるのだが消費税収が減るのをカバーできず税収合計は激減する。ただし物価が下がっているのだから、その税収で買える物は実質的に増える。公共投資の場合、税収合計は順調に増えていく。現金給付の場合は立ち上がりは遅いが、やがて公共投資を追い抜く。
図8-9
この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。
本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。