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2021年3月10日 (水)

所得税減税と法人税減税の効果を計算して比較(No.438)

次の2種類の景気対策の効果を日経のNEEDS日本経済モデルを使って計算し比較する。
①10兆円の所得税減税
②法人税を10%下げる
所得税減税や法人税減税には限度があり、単独では現在の日本を救うには力不足であるが、ここではこれらの減税がそれぞれどのだけの効果があるのかを調べる。所得税減税の場合は可処分所得が増加し消費が増えGDPが拡大するから理解し易い。法人税減税の場合はもっと複雑である。法人税を上げて消費税を下げれば金持ちからカネを取り上げて庶民にカネを与えることになると考えている人もいるが、話はそれほど単純ではない。そもそも消費税を下げるなら財源は国債発行にすべきだ。そのときの効果は本書の前半で詳しく述べた。法人税減税は消費税とは無関係に行うべきであり、それには多くのメリットがある。
(1)法人税の減税により純利益が増加すれば、投資にまわす資金が確保できるようになり、新規事業の展開や技術開発を始める企業がたくさん出てくるし企業の競争力が高まる。また個人事業主が法人化する「法人成り」も誘発され、雇用が生まれ失業率が低下する。
(2)海外に出て行った企業、特に製造業を国内回帰させ、企業の空洞化を食い止めることができる。
(3)法人税率が下がれば、海外企業の日本進出が期待できる。そのためには、国内の需要拡大とセットにしたほうがよい。例えば定額給付金などとセットにすると更に効果が大きくなる。海外から見ると日本国内にはお金が無いから日本に投資しても儲からないと思われている。このような景気対策で日本企業の国際競争力を高めることができる。

名目GDPにおいてはこれらの減税で名目GDPは2年後には所得税減税の場合は6.0兆円、法人税減税の場合は5.5兆円押し上げられる。
表1 名目GDP(兆円)

T1

図1

F1
減税により家計の可処分所得は増加する。所得税減税の場合は年間で10兆円なので四半期では2.5兆円で景気がよくなるので2年後には増加幅が約3兆円になる。法人税減税の場合は始まった時は増加幅はほとんどゼロだが、2年後には0.3兆円程度になる。季節により大きく変動しているのはボーナスのため。

表2 家計の可処分所得(兆円)

T2

図2

F2

所得税減税により可処分所得が増えるので消費も増える。一方法人税減税では当初可処分所得はほとんど増えないので消費の増加はほとんどないが、景気回復に伴い可処分所得も消費も徐々に増えていく。

表3 名目家計最終消費支出(兆円)

T3

図3

F3

所得税減税の場合は消費が拡大するので物価を押し上げる。その押し上げ幅は年率0.05%PTであり2%のインフレ目標の40分の1程度である。政府はデフレ脱却を目指しているのだが、ここで調べた程度の減税ではとてもデフレ脱却は無理と言える。

表4

T4

図4

F4
次に示すのはGDPギャップである。この程度の減税ではGDPギャップをプラスにするのは無理だと分かる。


表5 GDPギャップ 季調値(%)

T5

図5

F5

この2種類の減税ではマネーストックの増加は僅かだから景気押し上げも限定的だと分かる。

図6

T6

所得税減税を行えば可処分所得が増え消費が増えるので企業の経常利益が増えるのは当然である。一方、法人税減税の場合は可処分所得はほとんど増えないが、企業は減税で手元により多くの資金が残されるのでその一部を設備投資などに使いそれが景気を押し上げ企業の経常利益の増大を導く。

図7

T7

次の図のように、会社は利益を出しているのに、賃金はほとんど上げない。これが経営者と労働者の経済格差を広げる。格差を縮める最良の方法は現金を全国民に給付することである。

 

表8

T8

図8

F8
ある説によれば法人税を上げれば、経営者は税金で持って行かれないようにとできるだけ利益を出さないように工夫するし、その工夫の一つが設備投資である。この説明が正しければ法人税を上げれば設備投資は増えるし、法人税減税をすれば設備投資は減るはずである。実際はその逆になっており、この説は正しくない。実際は法人税減税により手元により多くの資金が残り、それが設備投資に使われる。

図9
F9
日経平均株価は今後下がっていき、その後回復すると予想している。しかし株価予想はマクロ経済モデルで予想するのは無理だ。ちなみに2021年2月25日現在の株価は30186円であり、この予想よりはるかに高い値となっている。

図10

F10

景気対策のお陰で有効求人倍率は高くなっている。しかし元の1.5倍にまで戻すには力不足である。

図11

F11
有効求人倍率が上がるにつれて失業率は下がっていく。

図12

F12
法人税減税をしたのだから当然法人税収は下がる。一方で所得税を減税したときは法人税収は少し増える。
図13

F13

所得税減税をすれば、当然所得税収は減る。法人税減税を行った場合、所得税収は増加するが、2023Q1でその増加幅は僅か331億円にすぎない。

図14

F14

減税すれば税収が減るのは当たり前だ。実効税率を引き下げれば、経済活性化によって将来の税収も増え、単年度では無理でも中長期的に税収中立に向かうという「法人税パラドックス論」も経済財政諮問会議や政府税調で論じられ始めている。ここでは中長期的な試算はできないので、それを肯定も否定もできない。

図15

F15

国債及び借入金現在高を次にグラフを示した。減税すると増加速度が速まる。だから何か問題があるのか。インフレ率も金利も問題を起こさない。

図16

F16

この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。
本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。

 

 

 

 

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