総裁選:4人の候補者の経済政策の客観的な評価をすべきだ(No.446)
2009年6月2日の朝日新聞に掲載された記事を以下で引用する。
国民が知りたい情報の一つは、各党のマニフェストに盛り込まれた政策を実施した結果、財政収支がどうなるのか、税負担がどうなるのか、経済成長率や失業率がどうなるか、といったマクロ的な分析である。こうした評価を行っているのがオランダである。オランダでは、政府機関として、経済政策分析局(CPB)という機関があり、政府の経済財政見通し等の分析を行っている。CPBは、政府機関であるものの、政治的に強い独立性が与えられている。CPBは選挙前に経済財政見通しを発表するが、全ての政党は、この見通しを政策提案の前提として使うことになっている。各政党は、選挙前に、CPBに対して、彼らの政策提言を提出する。これを受けて、CPBは、そのコストや経済に与えるインパクトを分析するとともに、しばしば、政党の政策提言の矛盾点を指摘する。その比較分析は、歳出・歳入・財政収支、税・社会保険料の負担、消費者物価上昇率、失業率、GDP成長率等、マクロ経済指標を広範にカバーするものであり、各党の政策のインパクトは一目瞭然である。
今回の自民党の総裁選などではマニフェストはないのかもしれないが、それに続く衆議院議員選挙では各党がマニフェストを掲げて選挙戦を戦うものと思われる。選挙民は、話し方、表情、雰囲気、態度などで選ぶ人を決めるのかもしれないが、本当に知りたいのは、誰を選べば自分の期待する政策が行われるのかということだ。その手段としては上述のCPBのような機関が客観的な経済見通しを出すのが最良である。選ばれる側もできるだけよい評価を得ようと工夫を重ねるに違いない。
今回の総裁選で公開討論会が行われているが各候補者に対する質問には、その政策で日本経済が長期低迷から抜け出すことができるのかという質問はほぼ無い。もし聞いたとしても全候補者が上手く煙に巻き視聴者はなんとなく納得してしまう。これでは意味が無い。だからこそ経済政策分析局のような機関が客観的な予測を示した方が良い。そうすればうっかり聞き流した事が実際は重大な意味を持つことも多い。しかしシミュレーションを使い、客観的に予想される経済データを計算すると、驚くほどの違いが出ることが分かる。今回高市早苗氏が物価安定2%目標を達成するまでは基礎的財政収支を棚上げすると述べた事は極めて重要である。我々が日経のNEEDS日本経済モデルを使って計算した結果では物価安定目標2%の達成というのは極めて高い目標であり、例えば毎月10万円を2年間全国民に給付してもまだ2%の目標には達しない。ということは驚くほど財政支出を拡大しても2%の目標に達しないことに気付くだろう。そうであれば高市氏が考えている政策を全部実行してもまだ足りないことに気付くだろう。コロナ対策、国土強靱化、防衛力強化など数々の政策が実行でき、国民の可処分所得は上昇し日本経済は見違えるほど活気に溢れたものになる。これこそがバブル崩壊以降我々が求めていたものである。
それに比べ河野氏の経済政策はひどい。給料を上げた企業には法人税減税をするというが、国税庁によれば赤字法人の割合は65.4%である。赤字企業は法人税はゼロだから、結局法人税減税の恩恵にあずかるのは儲かっている34.6%だけということで、そのような企業はもともと給料が高いし、それらだけを優遇すれば更に格差を広げるだけだ。ここは税率を変えるのでなく、思い切って財政出動をするべきであり、河野氏のように基礎的財政収支の黒字化に邁進する政策では、経済の低迷を招くだけだ。我々は日経新聞社のNEEDS日本経済モデルを使ってどのような政策が日本経済を復活させるかを計算してきた。その経験からして、最も経済を成長させるのは、高市案であり、もっとも停滞を招くのは河野案であると断定できる。
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