ノーベル賞を受賞した経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏の発言(No.444)
20年近く前のことだが2002年5月9日の日本経済新聞の朝刊に掲載された記事で、ジョセフ・スティグリッツ氏は日本に通貨の増発を薦めている。非常に説得力のある議論であり、今日でも十分通用する。
「潜在成長率を大きく下回る状態がこれほど長期化している点が最大の問題だ。通常の景気変動なら一年半か二年の下降局面が過ぎれば回復に向かうところが、日本ではすでに十年に達した。特に懸念されるのは、そうした状態の長期化で楽観主義がはびこるのでなく悲観主義がはびこる社会心理が働いていることだ。それが消費の低迷を招きGDPや投資が縮小する。」「デフレの問題は非常に重要だ。日本をはじめ各国の懸念の対象は長らくインフレであり、経済学の思考パターンもインフレを抑制する方途に感心が集中していた。しかし、デフレの方がはるかに破壊的効果を伴う。デフレにより年々、負債が実質的に膨らんでいくため、黙っているだけでも政府、企業両部門ともバランスシートの内容が劣化していく。」「日本でも徳川時代、八代将軍吉宗がデフレ進行への対抗策の一環として硬貨の縁を削って発行量を増やしたという。その結果、デフレが止まり経済は強さを取り戻した。このようにデフレに関する歴史上の逸話は教訓に富んでいる。昨年、私と一緒にノーベル経済学賞を受賞したアカロフ教授も最近の研究成果の中で最適なインフレ率が存在すると主張している。それはゼロ以上の数値であって、ゼロではない。そのような条件下では、経済はあるレベルまでは拡大していく。つまり、もっと景気を拡張させる。インフレを引き起こさせるような政策が必要なのだ。」「インフレ目標は興味深い考え方だ。日本で議論されている目標は最低限のインフレ率の実現をめざすもので、インフレが進行しないように上限を目標に据えた他国のケースとは異なる。例えば三%程度のインフレ率を目標にするのが良いのではないか。」「金融当局がいまだにインフレに対する警戒を解いてないことが驚きでもあり、いささか不満でもある。問題の焦点はデフレなのだから。」
「ゆるやかな金融緩和、つまり少量の紙幣増発はデフレを打ち消す。ゆるやかな緩和など不可能だという主張があるが、そんなことはない。少量の紙幣を増発すれば、わずかだけデフレを食い止められる、それだけだ。目標のインフレ率を実現できるところまで紙幣を増発しよう。こう発想すれば良い。
増発された紙幣は消費を刺激せず、インフレにつながるだけだとする、矛盾に満ちた主張も一部で見受けられる。消費に回らなければ、どうやってインフレを促進することになるのか。」「問題があるのは金融部門のリストラ (事業再構築) だ。短期的には経済が必然的といっていいほど悪化せざるを得ない。」「企業が苦境に陥れば不良債権が増大する。ある金融機関が十件の貸し出しを見直せば、不良債権が五件増えるという具合に、際限のない抗争のような状態になる。その果てにリストラがまだまだ徹底していないとの批判を受けることになるが、そもそも不況下では十分には実行し得ないのだ。」「需要全体を押し上げて企業が利益を上げられるようにする。債務者が借り入れの返済をして利益を確保でき、銀行も返済を受けて経営内容が改善するような方策、つまりどうしたら成長を刺激できるかを問うべきであって、どうしたら銀行界をリストラできるかを問うては駄目だ。それは永遠に勝ち目のない戦いを挑むようなものだ。」
「円レートを引き下げることが、日本経済が成長を取り戻すために追い風になる。日本を訪れる外国人の大半は円が過大評価されていると感じている。」「米国は、日本が経済成長を取り戻すことが世界の安定につながり、米国自身にとっても好ましいことを認識すべきだ。日本の経済が回復していく過程で発生する事態に対して、米国は報復してはならない。」「時限的な措置の効力を高めるためには二つの方策がある。」「まず、第一の方策として消費税を減税の対象にすることだ。これは、経済全体でバーゲンを実施するような効果が期待できる。今後二年間は消費税を引き下げるので、その間にどんどん買い物をしてくださいというわけで、これなら疑ってかかる人は出ないだろう。」「第二の方策として提言したいのは、投資に対する税額控除だ。計画を上回って投資を実施した場合に、投資額の10、20、30%相当額を控除する。ここでも消費税の場合と同様、次元的な措置は投資財に対するバーゲンとみなせる。これなら企業は投資に動く。」
スティグリッツ氏はクリントン政権の大統領経済諮問委員会委員長であった。これほど日本経済に正しい助言を出せる人が諮問委員会委員長だったのだから、クリントン時代アメリカ経済が伸びたわけだ。彼が辞めてからアメリカ経済は悪化の一歩をたどっている。
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