労働はAI/ロボットに、人間は貴族に(No.455)
2005年に筆者は『ロボット ウィズ アス 労働はロボットに、人間は貴族に』という本を出した。将来はロボット/AIが労働を代替してくれるので、人間は国からお金を受け取って、自分で好きな事を職業として選ぶようになるという説だ。しかし現在の日本では実現は困難を極めると感じることがある。2009年に自民党清和会の政策研究会の講師として招かれ、様々な政策提言を行った時のことだった。全般的に好意的に受け入れて頂いたのだが、農業のAI/ロボット化に関する北大の研究を紹介したときだった。これは紹介しただけで、政策提言ではなかったのだが、議員の一人が凄まじい怒鳴り声でこの研究を非難した。農民の事が分かっていないといい、くだらない研究はするなと言いたいようだった。農民の立場だと小規模農家で多額の助成金を貰い、町に出かけて副業で稼ぐといった生活を守りたいということだろう。零細農家を続ければいつまでも零細のままだ。大規模農家でつくった農産物が外国から入ってきてどんどん苦しくなる。
これはゲームの理論でいう囚人のジレンマだ。農家が共同で大規模農場を経営すれば、お金持ちになれるのにそれをやらないから貧乏なままだ。例えば北海道十勝にある更別村にはお金持ちが多い。農地の大規模化をして農家1戸当たりの平均収入は約5000万円である。同村は国家戦略特区「スーパーシティー」指定を目指している。稼働する自動走行のトラクターは400台以上。東大大学院農学生命科学研究科は今年11月にサテライトキャンパスを設置。教員も常駐させ、村は演習農場を東大に提供する。農薬散布のためのドローンは約5台で、衝突防止のため、電波の規制緩和の実験をしたいという。全地球即位システム(GPS)で自動走行するトラクターの規模はおそらく日本一だそう。村内には高速通信規格5Gの基地局が5基ある。
元々日本は今より大規模農業を行っていた。戦後(1946~48)、農地改革を行った結果、小作農を行っていた人達の暮らしは大幅に改善された反面、農地を小さく分割してしまった。政府は農地バンクという制度を利用して農地の大規模化を進めている。外国人労働者も入れにくくなっている現在、平均年齢66.8歳の農業従事者にとって、農業は重労働だろう。政府は大至急「スーパーシティー」指定された特区を全国に広めて農民を助けてほしいものだ。
農業は必ずしも広い国土を必要とするわけでもない。オランダのような小さな国でも、農産物輸出額は米国に次ぐ世界2位である。巨大なハウスの運営において経営者、栽培のスペシャリスト、営業など、分業化が進んでいる。ハウス内の環境整備が徹底しており、湿度、温度、二酸化炭素濃度、外の天気、与える水の量、誰がどこでどのように働いているかなど、栽培に必要なあらゆるデータが一括でコンピュータにより管理されている。要するに徹底した生産性を上げる取り組みだ。例えば1ヘクタール当たりの穀物の収量は、世界平均の2倍以上の約8300kg/haある(日本は5900kg/ha)。先進的な農業には、巨額の資本が必要であり、個人で始めるのは簡単ではない。大企業の参入を助けるか、国が助成するかが必要になるだろう。大規模な植物工場なら黒字の可能性はある。
7~9月期のGDPは年率3.0%減と発表された。他の先進国がコロナ禍から経済を建て直している今、日本は落ち込んだままだ。余程大規模な財政出動をしないと立ち直れない。是非岸田首相にはじっくり考えて頂きたい。