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2021年11月

2021年11月15日 (月)

労働はAI/ロボットに、人間は貴族に(No.455)

2005年に筆者は『ロボット ウィズ アス 労働はロボットに、人間は貴族に』という本を出した。将来はロボット/AIが労働を代替してくれるので、人間は国からお金を受け取って、自分で好きな事を職業として選ぶようになるという説だ。しかし現在の日本では実現は困難を極めると感じることがある。2009年に自民党清和会の政策研究会の講師として招かれ、様々な政策提言を行った時のことだった。全般的に好意的に受け入れて頂いたのだが、農業のAI/ロボット化に関する北大の研究を紹介したときだった。これは紹介しただけで、政策提言ではなかったのだが、議員の一人が凄まじい怒鳴り声でこの研究を非難した。農民の事が分かっていないといい、くだらない研究はするなと言いたいようだった。農民の立場だと小規模農家で多額の助成金を貰い、町に出かけて副業で稼ぐといった生活を守りたいということだろう。零細農家を続ければいつまでも零細のままだ。大規模農家でつくった農産物が外国から入ってきてどんどん苦しくなる。

これはゲームの理論でいう囚人のジレンマだ。農家が共同で大規模農場を経営すれば、お金持ちになれるのにそれをやらないから貧乏なままだ。例えば北海道十勝にある更別村にはお金持ちが多い。農地の大規模化をして農家1戸当たりの平均収入は約5000万円である。同村は国家戦略特区「スーパーシティー」指定を目指している。稼働する自動走行のトラクターは400台以上。東大大学院農学生命科学研究科は今年11月にサテライトキャンパスを設置。教員も常駐させ、村は演習農場を東大に提供する。農薬散布のためのドローンは約5台で、衝突防止のため、電波の規制緩和の実験をしたいという。全地球即位システム(GPS)で自動走行するトラクターの規模はおそらく日本一だそう。村内には高速通信規格5Gの基地局が5基ある。

元々日本は今より大規模農業を行っていた。戦後(1946~48)、農地改革を行った結果、小作農を行っていた人達の暮らしは大幅に改善された反面、農地を小さく分割してしまった。政府は農地バンクという制度を利用して農地の大規模化を進めている。外国人労働者も入れにくくなっている現在、平均年齢66.8歳の農業従事者にとって、農業は重労働だろう。政府は大至急「スーパーシティー」指定された特区を全国に広めて農民を助けてほしいものだ。

農業は必ずしも広い国土を必要とするわけでもない。オランダのような小さな国でも、農産物輸出額は米国に次ぐ世界2位である。巨大なハウスの運営において経営者、栽培のスペシャリスト、営業など、分業化が進んでいる。ハウス内の環境整備が徹底しており、湿度、温度、二酸化炭素濃度、外の天気、与える水の量、誰がどこでどのように働いているかなど、栽培に必要なあらゆるデータが一括でコンピュータにより管理されている。要するに徹底した生産性を上げる取り組みだ。例えば1ヘクタール当たりの穀物の収量は、世界平均の2倍以上の約8300kg/haある(日本は5900kg/ha)。先進的な農業には、巨額の資本が必要であり、個人で始めるのは簡単ではない。大企業の参入を助けるか、国が助成するかが必要になるだろう。大規模な植物工場なら黒字の可能性はある。

7~9月期のGDPは年率3.0%減と発表された。他の先進国がコロナ禍から経済を建て直している今、日本は落ち込んだままだ。余程大規模な財政出動をしないと立ち直れない。是非岸田首相にはじっくり考えて頂きたい。

 

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2021年11月 8日 (月)

小規模の現金給付だけでは、日本経済の復活はできない(No.454)

岸田内閣で現金給付の可能性が議論されている。現金給付のあり方についてJNN世論調査では
全国一律        28%
18歳以下        9%
生活困窮者       42%
現金給付すべきでない  18%
という結果が出た。日本には現状に満足する人が多いようだ。分配を重視する考えも多い。金持ちからお金を取って貧乏人に配るというアイディア。一方で世界の中で見れば日本の金持ちの没落が激しい。1989年には時価総額ランキングの20位以内に日本企業は14社もいたが、今はゼロ。最高のトヨタですら、世界で41位で台湾や韓国の企業などより遥かに劣る。また世界の長者番付で1989年、日本人は10位以内に6名いたのだが、2021年現在日本のトップは孫正義の29位だ。孫正義は日本で稼いだわけではない。こんな貧乏な日本の大企業やお金持ちからお金を取り上げたら日本は壊滅だ。なぜ日本が一気にこんな貧乏な国になったかと言えば、政府が通貨を発行して国民にお金を渡さなかったからだ。政府は通貨発行権を持つのだから徐々にお金を発行し渡していけば国も国民も豊かになっていくし企業の国際競争力は増す。

なぜ政府は通貨発行を拒否し続けるかといえば、通貨発行のプロセスが借金増大と錯覚を起こすようにできているからだ。国債を発行し、市中消化をし、その後日銀が買い取る。これは通貨発行のプロセスに過ぎないが、これは将来世代へのツケを残すという集団催眠に陥り、通貨発行が社会として受け入れられないこととなった。日本以外の国が通貨発行で力強く発展している中で、日本だけが通貨発行を拒否すれば、世界の中で日本だけが貧乏になり、「カネ」を持たない国、日本から国土・企業・人材などが次々買い取られ、企業が海外に逃げていき、貧困化が急速に進む。残念ながら、この最悪の政策を岸田内閣も続けるようだ。

昨年は特別給付金の10万円が全国民に配られた。コロナ禍という状況で緊急に取られた措置だったが、その程度ではとても足りない。我々は日経のNEEDS日本経済モデルを使い毎月10万円を全国民に給付すれば、経済を成長軌道に乗せることができることを示した。現在出されている公明党案では18歳以下に10万円の給付ということで全員給付に比べ6分の1の規模だし、1回限りということになれば我々の提案する12回給付に比べれば実に72分の1でしかない。GDP押し上げ効果をグラフ化したら、虫眼鏡で拡大しても見分けがつかないくらいの微細な効果しかないだろう。自民党案でも収入制限をつけて1回限りということで、公明案と50歩100歩だ。いずれにせよ、もらえなかった人から苦情が続出するだろう。

かつては追いつき追い越せと先人達が頑張ったお陰で日本は世界で最も裕福な国の一つになり奇跡の経済復興と呼ばれ世界が注目した。その後の落ちぶれ方も世界に他に類を見ないほどだ。どうやれば再びリッチな国になれるのか、是非一度我々の本を読んで頂きたい。
井上智洋・小野盛司『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』扶桑社、(2021)
小野盛司・荒井潤・増山麗奈・山下元『ベーシックインカムで日本経済が蘇る -シミュレーションで明かになった驚愕の事実-』宮帯出版、(2021年内に発売予定)

現金給付を受け取らず、日本を貧乏にしたいと考える冷血な人は反対すればよい。不満は残っても、日本経済を復活させたいという崇高な志を持つ人は、現金給付を受け取って欲しい。直ぐに使うか貯金するかは個人の自由だ。

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2021年11月 1日 (月)

「財務省設置法」の健全財政義務付けをほぼすべての政党が違反(No.453)

財務省設置法第一章第三条は、財務省が健全な財政の確保を行うことを任務とすると規定している。この財政の健全化に対して、ほぼすべての政党が違反しており、このような法律は改正すべきではないか。

自民党の岸田・新総裁は総裁選挙のあとNHKの単独インタビューに応じ、新型コロナウイルスを乗り越えて経済に活力を取り戻したいと強調し、年内に数十兆円規模の経済対策をまとめる考えを重ねて示した。これは財務省設置法に違反している。公明党の山口代表が「18歳以下に10万円相当給付」を主張しており、それ以外にも様々な政策が述べられていて、明かに財務省設置法に違反している。

令和新撰組はプライマリーバランスは破棄と述べ、国民民主党は積極財政政策を主張、全国民への給付金の再支給にも言及しているので明かに財務省設置法に違反している。立憲民主党と社民党はプライマリーバランスは当面棚上げを主張しているので、財務省設置法に違反している。

財務省設置法第三条によれば、財務省はどんな危機に際しても財政健全化を任務としている。これはほぼすべての政党の主張に反していて実情に反している。昨年はコロナ禍でパートの多くのパートの職が奪われ飲食店などの営業が厳しく制限され、経済的に極めて厳しい立場に立たされた。政府は財政健全化を無視し、大規模な財政出動で国民を助けた。全国民への10万円の給付も行われた。明らかな財務省設置法違反である。もしも違反せず、財政健全化を優先していたら、悲惨な結果となり、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という憲法第25条に違反することになった。つまり、財務省設置法第一章第三条は憲法25条に違反しており、廃止すべきだ。この条文を廃止または改編するということは、反対する党はほとんどいないのではないか。衆議院議員選挙は終わってしまったが、この法律を選挙戦で議論してほしかった。

積極財政を行えば財政健全化に反してしまう、つまり財務省設置法違反ということになる。内閣府は毎年2回「中長期の経済財政に関する試算」を発表している。これには今後10年近くまでの予測をしている。この予測では財政黒字化は決してあり得ないし、基礎的財政収支という意味でも、黒字化はかなり先のことだ。しかし財政赤字、または基礎的財政収支の赤字が財務省設置法違反ということなら、非現実な法律だと言わざるを得ない。この試算では基礎的財政収支の赤字または財政赤字の場合でも国の債務の対GDP比は下がり続けている。債務のGDP比が下がれば財政健全化が達成されたことになるのであれば、そのように条文を書き直すべきだ。その場合でもコロナ禍のような非常事態であれば財政健全化を棚上げし、財務省設置法違反をせざるを得ないのだから、この条文は現実に即したように変えるべきだ。

 

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