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2022年1月

2022年1月26日 (水)

2022年1月14日に発表された「中長期の経済財政に関する試算」に関し内閣府計量分析室に電話して質問しました(No.458)

Q 成長実現ケースですが、全要素生産性は1982年から1987年までの5年間で0.9%上昇した。これと同じだけ全要素生産性がこれから上昇すると仮定して計算していますね。
A はい。
Q この時期は公定歩合を大きく下げ銀行も貸し出しを大きく増やしたりして特別な時期でしたね。
A そうでしたね、はい。
Q こういう状況が再び訪れようとしていると思っているのですか。
A おっしゃるとおり、当時とは状況が違うということがあるかも知れないのですが、我々としましては、成長実現ケースというのは、骨太の方針2021年度の中で実質2%、名目3%という成長を目指すという事を基に、それが実現した場合には全要素生産性がそのように上がっていくというのが成長実現ケースというものです。もちろん、ご意見は色々あると思うのですが、今の経済財政運営のスタンスが実現すればこういうように全要素生産性はこうなると仮定を置いているということです。
Q 最近発表された全要素生産性は0.3%~0.4%でずっと低迷していますね。
A はい。
Q それにも拘わらず何年間もの間全要素生産性が急上昇すると仮定をして計算をしていて、それが全部嘘だったわけです。これはやり過ぎだったのではないか。あり得ない仮定ではないか。バブルが今すぐに来るだろうという主張は全く適切ではないのではないか。
A おっしゃるとおりです。こういった試算の時によく言われます。
Q この試算を見て岸田内閣が現状の政策でこんなに成長すると思われてしまうと困りますね。全要素生産性はそんなに上がったり下がったりするものではなく、余程大胆な政策変更をしない限り変わらない。
A そうですね。
Q 政府の方から圧力が掛かっているかも知れませんが。
A いいえ、そんなことはありません。
Q 私は困ったものだと思っています。
  2021年度には歳出が142.6兆円という大きな額になっていますが、2022年度は107.6兆円に下がっています。つまり35兆円も歳出が下がっています。
A はい。
Q それだけ歳出が減少すると名目GDPも相当減少するはずです。それなのに試算では2021年度は544.9兆円、2022年度には564.6兆円と逆に20兆円も増えています。マクロモデルで計算してこんな結果はあり得ないと思います。
A この部分の試算は「政府経済見通し」で示されている成長率になっていて、詳しくはそちらで聞いていただいたほうがよいのですが、そこで出された経済見通しを採用させてもらっております。
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著者コメント
政府経済見通しは令和4年1月17日に閣議決定の後、発表されている。
https://www5.cao.go.jp/keizai1/mitoshi/2021/r040117mitoshi.pdf
これは「天の声」であり、どんな馬鹿げた数字が並んでいても計量分析室で変更することは許されない。
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Q どうしてこういう政府見通しになったのだろうと思いますね。計量分析室では自分たちは関係無いよというのですね。でもね、これってやり過ぎでしょう。閣議決定をされたからこれに従わざるを得なくなったということですか。
A 一応見通しの中では今回組まれた2021年度の補正予算を着実に実行することによって民需主導で自律的な成長ができるという考え方の基に22年度の成長率がつくられているというところがあります。
Q でもオミクロンもありますし、民需に期待すると言っても外国からの人も入って来られない(インバウンド)状況でどうやってこのGDPを稼ぎ出すのだろうと心配しています。
A おっしゃるとおりで、「見通し」の中でもオミクロンがでたばかりだったので、それを考慮しなかったと思います。その点に関しましてはリスクとして書いてあったと思います。
Q 毎年、「見通し」でかなり見誤っているという気がしますね。実は見通しでなく目標なのかもしれません。見通しと言いますがモデル計算ではないわけですよね。
A 確かにモデルではなかったのかもしれませんが、モデルみたいなものがあったような気がします。これは担当の方に聞いて頂ければよいのですが、確かに甘いと言われればそうかもしれません。
Q 歳出を大きく減少させればGDPは減りますよね。
A 前年度と比べたらということですね。
Q そういうモデルになっていると思うのです。その逆になっていたら信用できない。歳出を削減すればGDPが上昇するというモデルを誰が信じますか。
A 確かにそうですね。
Q 税収が随分増えるのですね。2020年度は45.2兆円しかないのに2021年度は76.0兆円に増えています。確定値ではないですよね。
A はい、確定値ではありませんが2022年度予算のとき見積もった。上振れが起きています。
Q 税収が増えた。2022年度だと、補正予算がないとすれば税収はかなり減るかと思ったのですがそんなに減らないしその後もかなりの高水準を保っている。1年前に発表された税収予測に比べても増えている。コロナで傷ついた経済なのに税収はそんなに増えるものなのか。これは基礎的財政収支の黒字化を早めるための工作でしょうか。
A そういう意図的なものは無いのですが、今回上振れたというのは2021年度の補正予算が出たことによって税収が上振れした。まず税収の発射台が上がっています。税収は我々のモデルでは経済成長に従って上昇するということで結果的には上ぶれているということになっています。
Q 全要素生産性がかなり効いているのですか。
A 回り回って、そういうことにもなりますね。
Q だから全要素生産性でさば読んでいるのではないかと考えると、これはやり過ぎということではないですか。名目GDPは実際は増えてないのに、随分増えると予測しています。実際はGDPは30年近く、ほとんど上がっていない。ドル表示で見ると下がっているくらいだと思います。
A ああ、ドル表示だと。
Q 円安になったらドル表示だと下がってしまう。それなのに、試算ではGDPが勢いよく上昇している。確かに3%成長すれば上がります。それは政府が夢見た成長なのでしょうが夢は実現してないから現実を見る必要もあるのではないでしょうか。
A はい。
Q 2022年度は3.6%成長というようにどんどん上がっていくことになっています。ほんとにそうかなと思います。
A そうですね。
Q じゃあ、どうすれば上がるのか。岸田首相は給料が上がれば良いとお考えです。給料を上げると固定費が増加し収支が悪化しますから設備投資ができなくなる。そうすると外国のお金持ちの企業に比べ設備投資が見劣りし、競争に負けるのではないかと思います。
A そうですね。岸田首相は成長と分配の好循環とおっしゃっておりまして成長すればよいのですね。でも分配を大きくすると設備投資ができなくなる。
Q そうでなくとも、時価総額で劣るわけです。平成元年の頃は時価総額ランキングでトップ10の中に7社も入っていました。今は1社も入っていなくてトップのトヨタですら40位くらいです。日本企業は随分貧乏になってしまった。私の考えでは全要素生産性を上げてGDPを上げるというのは夢物語で、あの頃のように金融緩和で大変なバブルを発生させた1987年までの5年間のような経済にできるわけがありません。金利はあの時のように下げられません。銀行貸出を大きく増やすことも、今は企業も個人もあのときのようにはできません。カネを借りて投機すれば大儲けができる環境にない。設備投資が進まないと韓国、台湾、中国にどんどん抜かれていってしまう。一人当たりのGDPも韓国や台湾に抜かれてしまう。だから内閣府計量分析室に私は非常に期待をしています。政府に教えてやって欲しい。3%成長をしようと思えば全要素生産性を大きく増やすのは無理で、やはり歳出を増やさなくてはならない。
A なるほど。
Q 歳出を増やせばハイパーインフレになるとか国債が暴落するとかと言う人もいますが、内閣府のモデルで計算してみればそんなことにはならないと分かるはずです。コロナ禍で歳出を随分増やしましたが円の信認が失われることも、ハイパーインフレになることも、国債が暴落することもありませんでした。物価上昇率はまだ低すぎるくらいです。
A はい。
Q だから歳出をもっと増やしてよいのだと思います。全要素生産性を変えずに歳出を増やした場合と増やさない場合を比較して欲しい。公開が難しければ、せめて岸田内閣の方々にだけでも結果を教えて欲しいのです。どの位歳出を増やせば3%成長ができるのかを示して頂きたい。「政府経済見通し」とは関係無く、発射台としては現状の経済データをそのまま使って計算して欲しい。インフレ率がどうなるかを正直に伝えて欲しいと思います。その結果に基づいて歳出拡大をすべきかすべきでないかを政府に検討させて欲しい。
A なるほど。全要素生産性を変える場合ではなく、歳出を増やす場合と増やさない場合ですね。
Q 全要素生産性を増やすのは大変です。1982年から1987年の5年間の経済を再現するということ、これはプラザ合意の後、日本は内需拡大を求められたわけです。金利を大幅に下げ、銀行は無茶苦茶な貸出をしました。株や土地に投資すれば、大変な収入になるのだと言い、とんでもない額の貸出をし株や地価が急騰しました。結果としてその後バブル崩壊で、不良債権が発生し、日本経済は一気に没落してしまいました。バブル発生時の経済状況にするなら、全要素生産性は上がるかもしれませんが、バブルを発生させるのは極めて危険です。しかし単に歳出を上げるだけなら、行き過ぎたと思えば歳出を下げればよいだけです。
A なるほど。
Q そうすればよいと思うのですがダメですか。
A 我々は経済財政運営はできませんので。
Q 歳出を変えるだけでコンピュータを走らすのは簡単でしょう。公開しなくても、結果を岸田さんとか高市さんとかに教えるだけでもいいですよ。
A はい。ご意見を承りましたということで。我々の試算とは別に乗数分析をやっておりまして、その表をご覧になって頂きたいと思います。
Q その乗数表を見れば歳出を増やせばGDPは増えるということになっていますよ。2021年度から2022年度で、歳出は大幅に下がったのにGDPは大幅に上がるというのは乗数分析の結果に反していると思いますよ。
A そういうことですね。
Q だから「政府経済見通し」がネックになっていているわけで、もうこの見通しを発射台にすることを止めて、現状をスタートポイントにして計算したほうがいいですよ。全要素生産性を変えるのは問題がありすぎます。全要素生産性は一般の人には縁遠い存在なので1982年からの5年間という、日本経済が異常な状況にあったむしろ極めて危険な試みを行っていた時の全要素生産性を採用するのは大きな問題だと思います。
A はい。ご意見は承りました。本当にご意見を反映できるかどうか分かりませんが、承りました。また何かありましたらお知らせ下さい。
Q はい、宜しくお願いします。

参考資料:
内閣府のモデルの乗数は

https://www5.cao.go.jp/keizai1/mitoshi/2021/r040117mitoshi.pdf


にあります。これによると、政府支出をGDPの1%相当を増やすと、GDPは1.16%上昇するとなっています。2021年度に比べ2022年度は35兆円政府支出が減っているので、GDPの6.4%相当減少しています。ということは2022年度のGDPは7.45%減少しなくてはなりません。これは40.6兆円GDPが減少しなければならない事になります。
しかし試算では19.7兆円増加することになっています。そんな支離滅裂な数字が閣議決定されたわけです。実際は岸田内閣はマイナス成長を容認しないでしょうから、そんなに政府支出を減らすことはせず、結果としては基礎的財政収支の赤字は拡大することになるでしょう。

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2022年1月21日 (金)

内閣府計量分析室は経済試算を偽装している(No.457)

内閣府は毎年2回、経済予測を発表してきた。
発表された試算でGDP成長率は下図のように毎年力強く成長すると予測しているが実績は成長は極めて遅い。内閣府計量分析室の職員は政府に雇われている身であり、政府が名目3%成長すると言っている限りこのようなグラフにするしかないのだ。ということはどこか国民の気付かないところで偽装するしかない。

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このような現実離れした成長率をでっち上げるために使われたのが全要素生産性である。各試算のために使われた全要素生産性が「成長実現ケース」でどう変化させたかと以下に示す。

2017年1月 全要素生産性(TFP)上昇率が足元の水準(2015 年度:0.8%)で 2016 年度まで推移した後、2020 年代初頭にかけて 2.2%程度まで上昇する
2017年7月 2019年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2018年1月 足元の水準(0.7%程度)から1.5%程度まで上昇する
2018年7月 足元の水準(0.6%程度)から1.5%程度まで上昇する
2019年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2019年7月 足元の水準(0.4%程度)から1.2%程度まで上昇する
2020年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2020年7月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2021年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2021年7月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する 
2022年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する 
つまり全要素生産性が急激に上昇すると仮定して毎回計算している。全要素生産性の急上昇に何か根拠があっての仮定かというとそうではない。そもそも全要素生産性はどのように推移してきたかを示す。
                         出所:内閣府1_20220121120901

内閣府は全要素生産性を1982年度から1987年度までの全要素生産性の急上昇が今の日本で起きると仮定して毎年試算を行っている。この期間はバブル期だ。日銀は公定歩合を大きく引き下げた。公定歩合は1986年に5.0%だったのが1987年2月には2.5%に下げられた。金融機関は投機のための資金を積極的に提供した。1986年にはNTT株が売り出され、2か月で売り出し価格の3倍に達し、投機ブームが起きた。地価も株価も激しく上昇していた。この試算では当時の経済が今日以後再現すると仮定している。実際は全要素生産性は0.3%~0.4%に留まっているのに、これが今日からはバブル期並に上昇すると仮定している。しかも毎年同じ仮定が使われている。全要素生産性の仮定など誰も気にしないだろうと考えたのだろうか。これは予想ではなく偽装というべきだ。

2_20220121120901

 

この偽装は内閣府計量分析室に責任があるのではなく、日本経済の実態を正しく説明することを許していない政府の責任である。このような偽装を続ける限り、日本経済の没落、日本の貧困化は終わらない。

経済を成長させたいなら、唯一の方法は政府支出の増加であることは以下のグラフからも明かであり政府支出の増加で経済はどうなるかを内閣府は計算して発表すべきだ。

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出典:朴勝俊先生
Twitter https://twitter.com/psj95708651/status/1325562650978181122

府支出の増加で経済はどうなるかを示すシミュレーションは以下の文献を参照。

『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』扶桑社 (2021/1/21) ASIN : B08T97FCHZ 井上智洋、小野盛司
『ベーシックインカムで日本経済が蘇る シミュレーションで明かになった驚愕の事実』小野盛司、荒井順、増山麗奈、山下元(宮帯出版 2022)

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2022年1月15日 (土)

ベーシックインカムで日本経済が蘇る(No.456)

シミュレーションで明らかになった驚愕の事実

日本経済復活の会は20年前から日経新聞社と契約し、NEEDS日本経済モデルを使って日本経済を復活させる方法を示しております。我々のシミュレーションに対し、世界を代表するノーベル経済学賞受賞者達から高い評価を受けています。
https://www.ajer.biz/letter.html
この計算により驚くべき事実が明かになりました。日本経済は過去30年間、世界最低レベルの低成長を続けているのですが、国民全員に一定額の現金給付を行うと見違えるように経済状態が良くなるということです。その結果を本にまとめて出版することができました。大変多くの方々のご協力、ご指導、ご支援を頂きました。深く御礼申し上げます。

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