もう一度、内閣府計量分析室に電話して聞いてみた(No.461)
A 計量分析室です。
Q 中長期試算ですが2021年度の歳出が142.6兆円、2022年度が107.6兆円と大幅に下がっています。ところが実質成長率は2.6%から3.2%に、名目は1.7%から3.6%と大幅に上がっています。
A はい。
Q マクロモデルで計算をするとそういうことはあり得ないと思います。
A こちらについては政府経済見通しの中で推計された数字を採用している。2022年度の国の一般会計については予算そのものを使っている。GDP成長率は政府経済見通しでそういう高い数字になっているということです。
Q 政府経済見通しは1月17日に発表されていて、実質成長率は2.6%から3.2%に、名目は1.7%から3.6%と大幅に上がっているのは、計量分析室の試算と同じです。
A はい。
Q ところが政府支出は2021年度の歳出が147.9兆円、2022年度が148.6兆円となっていて、分析室の試算とは全然違います。
A 政府経済見通しの政府支出は国民経済計算という統計の基に計算されていて、内閣府試算の107.6兆円という数字は予算書からつくっている国の会計ベースの数字になります。会計ベースと国民経済計算でどこが違うかというと、計上する時点が異なっている。会計ベースだとお金を払ったタイミングで計上されるが、国民経済計算では発生主義という方法をとっていて実際に支出されて効力が発生した段階で記録される。2021年度に予算を計算したものが、お金を払われたとしても2022年度に効果が発現するということなので、会計ベースで見たときに2021年度の140兆円の効果が2022年度に発現するということになり政府経済見通しで2022年に発現するということになります。
Q マクロモデルで計算すれば、歳出が減ればGDPも減ると思います。政府経済見通しで書いてある数字だとそうかもしれないが、試算のほうではあり得ないでしょう。GDP成長率で政府経済見通しのものを丸写しするのなら政府支出も丸写しすべきではなかったのか。
A 政府最終支出も整合的になっていて、107兆円というのはあくまで予算・決算の数字、会計ベースでのもので、国民経済計算では発生主義という考えで、会計ベースよりも遅く発現する。予算で実際令和3年度で計上されたとしても、地方とかで実際執行するタイミングがずれる。そういうことが考慮された場合令和3年度に積んだものが令和4年度に政府支出が上がるということになります。今回私たちの出した国の一般会計歳出というのは予算の数字なので実際令和4年度に支出されるという数字になっているのですが、国民経済計算のベース上は令和3年度の予算が令和4年度にのってくる。それが国民経済計算の数字になるので整合的になっています。
Q 予算ベースだと令和3年度も歳出は107兆円前後だったと思うのですが。
A 補正予算がなかったらということですね。令和3年度の補正予算は今回12月に成立した。12月に成立した場合かなり遅くなるので、令和4年度に歳出されることもあります。
そうなった場合会計に記録されるのは分析室の試算で計上されるのは令和3年度だけですが、国民経済計算では令和4年度に載ってくる。このように計上するタイミングが変わって来る。
Q 政府経済見通しからGDPや成長率を丸写しするのなら、政府支出も丸写ししなければまずいのではないですか。
A 国の一般会計歳出というのは会計上の歳出であって、我々のPBを計算する上で、成長率を計算する上でSNA上に概念を変換して行っているので政府経済見通しと一緒ですし令和4年度以降も同じ事をやっているということですね。
Q 会計上も140兆円にしなければいけないのではないか。
A 予算の数字は会計ベースでその年内に計上されている数字なので107兆円という数字を載せている。
Q 歳出が22年度で107兆円でそれ以降はずっと100兆円台ですよね。歳出が激減してもGDPが伸び続けているというのがモデルとして理解できない。
A 147兆円が107兆円に下がった動きがGDPに影響しないのはおかしいということですか。
Q はい、歳出が35兆円下がり、その後も下がったままです。それならGDPも下がったままになるはずなのに、試算では上がりっぱなしなのはおかしいということです。
A 会計上の支出と国民経済計算上の政府支出は別物と考えて頂いて、実際に147兆円から107兆円になるような崖の動きは国民経済計算上の成長率の計算であれば令和4年から令和5年にかけての動きに現れていると言ってもいい。中長期試算の実質成長率の数字をご覧頂くと22年度は3.6%ですが、23年度は2.1%に下がっているところがある。これはつまり22年度に政府支出が積まれていた分が剥落してこういった動きになる。会計上の財政の崖と国民経済計算上の財政の崖がずれていることがここで確認できるかなと思います。
Q 政府経済見通しからGDPや成長率を丸写しするのはまずいのではないですか。考え方が全然違うのだから。
A でも変動率の計算は統計の考え方で行うのでそれは整合的だと思います。
Q だったら政府支出も丸写ししたほうがよかったのではないか。
A 計数表がちょっと分かりにくくなった。ここでは会計上の数字を載せているので、会計上の数字とGDP計算上の数字が違うということをご理解頂ければと思います。
Q これはモデルにそっていないなと思います。
A モデル上も一般会計上の数字を国民経済計算の数字に変換した上で成長率をつくっているのでここでモデルでやったとしても整合的になるという理解です。結局御指摘の2022年度ですがGDP計算上は1年ずれて起こっているということです。
Q 正直にモデルを走らせた場合歳出がこれだけ減ったらGDPに影響しないのはおかしい。今言われたような調整を行っているという注釈があればそんなものかと思いますがそんな注釈はないでしょ。モデル計算としては説明不足でしょう。モデルの乗数も出しておられます。それに従えば、これだけ歳出が減ればGDPは相当減りますよ。
A 公表されている情報が足りないかもしれないですね。
Q 歳出が23,24,25年度など100兆円レベルですね。
A はい。
Q それなのにGDPは落ちない。ここはモデルを使っているわけでしょう。
A 歳出自然体といった仮定を置いています。
Q そういう仮定だったらもっとGDPは低くなるのではないですか。
A 我々のGDP計算は潜在成長率とのギャップのところで動くようにしています。たしかにおっしゃられる通りですね。
Q 全要素生産性をぐんと上げてGDPを押し上げているように見えますがそんなに上がるわけ無いとほとんどの人が思っているのではないですか。基礎的財政収支の黒字化を早めて政府のきげんを取ろうと、忖度しようとしていることが見えている。見え見えです。忖度のない日本経済の姿を発表しないと岸田さんも理解できないです。今の政策で基礎的財政収支は黒字化し、しかも成長すると誤解してしまう。つまり歳出は削減してもよいと錯覚してしまう。成長はするし基礎的財政収支は黒字になる。今の政策で完璧だ。もっと緊縮しても十分だと政府が錯覚してしまう。このモデルの裏まで調べる時間は岸田さんは無いでしょう。側近が理解してくれればよいのですが、それも無理でしょう。その繰り返しが現在に到っています。20年以上、日本のGDPは増えていないでしょう。
A はい。
Q 日本は3%成長するのだと、ずっと昔から言っている。
A そうですね。
Q もし20年前から3%成長を続けていたら今頃は1000兆円を超えていますよ。
A はい。
Q 内閣府の方で、今の政策では大変なことになる。これから一人当たりのGDPで韓国など近隣諸国に追い越されて日本は貧乏な国になっていっている。そんなはずじゃなかったと歴代の総理は思っているのではないか。彼らは内閣府の試算を見て、現在の政策でよいのだと誤解して政策を続行した結果が今の日本だと思います。これからまたこんな調子でゼロ成長がずっと続いていたら惨めなことになる。かつて日本は一人当たりのGDPで世界最高レベルでした。1990年頃、内閣府でいつも発表していたのは、一人当たりのGDPは世界最高だと言っていました。新聞に日本が世界一と出ていました。そのうちルクセンブルグのほうが上だったと過去に遡って修正がありました。内閣府の古い資料を見れば日本が世界一だと書いてあり、私もその資料は持っています。その頃に比べ日本経済は衰退し、今や1人当たり名目GDPはトップクラスの国々の3分の1にまで落ちました。その理由は内閣府で間違った試算を出していること、狂った羅針盤とも呼ばれていますが、これが政府に誤った道を選ばせたわけです。今のままではとんでもないことになります。そろそろ内閣府も反省し、今の政策では3%成長は無理だし、2%のインフレ目標も無理です。どうすべきかを国が真剣に考えるべき時が来た。単純に歳出を増やすと3%成長するのかを正直に発表すべきです。どのくらい歳出を増やすのかは、すでに発表されている乗数を使えばすぐ計算できます。
A はい、そうですね。
Q 歳出を増やす場合と増やさない場合を比較して、その結果を岸田首相に見せれば分かってもらえます。
A 潜在成長率が高い場合と低い場合を比較するのでなくて歳出を増やす場合と増やさない場合を比較するのですね。
Q そうです。是非、考え直して下さい。
A はい。実際反映できるかどうか分からないですが、ご意見を承らして頂きました。
Q 計量分析室の中で問題意識を持って頂きたいと思います。
A そういった声があるということは受け止めた上で作成するようにしたいと思います。
Q 是非頑張って下さい。
A はい、ご忠告有り難うございます。今後もよろしくお願いします。