基礎的財政収支黒字化目標を撤回し積極財政政策に転換せよ(No.469)
財政施策の指針を決める2022骨太方針が明日6月7日に決定しようとしている。これまで骨太方針には、いつまでに基礎的財政収支(PB)を黒字化すると明記してあった。今回はこのことに関して自民党の中で紛糾している。自民党の財政政策に関する二つの本部が出来上がっている。
① 財政健全化推進本部
岸田首相の直属の組織であり麻生副総裁、額賀福志郎氏などが入っており財政再建の
旗を降ろさない
② 財政政策検討本部
安倍晋三元首相や西田昌司参議院議員などが属しており積極財政を求めている。
5月19日 財務省の小野平八郎総括審議官(緊縮派)は6月上旬に閣議決定される「骨太の方針」について自民党との調整に追われていた。その夜、小野平八郎氏は酔って電車内で乗客を殴ったとして警視庁に逮捕された。以前には財務省では森友学園案件に関わる決裁文書が改竄された。自殺者も出た。このように財務省の権威が失墜してきているのは明かだ。日本経済が30年間停滞したのは財政健全化を重視し緊縮財政を続けたから。財務省がそれを牽引してきた。そろそろそれが変わる時が来たのかもしれない。
例えば2021年の骨太方針では2025年度のPB黒字化目標を堅持し債務残高のGDP比を安定的に引き下げると明記されていた。ところが2022年の骨太方針では「2025年度のPB黒字化目標は本文中には明記せず、小さな文字で脚注に付記する。目標は維持するが検証する。」とする案が出され、新聞各紙は「収支黒字化「堅持」から後退」という見出しが躍った。しかし緊縮派がその後巻き返し「令和5年度予算において、本方針及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」と書き加えるよう主張した。これでは元に戻ってしまうと西田昌司議員は激怒した。
PB黒字化目標が決まってしまうと、目標達成のため最大限歳出を削減し増税を行わなくてはならなくなる。要するに国民からお金を取り上げ、国民を貧乏にすることだ。PB黒字化目標を放棄すると激しいインフレになると緊縮派は言う。激しいインフレになるということは需要が爆発的に増加し、供給がそれに追いつかなくなり、極度の物不足になるということだ。IMFによれば日本のPBは1993年以降、一度も黒字化したことはない。そうであればもうとっくに激しいインフレになってなければおかしい。むしろPB黒字化目標があるために、歳出削減、増税などを行って国民からお金を取り上げるために、消費が落ち込み景気が落ち込み税収が増えないからPBが黒字化しないということだろう。
IMFによればPBが黒字なのは183カ国中30カ国だけであり黒字国は資源産出国が多い。だから日本もPB黒字化をしなければならないという理由はない。
そもそも内閣府試算を信頼してそれを国の目標にするのは危険過ぎる。次のグラフはPBの対GDP比と内閣府の予測との比較である。黒い線が実績であり、それ以外の線は内閣府が各年度に予測したものである。
2008、2009年度の落ち込みはリーマンショックによるもの、2022年と2023年の落ち込みはコロナ禍によるものである。実際は1993年以降PB黒字化になることはなかったのだが、内閣府は毎年のように「あと数年すれば黒字化するからもっと緊縮財政を続けよ」と主張しているのである。デフレ脱却ができていないのに緊縮を続けたために世界に例がないほどの低成長に陥り、実質賃金は下がり続けるという悲惨な結果となっている。そもそもこのグラフは予測ではなく、政府の願望であり自作自演である。このシミュレーションの担当者がそのことを明言している。なぜこのような馬鹿げたグラフを内閣府の予測にしたのかと言えば、それはデフレでも緊縮をやりたくてたまらない財務省の意向を受けたものだからである。
内閣府の試算が欺瞞的であるのは、名目GDPの予測でも明確に理解できる。
黒い線が実績であり、それ以外はそれぞれの年に発表された内閣府の予測だ。実績ではほとんどゼロ成長が続いているのに、内閣府の予測はいつも3%成長である。モデルの担当者に聞くと、自分たちは政府に雇われた身分なので、政府の命令どおり3%成長のグラフを描くしかないのだという。PBにせよ、成長率にせよ、ふざけた田舎芝居にすぎない。こんなものに振り回されるのは一刻も早く辞めるべきだ。つまりPB黒字化目標は撤回すべきだ。
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