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2022年9月 2日 (金)

次世代原発の建設について(No.474)

脱炭素の目標を掲げたものの、ウクライナ戦争もあり燃料価格の上昇を受けて、経済産業省は2023年夏以降に東電柏崎刈羽原発など国内の原発計7基の再起動を目指す方針を8月24日示した。また次世代原発にも興味を示しているようだ。筆者は理論物理学を専攻し東大で博士号を取得したわけで、この話題には興味がある。

福島の原発事故はひどかった。しかし国民・政府・電力会社が軽水炉の仕組みを正しく理解していたら、事故を防ぐ方法はいくらでもあった。政府は原発の再起動を急いでいるようだが、対策を十分行っているなら、緊急対策としてこれに反対すべきではないと考える。しかしこれらの原発は軽水炉であり、危険は残る。一方原発を小型化し炉を冷やすだけに十分な水の中に炉を入れておくなら、全電源が失われても冷却は可能で原子炉が暴走して大事故になることはない。これは小型モジュール炉(SMR)と呼ばれ、安全で建設費が安いので脚光を浴びている。従来の原発は100万KW程度の出力に対し、SMRだと10万KW程度だが標準化して大量生産すれば価格は下げられる。しかも電力消費地の近くに建設可能である。

例えば、ロシアのSMRは3.5万KWを2基載せた海上浮体式であり2020年から北極圏の沿岸で商業運転している。電力が必要な所に臨機応変に移動できる。米国の振興企業ニュースケール・パワーは1基7.7万KWのSMRを複数設置する。その際の発電コストは1KWあたり3000ドル以下であり、一方大型炉は5000ドル以上する。老朽化した石炭火力をSMRで置き換えることができる。1基7.7万KWの炉を最大12基まで連結できる。全電源が失われても大量の水の中に入れておくので、冷却に困ることはない。三菱重工業が開発しているマイクロ炉はトラックで運べる。燃料交換無しで25年間使用可能である。2040年運転開始の予定である。

水冷でなくヘリウムガスで冷やすのが高温ガス炉である。日本原子力研究開発機構大洗研究所で2004年4月に950℃のガスを取り出すことに成功し世界最高レベルであることを示した。これだけの技術があれば水素をCO₂の発生なくして製造できる。しかし日本には核アレルギーがあり、国内に炉を建設するのは極めて困難だったので、諸外国(ポーランド、英国、カザフスタン等)での建設に協力するだけになっている。これは極めて残念であり、脱炭素に向けて国内に高温ガス炉の実用炉の建設を検討すべきだ。一方中国はすでに高温ガス炉を建設し、送電網接続発電に成功している。

ナトリウム冷却高速炉は世界で開発が加速している。ロシア、中国、インド、米国、カナダ、フランスなどである。ナトリウムで冷却する利点は、高速の中性子を使って、核燃料を効率よく燃やすことができる点である。日本の原発は副産物として大量のプルトニウムが発生するが、これは原爆の製造に使われるもので、貯蔵するだけでも大変危険なものである。高速炉ならプルトニウムも燃やすことができ、放射性廃棄物を大幅に減らすことができる。日本はもんじゅの開発を通じてナトリウムによる冷却に関して多くの知識を蓄積したのだから、それを無駄にするのは余りにも勿体ない。諸外国と連携し、ナトリウム冷却高速炉を建設し、バスに乗り遅れないよう努力する必要がある。重要なことは過度の核アレルギーを排除し、安全な原子炉の建設の努力を続けるべきだ。ロシアのウクライナ侵攻で燃料価格が高騰し原発への期待が諸外国で高まっている。経済産業省の審議会は8月9日、次世代の原子力発電所の技術開発に関する工程表をまとめた。脱原発でなく、「脱危険な原発」という考えで研究開発を進めるべきである。

 

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