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2023年2月

2023年2月10日 (金)

内閣府計量分析室に電話して内閣府試算について聞きました(No.480)

小野 先日内閣府で経済財政に関する試算を出されました。新聞報道では26年度基礎的財政収支の黒字化見通し維持となっていましたが、どのようにして黒字化するのでしょうか。素朴な疑問としてかつて基礎的財政収支が黒字化した事は一度もないのではないかと思います。毎年のように黒字化するとの予測する試算を出していますが、結局その予測がことごとく外れた。今回26年度黒字化すると予測していますが、その根拠は何でしょう。

回答:成長実現ケースで26年度から黒字化するということです。まず経済面から申し上げます。経済が骨太方針に基づいた取り組みに基づいて実質2%の成長を中長期的に実現することによって、経済状況と、あと財政面では補正予算とかがあるのですが26年度黒字化ということになっております。税収の上振れも関係すると思います。

小野:毎年同じように実質2%、名目3%というように仮定して計算されていると思うのですが、実際そうなってないですね。

回答:実質2%、名目3%を前提として置いているということではなくて、モデルの中で潜在成長率を計算してモデルの中で潜在成長率によって実質成長率が決まると言う形になっています。

小野:潜在成長率とはTFPですね。

回答:TFPと労働の寄与を合わせたものですね。

小野:TFPが上昇すると仮定していますね。

回答:はい。TFPを外生的に置いています。

小野:TFPの上昇は計算で求めたのでなく、バブル期に急激に上昇していたから、今回もそのペースで上昇するのだと仮定したんですよね。

回答:はい。TFPはデフレ期に入る前のような上昇をすると仮定しています。

小野:バブル期のTFPの上昇と現在の経済状況とは全然違いますよ。当時はプラザ合意で円高不況になった。それから脱却するために公定歩合を5%から2.5%に下げた。更に日銀の窓口操作で貸出をどんどん増やし、随分無理な貸出をやり株や土地にもの凄いお金が流れバブルになりましたね。

回答:はい。

小野:その時の状況と今の状況は全然似ていません。

回答:そういったご意見は承ることが結構多くて、TFPの上昇期間が1982年から1987年までの5年間でとっていますので確かにかなり上昇したところをとっています。

小野:かなり無理をしていますね。

回答:まあ、政府の目指す姿を見せるためにというところがあります。

小野:でもあの時とは随分違います。今、金利を2.5%下げるのはゼロ金利なので無理です。日銀の窓口操作で貸出を無理矢理伸ばすこともできず、銀行も資金需要がなく金利低迷のときに無理矢理貸し出しを伸ばそうとはしない。銀行経営は苦しく、昔買った金利の高い国債の配当でなんとか生き延びている。本業の融資で本格的に利ざやを稼ぐことはできない。その面でもバブル期を随分違います。

回答:はい。

小野:経済財政の試算をよく見ると国家財政はずっと赤字が続くが、地方財政がもの凄い黒字になるとされていますね。例えば2032年度には地方財政収支が14.7兆円もの黒字、国家財政収支は13.3兆円の赤字です。全体では黒字になる。このレベルの黒字に地方財政がなったことがあるのか。

回答:確かに14.7兆円の黒字になったことはありません。

小野:なぜこのような黒字になったのか。住民税なのか事業税なのか地方消費税なのか地方たばこ税なのか不動産取得税なのか固定資産税なのか。どこでこのような莫大な収入を生み出せるのでしょう。

回答:把握し切れていません。

小野:方程式には書いてあるのですよね。

回答:モデルで出した値になります。

小野:2018年度版の乗数は公開されていますがこれに添っているわけですね。方程式のリストも変数リストもありますね。

回答:はい。

小野:この中には地方税の計算の仕方も書いてあるのですね。もしかして方程式が暴走してあらぬ方向に行ってしまったというのではないのですか。地方税でそんなに儲かるなら国に回しなさいということになりませんか。

回答:前回の2022年7月の予測でも同様な結果になっています。前回とそれほど変わっていない。

小野:前回も今回もおかしいのではないかという質問です。

回答:詳しい人に代わります。
回答1:代わりました。岩下と申します。地方が大幅黒字になることですが、モデルに従って税収が伸びていくこと、国の税収が増えていき地方交付税がどんどん増えていく。これによって黒字幅が大きくなっていく。

小野:地方交付税交付金が国税を使って地方にお金を還元するのですか。

回答1:そうですね。

小野:あまり額が大きくなりすぎて国の方が貧しくなり、地方が金持ちになったら、それを調整する制度にはなっていないのですか。

回答1:単年度では決算が良くなることによる覚え書き加算で、総務省と財務省で色々調整を行って、単年度でやっていくようになっているのですが、それは単年度で臨時的に調整していくもので、モデルの中ではそういう調整ができていないということです。

小野:ルールがあるのではないですか。単年度ではある程度不均衡になったら交付金は制限するとか。

回答1:将来に向けて決まっているルールだけでやっています。

小野:どうやってルールを決めるのですか。

回答1:総務省の自治財政局とかが地方財政計画とかをつくって財務省との間で色々取り決めを行っていまして、最近よくやっているのは地方交付税特会の借入金みたいなのを前倒しで返していこうということをやっていたりはするんですけど、結構臨時的にやっているものなので、もちろん将来進んで行く中でそういうやり方が行われるかもしれないのですが、まだ決まっているわけではないので試算では決めてないということです。

小野:方程式の中に入っていないということですね。だから10年後には違っているかもしれないかも。

回答1:それはあるかもしれません。

小野:乗数を出されていますよね。経済財政モデル2018年度版です。これが最新のものだと思いますが、この乗数を使ってこの試算の表を見て良いのかということですが。歳出は2022年度は138兆円、2023年は114兆円ですから24兆円減ってますね。2024年度はもっと減っている。もし乗数によれば、歳出が減ればGDPも減るのではないかと思いますが。補正の使い残しとかの理由があるのでしょうか。

回答1:これは足下の22年度が大きかったのは22年度の補正予算を加えたからなのですが、この補正予算は22年度だけでなく23年度、24年度でも使えます。その姿は一般会計には載っていない。予算の単年度主義というか、実際には繰り越しを想定しているので、政府の最終消費支出とか公的資本形成には繰り越されて使われています。

小野:本当はその繰り越した分を入れた方が我々には分かりやすい。

回答1:そうなんですが、時間がなくてそこまでできてない。

小野:実質2%、名目3%の成長ということで成長実現ケースの場合はモデルが決められているのですね。

回答1:正確に言えば政府が掲げる政策が効果的に発現したときにどうなるか、過去の実績も踏まえて出しているところです。

小野:過去の実績ということになると実質2%、名目3%成長は最近はないです。


回答1:そうですね。結構前になってきますね。

小野:政府の歳出の推移を見ると実際非常に長い期間増やしてないですね。何パーセントかづつ、増やさないとモデルによっても実質2%、名目3%成長が実現できないのではないですか。

回答1:今の歳出の規模だとこれが達成できないのではないかとおっしゃりたいのですね。我々のモデルとしましては、潜在成長率が高まればその潜在成長率に添ってGDPが増加するようになっている。外生に置いている潜在成長率に添って動いていく。だから成長が実現するというモデルにはなっています。

小野:それはずっと前からそう仮定しておられますね。

回答1:はい、民需主導で。

小野:ところが潜在成長率、TFPが実際どうなったかは出しておられますよね。

回答1:実績ということですね。

小野:実績はそんなに凄い勢いで伸びてないです。過去TFPが伸びた頃はあった。1982年から1987年です。どうして伸びたかと言えばプラザ合意の後の円高不況を立て直そうと公定歩合を5%から2.5%に下げた。さらに日銀の窓口操作で猛烈な勢いで融資をし、銀行に圧力をかけて無理矢理貸出を増やそうとした。そのお陰で株や土地に投資していた頃ですね。

回答1:確かにそうですね。

小野:あの頃はマスコミも株や土地転がしでこんなに儲かったという話題で一杯でした。一般の人もその話題で盛り上がっていて、NTTの株が売り出され、その株価が一気に3倍になり大儲けをした人で溢れました。借金をしてでも、ともかく買おうという人が続出しました。株神話と土地神話があり本業の利益より遥かに大きな利益が得られると言っていました。国中が異常な状況にありできるだけ融資を受けて投資していました。

回答1:成長への期待が大きかったのですね。

小野:今はそんな状態でしょうか。逆にデフレマインドに覆われていて、投資してもどうせ儲からないと思っています。テレビでも株や土地転がしで儲かるという話は皆無です。つまり社会の雰囲気はまるで違う。だから潜在成長率があのときのように高まると仮定するのは無理があるという気がします。

回答1:高すぎるということですね。

小野:これからどんどん伸びていくとの予想はおかしいと思います。5年間で0.9%の上昇というように毎年同じ事を言っています。しかし実績を見てもそんなに上がっていない。
だからこの仮定が無理なのではないか。

回答1:総理も確かそう言ってはいたと思います。結構難しい課題だと思います。政府が掲げる課題を効果的に発現していくところのケースにはなるので、まあ目標としてそういう姿を目指していますということなのです。だから確かにそれに対する評価は色々あるかもしれないですが、それでもそれを目指すということです。

小野:そうでしょうが、現実はそう易しくはないですよと言うことが計量経済学というかシミュレーションの一つの目的ではないかと思います。政府に目冷ませてやる。

回答1:そういう目標の姿を見せつつも、今の水準が続いた場合、ベースラインケースも示し、更にベースラインケースより潜在成長率が更に下がった場合の感応度分析というものも17頁に出しております。更にリスクケースというケースを一応出しています。色々な姿を何種類か出しているというところです。

小野:そういうことで岸田さんは危ないケースをやろうとしているのですか。

回答1:危ないケースをやろうとしているというか、まあ政府全体で目指しているのは成長実現ケースです。

小野:潜在成長率というものが、そもそも何なのかということです。今はバブル発生過程の異常な雰囲気とは違うし、大正時代にも大正バブルがありましたが、バブルが発生するときには国中が異常な状態になる。お金を持つだけでは価値が上がらないから投資しようとか消費しようとかという雰囲気になる。そうするとTFPが上がることはある。でも今は失われた30年と言われている。デフレマインドが完璧に定着しています。だからTFPを上げようとしてもテコでも動かないというのが実情で、むしろ歳出を増やせば乗数に従ってGDPは増えるのではないですか。例えば7頁に成長実現ケースというのがあり、そこでは歳出を徐々に増やしていますよね。2032年には139兆円にまで増えています。一定のペースで増やしています。

回答1:高齢化の上昇ペースで増えていますね。高齢化等による年金等の支払いがあり社会保障関係費の増加と物価の上昇で増えています。

小野:現在4%程度のインフレ率ですが、燃料価格の上昇によるものであり、上昇しなくなったらインフレ率も下がってきますね。中国経済の落ち込みもあり燃料価格が下がってインフレ率も下がっていくのではないか。デフレマインドが解消されて毎年物価が上がっていくことになれば皆さんお金を使うし投資もするようになるという気もします。要するに潜在成長率を上下させて計算をするのは現実的ではない。むしろ歳出を拡大して計算してみるべきだと思います。歳出の増加率で比べると日本は世界最低レベルです。乗数を出しておられるので歳出を増やしていけば、財政赤字は拡大します。1960年代のような高度成長期には歳出も20%前後の増加を毎年していた。それと同じくらい税収は伸びていました。

回答1:物価も伸びていましたね。

小野:そういう状況にするためには、デフレマインドを解消しなくてはいけない。そのためには歳出を拡大していけば潜在成長率をいじらなくても経済は成長しますよということを示した方がよいのではないでしょうか。潜在成長率を伸ばすには技術革新を起こす、AIとかITで革命的な発展が起きてそれが経済を牽引するということなら話は違ってきます。そういうのがなかなか起きない状況では、歳出を増やすのが一番よいのではないですか。歳出を何に使うかということですが、子育て支援に使ってもよいし、技術革新、基礎科学などに大規模な投資をし、その結果として潜在成長率が高まればよいですが方程式に普通に入れれば、経済は2%、3%は伸びてきて成長ができるようになる。

回答1:おっしゃる通り成長への期待を高めて行かなければいけないところではありますが、歳出を増やせば成長率が高まると一概に言えるかどうか。ウチのモデルはそうはなっていません。乗数を見て頂ければ政府の歳出を増やしたとしても潜在成長率はそれほど高まらないというモデルになっています。PFTの部分が財政でおかなければならないことになっている。独自に数字を入れて行かなければいけない。歳出が伸びたとしてモデルの中で計算してGDPが増えるというようにはなっていない。

小野:歳出を増やしてもGDPは伸びないのですか。

回答1:一時的には伸びる。需要が供給を上回ることで一時的には伸びるが潜在成長率は伸びてないのでだんだん成長率が下がっていきます。潜在成長率がだんだん低いレベルに下がってしまうというモデルになっている。

小野:成長率が低くなる。人的資源や資本を使い果たす、つまりクラウディングアウトですか。

回答1:だんだんクラウディングアウトが起きてくる。特に民間の供給量が増えないので。

小野:供給量とは何の供給量ですか。

回答1:潜在GDPのことですね。

小野:人的とか資本とかですか。一杯一杯になるということですか。

回答1:はい。支出を増やしても増えないからだんだん下がって行くというモデルになっている。それとTFPの計算は難しいからということです。

小野:かつて日本は追いつけ追い越せで驚異的な経済成長をしましたね。その時人口が爆発的に増えたかといえばそうでもなかったし、電気製品でも、半導体など1990年頃は世界の50%のシェアを占めていた。そこに到る過程でそうなりました。人口は少し増えましたが、ほんの少しです。人口の増加率の10倍くらいは成長しました。人口が増えなくてもIT化、AI化、自動化で人口が増えたと同じような効果があります。農業でも大規模農業にしてAI使って自動化すれば人が少なくても生産はできる。本格的な投資が必要ですが。例えば半導体でもかつて世界シェアが50%だったのが、今は10%に下がってしまった。だから失われたものを取り返そうとすべきです。韓国や台湾に抜かれてしまいました。もう一度追いつけ追い越せで頑張れば成長できます。かつての高度成長期ほどでもなくても成長は可能です。今は世界最低レベルの成長率です。余りに財政赤字を気にしすぎて歳出を増やさない。他の先進国に比べて歳出の伸びが極端に少ない。歳出の伸びを増やすには国債をもっと発行しなければならない。国債は将来世代へのツケだろうと思う人がいるのですが、国債を金融機関が買うときの資金は日銀当座預金から持って来る。日銀当座預金は日銀が通貨発行したものが流れ込んだわけですから、国債発行は事実上通貨発行です。つまり将来世代も同様な通貨発行はできるので将来世代へのツケにならない。国債発行で財政政策を行うということは事実上通貨発行をしてそれを国民に渡していることになります。それを国民のために何かを行う。防衛費拡大でも国債でよいのではないか、増税などいらない。

回答1:そこは色々ご意見があるところです。例えば日銀当座預金で買ったとしてそれは日銀の負債でそれに金利がついたら金利負担が高まるという意見もありますし、そこは我々の試算の範囲外ですね。国債を発行してどれだけ害が出るかというのは。

小野:日銀当座預金に金利をつけるというのは当分やらないほうがよい。ちょっと大変なことになりますね。ともかく低金利でお金を借りて貰ってそれで投資をしてもらう方針でやらないといけない。

回答1:そうですね。

小野:黒田さんは今度代わりますが、新しい日銀総裁でもそのようにやるのではないか。残念なのは黒田さんで異次元の金融緩和をやりましたが、それとセットとして異次元の財政政策をやるべきでした。消費税率を上げたりして異次元の財政政策ではなくむしろ逆噴射をして景気にブレーキを掛けた。プラスマイナスゼロで結局成長しない経済にしてしまった。岸田さんは安倍さん以上に緊縮派ですね。

回答1:緊縮だと思って緊縮をやっているわけではない。当然歳入以上の歳出を出すわけですし。

小野:もっと歳出を拡大しないと諸外国に比べて国民が貧乏になっている。かつて内閣府は一人当たりのGDPが世界一だと言っていた頃があった。国民経済計算にはそう書いてあったし新聞にも書いてあった。ところがルクセンブルグが計算し直して過去に遡って日本を抜いたということはありました。それでも2位でした。今は20位~30位あたりにまで下がっていますし、更に下がっています。韓国にすら抜かれ、台湾にも抜かれそう。惨めだと思います。追いつき追い越せで頑張るべき時が来た。そこを岸田さんに理解してもらいたい。内閣府試算で潜在成長率を動かしさえすれば発展するという結論なら岸田さんは具体的に何をやればよいのか分からなくなる。長い間各内閣で潜在成長率を高めようと努力したけど高まらなかった。岸田さんも同じ過ちをしようとしている。内閣府試算では潜在成長率が上がると言っていますから、今の政策で潜在成長率は上がると誤解してしまう。

回答1:それはご理解を頂いていると思います。難しいことに取り組んでいて結局潜在成長率を高めるには投資を増やさなければいけないことは総理もご存じだと思います。

小野:投資で伸ばそうと思ったら、バブルの頃、プラザ合意があって円高不況になって、その時公定歩合を5%から2.5%に下げた。あの頃のようなインパクトがある政策をしなければならないけど、今金利を2.5%下げようとしてもゼロ金利だから無理です。お金を貸そうと思ってもあの頃のようなやり方はできません。お金を借りて株や土地を買えばいくらでも儲かる時代だった。毎日テレビもそんな話をしていました。今はデフレマインドがあり、あのようにはなりません。

回答1:潜在成長率が伸びる姿にリアリティーがないということですね。

小野:潜在成長率の推移のグラフを見ても最近は急激に上がっていません。それを大きく変えたいなら過去に経験をしたことがないような政策をしなければならない。それって凄く難しいから歳出拡大をしたほうがよい。クラウディングアウトなんて起きません。

回答1:そこは色々議論が分かれているところです。

小野:何とか岸田さんを理解させたいところです。岸田さんと直接お話しできない以上、内閣府の方々に岸田さんに実情をきちんとお話しして頂ければ有り難いと思っています。そうでないと日本経済は発展しない。4%のインフレ率ですが民間の予測では来年には1%レベルに落ちることになっていたと思います。中国経済やロシアのウクライナ戦争を見れば世界的な不況になるかもしれない。欧州もウクライナ戦争で被害を受けている。燃料価格はどこかで下がり始める。

回答1:政府としては新しい資本主義でなんとか成長の実を起こそうとしているところですが、ご意見として歳出の規模が足りないのではないかとおっしゃりたいのですね。

小野:増税などもっての外、増税は国民からお金を集めて国を更に貧乏にしてしまう。もう十分貧乏になってきたから、これからは通貨発行です。日銀当座預金に一杯お金が溜まっていますから、減税してそれを国民に与える。例え財政赤字が拡大しても大丈夫です。成長すれば債務のGDP比も下がります。財政赤字、プライマリーバランス赤字であっても今回の内閣府シミュレーションでは債務のGDP比は下がって行くと分かります。

回答1:はい、下がって行きます。

小野:債務残高が増えても財政赤字が増えても心配しなくてもいいというコンセンサスができればいいなと思います。

回答1:成長前提で予算を組むというところも難しいかもしれないですし、このまま財政規模を部やしていくとそれがダイレクトに効くわけで難しい問題ではあるのですが、ご意見としては承りました。

小野:1960年代の高度成長期にはもの凄い勢いで歳出を伸ばしていて物価も上がってはいましたが、減税をやっていました。調べて頂ければ分かりますが、所得税減税をもの凄くやっていました。給料が上がると皆さんが金持ちになってしまいます。累進課税ですから金持ちの所得税率は高くなります。だから税収が伸びすぎるので様々な控除を導入して減税を進めていました。減税を進めながらでも税収は増えていった。ほとんど知っている人がいないのですが、高度成長期は減税を次々やっていました。我々新聞をみていて、このままだとやがて税金はタダになるのかなと思ってみていたら税収は増えていました。若い人はそういう時代を知らない。当時の新聞を見ることも無いかも知れない。

回答1:物価が上がっただけでなく減税をしていたのですね。

小野:減税をしないと税収が増えすぎて成長が止まるのです。ちゃんと経済企画庁の下村さんとか宍戸さんとかが計算をされていた。10年で所得倍増と言っていたのが、実際は2倍以上になりました。当時は減税をやりながら税収は増えていった。今は増税をやりながら税収は増えない。当時は良い循環に入っていたが、今は悪い循環に入ってしまった。だから悪い循環から良い循環に戻りましょうよということです。

回答1:それはおっしゃるとおりだと思います。

小野:内閣府試算でも付録などでコメントを付けてくださると有り難い。

回答1:なるほど。先程言及した感応度分析に政府の歳出を増やした場合を追加する。

小野:政府が歳出を増やした場合と増やさない場合を比べて発表して頂ければ国民も理解できます。増税したら必ず景気は悪くなります。

回答1:ウチのモデルだと潜在成長率の仮定をしなければならず、検討が必要になります。提案は承りました。検討させて頂きたいと思います。

小野:潜在成長率はそう簡単には動かないと思います。

回答1:歳出を増やしても上がらないということですか。色々考えるところはあるのですが検討はしたいと思います。またよろしくお願いします。

小野:長い間有り難うございました。失礼します。

コメント:
回答1の方は岩下と名乗っておられました。非常に広い知識を持っておあられ、柔軟で丁寧な対応をして頂き大変感謝しております。財政支出を拡大したとき潜在成長率はどうなるかという問いに十分答えることができませんでした。財政支出で生産性を上げる投資が行われたり、それにより労働力を有効に使えるようになれば潜在成長率は上がるのではないでしょうか。

以下は私のコメントです。

2023年1月24日に内閣府が『中長期の経済財政に関する試算』を発表した。実際にこの計算を行っているのは内閣府計量分析室である。しかしこれは「将来予測」とはほど遠く、むしろ「政府のプロパガンダ」と言った方がよい内容である。それは次のような説明から明かである。

第一の例は名目GDPの予測である。

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黒の線が実績であり、ほとんど成長していない。先進国では最低レベルの成長率が続いている。ところが内閣府の予測は右肩上がりで3%成長を予測している。これはモデルを使って得られた結論ではなく、政府が3%成長を目標にしているので、政府に忖度して出した結論であり政府のプロパガンダだ。長期金利に関しても同様である。

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実績では長期金利はジリジリ下がり続け、2016年頃からはほぼゼロになっている。2016年9月に日本銀行は長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を導入した。つまり10年物国債の金利がゼロ程度で推移するように長期国債を買い入れする方針を示した。この結果長期金利はほぼ0%になった。その一方でこのグラフで分かるように毎年長期金利は急速に上昇すると予測している。その予測が間違いだということは、このグラフから明かだ。日銀が長期金利がゼロ程度で推移するように無制限の指し値買いオペをすると宣言した後でも急速な金利上昇を予測している。筆者が内閣府計量分析室に電話して日銀の政策を理解してないのかと問いただした後は、金利急上昇の予測を改めた。つまり内閣府は政府には忖度するが、日銀には忖度しない。人事権があるのは政府であり、日銀ではないからだ。

次の図は基礎的財政収支の推移と公債残高対GDP比の推移を比べたものである。公債残高の事を政府は「国の借金」と呼ぶ。いつもの事だが、基礎的財政収支は近いうちに黒字化すると予測するが、これは政府への忖度だ。しかし実際に黒字化したことは一度もない。一方内閣府の試算では国の借金のGDP比は基礎的財政収支が赤字でも下がり続けている。この試算を見て毎回マスコミは基礎的財政収支(PB)が改善されていないから政府は努力が足りないと主張する。しかしPBを改善するには増税か歳出削減せよということになるし、そうなれば確実に国民を貧乏にし、消費を減少させ、企業の経営状態を悪化させ、実質賃金を下落させる。すなわちデフレスパイラルであり実際失われた30年で日本に起こったことだ。

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竹中平蔵は「名目GDP成長率が名目金利よりも高かった場合、基礎収支が赤字でなければ、財政破綻は回避できる」と『竹中教授のみんなの経済学』(2000)の中で指摘していた。国債の発行残高が増加するにつれ、基礎的財政収支(PB)黒字化をしないと財政が破綻するという間違った説を受け入れる人が増えてきた。そのような時、小泉純一郎(当時の首相)は内閣府の試算が単なるプロパガンダだと理解しておられなかったようだ。その時の内閣府試算では2011年度にはPBが赤字から黒字に変わると「予測」していたから、「2011年度PB黒字化」を目標にすると宣言してしまった。これを達成するために、彼は国民に「痛みに耐えよ」と要求し、緊縮財政を続けたために、デフレ経済が続いた。一人当たりのGDPはかつて世界で第2位だったが、緊縮財政のお陰で18位まで下がってしまった。結局2011年度のPBは大きな赤字となり、内閣府試算が間違っていることを証明した。小泉氏はどうして財政赤字が減らないのだろうとつぶやいていた。PB黒字化を目標にする国など日本以外はどこもない。本当にPB黒字化したら、巨額のお金を国民から取り上げることになり、日本は一気に貧乏になる。次の図はPBの対GDP比のグラフである。黒い線が実績だが、一度も黒字化したことはない。しかし毎回のように、上向きのグラフを予測しているのは政府に忖度した結果だ。頑張れば黒字化するから頑張りましょうと言いたいのだ。頑張るということは国民からお金を取り上げ国民を貧乏にするという恐ろしい意味を持っている。

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内閣府の試算が全く現実離れしていることを例で示そう。平成25年度(2013年度)の予測を(A)とし、それを2023年1月の予測(B)と比べてみれば明かだ。
2023年度の名目GDPは(A)では689.3兆円だが、(B)では571.9兆円である。国債費は(A)では56.5兆円となっており実に税収の75%にも達している。筆者がこんな目的に税金の大半を使っていたら国民は税金を払わなくなると主張したら、内閣府はその後の試算では国債費を減らすよう工夫していった。(B)では25.3兆円にまで減少しこれは税収の36.5%にまで下がっている。下がった原因は長期金利の下落であり、(A)では5%と予測したが(B)では0.4%まで下がっている。

日本は積極財政政策を行うべきだという我々の主張を何人ものノーベル経済学賞受賞者が賛成している。このことは以下のサイトで詳しく説明したので是非参照して頂きたい。
https://sites.google.com/view/ajerhp1

 

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