経済政策

2011年1月18日 (火)

TPPに参加するかしないか、正しい戦略は何か(No.37)

TPPに参加すべきかすべきでないか、まず情報を得ようと色々調べてみた。経済発展のためであれば、間違いなく参加を選択するだろう。しかし、今の政府にTPP参加を強行させると、財源不足を理由に露骨に農家切り捨てをやってしまうのではないかと心配している。

TPPに参加した場合の経済への影響に関しては、内閣府と農水省と経産省でそれぞれ試算がしてあり、それを内閣府が『EPAに関する各種試算』というタイトルでまとめたものを発表している。
http://www.meti.go.jp/topic/downloadfiles/101027strategy02_00_00.pdf
しかし、この資料は説明が意味不明で、内閣府に問い合わせてみたら、たらい回しにされたあげく、更に分からなくなってきた。そこで今度は農水省に電話して、試算の内容を聞いた。今度は明快な説明があったので、まずTPPの農業への影響から説明することにする。

農水省の試算は、TPP(参加国はシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナムなど)というのでなく、全世界を対象に今すぐ関税を撤廃し、何らの対策を講じなかった場合である。
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/renkei/fta_kanren/pdf/shisan.pdf
このとき、生産額は4.1兆円減少、自給率は40%から14%に減り、農業と農業関連産業への影響はGDPにして7.9兆円の減少となり、340万人程度の就業機会が減少する。これは、それぞれの農産物について競争力を検討し計算したもの。4.1兆円の減少額の内訳は次のグラフで示されている。

371

それでは、全世界を対象とせず、TPPに限定したらどうかということだが、ほとんど変わらないとのこと。つまり、TPPまでできれば、もう全部解放したのとほぼ同じということ。そうであれば、TPPと言わず、もっと広くFTAAP(21カ国)とかEUとかにも拡大すればよく、世界中恐いものは何も無くなることになる。

GDP7.9兆円減ということだが、これに対応する戦略とは
①農家が犠牲にならないよう十分な対策を講じる
②農水省の試算は、何も対策を講じない場合で、一気に市場開放する場合であり、準備をすれば当然GDP減少幅は縮小する。大規模化、大型機械化、ロボット化を推進し、農業が産業としての国際競争力をつける。これに関しては、すでに説明した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/tppno16-ea86.html
③農業の大規模化、大型機械化、ロボット化を推進すれば、当然人手が余る。その人手を他の産業で有効利用する。

経産省の試算では、TPPに参加せず、韓国が米韓FTA,中韓FTA,EU韓FTAを締結したとき、10年後には10.5兆円のGDPを失うことになるとのことだ。経産省は10年後のGDPは680兆円程度を考えている。また内閣府では、TPPに参加したときのトータルでの影響は、GDPを2.4兆円~3.2兆円増加させるとの試算を発表している。

これらの試算は、簡単には比較できない。忘れてはならない事はデフレ脱却をどうするのかということだ。市場開放すれば、外国製品がどっと入ってきて、農業を始め国際競争力のない産業は一掃され、失業者が増加し、デフレは悪化する。デフレ脱却をした後ならTPPも検討に値するが、それをおろそかにしてTPP参加など論外だ。それは経済政策の失敗に対する非難を避け、国民の目をそらすための策略にすぎない。

デフレ脱却・財政健全化は50兆円の景気対策を5年間続けることにより達成できるという試算をすでに示した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html
もしこの政策が実行されたときのGDP押し上げ効果は、初年度で36兆円、5年後は141兆円である。景気対策をやらなければ141兆円失うのである。GDP押し下げ幅として農水省試算の7.9兆円や経産省試算の10.5兆円も、この1割にも満たないことが分かる。それは日本のGDPの大部分が外需でなく内需だからである。民間消費だけでGDPの55%を占める。

少子高齢化の時代、大規模景気対策を行えば、人手が足りなくなるという意見がある。だからこそ市場を開放し、農業の大規模化・ロボット化で340万人の人手を確保し国際的に競争力のある産業に人手を回せば、日本は豊かになっていく。貧しく、重労働を強いられる農業に固執することはないではないか。50兆円も景気対策に使えるのだから、そのうちの一部を農業とその関連産業に従事する人たちへの十分な援助に使えばよい。

農水省の試算では340万人で7.9兆円のGDP、つまり1人当たりのGDPは232万円となる。日本のGDPは490兆円で全就業者数が6252万人だから1人当たり平均783万円のGDPを稼いでいることになる。これにより農業が如何に非効率かが分かる。農業は働いても働いても金にならない。それなら、農業は大型機械やロボットなどに任せ、十分な転職支援金を受け取って、もっと快適な職場に移ったらどうだろう。もちろん、日曜菜園など園芸を趣味として楽しむのもよい。それは生活費を稼ぐのでなく、人生を楽しむための娯楽としての農業がやれるようになるのが理想だ。クラインガルテンと言って、ドイツではすでに200年の歴史を持ち、日本でも滞在型市民農園として盛んになりつつある。

市場開放の問題は農業に限ることではない。生産性の低い分野の産業を国の助成金でいつまでの支え続けていることはない。他にもっと快適で高収入の職場があれば、移るべきだ。そもそも、日本の製造業が育ち国際競争に勝ってきたということは、他国の製造業を潰してきたということであり、市場が開放されていたことの恩恵を受けたからである。国際競争に勝てない自国の産業を保護しながら、他国の産業を潰してはいけない。常に我々は諸外国の発展にも寄与する形で自国の発展を考えるべきである。大規模景気対策は自国の発展のみならず、世界経済の発展に貢献するのだということをすでに示した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/no-e743.html

最も重要なことは、デフレを脱却し、失業者を減らし、常に人手不足の状態にしておくことだ。そうすれば、非効率な産業から高付加価値の産業への転職が容易になる。これぞ真の構造改革である。小泉氏は「構造改革なくして景気回復なし」と言ったのだが、これはまちがいで「景気回復なくして構造改革なし」が正しい。好景気のときの市場開放は、構造改革を推進するが、デフレ下での市場開放は経済を崩壊させるだけだ。

TPPに対する不安材料は人的交流だ。ベトナムあたりから安い労働力がどっと入って来ると困るということは、ほとんどの人が同意するだろう。TPPでは、労働者の受け入れをどの程度まで要求してくるのか分からない。人の受け入れに関する主な要望の例として内閣府が発表しているのは次の通り。
①インドネシア、フィリピン: 看護師・介護福祉士候補者受け入れ制度の改善
②タイ: スパセラピスト・介護福祉士
③ベトナム: 看護師・介護福祉士
④インド: インドネシア、フィリピンと同様の看護師の受け入れ、
資格相互承認(医師・歯科医師・看護師・会計士・建築士)
⑤韓国:  国家技術資格(放送通信技士・自動車整備技士・電算応用機械製図技能士等)
の相互承認
⑥中国:  訪日査証発給の円滑化、技術実習生協力の推進

一部に移民を大量に受け入れてGDPを拡大せよという意見もある。しかし、日経モデルで示したように移民を受け入れなくても大規模財政出動で十分GDPは伸びる。移民を大量に受け入れると、犯罪が増加するし、日本国内で民族間の紛争が始まる。TPPで、人的交流も制限が掛けられないとなれば、TPPでなく個別のFTAやEPAの推進も検討すべきだと思う。発展する中国と言え、まだ1人当たりのGDPは日本の10分の1にすぎない。

国境を開けば、すさまじい数の移民・難民がなだれ込むのは間違いない。限られた国土で人口を増やせば、食糧自給率も下がってくるし、CO2排出量を下げるのも苦労する。無理に人口を増やさなくても、むしろ1人当たりのGDPを増やして、日本をゆったりと生活できる場所にしたいものだ。

本稿を書いた後で、内閣府の試算をした川崎氏から電話があり、丁寧に説明していただいた。内閣府の試算はGTAPという経済モデルを使っている。TPPに参加した場合のプラスの効果とマイナスの効果を総合的に考慮し、その様々な波及効果まで計算してある。それによると、TPPに参加し100%自由化した場合のGDP押し上げ効果は2.4兆円~3.2兆円である。予測値に幅があるのは、TPPの加盟国がどこまで広がるかによって変わるという意味である。ところがGDP押し上げ効果だが、日中EPAが実現するとそれだけで3.3兆円でありTPPを上回る。日米EPAなら1.8兆円、日欧なら1.3兆円である。何も、融通の利かないTPPにこだわることはなく、日中・日米・日欧のEPAを確実に進めていけば、そのほうが効果が大きいのだから、そういった方法とも比較検討も行うべきだろう。それ以外の国も同時並行で2国間で進めることもできる。

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2011年1月13日 (木)

計量経済学は「デフレ経済において増税は悪、減税は善」ということを証明(No.34)

与謝野氏が入閣し、これから民主党政権は大増税の道を歩もうというのだろうか。政府に、もっと経済を勉強して欲しいという願いを込めて2005年にグローバルモデリングセンター所長の大西昭氏と共に計算した結果を以下に示す。 結論は、デフレの時には減税をすべきであり、増税は決して行ってはならぬということである。

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 当時(2005年)、検討されていた増税政策と、逆に減税を行う政策を FUGI global modeling system を使い比較検討した。FUGI global modeling system(フジグローバルモデリングシステム)は国連機関で利用され、国際的に知られた先端的な世界経済予測システムである。世界を200の国・地域に分類し、各国・地域モデルが世界的規模で相互依存している超複雑系モデルである。詳細は ONISHI(2003&2005)を参照。

 日本経済は外需、特に米国と中国向けの輸出のお陰で景気が上向いたことはよく知られている。日本経済は地球的相互依存の世界経済の影響を大きく受けている。FUGIグローバルモデルは輸出入、資本移動、ODA、為替レート、株価、輸入関税などの波及過程を分析が可能である。また世界レベルでのエネルギー消費量の予測が可能となり、世界人口の増大や人間活動の規模拡大のもたらす地球環境への影響の予測にも使われている。

 ここでは、次の2つのシナリオを比較する。 
1.増税シナリオ(baseline) 
  1) 2005年度から定率減税を半減、2006年度から全廃 
  2) 2007年度から消費税率を10%に引き上げる 
 定率減税全廃で3.3兆円の増税となり、消費税を10%に引き上げると約10兆円の増税となるから2007年度からは合計約13.3兆円の増税になる。これが、ほぼ現在の政府が考えている経済政策であると思われる。

2.減税シナリオ 
  1) 2006-2013年に毎年個人所得税および法人税を5兆円、合計10兆円減税。2014年以降は、減税を行わない。 
  2) 公共投資は2006年レベルを持続。 
  3) 所得税の定率減税は恒久化。 
 両シナリオ共、公定歩合は内生変数となっており、過去の実績から判断し、景気の状態、物価、為替、アメリカの金利に応じて変化している。

 図1に、実質GDPの推移を両シナリオに対して示した。現在の効果が現れるには時間が掛かるものの、2020年度までの15年間で実質GDPの伸びは減税シナリオのほうが増税シナリオの約3倍であることが分かる。減税シナリオにおけるGDPの大きな伸びは、債務残高のGDP比を減少させるのに極めて有効である。

<図1>
 
341

 図2a,bでは、2つのシナリオの場合の経済成長率を示した。比較のために、全世界と米国の成長率のグラフも加えてある。成長率が世界的に大きく変動をしているのは、景気変動サイクルがあるためである。図2aから分かることは増税シナリオでは、成長率は1~2%で低迷するということである。世界経済あるいは米国経済に比べても際立って低い成長率になることが分かる。それに対して図2bは減税シナリオでの実質成長率を示した。この場合、次第に成長は加速し、世界の標準レベルに追いつき、2010年頃には追い越すことができることが分かる。

<図2a>
 
342a

<図2b>
 
342b

 図3では、名目GDPを示した。名目GDP成長率は2011年以降は2%前後となる。

<図3>

343

 一般に誤解されて信じられていることは、この財政が厳しいときに減税すると国の借金が増えて大変だろうということだ。しかし、実際計算してみると逆だと分かる。図4で新規国債発行額を示した。

<図4>
 
344

 確かに、2012年までは減税シナリオのほうが、多く新規国債を発行しなければならなくなるのだが、その増加額は減税幅よりはずっと小さい。それは税収が大きく増加するためである。減税シナリオのほうが名目GDPが大きく伸びるために債務残高の名目GDPは増税シナリオより低く抑えられることになる。

 2014年からは「減税シナリオ」で減税をうち切ることもあり、減税シナリオのほうが、新規国債発行額が少なくてすむ。増税シナリオでは、2020年まで高水準の新規国債発行を続けなければならないのだが、減税シナリオでは2012年頃から新規国債発行額は激減を始め、2019年からは発行しなくてもよいということになる。

 同様な結果は、異なるシミュレーションプログラムを使って得られている。宍戸・小野(2003)はEconomate、宍戸(2004)はDEMIOS、小野(2003)は日経NEEDSをそれぞれ用いて、積極財政のほうが緊縮財政よりも債務のGDP比が少なくなり財政が健全化することを示した。

<図5>
   

345

 図5には石油価格の推移を示した。減税シナリオと増税シナリオとで大きな違いはない。一時的な投機的な動きは別として、2020年まで、石油価格の暴騰はあり得ないことを、このモデルは予測している。

 図6、図7はそれぞれ対ドル円相場と対ドルユーロ相場で、これらは減税シナリオで計算したものである。これらも減税シナリオと増税シナリオで大きな違いは見られなかったので1つのグラフにした。

<図6>
 
346

<図7>
 
347

 次に日本経済と世界経済との関係を調べる。図6は両シナリオの元での世界経済の実質成長率である。予想通り、減税シナリオのほうが、増税シナリオよりも世界経済は成長率が高くなる。日本経済と世界経済とは相互に依存しているということであり、日本経済を発展させるということは、世界経済の発展に貢献することであり、それがまた日本経済の発展に貢献するという、いわゆるブーメラン効果を生み出すことになる。

<図8>
 
348

 先進国は、ODA拠出をGNPの0.7%にするという努力目標が1970年の国連総会で採択され、その後国連環境開発会議やモンテレイ開発資金国際会議などの国際会議の場でも繰り返し言及されている。しかし、日本は財政難を理由にその半分にも満たない額しか拠出していない。景気を刺激し日本経済を発展させることができればODAを増やせるようになるし、日本経済の発展自体が世界経済の発展に寄与するのだということも忘れてはならない。つまり減税は日本の納税者だけのためでなく、世界経済全体の発展のためということができる。日本がODAを増やし途上国への援助を行うと、それが途上国の経済発展を助け、その結果として日本から途上国への輸出が増加することとなり、日本はODAの額以上の利益を得ることを忘れてはならない。また世界から貧困を無くすることができれば、テロの脅威からも解放されることになる。

 ここで試算した以上の大規模な財政出動に関しては、小野(2003)を参照して頂きたい。アメリカは約30兆円もの所得税減税で景気を刺激しており、日本も負けずに思い切った減税策を行うことも検討課題だろう。そのような強力な景気刺激策により、日本経済はここで示したものよりずっと早期に成長軌道に乗りゼロ金利解除も早期に行える可能性もでてくる。しかし、その際の国債の暴落、円の暴落があるのではないかという問題に議論がすり替えられ、減税か増税かの検討が本格的に行われていないのが現状である。そうであれば、ここに示すような国債の暴落、円の暴落の心配が全くない小規模な減税策と、政府が検討している増税策とを比較して欲しいという願いからこのレポートをまとめたわけである。

 スノー米財務長官は世界の貿易不均衡に関連して、日欧に対して、景気を刺激し内需を拡大するよう繰り返し要求している。また2005年2月のG7で谷垣財務大臣は自律的な内需拡大型の経済成長拡大を公約した。バブル崩壊後十数年が経過し、その間構造改革による内需拡大型の経済成長拡大を唱えられてきたが、構造改革だけでは経済が低迷し続けるということは、現在の経済成長率の低さを見れば明らかである。現在求められているのは、その場しのぎでない長期的展望に基づいた持続的な財政出動である。

 債務残高のGDP比ではなく、債務残高の絶対額が問題だという主張があるかもしれない。そうであれば、日本も米国も債務残高は700兆円程度でありアメリカも大規模な減税策を行っているのだから、日本も債務残高を気にせずに同様に減税を行ってよいことになる。

 結論をまとめると
1. 減税シナリオのほうが増税シナリオに比べ大幅にGDPの成長速度が増す
2. 減税シナリオのほうが国の債務残高のGDP比も低くなり財政の健全化の速度が速まる
3. 対ドル円レートに関しては減税シナリオでも増税シナリオでも大きな影響はない

 結果としてこのレポートで使用したデータは常に変動しており、それに従ってここで記載された結果のデータも日々変化するものである。それ故に、データの詳細にまで立ち入る議論は意味が無く、2005年現在の日本で減税と増税でどちらが正しい選択かを判断する材料としてこのレポートは使われるべきものと考える。


【文献】

Akira Onishi (2003) Integrated Global Models for Sustainable Development、Technology, Information and Systems Management Resources, Volume III, EOLLS Publisher, Oxford, UK . Knowledge for Sustainable Development: An Insight into the Encyclopedia of Life Support System, UNESCO; http://www.eolss.net.

Onishi A (2005) Futures of global interdependence (FUGI) global modeling system, Integrated global model for sustainable development, Journal of Policy Modeling, Vol. 27/1 published February 2005, pp101

宍戸駿太郎・小野盛司(2003) AJER 03-12
宍戸駿太郎(2004) 日本経済成長の「ベストシナリオ」を探る
エコノミスト2004年8月24日号
小野盛司(2003) 『これでいける日本経済復活論』ナビ出版

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2010年12月23日 (木)

ルーズベルトとヒットラーの景気対策の比較【1】(No.28)

 最近ルーズベルトとヒットラーの大恐慌後の景気対策の比較が話題になるようになった。それは武田知弘著の『ヒットラーとケインズ』と『ヒットラーの経済政策』の2冊の本に影響を受けているように思える。結論はルーズベルトのニューディール政策は中途半端で完全な景気回復を達成できなかったが、ヒットラーは完璧な景気対策でドイツ経済を完全に立ち直させたというものだ。

 ある意味でこの表現は正しいのだが、その論理に無条件に賛成できかねるところもある。武田氏の2冊の本が、ヒットラーを美化しすぎていることには違和感を覚えている。筆者はドイツ(当時は西ドイツ)に通算約7年住んでいたのだが、ユダヤ大虐殺を行い、世界を戦争に巻き込んだヒットラーに対する憎悪の念はドイツの内外で消えていない。このような本を書くときは、そういった気持ちへの配慮が必要だと思う。

 しかしながら、景気対策という点に限れば確かにヒットラーの方が優れていた面もある。ヒットラーもルーズベルトも政権の座についたのは1933年である。景気対策で最も重要なのはその規模だ。有名なニューディール政策は1933年に始まった。アメリカの財政規模をグラフで示す。増やしたり減らしたりして途中で再び景気を悪化させている。

図1

281

 一方では、ヒットラーは次のグラフのようにどんどん財政支出を増やし続けた。

図2

282

 両国のGNPの推移を、1929年を100として次の図で比べた。

図3

283

 両国のGNPの回復は1937年までは、ほぼ一致しているがそれ以後は、ドイツが一直線に景気回復をしたのに比べ、アメリカは1938年に不況(ルーズベルト不況と呼ばれる)に逆戻りしている。これは、図1で分かるように1937年と1938年に「財政再建」のためとして財政規模を縮小したからであって、中途半端な時点で緊縮財政に転じたら、また逆戻りをしてしまうということを示している。実は、日本は20年間この繰り返しをやっている。緊縮に移るのが早すぎたということは、失業者数の推移を見ればもっとはっきりする。

図4

284

 大恐慌の始まる前、1929年以前にはアメリカの失業率は1%~4%程度だった。ニューディール政策実行後も失業率はそれほど下がっておらず、不十分な景気対策であったことが分かる。それに比べドイツの景気対策は十分であり、1936年には、失業率は恐慌以前の水準以下になったにも拘わらず、更に景気対策を進めており1939年には2.2%にまで下がっている。このグラフからも、1936年からアメリカでは緊縮路線に転換したのは時期尚早であったことが分かる。

 残念ながら、アメリカのような民主主義国家では様々な人が勝手な発言をするために、大多数の人が間違えた判断をすることがある。1935年12月に行われたギャラップの調査によれば、「いま予算を均衡させ、公債償還を開始することを必要と考えるか」という質問に対し、賛成は70%、反対は30%だった。緊縮財政に転じた結果、1937年9月から1938年5月までの9ヶ月間に工業生産は33%も低下し税収も予想を下回った。このとき、日本で「失われた20年」の間に行われたと同様な議論がなされた。つまり財政再建を優先させるのか支出を増大させて景気を回復させるのかという議論である。日本では緊縮路線に戻るのだが、当時のアメリカでは積極財政派が勝ち、景気は回復している。もっとも、この財政支出増大は、第二次世界大戦の前夜であり、世界各国が軍事支出を増大させていた時であり、アメリカも例外ではなかったという事情がある。

 このように書くと、ヒットラーの経済政策は正しく、ルーズベルトの経済政策は正しくなかったと結論しているように思うかもしれないが、必ずしも結論はそれほど単純ではない。そのことを次に述べる。

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ルーズベルトとヒットラーの景気対策の比較【2】(No.27)

 No28においては、ヒットラーの強力な景気対策によって、ドイツ経済は完璧に立ち直ったが、ルーズベルトの景気対策は不十分であったことを述べた。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/index.html

それでは、ヒットラーの過激な景気対策によってドイツはインフレにならなかったのだろうかという疑問がわくが価格統制により安定していた。ドイツインフレ率を次に示す。

271

 1933年から1939年までにGNPは1.86倍になったが、消費者物価は1.07倍にしか増えていない。次のグラフでこの頃の賃金はどうだったかを示す。

272

時間当たりの名目賃金は更に安定していた。消費者物価がゆるやかな上昇を示していることを考えれば、実質賃金はゆるやかに下がっていた。しかし失業率が大幅に減少していったことを考えれば、労働者全体の賃金の合計は上昇していった。

 GNPを押し上げたのは消費ではなく、政府支出である。次に軍事費まで含む公共投資のGNP比を示す。明らかに大きな政府に移っていることが分かる。

273_2

 ナチスの公共投資としてよく知られているのはアウトーバーンの建設である。1933年~1944年で4000kmのアウトーバーンを建設した。日本は1963年~2009年で6000kmの高速道路を建設しただけであることを考えれば、大変なスピードである。政府が軍事費だけにお金を使っただけなら、GNP増大で国民が受けた恩恵は失業率の低下によるものだけかと思うかも知れないが、アウトーバーンをはじめ、住宅建設、都市再開発など様々な政策で国民を豊かにした。1951年に西ドイツで行なわれた世論調査では、半数以上の人が1933年から1939年までがもっともいい時代だったと答えている。
 
 しかしながらヒットラーはやがて悲惨な最期を迎える。ゲルマン民族さえよければ他はどうなってもいという自己中心的な考えのナチスが最終的に敗北したことは世界にとっては幸運なことだった。ナチスはユダヤ人の富を収奪し、ユダヤ人を大量虐殺までおこなった「ならず者」政権だが、最初から無謀な経済発展だと言うこともできる。

 他国を敵に回してでも自国を発展させようという利己的な考え自身が無謀な試みだった。決定的なのは資源の不足だ。1934年鉄の国内での使用量は1670万トンで、そのうち自給できたのは600万トンにすぎない。軍拡に必要な鉄の確保に失敗した。また石油の不足も致命的だった。ヒットラーは石炭から人口石油を作ろうとした。しかし天然の石油の4~5倍の値段になった。石油の利権はアメリカと英国が握っていて、石油を売るときに様々な条件をつけたため十分な石油の確保は困難だった。経済発展と共に金の保有量も激減し、輸入が困難になってきた。

274_2 

 資源が不足してきたとき、他国を占領して強奪すればよいというのが、余りにも無謀で利己的な考えだったわけで、当然の事ながら長期的な国の発展を考えれば、他国と協力して発展するしか無かったのだ。ユダヤ等、他民族との共存も経済発展には必要不可欠だ。独裁政権は短期的にはうまくいくことがあるかもしれない。ナチス政権の前半がそうだと言えるかもしれないが、後半では破綻した。ドイツが民主主義国であったなら、ユダヤ虐殺も無かっただろうし、無謀な戦争も避けられたのではないだろうか。アメリカは民主主義で無駄な議論を繰り返し、景気対策は短期的には中途半端ではあったが、資源を持ち金を持っていて、戦争に勝利し、最終的には恐慌からは脱却することに成功し繁栄した。

 その意味で、ヒットラーの経済政策が成功で、ルーズベルトの経済政策が失敗だと単純に結論づけるべきではない。

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2010年12月15日 (水)

国の借金も、もともと日銀や銀行が刷ったお金・・・原資は無尽蔵(No.25)

国の借金が908兆円だと、国民は脅されている。国民一人あたりにすると750万円だと言う。しかし、それの何が問題なのだろう。借金の額が多いか少ないかを判断したいなら、借入限度額を問題にしなくては意味がない。この借金はどこから来るのか考えると良い。結論から言うと、もともとは日銀が刷ったお金であり、銀行等の金融機関でそれが更に増刷された結果、国は908兆円を調達できたということだ。無尽蔵に刷れるお金なのだから借入限度額は無限大だ。

お金を刷れる(つくれる)のは日銀だが、それは日銀が国債を買ったりお金を貸し付けたりすることによって行われる。2010年12月現在、その総額(日銀の資産)は129兆円である。どうやってこの資産を獲得したかと言えば、お金を発行して買ったということだ。だから、国の借金の908兆円には遠く及ばない。しかし、日銀で発行されたお金が銀行に行くと、それが国や民間への貸出に回される。借りたお金を現金で金庫に寝かしておく人(あるいは国)は少なく、大部分は銀行に預金としておいておき、そこから口座振り込みが行われる。つまり大部分のお金は銀行に留まり、そのお金は何重にも貸し出される。

今年、国は44兆円の新規国債を発行する。これを買った金融機関が現金で支払いをしたとすると、1万円札にして数百kmの高さにもなり、取り扱いが大変だからほとんどすべての支払いは銀行振り込みだ。つまり銀行から銀行にお金が移動するだけ。金融機関にとって見れば44兆円の国債を手に入れたのだから44兆円の資産が増えたことになる。国はその44兆円を、医療・福祉・防衛・教育・公共投資・公務員の給与等に使う。ほとんどすべて銀行振り込みで支払われるから、44兆円のお金は再び銀行に戻るだけだ。事実上これは銀行で刷ったお金ということになる。銀行にお金が足りなくなればいつでも日銀が補充することになっているから銀行からお金が消えることはない。

これを毎年繰り返すとやがて借りられなくなるかというと、それはあり得ない。銀行にも日銀にも貸出に上限が無い(つまりいくら刷っても良い)からだ。例えば我々が主張するように、通常の予算に追加して50兆円の景気対策を行ったとしよう。減税でもよいが福祉・医療・介護・環境エネルギー・公共投資・教育等、使うところはいくらでもある。この50兆円のお金は、様々な経路をたどり、大部分が国民の預金口座に収まる。50兆円の国債の消化が金融機関で間に合わなければ、日銀が市場から国債を50兆円だけ買って援護射撃をすればよいだけだ。50兆円の資金が国の口座に移り、それがまた金融機関の口座に戻るだけである。単に循環しているだけで、何回繰り返しても問題が起きるわけではない。しかし一人あたり40万円以上のお金が様々な経路で国民に渡るわけだからインパクトは大きい。

もちろん、国の借金がギリシャのように外国からの借入金の場合は、返却を求められて、それに応じられなくなれば破綻するが、日本の場合は外国に貸している立場なので状況は全く異なる。外国相手の場合、ドルを日銀が刷るわけにはいかないからだ。

家計金融資産が現在1400兆円であり、国が借金できるのはここまでだという意見がある。それは経済成長にストップを掛けたままにしていた場合だ。以下のサイトで我々は日経の経済モデルを使い、50兆円の景気対策を5年間続けると日本経済は一気に拡大することを確認した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

日経平均は3万円を越し、雇用者報酬は20%以上上昇する。

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このように経済が拡大に転じると、家計金融資産も当然増加し始める。次の図において分かるように過去においても経済が拡大しているときは、家計金融資産は急速に増加していた。なぜ増えるのかと言えば、日銀や銀行がお金を刷っているからだ。当然のことながら、刷る前はそんなにお金は無かった。大規模景気対策で経済が再び発展し始めると、日銀や銀行がお金を刷り始めるから急速に家計金融資産は増え始めるし、政府が借り入れに困ることは永遠に無い。

                       出所:日銀

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もう一つ、注意しておきたいのは、政府が十分な景気対策を怠り、デフレ経済にしたために、税収が異常に減ってしまっているという現状を理解すべきだということ。例えばEUでは法人税率を下げたら(青線)、名目GDPに対する法人税収の割合(茶色)が増えてきた。

253
次の図のように、先程述べた日経の経済モデルによる試算でも同様な結果が出ている。税率を思い切って下げると、最初の3年間は税収が減るが4年目からは景気が回復し、税収は増え始めることが分かる。税収が増えた結果数年後には赤字国債を出さずに済む。

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以上、国の借金と言っても、もともと刷ったお金であり、いくらでも刷れるからいくら増やしても問題ないと結論される。「借金」という言葉は、印象が悪いので、英国で検討している改革案のように、どうせ刷ったお金なのだから政府に貸与するのでなく賞与でよい。返済義務のない資金を日銀から供給すれば、国民は国の借金に悩まされることは無くなり、国の経済は安定し、国民も安心して生活することができるのは明らかである。英国の改革案は次のサイトを参照して頂きたい。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-a945.html

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2010年11月30日 (火)

NHKは反社会的集団(No.21)

 本日(11月30日)の0:15から放映されたNHKスペシャル(再)「借金862兆円への軌跡」を見ると、NHKは反社会的集団と断定せざるを得ない。国民から視聴料を徴収する資格など全くない。番組では国の借金=赤字国債を悪と決めつけた。それではNHKに聞くが、この悪者を追い払い赤字国債を発行せず、大規模な歳出削減と大増税をやればデフレ経済の日本はどうなると思っているのか。国の借金を減らそうとして行ったフーバー大統領の緊縮政策は世界大恐慌を招いた。あの政策と全く同じで大惨事を日本に招くことは間違いない。数万人の人を自殺に追い込むだろう。そのような大虐殺をNHKは推奨しようと言うのか。

 政府収支の赤字は民間収支の黒字だ。政府を赤字にすることにより、お金が国民に流れ、デフレで貧乏になりつつある日本の被害を少しでも少なくしようとしている。廣宮氏の先週の日本経済復活の会の講演から引用すると、「国の借金」は世界全体では2000年の21.4兆円から2009年には43.1兆ドルに増えている。「国の借金」を増やすことにより、世界に流通するお金を増やし、経済を拡大しているのだから、それで良いではないか。NHKはこれを無理に減らして、世界経済を破壊しようということか。このような危険な考えを押しつけようとすることは犯罪行為に等しい。すでに述べたように、日本の国の借金は、諸外国に比べそれほど増えていない。問題なのは借金の増加率ではなく、GDPが伸びないということなのだ。詳しくは
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bef5.html
を見て頂きたい。

 政府収支を黒字にするということは、税収を増やし歳出を減らすということ、つまり政府がお金を国民から奪い取るということ。これが経済を悪化させることがよくある。例えば、1990年~1992年は財政黒字だったが、それがバブル崩壊を招き、日本経済を破壊した。メキシコでも財政黒字だった1994年に通貨危機が起きた。アメリカでも財政黒字だった2000年にITバブル崩壊が起きた。アイスランドも2004年~2007年に財政黒字が続いた後2008年に実質国家破綻となった。財政を黒字にするということは景気にブレーキをかけるということだから、失速の危険が伴う。国民が金に困っているときは、国は財政を赤字にして国民を助けるのが当然なことだ。国の借金は、諸外国がやっているようにお金を刷って補給すればよいのだから。

 もちろん、外国との取引で赤字、つまり経常収支の赤字が続くと外貨が無くなり貿易がやりにくくなる。そのとき、外国から借金をしていると、支払いができなくなり(デフォルト)破綻する。しかし、日本は経常収支は黒字が続いており、しかも対外純資産は260兆円もあるからそのような心配は全くない。

 日本における国の借金の問題は、全く気にしなくても良い問題だ。ノーベル賞を受賞した経済学者であるクライン教授が私にくれた手紙に、国債は日本銀行に買わせると良いと書いてあった。国の借金は日銀が買えば一件落着する問題であり、NHKスペシャルは、そこで日銀が払った代金を、国の経済発展にどのように使っていくかを特集すべきなのだ。景気が良くなり、デフレから脱却し、インフレ率や金利が高まったときどうすればよいかについてはすでに述べた。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-5741.html

 国の借金がたまったのは、わざわざ借金がたまるような方法を取ったからにすぎない。例えば為替介入にしても、短期国債を発行して資金を調達してドルを買う方法を取っているから借金として残る。中国方式を採用して日銀がお金を刷ってそのお金でドルを買うなら借金にならない。ドルを買うために日銀が支払ったお金が国民に渡り、それが経済を拡大する。日本が過去の間違いを反省し、中国方式に切り替えたら、日本経済は急成長し国の借金は激減するのは間違いない。イギリス財務省が検討中の計画案を採用しても、国の借金の問題は一挙に解決する。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-a945.html

 国が経済規模を拡大するには、新しく作り出された成長通貨を供給して流通するお金を増やさなければならない。新しいお金を市中に流し込めるのは政府だけだ。デフレで経済規模が縮小しているときは尚更それが必要となる。デフレ脱却のためには国債をもっと多く発行して国民に渡さなければならない事をNHKは理解すべきだ。

 NHKは公共放送なのだから、日本経済を崩壊させるためでなく、経済活性化のための報道をすべきである。

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2010年11月29日 (月)

景気を良くしたら金利が上がり、国は利払い増加で財政破綻するか??(No.20)

 これは先週の日本経済復活の会の定例会でも話題になったことだ。我々は大規模景気対策で景気を良くする提案を行っているが、景気が良くなれば当然資金需要が出てきて金利が上がってくる。それは日本経済にとって大変良いことだ。しかし金利が上昇すれば国が払う金利は膨大になるのだが、それに対してどう対応すればよいのかも示しておくべきだという意見がある。多くの政治家、官僚、エコノミスト等は、金利の急上昇つまり国債暴落を恐れて大規模景気対策を躊躇している。つまり景気は良くならない方がよいと考えている!!

 「国家破綻」の空想をしたい人は勝手にやればよい。馬鹿な連中が集まって経済運営をすればそうなるだろう。しかしながら、技術的に金利上昇に伴う混乱を避ける方法はいくらでもある。例えば長期金利がいきなり5%にまで跳ね上がったとすると、単純計算では、銀行だけで13兆円程度の含み損がでる。生損保、郵貯、かんぽ、日銀、年金積立金にも大損害が出る。混乱が出ないようにする方法をここで示す。

 第一は、日銀が国債を買い支えることだ。つまり大規模な買いオペをやるということである。例えば米国では1942年より「国債価格支持政策(Pegging Operation)」を採用した。財務省短期債券の買いオペ金利を0.375%に固定、長期債も金利2.5%で買い支えた。この政策は1951年まで続けられた。中央銀行が買い支えれば金利はそれ以上にはならない。

 第二は、政府が固定金利で発行した国債を変動金利のものに変えてやることだ。これなら金利が上昇しても国債が暴落することはない。金利が上がれば、それに合わせて金利も上がってくるので、急いで売る必要がなくなるからだ。この提案(ボンドコンバージョンン)は、経団連が行っている。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2003/044/honbun.html

 第三は、国債を保有する金融機関には、同時に株も保有するように指導することだ。景気が良くなれば、必ず株は上がってくる。万一上がらなければ、日銀にETFとして間接的に株を買わせればよい。しかし、景気回復局面では必ず利益の少ない国債から株に乗り移る。だから株は急騰する。実際、株と国債の両方を持っていれば、株の値上がりによる利益のほうが、国債の下落による損失よりもはるかに大きい。

これが景気回復による経済の拡大というものである。下図のように、2007年と比べ、現在の株式時価総額は約300兆円減っている。

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景気がよくなったときは、この失われた300兆円を取り戻すだけでなく、それ以上の株価上昇が見込まれるのは当然だ。2007年でも事実上のゼロ金利だったのだから、金利が上昇するような景気回復の局面では、2007年の株価レベルよりずっと高い株価になるのは間違いない。そうなれば、上記で示した国債の下落による損失を補って余りある利益が出るのは間違いない。

 国がどうなるかと言えば、GDPが増えて国の借金のGDP比が下がって財政は安定する。また税収も増えるので新規国債の発行額も減ってくる。詳しくは以下を見ていただきたい。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

国債はいくらでも発行できるのだから、財政破綻はあり得ない。お金はいくらでも刷れるのだ。

 国債を日銀が買うと度が過ぎたインフレになるという心配をする人がいるが、これは中国流で対応すればよい。つまり預金準備率を上げるという方法である。これなら日銀から出された資金が日銀に戻ってくるのだからインフレは抑えられる。このように、増えすぎた国債残高に恐れをなしているばかりでなく、緊急事態への対応を事前に十分準備しておけば恐れることは何もない。

 景気が良くなって損をするのは、「国家破綻」という本を売って稼ぐ悪徳業者だけだ。

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2010年11月26日 (金)

半身不随の政府を持つ日本の悲劇(No.19)

6月8日に菅内閣が発足して4ヶ月半が過ぎた。この間、この内閣は何をやったのだろう。成立した法律は、「独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構法の一部を改正する法律案」と「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律の一部を改正する法律案」の僅か2つである。

 菅内閣は5兆円の補正予算の早期成立を目指している。国民生活に重大な影響を与える法案なのだそうだが、内閣府によれば、この補正のGDP押し上げ効果は0.3%、つまりたった3兆円ということだ。GDPは、この3年間で40兆円も減ってしまったのに、僅か3兆円を取り戻すだけでよいのだろうか。失った40兆円よりも、この3兆円の方が重大だとでも言いたいのか。

 昨年12月に閣議決定した民主党の2020年までの目標は平均で名目3%の成長ということだった。0.3%ではない。このままだと、いつまでも名目GDPはほとんど増えない。世界中捜しても、これだけGDPが増えない国はどこにもない。民主党が自ら設定した目標は、0.3%の10倍の3%成長なのだから、必要とされているのは、5兆円の10倍の50兆円の補正予算だ。

 他の予算を削って捻出したのであれば、削ったためにGDPは減少し、補正でGDPが拡大するから、全体ではGDPの増減は無い(又は、ほとんど無い)。民主党はもともと207兆円の予算を組み替えれば16.8兆円の財源が捻出できると言っていた。単なる組み替えであれば、GDP押し上げ効果は無い。しかし、埋蔵金等、眠っている金を使うのなら押し上げ効果はある。実際は、そんな財源は捻出できなかった。民主党の目玉政策である子供手当、高速無料化、農家の個別所得補償、高校無償化に期待して民主党に投票した人にとっては騙されたと思っているだろう。

 ありもしない財源をちらつかせて政権交代を実現するやりかたに憤りを覚える。眠っているお金を使うというのであれば、なぜ日銀埋蔵金を使わないのか。日銀には巨大な資金が眠っており、これを使えば100%間違いなくデフレ脱却も可能となるし、デフレギャップを埋めることが出来る。

 残念ながら、現政権には没落する日本経済を救うための手段を持っていない。どんな提案をしても野党もマスコミも受け入れないだろう。言ってみれば反対のための反対、政権交代を勝ち取るための反対を続けるだろう。間もなく仙石・馬淵両氏の問責決議案も参議院で可決されようとしている。過半数を持たない与党にとって、今後何ができるというのだろう。「国民生活を重視すれば、こんなことをやってる時ではない」などと民主党が反論できるだろうか。民主党が野党だったときにやった戦術で、現在の野党がお返ししてるだけだから、反論はほぼ不可能だろう。

 もともと、現在の内閣は参議院で過半数を持っていないのだから、存続のための唯一の命綱は国民の支持だったが、それも失われたら何も出来ない内閣になってしまう。来年度予算の問題がある中、衆議院の解散総選挙か党分裂による政界再編のどちらかしか選択肢は無いような思われる。しかし、谷垣氏が代表の自民党が中心の内閣が政権を取ったとしても、待ち受けるのは消費税増税の悲劇だ。菅首相が消費税増税を言ったために参議院選に大敗したのを自民党は忘れたのか。

2009年度の税務申告で黒字申告をした法人は史上最低の25.5%しかいなかった。企業の4分の3が赤字であるときに、大増税をしたら、破綻企業が続出し、我々が経験したこともないような大不況に陥ることは避けられない。国を貧乏にしGDPを縮小して、国の巨大な借金を返せるとでも思っているのだろうか。法人税減税と言うのかもしれないが、赤字企業には法人税を納めていないから恩恵は無い。一方で消費税増税は大打撃となる。 
余り知られていないが、消費税は輸出企業への実質的な補助金になっている。輸出品に対しては消費税はかからないという名目で輸出企業に対して輸出戻し税が支払われている。消費税収の23%もが輸出戻し税として輸出企業に支払われている。輸出企業10社だけで1兆円もの戻し税を支払っているという。消費税を全く払わないどころか、還付を受けているのだ。消費税率を2倍にすれば還付金も2倍になる。輸出企業にとっては消費税増税大賛成だ。

現政権も末期状態だが、政権交代をしても経済は良くなりそうもない。今こそ国民が立ち上がる時だ。世界中緊縮財政への不満が鬱積して政府への抗議デモが相次いでいる。それを最もやらなければならないのは日本だ。デフレという大不況が十年以上いているのだから、直ちにデフレ脱却予算を組めと要求すべき時である。国会へ10万人がデモをすれば馬鹿な緊縮財政を止められる。国会議員も内心国民世論の変化を望んでいるのだ。

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2010年11月19日 (金)

英国財務省の独立銀行委員会が貨幣発行特権行使の検討を開始(No.18)

 本日(11月19日)届いた情報によると、ササンプトン大学のベルナー教授とNEF(新経済財団)で共同提案された貨幣発行特権行使を含む銀行改革案が英国財務省の独立銀行委員会(ICB)に提出された。ICBでは来年9月20日までにこの案の検討結果をまとめ政府に提出し、そこで採用すべきとなれば実施に移されることになる。
http://www.positivemoney.org.uk/wp-content/uploads/2010/11/NEF-Southampton-Positive-Money-ICB-Submission.pdf

 提案者達は、この改革案は採用される可能性が高いと考えている。なぜなら、フィナンシャル・タイムズの主任編集者のMartin Wolf氏(英国を代表するエコのミスの一人)がこの案に賛成しており、ICBに入っている。また、イングランド銀行のキング総裁もこの案を後押しするような発言をし、英国の著名なエコノミストのJohn KayやLaurence Kotikoffも現在の銀行制度の欠点を指摘し、この改革案に近い案を提案しているからである。
 この案についてはすでにその内容を簡単に説明した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-6622.html

  言うまでもなく、経済規模を大きくするには、市中に出回るお金の量を増やさなければならない。現在の制度では、お金の量の調整は銀行貸出によって行われている。例えば誰かが1億円銀行から融資を受けると、借りた人はそのお金を札束として自宅や会社の金庫にしまうのでなく、銀行の口座に預けておき、ATMで支払いをする相手の銀行口座に払い込む。つまり1億円は銀行からは出て行かず、このお金を再度貸し出しに使うことが出来る。このとき、市中に出回るお金は1億円増えたことになる。つまり事実上銀行がお金を増やした(刷った?)ことになる。

  しかし、バブル崩壊で経験したように、このようにしてつくられたお金は、一瞬で消える。不況になり土地・株等が値下がりし経済に将来不安が出てくると借りた人が一斉に返し始めるし、これ以上借りようとする人がいなくなるので経済が発展しなくなる。銀行の融資の担当者は国の金融調整をするために働いているのではなく、自分の利益のために働いているだけだ。日本経済をデフレから脱却させるのが目的でなく、自分の銀行の利益が目的だ。

                         出所:日銀
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 まさにこのことが日本で起こりつつあるというのは、このグラフで明らかである。銀行貸出はピーク時より約2割下がっている。これでは設備投資も伸びず、GDPも増えず、経済は発展しない。デフレで資産価値が下がり、担保価値が減ったのが原因だ。銀行の貸し出しを伸ばすのは銀行の営業マンの仕事で、そんな人達だけに、デフレ脱却の仕事を任せてよいのかということだ。

銀行にとっては危ない企業に貸すより国債を買っていたほうがずっとよいということになる。つまり国に金を貸して儲ける。その金利を払うには国民の税金を使う。いわゆる国債費だ。それが現在は約20兆円である。内閣府の発表によれば2023年には税金を全部使っても国債費を払えなくなるそうだ。我々の税金のすべてをそんな目的に使おうという馬鹿な政府にNOを言おうではないか。

この英国の改革案では、国は借金で(つまり国債を発行して)財政をまかなうのではなく、日銀から直接借金でない資金の供給(これぞ通貨発行特権の行使だ)を受ける。これは返さなくて良いし利払いもない。インフレにならないよう、日銀の中の委員会で責任を持ってその資金供給額を決める。これならデフレ脱却も可能になる。現在は通貨発行を銀行の営業マンに頼っているが、新しい制度では徹底した分析をもとに国(日銀内の委員会)が行う。ただし、政治家には参加させないし、圧力も掛けさせない。

現在のシステムだと日本中が借金だらけになるようになっている。国の借金の908兆円もそうだし、銀行貸出も企業の借金や個人の住宅ローンなどをどんどん大きくしないと国が発展しないという制度はおかしい。そうではなくて、国の経済発展にとって必要なだけお金を日銀が国に流し、それによって経済を大きくすれば、銀行貸出や国の借金はそんなに大きくする必要はない。これが英国で検討されている制度である。これによると銀行の口座は決済口座(Transaction Accounts)と預金口座(Saving Accounts)の2種類に分ける。決済口座は窓口は各銀行に置かれるが、資金を管理するのは日銀である。無利子で振り込み口座等に利用され、元本は国が保証する。預金口座は定期預金のようなもので利子がつく。こちらは各銀行が資金を管理し融資に使い利ざやで銀行は稼ぐ。

  現行制度に比べ、日銀からの資金を使った減税や大規模財政出動等でずっと多くのお金が国民に渡される一方で、融資は今までほど受けられなくなる。直接金融は今まで通りである。現行制度では金利で景気を調整しているが、新制度では財政で景気調整を行うからデフレから抜けられなくなることもなく、国が巨額の借金をし、その利払いで国民の税金の多くの部分が使われるということも無くなる。国の借金も国民の借金も激減するというこの制度、日本でもぜひ検討して頂きたい。

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2010年11月14日 (日)

TPPの前に農業の大規模化とロボット化を進めよ(No.16)

 政府は政府、TPPについて「関係国との協議を開始する」と言っている。残念ながら、政権交代以後、民主党政権は国民への約束をことごとく破っている。今回も協議はすれども、どうせ参加する気は全く無いのだろうと推測してしまう。TPPよりずっと条件が緩やかなFTAやEPAには見向きもせずにTPPを急に言い出したというのも、本当はやる気が無いのではないか。

 TPPに参加すれば海外の労働者の受け入れを大量に受け入れざるを得なくなる。ベトナム人等が大量に入ってきて低賃金で働き始めてもよいと考えているのだろうか。そうでなくても失業者だらけ、大学生の就職難を放置して大量の外国人を入れるというのは誰も納得しないだろう。

 しかしながら、鎖国をしていたらこれから競争の厳しい時代、日本はやっていけない。どうすればよいかと言えば、TPPでなくEPAやFTAで開国をすべきだ。すでにフィリッピンやインドネシアとのEPAは認めているし、その場合、労働者の流入も限られたものとなっている。

 ただしEPAやFTAを始めるにしても、その前に農業の大規模化とロボット化で国際競争力を強化する必要がある。この事に関しては、日本経済復活の会の中ですら賛否両論があるが、農業の国際競争力強化なしには、日本経済はお先真っ暗である。農業従事者の平均年齢は65歳を超え、老人には大変重労働である反面低収入を強いられている。農民を救うには、巨額の補償金を差し出して、大規模化に協力を求めるしかない。 

どれだけの補償金かと言えば、ほとんどの農家が喜んで協力するだけの補償金である。日本のGDPに占める農業の割合は僅か1.6%に過ぎないのだから、刷ったお金を使えば、その程度の資金は余裕で確保できる。日本の農業だけでなく、日本の経済を救うために協力してくれとお願いすれば、大部分の農家は協力するはずだ。現在耕作放置地は40万ha近くもあると言われている。棚田など大規模化に適さない所は、耕作放棄地で大規模化に適する場所に移動すればよい。

 農業の大規模化の目途が立ったら、次はロボット化だ。それは、北海道大学等で研究が行われている。
http://avse.bpe.agr.hokudai.ac.jp/
ロボット技術は日本のお家芸であり、政府が本気でこの分野に投資すれば日本の農業は一挙に世界一になれる。管制室で遠隔操作すれば、無人のロボットがすべての農作業を行ってくれる。GPS等によるポジショニングを行い、自律的に畑のすみずみまで農作業を行う。

 正確な作物の生育状況や土壌の状態を把握するために、衛星画像だけでなく、産業用無人ヘリコプターも使用する。それらのデータを使えば、最適の農薬や肥料の量を決めることができ、環境にもやさしい農業が実現する。
 様々な農作業を行うロボットが開発されている。①自律走行で土質を改良②耕うん機③きゅうりの収穫④接ぎ木⑤水田管理⑥果樹防除機⑦田植え⑧搾乳機器の自動装着などである。現在は、需要がないため開発がなかなか進まないが、政府が巨額の投資をし、大規模農業が実現すれば更に飛躍的な進歩が見込まれる。

 農業の競争力強化は、当然農業人口の減少を招く。余った労働力をどうするのかという問題も解決しなければならない。それは農業だけでなく、環境エネルギー政策として風力発電や太陽光発電への大規模投資、共同抗による電線の地下化、花粉の出ない杉の植林、高性能林業機械の導入、工場への直接販売、林道の整備等による林業の大規模化と育成、ハブ空港・ハブ港湾の建設、東京環状道路の建設など、刷ったお金を使えばいくらでも新しい雇用が生まれる。介護の現場は現在でも人不足だとも言われている。農民は十分な補償金をもらって新しい職場に移れば十分満足できるようにすればよい。

 かつて炭坑が次々と閉山になったとき、何十万人という労働者はスムーズに別な産業に移っていった。お金さえあれば何でもできるが、お金が無ければ何もできない。政府は財源不足を言うのでなく、中国を見習って国を豊かにするために、お金を刷るべきである。

 十分お金を使えば、ロボット技術もどんどん進歩させることができる。将来はロボットが、ほとんどの能力において、人間を上回るようになる。そうなった場合には、ロボットが人間の替わりに労働を行うようになる。ロボットは高価だと思っているかもしれないが、ロボットの製造はロボット自身が行うようになるから、人手は掛からない。ある意味でタダで何台でもロボットができてしまう。原料の調達から製品の完成までロボットがすべてを行うようになる。そうすると、ロボットは優秀でしかも安い労働力を提供するので、ロボットがほとんどの職場を人間から奪ってしまう。

そのような時代に、「働かざる者、食うべからず」などと言っていたら、人間は働き場を失い、「人間は食うべからず」ということになってしまう。このような時代に人間は何をすべきかということだが、そのときは物やサービスはあるのだから、その分配だけを考えればよい。お金はいくら刷っても良い。十分お金を人間に配っておけば無制限供給に近い状態が生まれる。そのとき、人間は好きなことをやっていればよく、貴族のような生活ができる。詳しくは「労働はロボットに、人間は貴族に ・・・ ロボット ウイズ アス」という筆者の拙書を参照して頂きたい。
http://tek.learning.jp/book/

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