経済の現状

2011年1月26日 (水)

国家戦略室の「財政破綻リスク」に対する驚くべき認識(No.39)

平成22年6月22日に、平成23〜25 年度の歳入・歳出の骨格を示す「中期財政フレーム」を含む中長期的な財政健全化の道筋を示す「財政運営戦略」が閣議決定された。そこに財政運営戦略概要が示されている。
http://www.npu.go.jp/policy/policy01/pdf/20100622/220621_zaiseiunei-gaiyou.pdf

そこに次のような一文がある。
2.財政破綻リスクへの断固たる対応
現状を放置して、ギリシャ等のように財政破綻に陥るようなことがないようにしなければならない。仮に、そのような状態になれば、財政自主権が失われ、社会保障サービス等の水準が大きく低下し、経済や国民生活に多大な悪影響。

この文章の意味を聞くために、内閣府の国家戦略室に電話した。詳しいことは、この文章を書いた石崎氏でないと分からないということで、石崎氏が現れるまで待って質問した。

小野:財政破綻ということは、国債が売れなくなることか。
石崎:そうだ。
小野:国債が売れなくなれば、日銀が買うのではないか。
石崎:それは日銀が判断することで、政府が判断することではない。
小野:国債が売れなくなるということは、国債が紙くずになるということか。
石崎:そうだ。
   《え!政府はそんなに無責任なのですか!》
小野:国債がそんなに危険な金融商品であれば、国債を売るとき、これは将来紙くずになる可能性がありますと言って売らなければ、詐欺ではないですか。
石崎:そうですか。
小野:今年の1月21日に内閣府から出された経済財政の中長期試算では、将来財政が破綻するとはなっていません。戦略室の記述と矛盾するのではないですか。
石崎:その試算は分かりません。
    《そのくらい勉強して下さい!》
小野:菅首相は1月8日に「このまま赤字国債を発行するような状態は。2年先は無理だ」と発言している。そのくせ、1月21日に発表した試算では、2年どころか、2023年まで問題なく赤字国債を発行できることになっている。自己矛盾しているのではないか。
石崎:赤字国債の発行を抑える努力をするということだ。
     《そのような努力で、過去の内閣は逆に財政を悪化させているのに》
小野:財政運営戦略概要には、現状を放置すればギリシャのようになって、財政自主権が失われると書いてある。これはIMFの管理下に置かれるということか。
石崎:まあ、そういったものです。
小野:IMFの仕組みを知っているか。IMFは外国からの借金があって、それが返せなくなった国に対し、まず自国のお金を刷らせ、そのお金をドルや円などの国際通貨に交換することになっている。
石崎:知ってます。
小野:まず自国の通貨を刷るのが絶対条件だ。日本の場合、円を刷ればそれだけで借金は返せる。外貨はたくさん持っているし、円自身が国際通貨なので円と円を交換してもらっても仕方ない。日本は外貨もたくさん持っているし、IMFに世界第二位の額を出資しているのだから、援助を受ける方であって、IMFの支配下になるわけがない。
石崎:はい。そのことはよく知っています。
    《知っていながら、増税を国民に認めさせるために、国民を騙そうとしている!》
石崎:でも、お金を刷ればインフレになります。
小野:インフレということはデフレ脱却ということでしょう。財政危機だの、ありもしないことを書けば、国民は大変だと思い、危機に備えなければならないと思い、節約するから消費が減り、景気が悪化し、財週が悪化する。政府としては、このような無責任なことは書くべきではありません。
石崎:すいませんでした。

日本の国家戦略がこんなお粗末なものでよいのだろうか。

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2011年1月21日 (金)

経済政策の失敗のお陰で、日本はGDPで中国に抜かれ第3位に(No.38)

 2010年のGDPが日本は中国に抜かれて世界第三位に下がった。中国の2010年のGDPは5.8895兆ドル(約483兆円)、日本は5.4778兆ドル(約449兆円)ということで抜かれたのだという。しかし、内閣府の発表では日本のGDPは2009年度274兆円、2010年度279.2兆円であって新聞に書かれている449兆円とはほど遠い。しかし、いずれにせよ、中国に抜かれたのだろう。テレビでは、「中国におめでとうと言いたい」という主旨の発言が相次いだ。

 しかしながら、今はお祝いを言っているときではない。1997年に513兆円もあったGDPを、479兆円にまで減らしてしまったのは、政府の失政によるものであり、政府は深く国民に詫びるときだ。もし過去において正しい経済政策が行われていたらどうなっていただろうか。例えば毎年50兆円規模の景気対策を5年間行っていたらどうなっていたかというシミュレーションを、日経新聞社のモデルを使って行った。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

2000年~2004年の5年間、毎年50兆円の景気対策を行っていたら2004年には679兆円になっていたはずだという予測になっている。その後、名目で5%成長し続けていたら2010年にGDPは910兆円ということになる。5%成長など無理と思うかも知れないが、3%のインフレ率に2%の実質成長率を加えれば5%になり、全然無理な数字ではないし、そうなっていれば、まだまだ中国ははるか下ということになっただろう。成長しているときは、税収は増える。GDPが910兆円なら税収は100兆円を大きく超えていただろう。

 大規模財政出動というと、財源が無いというのが政府の口癖だが、しかし金融機関に金が余っていることは誰もが知っている。次の図は長期金利の国際比較だ。OECD Economic OutlookNo.87 から引用する。

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日本の金利だけが極端に低いことがわかる。これは、日本だけが極端に景気が悪いことを意味している。これだけ金利を下げも、お金を借りて商売できないほど悪い経済状態であるということだ。国内に投資先が見つからず、ゆうちょ銀行も海外投資を急増させており、10兆円に迫る勢いである。また国内投資家の外国債券買越額は21.9兆円にものぼっている。企業の内部留保も206兆円もあり、行き所の見つからない巨額の資金が、今にも海外に逃げ出しそうだ。そうであれば、唯一できることは政府が国債を発行することでその資金を借りて、財政で使うことだ。財政が破綻しそうだと言えば、心配で誰もお金をつかわないからデフレは悪化するが、お金はいくらでもあるから、皆さん安心して下さいと言えば、お金を使い出し、景気がよくなってくる。

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2011年1月16日 (日)

「経済が破綻する」などと言って金を騙し取った会社社長を逮捕(No.36)

1月16日のNHKニュースによると「経済が破綻する」などと言って金を騙し取った会社社長を逮捕したそうである。これは架空の投資話で顧客から金を集めた話しだが、ここまで露骨にやらなくても、財政が破綻するとか、国家破産とか、預金封鎖とか、国民に恐怖を起こすような言葉を並べて、新聞・雑誌・書籍の売り上げをのばそうという悪徳業者が日本中にあふれており、それが日本人に不安を募らせ、自信を喪失させ、将来不安を引き起こしている。このため将来へのそなえをしなければと国民全体が考えているから消費が減退し、いつまで経っても不況脱却・デフレ脱却ができない結果を生み出している。

パソコン、携帯電話、テレビ等を見ても、目覚ましく進歩しており、技術の進歩によって我々の生活には、ゆとりが出て当たり前のはずである。しかし、実際は逆になっている。それは次の内閣府の国民生活基礎調査の結果でもはっきり表れている。

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このように国民生活を苦しくさせたのは、財政が破綻する・経済が破綻するなどと言って国民に恐怖を煽り、耐乏生活を強いた政府・マスコミ等に責任がある。国の借金が大変だというが、国は通貨発行ができるのであり、国の借金は何の意味もない。通貨発行なしには国の発展はあり得ないし、国民の生活を守ることはできない。

今から28年前で、すでに政府は財政非常事態宣言を出している。非常事態宣言を出すこと自体、国は自由を束縛され、発展に重大な障害になることを忘れてはならない。防空壕で不自由な生活を強いられることを考えれば、国に非常事態宣言を出すときは、本当に実害が伴う危機がせまったときにごく短期間だけ出すべきである。政府の発言からすれば、いまだ非常事態宣言は解除されていないように思える。28年間も非常事態宣言が出ているような国が厳しい国際競争に勝てるわけがない。具体的に何が危機で何が危機でないのかをしっかり見極める必要がある。当時はこれ以上国債を発行すると金利が上がって景気が悪くなるということだった。実際は上がるどころか下がっていった。

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政府は、非常事態宣言が誤りであったと謝罪すべきである。この非常事態宣言が与えた国民生活への悪影響を考えれば、政府の犯した罪は、NHKニュースで報じられたあの会社社長よりはるかに重い。

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2011年1月 4日 (火)

国民のための政治を放棄するなら現政権にNOを言おう(No.31)

新年おめでとうございます。
本年も宜しくお願いします。

2006年1月に自民党政権は、2011年度に基礎的財政収支の黒字化を目指すという目標を立てた。内閣府のシミュレーションでは2011年度黒字化可能ということだった。しかし翌年の2007年1月には状況が悪化し、14.3兆円の歳出削減をすればやっと2011年度の基礎的財政収支は黒字化(0.2%の黒字)すると下方修正した。2008年1月になると更に悪化し14.3兆円の歳出削減を行っても、まだ0.1%の赤字だと言い出した。2009年1月には状況は更に悪化し、2.9%の基礎的財政収支の赤字の見通しを発表した。そして現在の見通しでは更に悪化し、2011年度、約23兆円(4.8%)の基礎的財政収支の悪化を見込んでいる。

どうして、毎年毎年見通しが悪化するかと言えば、内閣府の見通し(シミュレーションの結果)が、そもそも大本営発表のものだからだ。「日本軍の快進撃」を発表し続けて、国民がおかしいと気付いたときは日本は焼け野原になっていた。国民よ、目を覚ませ、我々は騙されているのだぞと、すでに警告した。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/no17-6a82.html

基礎的財政収支がどんどん悪化する政府の発表を真に受けて、マスコミは政府が緊縮財政をやらないからどんどん財政が悪化するのだと言い続けてきた。それは違う。悪いのは、内閣府が国民を騙そうとして作った経済モデルだ。実際はデフレで緊縮財政をやれば、景気が更に悪化して財政も悪化する。自民党は大本営発表を繰り返すことで、自分たちの政策を正当化しようとして失敗した。経済は政府発表の通りに改善しなかったからだ。民主党は更にひどい。彼らは経済モデルによる試算はほとんど無視し、まるでどんぶり勘定の発表をし、目標を立て、半年も経てば、自分たちの目標が何であったか忘れている。

例えば民主党は2020年まで平均で名目3%成長でGDPを650兆円にまで拡大するという目標を立てた。驚くことに民主党は、その目標を実現するための努力を全く行っていない。昨年12月22日の閣議決定で、名目成長率は平成22年度1.1%、平成23年度は1.0%の見通しであることを了解した。3%成長という目標は全く無視した(忘れた)ということだ。デフレーターは2011年度までマイナスのままであり、デフレ脱却のための努力も全く行わない。

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上図を見ていただければ、如何に成長率が遅いかが分かるだろう。この調子で成長していけば、1997年度に514兆円だったGDPのレベルまで回復するのは、何と2017年度、つまり20年も掛かってやっと元のGDPを取り返すという前代未聞の悲惨な経済政策ということになる。過去の経済データを正確に再現できる経済モデルを使えば、財政健全化の方法が見えてくる。その1つが日経新聞社の開発した経済モデルだ。それによれば、50兆円の景気対策を行えば、1年で40兆円のGDPの拡大が見込め、リーマンショック以降に失われたGDPを一気に回復できる。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

国の借金も増やさなくてもすむ。つまり民主党と連立を組む国民新党の景気対策をそのまま受け入れればよいだけだ。

国の借金が増えるのは、景気が落ち込んで、歳入が減ってしまい、さらに景気の下支えのために大量の国債を発行しなければならなくなったためだ。大規模な景気対策を行って景気を良くすれば歳入は激増し、しかも景気の下支えのための国債発行は不要になるのだ。そのよい例が中国だ。日本とほぼ同じGDPなのに、歳入は100兆円を超している。国債発行をしなくても経済は自立的に拡大する。本格的な景気回復をすれば、日本も中国と同様の状況になってくる。

昨年2010年度の日本の経済状態がどれだけ悲惨なものだったかを日経新聞が12月29日に特集していた。それを以下で引用する。鉱工業生産も失業率も変化率において日本は最悪。しかも円高を進めてしまい日本は1人負け状態。名目GDPは日本だけが危機前の状態にまで回復できていない。

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もちろん、財政がどんどん悪化し国の借金が増え続けている。日本だけがデフレであることに変わりはない。閉塞状態を打開するために政府は何もやっていない。何かやろうとして野党に反対されてできなかったというならまだ応援のしようもあるが、経済再生のための努力を全く何もやらないし、来年度の見通しもその怠慢さにより国が更に没落することが確実である。財政が厳しいから更なる財政出動はできないと言うならそれは逆だ。大規模財政出動を行えば、財政は健全化するというシミュレーションの結果が出ているのだから。政府が何もしないなら、我々は政府にNOと言うべきである。

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2010年12月25日 (土)

借金頼みの予算編成?・・・、この借金も刷ったお金、財源は無尽蔵(No.29)

一般会計92.4兆円の来年度予算が閣議決定した。2年連続で借金が税収を上回るとマスコミが騒いでいる。是非一度、マスコミ関係者はこのブログを読んで、借金の意味を理解していただきたいものだ。借金は誰から借りているのか考えてもらいたい。もちろん、大部分は日本国民からだ。銀行等の金融機関を経由して国民から借りていると言ったほうが正確だ。

財務省によると、9月末の国の借金は908兆円になる。つまり国民一人当たり約750万円ものお金を国民が貸しているということになる。5人世帯だと3750万円も貸しているのだ。日本の家庭はそんなに金持ちなのだろうかと思うが、そんな実感はない。財務省のホームページから国債の保有者の割合を調べてみた。

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銀行など、金融機関が多く、海外の購入者は5%にすぎない。44兆円の新規国債が発行され、それを売ったお金を政府が財政支出に使ったらどうなるだろう。お金は医療・介護・公共投資・防衛・教育等様々な経路をたどり、結局は国民に渡る。国民が自宅の金庫に全部しまっておくことはあり得ない。銀行や郵貯に預けたり、生命保険の保険金として使ったり、年金の掛け金に使ったり、国債を買ったりする。銀行・郵便局・生命保険会社・社会保険庁等は有力な投資先が他に見つからないので、そのお金を次の年、国債などに投資する。

これはぐるぐる回っているだけで、持続可能であり、将来破綻するようなものではない。もし、銀行等にお金が無くなったら、日銀がお金を刷って流すことになっているので、決して資金が枯渇することはない。しかし、お金が一回りするごとに国は数十兆円の借金を増やしてしまう。このお金は金融機関が稼いだお金ではない。国民から預かったお金だ。預かったお金を再び貸し出すということは、お金を刷った(作り出した)ことになることだ。

例えば自分の車を貸したら、もう自分は車を持っていないから、もう一度貸すことは出来ない。しかし、国債を使い国が金融機関からお金を借り、それを使うとお金は金融機関に戻る。もう一度そのお金を国に貸すということは、実質的にお金を刷って貸していることと同じだ。刷って貸している限り、お金は無尽蔵に増やせる、つまりいくらでも国は借金を増やせることになる。もともと日銀が刷ったお金だが、金融機関がそれを国や国民に対して何重にも貸し出すことでお金が増え経済が発展する仕組みになっている。経済発展で銀行貸出は際限なく増えるものであり、増やさなければならないものである。

現在の日本には2つ問題があって、第一は、お金がいつまで経っても国の経済を発展させるためには使われないことと、第二は、もし国に対して金融機関がもうこれ以上金を貸せないと言ったときどうするかということだ。我々は日経の経済モデルを使い、この問題をどのようにすれば、この問題は解決できるかを示した。No.7を見ていただきたい。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

結論を言えば、数十兆円の景気対策を5年程度続けることだ。環境エネルギーや様々な分野の研究開発、社会基盤整備等、日本の将来への投資になるような景気対策がよい。そうすれば、需要が拡大し、企業に利益が出るようになり、設備投資をすればもっと儲かると感じるようになる。そうなれば、国債ばかり買っていた金融機関も設備投資のために融資を行うようになるし、景気が回復してくれば税収も増え、やがて国債に頼る必要も無くなってくる。まず景気回復のための一押しを政府が行うことが重要なのであり、あとは民間主導で経済が伸びていく。

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2010年12月23日 (木)

ヒットラーの経済政策と現在の日本経済(No.26)

ヒットラーは様々な困難を乗り越えて短期間に経済を復興させたのだが、これを日本経済の現状と比べてみよう。ドイツ経済復活に貢献したのは、ドイツ帝国銀行総裁、経済大臣のポストに就いたシャハトである。シャハトは第一次世界大戦後の有名なドイツのハイパーインフレを収束させた人物であった。

結局大量の国債(あるいは国債に準じるもの)を発行して大規模な景気対策を行うことになるのだが、当時のドイツは現在の日本に比べ遙かに厳しい経済環境にあった。第一に激しいハイパーインフレの収まった直後だっただけに、再びハイパーインフレがやってくるのではないかという恐怖が国民の中にはあった。更に、第一次世界大戦の莫大な賠償金が求められていた。つまり外国に対する巨大な借金があったのだ。1930年代ドイツの歳入は56億マルクでその約半分が賠償金に充てられた。ドイツの輸出製品には26%の輸出税をかけて連合国が受け取ることになっており大変なハンディーがあった。

しかも金(外貨)も底をついているから、物不足になっても輸入で簡単に補えない。つまり景気対策を行うと需給バランスが崩れてインフレになってしまう危険が大きかった。大規模景気対策で労働力不足になると、賃金上昇が引き金になりインフレに拍車を掛ける恐れもあった。しかも経済発展の基礎となる鉄と石油の不足も決定的だった。

それに比べれば、現在の日本は景気対策を行うには、はるかに恵まれた環境だ。なにしろ外貨は100兆円以上もあるし、慢性的な経常黒字が続いている。海外純資産も260兆円もある。需要が伸びて物不足になっても、輸入すればインフレになる恐れはない。デフレが十数年も続いているのだから、大きな生産余力があり、インフレ率上昇は喉から手が出るほど求めたいことだ。平均賃金も十数年間もの間下落が続いているのだから尚更だ。鉄鉱石や石油の輸入が当面不足する恐れもない。

現在の日本であれば、物余りのデフレの時代なのだから、単純に日銀が国債を大量に買い、資金を市中に流し、その資金で国が大規模な景気対策を行うだけで、デフレ脱却も景気回復も、財政再建も可能になる。何のテクニックも必要ない。しかし当時のドイツではそうはいかなかった。物不足になってもインフレが起きないように景気対策を行わなければならず、現在の日本にくらべ桁違いに難しい技を必要とした。例えば莫大な公共投資を行ったのだが、この資金が流れっぱなしだと、インフレになる。その資金の回収システムもあった。労働者の賃金のうち一定額を積み立てれば、利子が受け取れ、しかも利子には税金がかからないという労働者にとって有利な仕組みになっていて、積立金がどんどん膨れあがり、それが国庫に戻っていた。
当時行われた様々な工夫はここでは省略するが、詳細は武田知弘著『ヒトラーの経済政策』を読んでいただきたい。アウトーバーンを完成させ、国民車であるフォルクスワーゲンを開発し、またベルリンオリンピックで国威発揚を行った。

現在の日本では、労働者の賃金を回収して需要を抑える必要は全くない。公共投資を拡大し、賃金を支払い、消費を伸ばし需要拡大が実現できれば、有り余る供給力はそれに十分対応できるからである。もしシャハトが現在の日本にやってきて、経済運営を任せられたら、いとも簡単に失われた20年からの脱却をやってしまうだろう。1兆倍というハイパーインフレを見事に収束させた彼にとって、日本で景気対策が行き過ぎてハイパーインフレになってしまうのではないかという心配は皆無だろう。

ヒットラーとルーズベルトの経済政策から我々が学ぶべき事は、大不況に陥ったときは、失業率が完全に戻るまで徹底的に大規模な景気対策をやることと、暴走を回避するために民主主義は放棄してはならないということだ。次の2つのグラフを比べていただきたい。図1は世界大恐慌前後のドイツと米国のGNPである。ピーク時の1929年から30~40ポイントもGNPが減少し、その後V字カーブで経済は回復している。力不足のニューディール政策でも約4年間で元のレベルに回復している。年間成長率約10%の急回復である。

図1

261

図2は最近の日本のGDPの推移を表している。リーマンショック後の金融危機でGDPは10%足らず減少しただけで、ショックとしては世界大恐慌に比べれば数分の一にすぎない。しかもその後の景気対策の規模が小さすぎるためにV字回復になっていない。政府は2011年度の名目成長率の目標を僅か1%と見込んでいるが、それすら実現はあやしいものだ。我々はNo.7において50兆円の景気対策を5年間続ければ、景気回復・デフレ脱却・財政健全化が同時に実現すると示した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

図2

262

日本は、これだけ恵まれた経済環境にありながら経済成長が達成できないということは、如何に日本の政府・日銀が無能かということを示している。しっかり歴史を学んで欲しいものだ。

なお、1930年代のドイツが現在の中国と似ているというのがリチャード・クー氏の見解だ。確かに両方とも独裁国家で順調な経済発展を成し遂げた。しかし、ドイツは資源不足という難題に、侵略による奪略という強硬手段に訴え失敗した。現在の中国には資源不足の問題は無いし、戦争といった選択肢は存在しない。資源不足は将来的に発生するかもしれないが、戦争で解決することはあり得ない。核時代における戦争は勝者の無い戦争だ。

中国は人口が多いから大半が殺されても1億人が生き残ればまた復活できるという珍説がある。しかし、為政者はそんなことを考えるだろうか。自分が殺されても誰かがこの国を立て直してくれればよいという為政者はいない。他人の命より自分の命の方がずっと大切なのだから。自国も相手国も核で破壊されたとすると、自国も敵国も経済が崩壊する。それが自分にとってどのようなメリットがあるだろうか。現在の繁栄は、侵略によって更に改善することはできない。

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2010年12月 9日 (木)

アメリカの通貨発行権獲得のための苦闘と現在の日本(No.23)

アメリカ独立宣言の後も、アメリカは国際銀行家(ロス・チャイルド家等)による金融支配から逃れるための苦闘を繰り広げていたことはすでに述べた。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/no22-c6e3.html

1863年に「国法銀行法」が制定された。一見すると国のための銀行、つまり日銀のようなものかと思ってしまうが、実は銀行家のための銀行である。アメリカ政府債を銀行券の発行の準備金にあてる国法銀行は資本金の3分の1に相当する国債を購入し、これを担保に財務省から担保国債の90%に相当する銀行券を受け取り、兌換請求に備えて一定の法貨(金貨、銀貨、およびグリーンバック)を準備しておき、銀行券の発行を行った。

政府貨幣を発行しているのだったら、それを全国統一貨幣にすればよいのではないかと思ってしまう。しかし、実際は国際銀行家達の協力を得なければ政府も動けないということだ。「ただ、私は国家の貨幣発行をコントロールしたいだけだ。誰が法律を作ろうとかまわない。」とロス・チャイルドが言ったことからもそれが伺える。

国立銀行と言えども、その設立のための資本金は国際銀行家が出している。巨額の資本金が無ければ、誰もその銀行を信用しない。その資本金で国債を買う。その国債を担保に通貨を発行する。こうすれば、永遠に国はこの銀行に国債に対する利子を払い続けなければならない。しかも通貨発行権も、どこに融資するのかも、国際銀行家の自由自在ということになるのだから、アメリカは独立宣言後も、最も重要な部分を国際銀行家に奪われていたことになる。

真のアメリカの独立は政府紙幣を発行して国民のための政治をすることだ。人民のための政治をしようと政府紙幣を発行したリンカーンも、同様な努力をしたその他の大統領も暗殺されたと前回引用した宗氏の本に書いてある。暗殺の事実はあったとしても、その目的を特定することは難しい。しかしはっきり分かっていることは独立後も通貨発行権の完全な確保ができず、国債に対する巨額の利払いに苦しめられていたことだ。

前回も述べたが、当時のアメリカと現在の日本は類似点が多い。平成23年度の予算を見ると良い。

支出
  一般歳出(地方交付税も含む)   70兆円
  国債費                     24兆円
  財投                        16兆円
  国債償還                   110兆円
収入
   税収                      40兆円
      その他の収入                 4兆円
   国債発行                 170兆円
    (新規 44兆円  借換債110兆円  財投債 16兆円)

税収が40兆円のときに、利払い等の国債費が24兆円、つまり我々の税金の実に6割が金融機関への助成金に使われている。それが国民を苦しめている。リンカーン時代のアメリカよりひどい。リンカーンが日本にいたらきっと言うだろう。税金は人民のために使えと。国債費はこれからどんどん増える。内閣府発表では2023年には税金のすべてを使っても国債費は払えなくなる。実際は内閣府の予想以上のペースで国債残高が増えている。40兆円の税収のときに、総額170兆円もの国債を発行している。破綻の可能性は無いにしても早く改革をして、税金は国民のために使うことができるようにすべきだ。

231

 イギリスの改革案は、国債発行を減らす素晴らしい案である。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-a945.html

政府貨幣発行も別な改革案であり、多くの経済学者が提案している。例えばディラードは、ロングベストセラーの『J.M.ケインズの経済学 : 貨幣経済の理論』[1950]の中で、需要不足のときは、赤字国債を大量に発行するのでなく政府貨幣を発行せよと述べている。114~115頁(第21刷では139頁~140頁の無利子資金調達法)から引用する。

 ケインズは述べていないが彼の利子の性質に関する理論から見れば当然問題となる財政政策の側面は、遊んでいる資源を働かせる計画をもって行われる公共支出のための資金を無利子で調達する方法はないかという問題である。借り入れ支出によって公債が増加し、公債に対する年々の利子支払額がかさむ。・・・赤字財政に対する大きな反対が現れる根拠が借入元金や公債に対する諸経費がかさむという点にあるとすれば、社会として遊んでいる資源を動員するのに必要な貨幣を獲得するために、銀行その他に利子を支払わなければならぬ理由について疑問が生じる。経済の発展に必要な新貨幣を発行するのに市中銀行に莫大な利子を支払うという形で市中銀行に補助金を交付する必要がいったいあるだろうか。

新貨幣の発行は政府の機能に属するのが適当ではないか。もしそうだとすれば、政府が直接新貨幣を発行して市中銀行に公債利子を支払わなくてすますことを妨げるものは何かあるか。・・・市中銀行が受取る利子所得は少しばかりの事務的サービスを遂行する費用を支払うに必要な金額を除けば、独占料金であって銀行の純粋な犠牲や機能に対する報償ではない。政府公債には危険性は極めて少なく、無危険投資に最も近い存在であると考えられ経済的根拠は存在しないようである。

・・・無利子融資政策は必ずインフレーションを引き起こすという反対論に対しては雇用の一般論の立場から容易に答えることができる。諸資源が使われていないで遊んでいる場合には、貨幣支出の増加は物価を引き上げず、むしろ雇用を増加するであろう。完全雇用の点を越えれば、更に貨幣の膨張を行う必要性はなくなる。完全雇用が達せられた後までも貨幣膨張が継続するならば、インフレーションが生ずる。しかし、これは貨幣膨張それ自身の結果であり、その実施方法によってはそのような結果は現れない。例えば、利付公債であってもそれを市中銀行にあまり多く売りつけすぎるとインフレーションを引き起こすことはあり得る。実際貨幣供給の操作を誤ればインフレーションを引き起こしたり、デフレーションを引き起こしたりするであろう。上述の反対論は政府貨幣発行の反対をしているのでなく、管理通貨制度そのものに反対しているのである。

お分かりだろうか。日本は国の借金の膨大な利払いに苦しめられている。しかし、次の3つのうちのどれかを採用すれば、日本をこの苦しみから永遠に解放できるのだ。今こそ決断の時だ。それによる弊害は消費税増税の弊害の1000分の1しかない。

①英国の改革案を受け入れること

②日銀に国債を大量に買わせること

③政府貨幣を発行すること

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2010年11月26日 (金)

半身不随の政府を持つ日本の悲劇(No.19)

6月8日に菅内閣が発足して4ヶ月半が過ぎた。この間、この内閣は何をやったのだろう。成立した法律は、「独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構法の一部を改正する法律案」と「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律の一部を改正する法律案」の僅か2つである。

 菅内閣は5兆円の補正予算の早期成立を目指している。国民生活に重大な影響を与える法案なのだそうだが、内閣府によれば、この補正のGDP押し上げ効果は0.3%、つまりたった3兆円ということだ。GDPは、この3年間で40兆円も減ってしまったのに、僅か3兆円を取り戻すだけでよいのだろうか。失った40兆円よりも、この3兆円の方が重大だとでも言いたいのか。

 昨年12月に閣議決定した民主党の2020年までの目標は平均で名目3%の成長ということだった。0.3%ではない。このままだと、いつまでも名目GDPはほとんど増えない。世界中捜しても、これだけGDPが増えない国はどこにもない。民主党が自ら設定した目標は、0.3%の10倍の3%成長なのだから、必要とされているのは、5兆円の10倍の50兆円の補正予算だ。

 他の予算を削って捻出したのであれば、削ったためにGDPは減少し、補正でGDPが拡大するから、全体ではGDPの増減は無い(又は、ほとんど無い)。民主党はもともと207兆円の予算を組み替えれば16.8兆円の財源が捻出できると言っていた。単なる組み替えであれば、GDP押し上げ効果は無い。しかし、埋蔵金等、眠っている金を使うのなら押し上げ効果はある。実際は、そんな財源は捻出できなかった。民主党の目玉政策である子供手当、高速無料化、農家の個別所得補償、高校無償化に期待して民主党に投票した人にとっては騙されたと思っているだろう。

 ありもしない財源をちらつかせて政権交代を実現するやりかたに憤りを覚える。眠っているお金を使うというのであれば、なぜ日銀埋蔵金を使わないのか。日銀には巨大な資金が眠っており、これを使えば100%間違いなくデフレ脱却も可能となるし、デフレギャップを埋めることが出来る。

 残念ながら、現政権には没落する日本経済を救うための手段を持っていない。どんな提案をしても野党もマスコミも受け入れないだろう。言ってみれば反対のための反対、政権交代を勝ち取るための反対を続けるだろう。間もなく仙石・馬淵両氏の問責決議案も参議院で可決されようとしている。過半数を持たない与党にとって、今後何ができるというのだろう。「国民生活を重視すれば、こんなことをやってる時ではない」などと民主党が反論できるだろうか。民主党が野党だったときにやった戦術で、現在の野党がお返ししてるだけだから、反論はほぼ不可能だろう。

 もともと、現在の内閣は参議院で過半数を持っていないのだから、存続のための唯一の命綱は国民の支持だったが、それも失われたら何も出来ない内閣になってしまう。来年度予算の問題がある中、衆議院の解散総選挙か党分裂による政界再編のどちらかしか選択肢は無いような思われる。しかし、谷垣氏が代表の自民党が中心の内閣が政権を取ったとしても、待ち受けるのは消費税増税の悲劇だ。菅首相が消費税増税を言ったために参議院選に大敗したのを自民党は忘れたのか。

2009年度の税務申告で黒字申告をした法人は史上最低の25.5%しかいなかった。企業の4分の3が赤字であるときに、大増税をしたら、破綻企業が続出し、我々が経験したこともないような大不況に陥ることは避けられない。国を貧乏にしGDPを縮小して、国の巨大な借金を返せるとでも思っているのだろうか。法人税減税と言うのかもしれないが、赤字企業には法人税を納めていないから恩恵は無い。一方で消費税増税は大打撃となる。 
余り知られていないが、消費税は輸出企業への実質的な補助金になっている。輸出品に対しては消費税はかからないという名目で輸出企業に対して輸出戻し税が支払われている。消費税収の23%もが輸出戻し税として輸出企業に支払われている。輸出企業10社だけで1兆円もの戻し税を支払っているという。消費税を全く払わないどころか、還付を受けているのだ。消費税率を2倍にすれば還付金も2倍になる。輸出企業にとっては消費税増税大賛成だ。

現政権も末期状態だが、政権交代をしても経済は良くなりそうもない。今こそ国民が立ち上がる時だ。世界中緊縮財政への不満が鬱積して政府への抗議デモが相次いでいる。それを最もやらなければならないのは日本だ。デフレという大不況が十年以上いているのだから、直ちにデフレ脱却予算を組めと要求すべき時である。国会へ10万人がデモをすれば馬鹿な緊縮財政を止められる。国会議員も内心国民世論の変化を望んでいるのだ。

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2010年11月17日 (水)

大本営発表に騙されるな ・・・ 経済は成長しているのか??(No.17)

 7~9月期のGDP実質3.9%成長というニュースがマスコミで大きく取り上げられた。これで日本経済が成長していると決して思ってはいけない。今回同時に発表された名目GDPの値をグラフにしてみよう。

                     出所:内閣府

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 確かに、2010年7-9月期は、その前の期に比べて3兆円だけ増えているが、2008年1-3月期に比べれば37兆円も減っているのだ。むしろ大不況が続いていると言うべきだ。しかも今回の成長もエコカーの補助金の打ち切りやたばこ増税の直前の駆け込み需要や猛暑といった一時的な要因によるものであり、10~12月期にはマイナス1.7%成長に落ち込むだろうと(民間エコノミスト10人の予想)予測されている。

 民主党が約束した名目3%成長の実現はどうなったのだろう。経済の低迷がよく分かるのはGDPデフレーターだ。

                           出所:内閣府

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GDPデフレーターはデフレであるかどうかを判断する重要な指標である。このように、7-9月期では-2.0であり、プラスに向かいそうもなく、全くデフレ脱却の気配がない。駆け込み需要で需要が伸びたが、この程度では供給は全く問題がなく、需要に牽引されたインフレにはならないということだ。需要増によるゆるやかなインフレでデフレ脱却を目指すには、これよりもはるかに大規模な景気対策が必要だということである。このデータと、毎年内閣府から発表されているGDPデフレーターの予測とを比べていただきたい。

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 GDPデフレーターの予測は内閣府が毎年発表しているもので、今年は6月18日に発表された。このグラフでは2002年~2010年の9年間の予測データを、グラフにしてある。これで分かるように、予想はいずれも右肩上がりで、現在の政策を続ければ1~2年後にはデフレから脱却できるだろうと見込んでいる。実際の値はその下の黒い線で、デフレがずっと続いている。

 9回の発表があり、それがすべて大本営発表だったと分かるだろう。政府は毎年のように、来年になればずっと経済がよくなるだろうと国民に言い、翌年になって全然よくならないと分かると、「1年前には予測できなかった事態が発生した」として下方修正し、来年こそは良くなるからと言う。これを9回も繰り返してきたのだから呆れるし、それを信じているマスコミもいい加減なものだ。

  戦争中の大本営発表と同じだ。それを信じてきた国民は、気が付いてみれば国土は焼け野原になっていた。是非、皆さんに知っていただきたい。我々は政府に騙されているのだと。このままの政策では、日本はデフレが続き、我々の財産は失われ、貧乏になっていくだけ。国の借金がどんどん重くなり、我々の未来は悲惨なものになるのだということを。

 何をやればよいのか。答は簡単だ。お金を刷ればよい。刷ったお金で大規模な景気対策をすればデフレは脱却でき、経済は素晴らしく成長する。このことはすでにシミュレーションで示したので以下を参照して頂きたい。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

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